君と出会わなかった世界線
「ねぇ、私のこと好き?」
彼女はそう言って微笑んでいた。
好きかどうかで言われれば、わからない。
だって、目の前に立ってる彼女は俺の知らない人だから。
でも、目鼻立ちはとても良くて、胸も大きい。
俺の好みどストライクだから、まあ、ぶっちゃけると好きなのかもしれないが、本性を全く知らないので、好きですとは言えない。
「うん。俺は君が好きだよ。だって、────は、俺の《《一番愛してる》》人だから。」
え?俺は今なんて言った?
なんで、見ず知らずの人に愛してるなんて言ってるんだ。
俺は訳が分からなかった。
そこで、俺はようやく現実に引き戻された。
そう、夢であったのだ。
「なんか、変な、夢、だったな。」
なぜかとても、リアルな夢だった。
もしかしたら、俺のただ思い描いていた理想の女性と付き合ってみたいとずっと思っていたのが原因かもしれない。
まあ、なにがともあれ、早く学校に行く準備をしなくては遅れてしまう。
俺は、身支度を済ませて、赤坂高校へと向かった。
見慣れた通学路を歩いて、しばらくして、学校に到着した。
教室に入り、みんなは一瞬だけこっちを見るがすぐに友達と話し始める。
そう、俺は陰キャなのである。
友達はいないし、女子とも喋ったことがない。
まあ、夢の中だったら話せていたけれど。
席について、俺は、ぼーっと日々を過ごした。
学校が終わり、俺はすぐさま帰宅した。
それから、俺は、いつも通りに日課を終えてから、眠りについた。
───明日、赤坂高校の近くの公園で待ってるね。
俺は、目が覚めた。なんだ、今のは。
予知夢?
いや、そんなことあるのか。でも、もしこの夢を見たのが昨日だったら今日になるわけで。
てか、何時とか言ってなかったな。まあ、学校終わってからでいいか。
なんてことを考えていた。普通に考えれば、ただの夢。そんな、漫画みたいな展開あるわけがない。
それでも、俺は期待してしまう。本当に、待っている人がいて、それが俺の運命の相手だったら...
これは、ただの俺の妄想なのかもしれない。でも行かないより、行って、妄想でしたという方がいい。ていうか、そうであってほしい。
あっという間に約束の時間(?)がやってきた。
俺は、すぐさま公園に向かった。
公園に着いて、辺りを回しても、それらしい人物はいなかった。
「やっぱり、ただの俺の妄想だったか。」
────いえ、妄想ではありません。
辺りを見回しても、やはり誰もいない。
でも、後ろから声をかけられたとは思えない。なぜか脳に語りかけられたかのような気がしたから。
俺は、少し落ち着つくためにそばにあったベンチに腰掛けた。
さっきのはいったいなんだったのだろうか。これは、もう俺の頭がどうかしている以前の問題だ。
いくら考えても答えは出ずにずっと考えを巡らせていたら、後ろから背中を叩かれた気がして振り向いた。
すると、そこには、今日会う予定だった彼女がそこにいた。
「え?あ、えっと。」
「うふふ。こんにちは、新沢正人くん。」
「え、なんで、俺の名前知って...」
「細かいことはいいじゃないですか。それよりも、私とどこかに行きませんか?」
俺は、見知らぬ人からデートのお誘いを受けた。かなり、魅力的な提案だが、なぜか、行っちゃいけないとなぜか思ってしまう。
もし、行ってしまったら、なんだか後悔しそうな気がして。
でも、俺なんてモテないし、これが最後のモテ期かもしれない。
だから、俺は...
「えーと。すごく魅力的な提案なんだけど、誘いには乗れない、かな。」
「そっか。じゃあ、またね。正人くん。」
「あ、ちょ。君の名前は?」
俺は、背中を向けて歩いている彼女に大きな声でそう聞いた。
「赤井比奈。君と《《あっちの世界線でお付き合いをしている》》超絶可愛い女の子」
彼女は微笑んで去っていった。
俺は先ほど、赤井さんが言っていたことがよくわからなかった。
『あっちの世界線でお付き合いをしている』ってなんだよ。
世界って分裂してたっけ。
でも、そんな転移みたいなノリで言われてもって感じではある。
「さっき、赤井さんが言っていたのが本当だとしたら、なぜ、この世界に赤井さんはいないんだ?俺があっちの世界にいるなら、赤井さんもこっちの世界にいるよな。でも、実際には同じ高校にはいないし、赤井比奈そもそもがこの世界には存在していない。」
「なに、ぶつぶつ言ってんの。」
「いや、ちょっと非現実的なことに頭を使ってた。」
「よくわからないけど、なんとなく女の子のこと考えてたでしょ。」
「ぐっ」
「この感じだと当たってるみたいね。」
こうやって俺に話しかけてくれているのは、橘陽菜。俺の数少ない友達だ。
「で、何考えてたのよ。」
「いや、さっきも言ったけど非現実的なことを…」
「違うでしょ。」
陽菜に強く否定された。これははぐらかしていた方が後になって後悔しそうだったので、俺が今考えていることを話した。
「てか、その女の子の名前私と似てるくね?もしかしたら、生き別れの双子とか。」
「いや、それは…」
俺は完全には否定できなかった。苗字は違うが、名前は同じだ。
「まあ、冗談だよ。さすがにそれはないでしょ。現に、赤井比奈?とかいう子は私とは正反対な性格だろうけど。あ、でも可愛さと胸だけはあの子より大きいと思うけどな。」
陽菜は自分の胸を持ち上げて、「ほれ、どうよ」みたいな感じで俺に視線を送った。
「やめろ。女の子として恥ずかしくないのか。」
「なになに、照れちゃって。この変態。」
「いや、変態ではないが、そんなに強調されると見たくなくても視界に入ってくるんだよ。」
すると、陽菜は少し呆れていた。なぜ、呆れているのかはよくわからない。
「で、結局正人はどうしたいわけ?」
「どうしたいって、それは、会って話したいけど。」
「じゃあ、会って話せばいいじゃん。」
「そんな、軽く言われても、簡単には会えないよ。だって、俺はあっちの世界に行く方法を知らないし。」
そう、俺はあっちの世界の行き方を知らない。だから、赤井さんに会いに行こうとしても会えない。
しばらくお互い沈黙していたが、陽菜が先に口を開いた。
「よく考えたんだけどさ、もしかしたら、私が<カギ>になるのかもしれない。」
俺は比奈から聞いた瞬間何をいっているんだと思った。
「その顔はまだ信じてないっぽいね。」
なぜか、陽菜に心の声を読まれた気がするが、気のせいだろう。
「信じないも何も、なんで陽菜が<カギ>になるのか俺にはわからない。」
「じゃあ、なぜ私が<カギ>になるのかと言うと、赤井比奈は、別の世界にいるけど、多分見た目だけが違うだけで私と中身はほぼ一緒だと思うの。」
「いや、どこが?」
「まあ、女の感ってやつ。」
そういわれると、何も言えない。だって、女の感ほぼ的中するんだもん。
「で、話の続きなんだけど、もしかしたら、だけど正人があの子と出会ったあの公園に私を連れて行けば、百パーで会えると思うの。」
「なぜ、そう言い切れる?」
どうせ、また、女の感ってやつ、とかいうんだろうと思っていたが、全然違った。むしろ、予想外だった。
「だって、正人があの子と会ったその日、私公園にいたんだもん。」
「え?」
俺は思わず聞き返してしまった。
「だから、私公園にいたの。あの日。」
陽菜はさっきより少し強い口調でいった。
「じゃあ、陽菜は俺に会ったのか?」
流石に、見ただけで、話はしてないよな。
「うん。会ったよ。お話もしたし。でも、なんかいつもの正人じゃなかった気がするんだよね。なんか、こう、結構グイグイきてたような気がするんだよね。」
俺が予想していた言葉と全然違っていた。てことは、俺に似た人か、もしくは赤井さんがこっちの世界と入れ替わったのかもしれない。
でも、そんな非現実なことはない。
仮に、もう一つ世界線があったとしても、それは、漫画の世界とかそいう次元の話だと思う。
「あ、あと、なんか街の風景も少し違ってたような気がするし、どことなくこっちとはなんか、全然違う雰囲気だったよ。」
「陽菜。」
「はい。」
陽菜は急に呼ばれて少し体をビクッとさせていた。なんとも可愛らしいことやら。
「俺は、陽菜と赤井さんが多分入れ替わったんだと思う。」
「いや、それはないと思うよ。だって、入れ替わるってことは、その人になるってことでしょ?でも、私は私のままだった。つまり、入れ替わり説はない。」
「確かにそうですね。」
「だからね、私は思うの。多分赤井比奈がいる世界線には行かない方がいいし、もう会わない方がいいと思う。」
「何で?」
俺は疑問を抱かずにはいられなかった。
「だって、次に正人が赤井比奈に会って、あっちの世界に誘われたて行ってしまったら、多分正人はいなくなると思うの。この世界に。」
俺は、陽菜言っている意味が分からなかった。
いなくなる?会っただけで、俺がいなくなるなんて、そんなことはない。
だから、その時の俺は、ただ陽菜が適当なことを言っているだけだと思って聞き流していた。
それからというもの、何事もなく日々を過ごしていた。でも、世の中うまくいかないことも多い。
それは、陽菜と喧嘩?をしてしまったのだ。ただ、俺が陽菜が取っておいていた食べ物を食べてしまったのだ。普通に、俺の家に置いとくのが悪い。でも、食べた俺が悪いんだけども。
だから、俺はすぐに陽菜に謝罪して、なんとか、事なきを得た。
それからしばらくして、事件は起きた。
いつも通り陽菜と一緒に帰っていた。
「陽菜、俺最近筋トレ始めたんだよね。」
「・・・・」
「陽菜?」
俺は陽菜に話しかけても無視された。
後ろを振り向くと、そこにはさっきいたはずの陽菜がいなかった。
どこに行ったのかも分からず、俺はとりあえず、陽菜が行きそうなところに行った。
でも、結局見つかることはなかった。
俺は、もしかしてあの場所にいるんじゃないかと思いそこへ向かった。
俺はとある場所に着いた。
「こんばんわ、正人くん。」
俺は言葉を失った。なぜ、赤井比奈がここにいるのか。
「おい。陽菜はどこに行ったんだよ。」
「何を言っているのですか?比奈はここにいますよ?」
「違う!赤井の方じゃない!」
「あー!橘さんの方か。」
なぜ、赤井比奈は橘陽菜を知っているのか。
「おい。なんで、陽菜を知ってるんだよ。」
「なんで、知っているのかといいますと、私は橘陽菜さんと繋がっているんです。」
「繋がってる?」
「はい。なので、私がいる世界に行けば陽菜さんに会えますよ?」
つまりあっちの世界に行けば陽菜がいる。もしかしたら、あっちの世界に行けば何か分かるかもしれない。
「俺もあっちの世界に行けるのか?」
「はい。行けますよ。ですが、私とキスをしないと行けないんですよね。」
「は?」
「だから、キスをすれば行けますよ?」
キスをしないとあっちには行けない。でも、俺のファーストキスを奪われてしまうのか。このよくわからんやつに。
最初は結構一目惚れしてたんだけど、この短期間で俺はすっかり陽菜に惚れてしまっていた。
でも、これは陽菜を救うチャンスだと思い、その条件を受け入れた。
俺のファーストキスはディープの方だった。
結構良かったなんて言えないよなあいつに。
陽菜がいるであろう世界に来た。
そこは、なにもかも違っていた。
まず、俺は最初公園にいた。
その公園は俺たちの世界の公園とは全く違っていた。
なにが違うかと子供が遊んでいる数だ。
俺たちの世界では全く子供が遊んでいなかったが、ここの公園では子供がたくさん遊んでいた。
多分それは、ジャングルみたいな作りになっていて、子供には楽しそうな遊びがたくさんあるからだろう。
俺たちの公園はどこにでもある公園だから、あんまり子供が集まらないのかもしれない。
それにしても、本当に別の世界なんだなと思う。俺らの世界にはないような高いビルなどがある。
なぜこんなにも発展しているのか。ここは、もしかして未来の世界なんじゃないかと思ってしまう。
そして歩き回ること一時間。
遂に俺は陽菜を見つけることができた。
「陽菜!」
俺は陽菜に声をかけた。
「はい。どうしましたか正人くん?急に呼び捨てで呼ばれると少し恥ずかしいです。」
「え?」
赤井さんは頬を紅く染めていたが、俺は言葉を失っていた。
「なんで、赤井さんがいるんだよ。こっちの世界に行けば陽菜に会えるんじゃなかったのかよ。」
「いえ、残念ながら会えませんよ。なにせ、正人くんは元々こっちの世界に来たくているんですから。あと、陽菜さんは、もう別の世界にいますよ?」
「お前、はめたな。」
「いえ、はめてなんかいませんよ。ただ、私たちが繋がっていて、あっちの世界に行ったり、こっちの世界に行ったりもできます。なので、正人くんが来るタイミングで、私たちは交代したんですよ。」
今、赤井さんはなんで言った?交代?入れ替わりとは何が違うのか。どっちも同じことだと思っていたが、赤井さんが言うには、「私たちは、よくある自分の体と他人の体が入れ替わってそれぞれ、自分の違った体で生活をするのではなく、この自分そのものということです。ですが、それぞれ違う世界に入れる時間があるのです。その時間を過ぎると元の世界に戻ってしまう、交代とはちょっと違うかもしれませんが、あっちの世界に行く時は、世界を交換するということで伝わりますか?」と言っていた。
後半ものすごく分からなかったが、簡単に言うと、なんか体とかは自分のものだけど、何らかの要因で世界を交換して陽菜と生きている世界を交代していると言うことだと思う。
自分で整理しといてちょっと分からなくなったが、まあいいだろう。
でも、問題はそこではない。
「で、俺はあっちの世界には戻れるのか?」
そう、陽菜と赤井さんは交代できるが、俺は赤井さんに連れられてここに来ている。
だから、赤井さんに何かをしてもらわなければ、俺は帰りたくても帰られない。
「いえ、戻れませんよ。陽菜さんに聞いてませんでしたか?」
俺はそこで、初めて赤井さんに会った日、陽菜に事情を説明し終えた後、確かこう言われたのを思い出した。
『次に正人が赤井比奈に会って、あっちの世界に誘われたて行ってしまったら、多分正人はいなくなると思うの。この世界に。』
なるほど。陽菜が言っていたのはこいうことだったのか。
つまり、俺はとんでもないことをしてしまったんだな。
やばい。
かなりやばい。
もといた世界の方が良かった。
あっちの方が空気感が良い。
好きな人もいる。
でも、この世界はどうだろうか。
空気も最悪で、好きな人もいない。おまけに友人すらもいない。
「俺はこれからこの世界に生きていかなきゃいけないってことか?」
「はい。そいうこです。ですが、こっちの世界に正人くんが二人いるとなにかとややこしいので、こっちの世界にいた正人くんにはあっちの世界に行ってもらいました。」
うん。ふざけるな。
なんで、俺を交代しているわけ?
意味なくない?てか、陽菜奪われるってわけか。最悪だ。
あー。こいつと出会わない世界線がよかったな。
そしたら、陽菜と一緒にいちゃらぶ生活を送れたのに。
俺はそんなことを考えていたら不意に目の前が真っ暗になり、その場で倒れたが、赤井さんが誰にも聞こえない声で何かを言っていたのを俺は聞き逃さなかった。
「正人くん。もしかして、私のいない世界線が良かったって思ってしまったんでしょうか。そうだとしたら、私はすごく残念ですよ正人くん。私は正人んのこと愛していましたよ。」
なんで、こいうときだけ聞こえてしまうのか。
自分のこいう所には少し呆れてしまう。だって、実際倒れたが、意識は失っていないのだから。
それから、俺は赤井さんがいなくなった世界線、つまり、陽菜がいる世界に戻れた。
やはり、こっちの方が落ち着くが、やっぱり、赤井さんがいない世界線が少し寂しような気がするのはなぜだろうか。
もう、彼女とは出会わない。
俺は、こっちの世界で陽菜と幸せに暮らす───と言っても、まだ告白もしていなのだけれどね。
いや、今日告るからね。うん。
それから、俺は放課後に陽菜を呼び出した。
「どうしたの、正人。こんな所に呼び出して。」
俺はとても緊張していた。でも、言わないと後悔するかもしれない。だから、俺は意を決して陽菜に告白をした。
「俺は、比奈と陽菜どっちも好きだった。でも、俺は彼女と出会わない世界線を望んで、だから、陽菜で良いやとかじゃなくて、えーと、つまり、俺は比奈よりも陽菜が超がつくほど大好きです。付き合ってください!」
俺は陽菜に告白をした。
陽菜に俺の想いを伝えた。
これで振られても仕方がない。
だって、他の女の名前出させるとか俺だったら嫌だもん。
だから、俺は陽菜に振られると思っていた。
「正人がこうやって私に言ってくるの初めてで、正直正人に好きって言われてとても嬉しかった。だから、私でよければお願いします。」
「え?」
俺は少し戸惑っていた。なんか、文句とか言われるかもしれないと思っていた。
「なによ。嫌なわけ?」
「嫌なわけないよ。俺は陽菜のこと好きだし。」
陽菜は頬を赤く染めていた。
「そ、そう?私も正人のこと好きだよ?」
俺は心臓が跳ねた。
俺は陽菜をおもいっきり抱きしめた。
これからは、どうなるのかは正直分からない。だから、俺は陽菜を幸せにできるように、精一杯頑張ろうと比奈と自分に告げたのだった。
あとがき
ここまで読んででくださりありがとうございました。最後駆け足になってしまい申し訳ないです。
なんか、細かく書いちゃうと短編にしては多い文字数になってしまう関係で、最後の方はかなり分かりにくくなってしまってとても申し訳なく思っています。
ですが、この物語が好評でしたら、改めてこれを元に長編を出すかもです。
最後に、ここまで読んでくだったみなさま、本当にありがとうございました。
また、次回の短編にてお会いできたら光栄です。