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おまけ(金持ちの過去)

仙田せんだ 正和まさかずは実業家だ。

投資会社の社長や、医療系ベンチャー(新しいアイディアを持つ)などに金を出してる。

こちらが、投資してるのは金を稼ぎたい。

という思いもあるが、それよりも根源的な理由がある。それは人類共通の悩みである。病気を治して欲しい、その一心だった。こちらが出来ることは研究は出来ず、金を出すことしか出来ない。それでも、何もしないよりはましだと思って投資した。

でも、結局は駄目だった。




妻は中学校の先生をやってる。

彼女は今、専業主婦として家庭を支える。

こちらが専業主婦としてどうかと聞いたら、

いいよと言ってくれたので、決して彼女は働きたいのに無理やり専業主婦にさせられたということではない。一応、話し合いの元で決まったことだ。

金はあるし、問題は無い。

金で喧嘩することは無かった。

”あの夫婦って仲良しよねぇ、羨ましい”

周囲の評価はそんな感じだった。

でも、実際は違った。

「お前が悪いんだろう」

「貴方が悪いんじゃない」

裏では喧嘩ばかりしていた。

理由は、子供が出来ないからだった。

卵子に影響があるのか、精子に影響があるのか。

それは分からない。

2人ともちゃんと調べてないから。

調べて結果が出れば、互いに自分が悪いと認めるようなものだ。いや、どちらかが一方的に悪になるかもしれない。それは互いに嫌だった。

だから、互いに調べずに知らないフリをしていた。

そういった、薄氷の上で2人は喧嘩していた。



人間、色々やりつくすと次へ行きたくなる。

最初は美味しい物を食べたい。

次に、色んな遊びをしてみたい。

その次に恋をしてみたい。

そうして色々やっていくうちに、

すでに知った既知の存在に変わっていく。

人間、退屈を感じるのは既知だと思ってるものを繰り返すことだと思う。

だから、新しい娯楽。

と言ってしまうのは少々、言葉が悪いかもしれない。

でも、次にやりたいと思ったことは子育てだった。

しかし、子供が出来ない、

どうしたらいい、

最初に思いついたのは養子縁組だった。

「ちゃんと調べてないんですか?」

養子縁組のスタッフにそんなことを言われる。

「えぇ、何か問題でも?」

こちらは何が問題か分からなかった。

「健康上に問題がある人に子供を預けるってのはっちょっとねぇ」

スタッフの目つきが上から目線の査定に見えた。

「こちらは歩けるし、目だって見える。

何が問題なんだ、何も問題ないだろう?」

「でも、子供が出来ないんでしょう?

それって、身体に欠陥があるってことじゃないですか。そういう人に子供を預けるってリスクでしょ?」

「差別する気か?」

「差別じゃないですよ、やだなぁ。

リスクは負えないってことです」

スタッフの言い分が完全に間違ってるかと問われれば違う、しかしその断定的な物言いが気に食わない。

「もういい、アンタと話をしたくない」

「どうぞ」

スタッフは手で帰れとポーズする。

しっしと払うように。

「くそ・・・どうしてこんな扱いを」

こちらは富豪だぞ。

金があるのにどうしてこんな舐められた態度を取られるんだ。苛立ちが抑えきれない。

突然、電話がかかってくる。

「もしもし、私だが?」

「お父さん…」

嫌な人から電話がかかってくる。

「最近、どうなんだ?」

「別に、普通ですよ」

「結構、儲かってるそうじゃないか」

「まぁ」

通帳の額だけで言えば、父を凌ぐ勢いだ。

「そろそろいいんじゃないか?」

「また、その話ですか」

「私も年でね、金はもういらない。

今更、貯金を増やした所で三途の川は3文で十分だからな、だから、見たいんだよ」

「…」

来た、電話でいつもこの話をする。

うっとおしくてありゃしない。

「孫の顔を見せてくれないか?

それが親に出来る最後の孝行だと思って。

頼むよ」

「考えておくよ…」

俺は電話を切る。

クソ…孫…孫ってうるさいんだよ。

そんなに欲しければ自分で作れよ。

ジジイが…現役引退棒じゃ…碌に子供を作れやしないくせに…だが…それはこちらも同じか。

ため息が出る。


疲れた気分で家に帰ると、

妻が出迎える。

新婚当初であれば帰ることも楽しかった。

でも、今では愚痴や不満しか言わない。

「貴方の祖父から早く子供をって言われるの。

ねぇ、貴方のお父さんでしょう?

どうにかしてちょうだいよ」

「こちらにはどうしようもないよ」

「親でしょう、話してよ」

「うるさい、どうしてこう、皆してこちらを責めるんだ」

「貴方だけが辛いじゃないのよ、そんな甘えたことを言わないで」

「放っておいてくれ!」

こちらは部屋に戻って、ベットに休む。

すると、ふとテレビからニュースが流れる。

「子供の誘拐事件が多発しております、

近隣住民親は御注意の方をお願いします」

アナウンサーの無機質な声が響く。

「どうせ、子供の居ないこちらには関係ない話だ」

こちらはテレビを消してふて寝するのだった。



ある日のこと。

鏡を見てるとやつれてることに気づく。

仕事に行かなくては。

元気のない顔を見ないようにして仕事に向かう。

医療関係の人と話をしに行く用事で外に。

投資をするにあたって、信用できる人なのか。

そのことを確かめるために行くのだ。

街中を歩いてると子供を連れてる親を見る

「ねぇ、アイス買ってぇ!」

「しょうがないな、パパが買ってあげる」

「やったぁ」

親と娘。

幸せそうだ、アイスを買ってあげて喜ぶ娘。

それをやって手ごたえを感じてる父。

なんだろう、酷くイライラする。

何時間もかけて並べたドミノを後ろから蹴飛ばしたい。そんな欲求に似た感情が湧いて来る。

”誘拐してしまおうか?”

お前の子供を誘拐したら、

どんな顔をするんだろうな。

その幸せが壊れるんだぞ。

いや・・・何を考えてるんだ?

それは犯罪だ。

見ないフリをしよう。

見てれば辛くなるのだから。



高級なレストランに招待される。

そこに医者が居た。

「どうぞ、投資家のマサカズです」

名刺を渡す。

頭を下げて、綺麗にぴちっと。

ヒゲも剃って、クリーニングに出した皺の無いスーツを身に着けてる。失礼は無い筈だ。

「へぇ、30代なんだ近いね」

医者は席を立つことなく、見定めて来る。

普通は席を立って同じ目線に立つものだが。

意地でも立ちたくないらしい。

わざわざ指摘することも出ないので我慢する。

「まぁ、そんな感じです」

「結婚はしてるの?」

「してますね」

「子供は?」

「プライベートの事なので」

「子供は?」

繰り返し質問をされる。

「仕事とは関係ないと思いますが」

「いや、聞いておかねば困る」

「どうしてです?」

「子供が居ない家庭は人間的に問題がある。

だって、そうだろ。子育てって責任から逃げてる大人なんだからさ。仮に子育てをしたいと思ってても、女性、もしくは男性に相手にされてない人間って人間性に問題があるから相手にされないんだろう。だったら、どちらにせよ、人間性に問題があるってことだ。

信頼できないって思っても可笑しくないと思うが?」

「それは、ちょっと今の時代にそぐわない意見だと思いますが」

「そうかな、時代だのどうのこうの言ってるけれど、実際はただ言われたくないだけなんだ。事実だからね。それを時代という優しい壁に守られてる人間は結局、人間性が悪いんだ」

「それは、少し偏見が過ぎると思いますが」

「どうして言い返す、笑って済ませればいいじゃないか。それともなんだ、君に子供が居ないんじゃないのか?」

「だったらなんだってんだ、

アンタみたいな人間が居るから世の中、争いが無くならないんだよ。言いたいことばかり言って、周りを傷つけてる自覚がないんだ」

「言われたくなければ、子供を作ればいい」

「出来ない人だって…世の中に居るんだ」

「ふん、言い訳か。悪いが、アンタは信用できない。投資をしてもらわなくて結構だ」

「それは、こちらのセリフだ!」

理不尽な思いだ。

人には触れらたくないことがあるはずだ。

それを無遠慮の人は何も考えず、

自分の意見ばかり押し通そうとする。

その無神経さが苛立つ。

ストレスが溜まる、こちらは家に帰る。

そして花瓶を地面に投げ捨てた。

大きな音が何だかスッキリした気分だった。

「何事?」

妻が階段を下りてやってくる。

「転んだんだ、その際に足をぶつけた」

「そう」

妻はそれ以上、何も言わなかった。

こちらはネットで調べる。

子供が居ないってだけで、

どうして信頼されないんだ。

どいつもこいつもバカにしやがって。

どうしたら馬鹿にされない?

「人身…売買…」

少年少女が街で売られてる。

手を出してはいけない領域だってのは分かってる。

でも、別に殺すとかじゃない。

愛情をもって接するつもりだ。

誘拐は駄目だ、でも、孤児なら。

強引に連れ帰ったとしても誰も困らない。

いや、むしろ人助けだ。

親が居なくて寂しい思いをしてるに決まってる。

そうだ、これは善意なんだ。

子供を買うことは悪いことじゃない。

ちゃんと選べば問題なんだ。

そう、言い聞かした。

そうしてネットで色々調べてるとある方法に出くわす。それは音楽のポスターだった。

ポスターの裏に、暗号と共に誘拐犯と連絡が取れるのだ。誘拐犯だって、愉悦犯と違って金が欲しいからやってる。何処かで客と繋がりたい筈だ。

だから、会う方法は必ずあるんだ。

強い思いを持ってこちらは行う。

そうして約束を取り付けた。

神社の裏に行き、誘拐犯と会う。

「選べ」

学校の卒業アルバムを見せられる。

どの子だ、どの子が良い?

酷く愛らしい子を見つけた。

「この子は孤児か?」

重要なことを尋ねた。

「ん?あぁ…」

誘拐犯はその通りだと説明する。

「この・・・子を・・・頼む」

こちらは震える指で写真を差す。

もうすぐ願いが叶うのだと思うと、心臓が高鳴る。

「OK,それじゃ約束の物を」

「これだろ」

茶封筒を渡す。

電子マネーは嫌がられたので現金だ。

電子マネーは記録が残るが、

現金は記録が残らないから良いらしい。

「確認した、後日に渡しに行く」

「あぁ」

取引が終わった後、急に冷静になる。

騙されたんじゃないか?

そんな考えが思い浮かぶ。

まぁ、でも。

10万円だから騙されてもと思う。

いいんだ、どうせ失敗したって。

子供を買う何てよく考えてみれば悪いことだしな。

けれど、翌日になって誘拐犯と再会してしまった。

子供を連れて。

「この子だ」

誘拐犯が突き出す。

「…」

無表情だった。

「写真通りだ…」

思わず、そんなことを言ってしまう。

「言っておくが、返金は無しだ。

愛想は悪いが、顔は悪くない。

身体の方は色々調べたが問題は無い。

ただ」

誘拐犯が言いづらそうにしてる。

「ただ?」

こちらは不思議に思う。

「記憶を失ってる、コミュニケーションの方で問題が出るかもな」

誘拐犯はそんなことを言う。

「記憶を…」

色々と衝撃的な経験をしたのだろう。

誘拐犯が連れて来た時点で想像はつく。

「今ここで捨てるのもいい、それはアンタの自由だ。それじゃあな」

誘拐犯は去る。

「…」

どうしようか、買ってしまった。

「おじさん、私を捨てるの?」

彼女はそんなことを言う。

「いや、そんなことしないよ」

「そうなの?」

「あぁ」

「じゃあ、パパだ」

「パパ?」

「世話してくれるんでしょ、それってパパだよ」

「パパ…」

その言葉に胸がときめく。

まるで同級生の高根の花が好きですと告白してくれたような気分だった。

その時点で、連れ帰る以外の選択肢は無かった。

そのまま家に帰ってしまった。

「おかえり…って誰よ」

妻が子供を見て驚く。

「この子は」

「まさか」

妻は信じられないものを見るような目だった。

「説明させてくれ、これには理由があるんだ」

「養子縁組が成立したのね!」

「え?」

「嬉しい、ずっと断られたって聞いてたから。

上手く行って本当に嬉しい」

妻は泣いていた。

「あぁ・・・そうだ上手く行くんだ。

これから・・・全て・・・」

こちらは嘘をつく覚悟は出来てる。

妻には黙っておこう。

これは、こちらが勝手に決めたことなのだ。

巻き込む必要はないだろう。

それからというもの、幸せな日々だった。

リビングから庭を眺める。

そこで、祖父が楽しそうにキャッチボールしてる。

「ほぅら、愛ちゃん」

祖父は弱弱しいボールを娘の愛に投げる。

「きゃっち!」

愛は最初に居た地点とは違って、かなり前進してキャッチする。

「凄いなぁ、じっちゃのボールを取れるなんて」

「じっちゃの落としたら可哀そうだもん」

「愛ちゃん…なんて可愛いのだろうか」

祖父は感動で涙を流していた。

「えへへ、そうかな」

愛は嬉しそうな笑みを浮かべる。

「皆、ご飯を作ったわ。

食べましょう、今日はラザニアを焼いたの」

妻が鍋掴みを使って熱々のラザニアの箱を持つ。

「わーい、ごはんだ!」

愛は駆け足でテーブルに向かう。

「これでいい…これで」

幸せを見つけた。

最近は妻とも喧嘩しなくなった。

家に帰ることが楽しいって思える。

祖父は赤ん坊の姿を見てないから、

不信に思ってたので養子と説明したら最初こそ血が繋がってないと怒ってたが、今ではあの通りだ。

これでいい。

全てが上手く行ってる。

だが、誤算だった。

誘拐犯は早く売りたくて嘘をついたのだ。

あの子の親は生きていた。

そして、何時の日か家にやってくる。

そのことを未だ、この時は知らないのだった。



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