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5話「takedown・Heart」

俺は、卓也という男から話を聞いた。

その結果、彼は怪しいが誘拐犯ではない。

それが答えだった。

「ぼ・・・僕は違うんだ」

「何だと・・・」

「た、確かに・・・き・・・の・・・娘に触ろうとした。

で・・でも・・触っては無いし・・・誘拐はしてない」

卓也という男は言葉を絞り出すように紡ぐ。

彼は怪しかった。

でも、実際彼の言う通り誘拐犯では無いのかもしれない。

家にどれほど怪しいアイテムがあっても、

結局のところ、娘が居ないのだから。

仮に娘が居なくても、血痕があれば可笑しいって思う。

でも、血らしい血は無いし、

娘が誘拐されたにしても荒らされた後がない。

誘拐されたとなれば多少なりとも暴れる筈だ。

にもかかわらず、それが無いのだから、

彼は犯人は無いのだろう。

「くそ・・・振り出しか」

せっかく犯人を見つけたと思ったのに。

俺は壁を叩く。

「こ・・・こ・・・僕の・・・家」

「黙れ!」

「ひっ」

卓也は手で自分の手を覆い庇う。

「ケン、苛立つのは分かるけど、彼を脅さないで。

誘拐犯ではないんでしょう?」

「そう・・・だな・・・すまなかった」

俺は彼に謝る。

「こ・・・っちこそ・・・怪しい・・・動き・・・して悪い・・・悪かった・・・です」

俺のスマホが突然鳴り響く。

「もしもし?」

俺は電話に出る。

「ジュンだ」

「ジュンさん?」

警察官の彼が何の用だろう?

「追加の情報だ、フードの男は花火大会に良く出没するらしい。

今の季節は夏だからな、あちこちでやってる。

そのどれにも、フードの男の目撃情報がある。

今日は確か8月10だったな。

花火大会が近くでやってる筈だ、行ってみたらどうだ」

「分かった」

俺はスマホの電源を切る。

「誰から?」

早苗が尋ねる。

「ジュンさんだ、花火大会でフードの男を見たらしい」

俺は正直に伝える。

「あぁ・・・警官の」

早苗は納得したようだった。

「1つ、質問をする。

申し訳ないが、答えて欲しい。

自分が誘拐犯でないと言うのならば、協力をしてくれ。

構わないな?」

「いいよ・・・ぼ・・・僕に出来ることなら・・・ね」

「お前は、花火大会には行くか?」

俺は質問をする。

「い・・・行かない・・・ひと・・・人がっ・・・多い。

誰かに触りた・・・いって・・・お・・・思う。

でも・・・1人きりになった・・・人がいい。

だ・・・誰かに触るのを見られる・・・のは・・・警察に見つかる。

・・・いや・・・ご・・・誤解される・・・から」

「分かった」

彼の話を信じるならば、行ってないと仮定する。

ならば、真犯人が居る可能性がある。

同じフードの恰好をした男性・・もしくは女性が居る。

彼の性格から考えて、

花火大会に行かないという話にも信ぴょう性があると俺は思う。

俺は花火大会に行く価値は十分あると思う。

「それで、行くの?」

早苗が尋ねて来る。

「あぁ」

俺は当然とばかりに返事をする。

「私もついて行く」

「危険だぞ?」

「今更でしょ?」

早苗はふふんと笑って見せる。

「それじゃ行こうか」

「えぇ」

「せ・・・せっかく・・・来たんだ。

カップ麺でもたべ・・・食べていく?」

卓也がそんなことを言う。

「食わねぇよ!」

俺は怒って外に出るのだった。

「あぁ・・・」

卓也は少し寂しそうな顔をするのだった。



夜の時間帯。

花火大会に行ってみると、人が賑わっていた。

今か今かと、花火が打ちあがるのを待ちわびてる人たち。

その人たちの不満を解消するように、

出店の人たちが鉄板料理を振る舞う。

ソースの香ばしさ、鼻を刺激する。

浴衣姿の女性だったり、甚平を来た男性が祭りに来ていた。

この催しを楽しもうという雰囲気が伝わってきた。

「よぉ、お二人さん」

ジュンさんが話しかけて来る。

しかし、アロハシャツとサングラスとは自分とラフな格好だ。

「随分とラフですね」

俺は正直に思ったことを伝える。

「警察が制服で探してたら、警戒されるだろう?

だから私服で来てるのさ、祭りを楽しんでるアホな客。

それが今の本官の姿だ」

かき氷片手に、フランクフルト、ビールを持ってる。

確かに警察とは思わないだろう。

「少し、楽しんでる?」

早苗がそんなことを口にする。

「誘拐犯は、花火大会で連れ去ることが多い。

恰好はフードの男。

身長は170~180cmぐらいだ。

体格は太ってるとか、細身だとか、曖昧な情報が多い。

とにかく怪しい人物を見つけたら連れてこい。

間違っててもいい、別に逮捕する訳じゃないからな。

間違ってたら解放すればいい、だが、何だか妙に怪しい態度だったら

・・・?」

ジュンさんが言葉を濁す。

「態度だったら?」

俺は尋ねる。

「ボコボコにして、吐かせる」

ジュンさんは悪い笑みを浮かべる。

「恐ろしいな」

俺は苦笑いを浮かべる。

「まぁ、冗談だ。本気でやったりしないさ・・・多分な」

ジュンさんは笑ってる。

「…」

誘拐犯相手だし、ボコボコにしてやろうって気分の方がいいのかもしれない。相手は悪人なんだ、遠慮はいらないだろう。

でも、犯人ではないケースも考えられるので確認してから殴ろう。

「それじゃ、探すぞ。

本官は河原の方、早苗は屋台、健治は土手の道路から探せ」

ジュンさんに指示される。

「分かった」

俺は頷く。

「私も了解です」

早苗が同意する。

そうして調査が始まった。

フードを被った怪しい人物を見つける。

「すみません、ちょっと」

俺は肩を叩く。

「はい?」

死神マスクを外して、男は顔を晒す。

とても素直そうな青年で、犯人とは思えなかった。

「あ・・・知り合いかと思って」

「あはは、僕以外にもコスプレしてる人いるんですね」

死神の人は笑う。

「すみません、人違いでした」

「いえ、平気です」

俺は後にする。

「コスプレはハロウィンのイメージがあるが、

別に祭りの日にやってもダメって訳じゃないしな」

怪しいが、きっと彼じゃない。

誘拐するのに右手に持った鎌と、左手に持ったランタンが邪魔だ。

あれでは誘拐するとはとても思えない。

突然、電話がかかってくる。

それは早苗だった。

「そっちはどう?」

「収穫無し」

「そう・・・」

早苗の気分が落ち込んでるのが分かる。

「まだ、始まったばかりだ。気落ちしないで行こう」

「そうね、確かに落ち込むのは早いわ」

「俺はもう少し漁ってみる」

「了解」

電話を切る。

もう少し探してみるか。

俺は色々と歩いてみるのだった。

「ちょっといいかな」

「なんです?」

それはフードを被った女性だった。

「夏場なのに熱くないんです?」

俺は尋ねる。

まずは軽いジャブだ。

人間、嘘の累乗という言葉がある。

嘘を重ねれば、そのための嘘をつかなければならない。

嘘をつく人間は必ずボロが出る。

何処かに矛盾が出て来るからだ。

だから質問に答えるならば、何処かにチャンスが出る。

俺はそう思ってる。

「貴方、幽霊を信じますか?」

「えっと?」

「ワタクシのパワーは何の変哲もない石にパワーを与えますの。よければ、おひとついかが?」

「すみませんが、遠慮します」

何だ、占い師か。

俺は外れを引いたと思った。

「見た所、貴方は運が無い様子。

運を上げるためにもワタクシのパワー宿った石が必要なのではないでしょうか?」

「…」

確かに運が無い方だ。

1つ買えば・・・上がるのだろうか?

「その顔は興味がある顔で」

「まぁ」

「5000円ですよ?」

「むぅ」

悪くない値段設定だ。

それで娘が見つかるなら、そう思って俺は5000円を払うのだった。

「ありがとうございます、これで貴方は幸運の持ち主です」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

俺は良い買い物をしたと思って後にする。

しかし、誘拐犯では無かったな。

それは残念な結果だ。

電話がかかってくる。

「おい、そっちはどうだ?」

警察のジュンさんから電話が来る。

「成果なしだ」

「悪いが、本官も無い。

少し休まないか、探し疲れた」

「…」

確かに誘拐されたという事実はある。

気持ちが焦る。

それは俺が一番そうだ。

でもだからって、仲間に無理を強要して探させるのは違う。

休みたいと言ってるのだ。

休ませてやろう。

「どうだ?」

「分かった、休もう」

「近くに公園のベンチがあった筈だ。そこに来てくれ」

「あぁ」

俺は電話を切る。

そして早苗にも連絡を入れる。

「どうしたの、見つかった?」

「いや、少し休もうと思ってな。

誘拐された娘が見つかって欲しいのは変わらないが、

仲間に無理を強要させるのは違うと思ってな」

「そっか」

「ジュンさんが先に公園で休んでる、お前も来てくれ」

「分かったわ」

そう言って電話を切った。

休憩するために、俺たちは公園へと向かうのだった。










俺たちは公園のベンチで休憩する。

「何がいい、奢ってやる二人とも」

ジュンさんがそんなことを言ってくれる。

「でも、悪いですよ」

俺は遠慮の言葉を口にする。

「そうです、私たちも普通に働いてるんで気遣わなくても」

早苗も遠慮する。

「気にするな、精々300円ほどだ。

それぐらいで生活基盤が揺らぐわけでもないしな」

ジュンさんが気遣ってくれる。

「そこまで言うなら」

俺は素直に甘える。

「それじゃ、お言葉に甘えて」

早苗も同意見のようだ。

「自販機の中で何がいい?」

ジュンさんが聞いて来る。

「俺はミルクティー」

「私は炭酸系の」

「そうか…本官は適当に珈琲でいいか」

そう言ってジュンさんが自販機で3つ購入する。

「ありがとうございます」

俺は礼を伝える。

「ほらよ」

俺の方にミルクティーを投げて寄越す。

「っと」

俺は落ちないように慌てて拾う。

「ほら、お前のも」

ジュンさんは早苗の方にも飲み物を投げて寄越す。

「ありがとうございます」

早苗は受け取って、炭酸を開ける。

ぷしゅという軽快な音がする。

「んっ・・・ぷはっ」

俺はミルクティーを一気飲みする。

「随分と喉乾いてたんだな」

ジュンさんは苦笑する。

「夏場ですからね」

俺も苦笑する。

飲み物を飲んでる時に、特にそれ以上会話が広がることは無い。

なので、特にやることも無く、なんとなくあたりを見渡す。

するとあるものを見つける。

それは音楽ポスターだった。

「近くでライブでもしてるんですかね」

早苗がそんなことを言う。

「どうかな」

俺は近くに行ってポスターを眺める。

裏にも何か書いてあるんじゃないかと思い裏返す。

すると絵文字が書いてあることに気づく。

それはウナギの絵だった。

夏になると食べたくなるから、不良が悪戯で書いたのだろう。

「可愛い絵ですね」

早苗も近づいて来て、そんな感想を漏らす。

「そうだな」

俺たちは笑い合う。

「そんなウナギの絵なんて関係ないの放っておいて、

そろそろ探しに行くぞ」

ジュンさんがコーヒーを飲み終えたようだ。

「分かった」

俺はゴミ箱にミルクティーを入れる。

「了解です」

早苗も同じようにする。

そうして俺たちは調査を再開するのだった。

「先ほど同様、別れて調査するぞ。

俺が土手の方、早苗が河原、お前は出店の方へ行け」

ジュンさんが指示する。

「あぁ」

俺は返事する。

「はい」

早苗も返事するのだった。

そうして1人になった俺は調査を始める。

出店を歩いてると、迷子センターがふと目に入る。

誘拐犯がもしも花火大会に来てるならば、

もしかしたら、すでに誘拐されて迷子センターに来てる親が居るかもしれない。そしたら、何か情報が入るかも。

俺はそう思って向かうのだった。

「誘拐・・・ですか?」

迷子センターのお姉さんは怪訝そうな顔をする。

「えぇ、もしかしたら起きてるかもと思って」

「あははは、起こりませんよ。

そんな海外じゃあるまいし」

お姉さんは馬鹿馬鹿しいと言って笑う。

しかし、俺の娘が現に誘拐されてるのだ。

海外だとか、日本だとか関係ない。

誘拐は何処でも起きるのだ。

ここで怒ってもいいが、それだと還って相手の反感を買うだけ。

それならば冷静に対応しよう。

「もし・・・ですよ。

仮に誘拐が起きたとして、怪しいなと思える人物はどういう

人物ですか?」

「そんな、起きないですって。

オジサンは、考えすぎですよ」

お姉さんはケラケラ笑う。

「ちょっとした推理ゲームです。

協力してくれると、嬉しいんですがね」

俺はニッっと笑う。

警戒心をなるべく解いてもらうよう意識して。

「それでしたら、そうですねぇ。

誘拐犯とは関係ないですが、可愛いの見つけたんです」

「カワイイ?」

「はい、ウナギの絵を描いて回る人がいるみたいで。

3件くらい、そんな話しを聞いたんですよぉ」

お姉さんはそんなことを話す。

「ウナギ・・・」

そういえば、先ほどの音楽のポスターにも書いてあった。

これは偶然か?

ちょっと気になるな。

「あはは、ウナギの絵なんて。

よっぽどお腹空いてるんですね。まぁ、高いですからね。

1つ、4000円とかしますから、絵で高いって抗議してるのかもしれないですね」

「教えてくれてありがとう」

俺は礼を伝える。

「いえ、推理ごっこ。面白かったですよ」

そう言って迷子センターのお姉さんと分かれる。

「ここもだ」

公園だけではなく、掲示板、マンションのポスター。

あちこちのポスターにウナギの絵が描いてある。

違和感だ、このウナギに一体何の意味がある?

そう考えてる時に、警察のジュンさんから電話が来る。

「おい、妙なものを見つけた」

「こっちもです」

「なに、そっちもか。本官はメールアドレスだ」

「メールアドレス…」

追加の情報だ。

ウナギと、メールアドレス。

なにか関係があるのか?

「そっちは何を見つけた」

「ウナギの絵です」

「それは先ほど見ただろう、どうでもいい話をするな」

「本当にどうでもいいって思いますか」

「何が言いたい?」

「複数のポスターに描いてあるんです、短絡的な犯行とは思えない。何か、特定の意思を持って描いてる人物がいる」

「…」

ジュンさんが黙る、恐らく俺の話を聞いて考えてる。

「そのメールアドレスって教えて貰えます?」

「今、メッセージ送った」

俺はメッセージを受け取る。

そして、スマホの画面を見る。

「これは」

使い捨てのメールアドレス。

フリーの誰でも取得可能な奴だ。

確か、無料で出来るとかなんとか。

「フリーのアドレスを好んで使うのは犯罪者が多い。

誘拐犯と関係してる可能性があるんじゃないのか?」

ジュンさんがそんなことを電話越しで言ってくる。

「ウナギ・・・・うな重・・・うな重?」

確信とは言えない。

だが、まさかと思う。

「どうした、何か気づいたか?」

「使い捨てのメールアドレス、

それは誘拐犯の連絡窓口では?」

「どうして、そう思った」

「妄想かもしれませんが、うな重ってのは10万円って意味じゃないですか?」

「なるほど・・面白い意見だ」

ジュンさんの笑い声が聞こえる。

「笑い事じゃないですよ」

俺は嗜める。

「すまない、確かにそうだな」

「恐らく、誘拐犯のメッセージ。

うな重の意味を理解した人間に、

子供を売るんじゃないですか?

もしくは嫌いな人間を誘拐してもらうのに10万円」

「手ごろな価格で受けますって訳か、なるほどな」

「だから足がつかないように使い捨てのメールアドレスを使う」

「可能性はあるな、確かめてみる価値はありそうだ」

「スマホで調べてみます」

俺は使い捨てのメールアドレスをネットの検索に張り付ける。

すると、あるSNSに辿り着く。

「何が見つかった?」

「フードの男…」

フードを被った怪しい男のアイコン。

そして、傷アリ、うな重で販売と書いてあった。

「本官も見つけた、うな重が10万円の暗示だとするならば、

この人物は暗号を多用するタイプと思われる。

そこから推測するに・・・」

「傷アリ・・・傷はkids?」

「本官もそう思った」

「こじつけ…ですかね」

「それを含めて確かめてみよう。

まずは連絡をするんだ」

「本気ですか?」

「諦めないって言ったのは嘘か?」

「いえ・・・やってみます」

俺はスマホで連絡を取ってみる。

すると10秒程度で返事が返ってくる。

(傷、うな重で持って行く

神社裏、夜9時、雨でも可)

短くそう送ってくる。

(了解、こちらも持って行く)

俺はそう返事する。

「どうだ?」

ジュンさんから電話が来る。

「分かりません、メッセージは送りました」

「そうか」

「後は・・・来てくれるのを祈るだけ」

「そうだな」

「9時になったら行きましょう」

「分かった」

そう言ってジュンさんと連絡を終えた。

早苗にもメッセージを送り、事情を説明。

「私も行く」

早苗がすぐに返事する。

「頼りにしてるぞ」

俺はそう伝える。

「任せて、貴方は傷つけさせない」

早苗はカッコいいことを言う。

「男の台詞だと思うんだが」

俺は苦笑する。

「それじゃ、私を守って。

そうしたら、貴方は私が守るから」

「分かった、そうするよ」

俺は早苗の電話を切るのだった。

これで準備は整った。

後は、直接対峙するだけだ。






俺たちは寂れた神社の裏へと足を踏み入れた。

境内は長い間、誰の手も入っていない雰囲気。

朽ちた鳥居は今にも崩れそうに傾いている。

柱の片方は苔むしており、もう片方は根元から裂けていた。

半壊した拝殿の屋根は苔に覆われ、

雨風にさらされた木材が灰色に変色。

賽銭箱もひしゃげて、中には水たまりが出来ていて、

蚊が発生してる。

足元では雑草が膝の高さまで伸び、

その合間を縫うように、小さなバッタやコオロギが跳ね回る。

木にはセミがついていて、彼らはそれぞれ音を鳴らす。

何処か、昆虫たちが歌ってるように思えた。

「俺が1人で行く」

手を挙げる。

「どうぞ、お好きに」

ジュンさんは譲る。

「ちょっと、危ないわ!」

早苗が否定する。

「悪いが止めないでくれ」

俺は強い意思を見せる。

「誘拐犯に会うなんて危険よ」

早苗はそんなことを言う。

「本官もそう思う、だから行かないがな」

ジュンさんは飄々とそんなことを言う。

「貴方は黙ってて」

早苗が怒りを見せる。

「出来れば単独で行きたい、警戒されたくないからな。

だから2人には残っててもらいたい。

なにかあったら茂みから出て、助けて欲しい」

俺はそう伝える。

「でも…」

早苗は迷ってるようだった。

「本人がそう言ってるんだ、そうすればいい」

ジュンさんが隣で声を出す。

「むぅ」

早苗は迷ってる様子だった。

「頼む、俺が一番会いたいんだ」

俺は早苗の肩を掴んで説得する。

「そこまで言うなら、分かったわ」

早苗は苦笑する。

「ありがとう」

俺は早苗に抱き着く。

「も、もうそんな人前で」

早苗は顔を赤くする。

「っと、悪い」

俺は離れる。

「夏場だからかねぇ、熱い熱い」

ジュンさんは冷やかすようにそんなことを言う。

「私とケンはそういう関係じゃないから!」

早苗はジュンさんにつかみかかる。

「おー、怖い」

ジュンさんは逃げまどう。

「…」

階段を上って境内に入り、石畳を歩く不審な人物。

間違いない、フードの男だ。

身長は180前後。

体重は70キロぐらいと推定。

卓也(太った男)と比べると、筋肉質で、鍛えている印象だった。

「隠れるぞ」

ジュンさんは早苗の頭を掴んで茂みに隠れる。

「わっ」

早苗は一瞬で隠れた。

「…」

俺はそのフードの男に近づく。

「うな重は持ってきたか」

左の肩を右手で押さえながら、

フードの男は尋ねる。

「フードデリバリーか?」

俺はそう返す。

「違うか」

フードの男は去ろうとする。

「待て」

俺は静止する。

「悪いが自分は忙しいんだ。

こちらの知り合いかと思ったが…

どうやら違うみたいだ」

彼は去ろうとして、背を見せる。

「いや、合ってると思うぜ」

俺はその背に向かって話しかける。

「なに?」

フードの男は振り返る。

「こいつだろ」

俺は10万円の入った封筒を出す。

「なるほど、客か」

フードの男は戻ってくる。

「悪いな、無駄な問答をして。

こっちも警戒しなくちゃいけない立場なんだ。

本当のデリバリーだったら驚かれると思ってな。

一応、確認って訳だ」

「なるほど」

フードの男は納得したようだった。

男は肩を抑えていた右手を離す。

「見せて欲しい・・・アンタはそいつを売りに来たんだろう?」

俺は心臓の音が高鳴ってるのが分かる。

いよいよだ…誘拐犯め。

俺の娘を返してもらうぜ。

その気持ちでいっぱいだった。

「ほらよ」

フードの男が見せてきたのは、卒業アルバムだ。

「関係ないだろ、これは」

俺は少しむっとして見せる。

「別に思い出話に花を咲かせようって訳じゃない。いいから黙って見てくれ」

「あぁ・・・」

俺はフードの男の指示に従い、

写真を眺める。

そこにはいくつもの子供の写真があった。

皆、制服を着ている。

「これは…」

「分かるだろ…メニュー表だよ」

「メニュー・・・表・・・」

ここに居る子供たちは全員、

架空の学校の卒業生ということか。

建前はそうだが、実際は誘拐した子供たち。

そして、こうして特別な手順を踏んだ客に会って、メニュー表を見せる。

まさか、警察も卒業アルバムが、

子供たちの誘拐リストだとは思わないだろう。

「どれがいい、可愛い子、カッコいい子。

不細工な子、好きなものを選べ」

「…」

俺はページをめくっていく。

すると、その中に娘の愛の写真を見つける。

「その子か?」

「この子が良い、何処に居る?」

俺は迷わず選択する。

「場所は言えん、商品を先に渡したら、

金を支払わない奴も居るからな。

まずは先に金だ、それほど高くないだろう?

渋らずに払えよ」

フードの男は手を出す。

「ほら」

俺は金の入った封筒を渡す。

「…」

フードの男は中身を確認する。

「問題ないだろ?」

「確かに、透かしも、番号も正規の物だ」

「それじゃ、連れてこい」

「慌てるな、持ってきてやる」

フードの男が去ろうとした時。

俺はがっと肩を掴む。

「遅いんだよ・・・」

娘が・・・どれだけ苦しい思いをしたんだ。

思わず肩を掴んだ手に力が入る。

「痛いな・・・どうして急く?

・・・待てよ、もしかしてお前・・・親か?」

フードの男がいきなり確信めいたことを言う。

「それは…」

俺は思わず黙ってしまう。

「くそ、面倒なものを拾っちまった」

フードの男は走り出す。

「悪いが、そういう訳にはいかないんだよな」

ジュンさんが茂みから出て来る。

「仲間が居たのか」

フードの男がジュンさんと対峙する。

ジュンさんが近づけなかったのは理由がある。

それはフードの男はナイフを持っていたから。

「私も居ますよ!」

早苗も登場して、フードの男を囲む。

「3対1か、参った降参だ」

フードの男は両手を挙げる。

皆が終わったかと油断する。

その時だった。

「えっ…きゃっ!」

早苗の足元が突如払われ、バランスを崩して転倒する。

地面に背中を打ちつけ、息が詰まる音がした。

「…」

フードの男は走り出す。

「フードの男…!」

誰もがその油断に気づくのが一瞬遅れた。

俺は思わず言葉にする。

「追いかけるぞ」

ジュンさんが言うより早く走り出す。

「はい」

俺も急いで追いかける。

「しつこいなアンタらも」

森の中をフードの男は駆けだす。

「俺は・・・親なんだ・・・逃がす訳にいかないだろ」

俺は必死で追いかける。

「面倒な感情論だ」

フードの男がそんなことを言う。

「なんだと?」

俺は怒りをあらわにする。

「親だの、子だの、結局は赤の他人だ。

そのことで必死になる方が可笑しいんだ。

目の前で子が食われてたら、自然会では親は逃げるぞ?」

「動物と人間を一緒にするな!」

俺は怒る。

怒りが喉を焼き切りそうになり、

俺はさらに足に力を込める。

草を蹴り飛ばすたび、心臓の鼓動がうるさいほど耳に響いた。

「熱いのは嫌いだぜ…」

フードの男は走り出す。

「そいつは本官も同じ意見だ、だが甘いぜ?」

ジュンさんはニッと笑う。

「なに?」

フードの男が振り返ると、すでにそこにはジュンさんが。

「捕まえたぜ」

ジュンさんが捕まえる。

「ぐっ」

フードの男は倒れるのだった。

「大人しくしろ、抵抗すれば分かってるな?」

ジュンさんがじりじりと近づく。

「あぁ…」

フードの男はナイフを地面に落として何も抵抗しない。

「確保だ、9時30分、銃刀法違反でフードの男を現行犯逮捕」

ジュンさんは手錠をフードの男にかけようとする。

「ジュンさん、手元!」

咄嗟に叫ぶと同時に、

俺はフードの男の右手を蹴り上げた。

その手には、小型のアイスピックが握られていた。

「ぐっ」

フードの男がジュンさんに手を押さられて倒れ込む。

あと数秒遅れていれば、ジュンさんの喉元に届いていたかもしれない。

「とんでもねぇな、こいつ」

ジュンさんは呆れる。

「くそっ」

フードの男は諦めたように地面に顔をうつぶせにする。

「もう、持ってないよな?」

マウントをとった状態でジュンさんはポケットを漁る。

「…」

フードの男は黙ってる。

「無さそうだ」

ジュンさんはホッとしたようだった。

「良かった」

俺は安堵して、地面に座り込む。

「悪いが本官は見ての通り、拘束してる。

応援を代わりに呼んでくれないか?」

「わかった」

俺はスマホで応援を呼ぶ。

「おーい、来たよ!」

早苗が他の警察を連れてやってくるのだった。

「ふぅ・・・これで終わった・・・かな」

俺は安堵するのだった。






俺たちはは警察署に向かう。

「ちょっと、一般の人は困ります」

新人の警察官らしき男がそんなことを言う。

「いいんだ」

ジュンさんがそんなことを言う。

「でも…」

新人の男は戸惑う。

「悪いね、大事にはしないからさ」

俺はそう伝える。

「ごめんなさい、でも事情があるの」

早苗はそう言う。

「分かりました・・・問題は困りますからね」

新人の警官は通してくれた。

そして、手錠で繋がれた被疑者を取調室に運んでいく。

階段を下りて地下へと向かう。

「分かってると思うが、これは非公式なものだ。

揉め事は起こすなよ」

ジュンさんが俺に対して釘を刺す。

「分かってるよ」

俺は返事する。

「手を出しそうになったら私が止めます」

早苗がそんなことを言う。

「頼もしい彼女だな」

ジュンさんはニッと笑う。

「か、彼女って…」

早苗は恥ずかしそうな顔をする。

でも、何処か嬉しそうな。

俺の気のせいか?

「別にそういう間柄じゃないよ」

俺は少し冷たいかもしれないが、

そんなことを言う。

「そうか」

ジュンさんはそれ以上、特に言うことは無かった。

階段を下りて、一番最後に行く。

重厚な扉に辿り着く。

分厚い金属で覆われてた。

ハンドルを回して、扉を開ける。

それは、暗く狭い部屋だった。

太陽の光が届かない、地下の場所。

「ここで拷問でもしようってか?」

フードの男がそんなことを言う。

「座れ」

ジュンさんは彼を歩かせる。

そして椅子に座る。

その時、ジュンさんは何かに触れる。

「っ・・・!」

すると、犯人と思われる人物にスポットライトが当たる。

「お前の名前は?」

俺は名前を尋ねる。

「佐々木 裕也ささき・ゆうや

42歳だ、他に聞きたいことは?」

フードを被った男はふてぶてしくも、

そんなことを言う。

右手で左の肩を抑えてるので、

不信に思い尋ねる。

「痛いのか?」

俺は尋ねる。

「さぁ?」

フードの男はどうでもいいって感じで返事する。

「そうか」

俺は何かあると思ったが、

今は他に気になることがあるので尋ねる。

「部下に調べさせたが、スマホの中にあった予定長は何だ」

ジュンさんがビニールの袋に入ってる、

スマホを見せる。

警察官であっても指紋はつけてはならないからだ。

「さぁ」

フードの男、もといユウヤは興味無さそうに返事する。

「赤い丸がついてるが何の意味がある?」

ジュンさんは尋ねる。

「さぁ」

ユウヤは答えない。

「8月10日、この日に何かする予定だったんだろう?」

ジュンさんが尋ねる。

スマホの予定帳に赤い丸が書いてあるのが違和感だったのだ。

「さぁ」

ユウヤは同じことしか言わない。

「これは恐らく、警察としての勘なんだが、

記念日なんじゃないのか?」

ジュンさんがそう答える。

すると、ユウヤは小さく答える。

「あぁ」

ユウヤは認めたようだった。

「どうして、その日を選んだ?」

ジュンさんが尋ねる。

「別に、特別その日が良いって訳でもない。

花火大会があった、ただ、それだけだ」

ユウヤは答える。

「花火大会?」

俺は気になって聞き返す。

「大事なのは状況だ、親が花火に夢中で、

子供の顔を認識しない瞬間。つまりは子供のことを忘れる。

その一瞬を自分は狙った」

ユウヤはそう答える。

「すると、親への復讐か?

かつて、花火大会に夢中になった親が子供だった、

お前を忘れて、誘拐の被害者になった。

だから、同じように花火大会で誘拐事件を起こした。

違うか?」

ジュンさんは持論を展開する。

「なるほど、そういうストーリーか、面白い」

ユウヤは笑う。

「何が可笑しい?」

ジュンさんはむっとする。

「別に、そういう方が警察の好みかと思ってな」

ユウヤは淡々と答える。

「それじゃ、答えを教えてくれ」

俺は尋ねる。

「そうだな・・・自分は親に愛された方だと思う。

飯は与えられたし、住むところも、自分専用の部屋も用意してもらった。特段、暴力を振るわれたということも無かった。

そうだな、むしろ親を好きだったよ。

ただ、他の親と違う点をあげるとすれば、

それは自分と同じ”誘拐犯”だってことだ」

「なに?」

俺は思わず聞き返してしまう。

「人様の子を誘拐して、売り払う。

そして生活をしていた、そんな生活をしてたからだろうな。

ある日、顔も忘れた何処かの親に殺されたよ。

法を犯してるし、何より人の感情を逆撫でしてる。

親は殺されて当然さ、別段、復讐をしようって考えはない。

だが、何の因果か、自分はこの世に生を受けた。

それなら、天命まで全うしたいと思うのが人の心理ってものだ。自分は親の仕事を継いで、誘拐業を続けた。

今更、普通の仕事に憧れ何て無いしな」

つまらなさそうに裕也は答える。

「どうして花火大会なんだ?」

俺は彼がどうしてその日を選んだのか気になって尋ねる。

「先ほども言ったが、親は花火に夢中だ。

かといって、レジャーシートに座ってる夫婦から子を誘拐するのは難しい。だが、誰にも怪しまれずに連れ去る方法がある。

それは迷子センターだ。

迷子センターってのは、あくまで子を保護する場所。

親の顔なんて知らないのさ、親の顔を知ってれば、

連れて行けばいいんだからな。だから、親のフリをして近づけば、すぐに引き渡してくれる。

子が知らない人に触られたとして泣いても、親と再会できて泣いてるんだなと言い訳もしやすいしな。子供には親に会わせてあげるとか言えば、素直に従う。まだ、子供だしな。人を疑うってのを知らない。

それに、花火の爆音が子供の泣き声を誤魔化す。

誘拐する日にはうってつけだろ?」

ユウヤは何処か得意げに語る。

まるで褒めて欲しいみたいだ。

「写真には皆、腕に何か巻いてた。

あれは何だ?」

俺は気になったことを尋ねる。

「あれは、値札さ」

ユウヤは答える。

「値札?」

俺はどういうことだと思い尋ねる。

「子供を欲しがってる家に売るためにな。

正直、どの子がどの値段か何て忘れる。

誘拐は数をこなせば、それだけ金が入るからな。

健康な内臓、子供をおもちゃにする奴。

使い道は知らんが、売れればどうでもいい、

その先は自分の知ったことではない」

「このッ!」

俺が怒ろうとした瞬間。

「この外道がっ!」

ジュンさんが先に切れた。

椅子を蹴飛ばして、派手な音を鳴らす。

「そっちが先に切れてどうするんだよ」

俺はため息を吐く。

「脅しか、何べんも見たな。

あまりにも類似してて飽きてくるくらいだ」

冷静な態度を崩さないユウヤ。

「値段・・・は・・・どうやって決める・・・」

俺は聞きたくは無い。

でも、聞かなければ先に進めない。

そんな葛藤をしながらも尋ねる。

「いいだろう、教えてやる。

金になる子供は生かす。

条件は3つ。

健康、容姿、性格の3つ。

健康診断で引っかからない、見た目が綺麗、うるさくなく

静かであること。人に好かれる要素だと思えば、

それほど理解に苦しむまい?」

「そろそろ本題に入ろうか」

俺は席を立って、殴れる距離に近づく

「ちょっと」

早苗は俺のことを止める。

「まだ、殴ってないだろ?」

俺は極めて冷静に言ったつもりだった。

「何も聞いてないのに、いきなりその言葉が出て来るんだ」

早苗が鋭いことを言う。

「…」

俺は黙る。

「それで、根城は何処だ」

ジュンさんが先に聞いた。

「根城・・・ねぇ」

ユウヤは飄々とした態度だった。

「何処に隠してる?」

俺は強く詰める。

でも、冷静な対応だと思う。

焦ってはいけない。

殴ったら周りに迷惑がかかるしな。

早苗にジュンさん。二人には迷惑をかけたくない。

焦るなと言い聞かせる。

「教える気はない」

先ほどまで色々と饒舌に語っていたが、

ここに来て急に口を閉ざす。

「罪の意識は無いのか?」

俺は苛立ちを覚えながら問う。

「いいか、無駄な質問がこの世にはある。

この世に奇跡はあるのかという問いと、犯罪者に罪の意識があるのかと聞くことだ。答えはどちらもNOだ」

裕也は左肩を右手で押さえ込んでる。

「OK,悪人だな、殴ってもいいな?」

俺は胸倉を掴む。

「ダメだってば!」

早苗が俺のことを羽交い絞めにして止めようとする。

「くそっ、殴らせろ!」

俺は暴れる。

「ここで・・・殴ったら・・・捕まるよ!」

早苗が正論を口にする。

「ぐっ」

俺は・・・拳を収める。

「それでいい、本官としても捕まえたくはない」

ジュンさんが手錠を指にはめて、くるくる回転させる。

「残念、自分と同じ道に来るかと思ったが」

裕也はつまらなそうにする。

「素直に吐いて早々に出所すれば金稼ぎが出来るぞ」

ジュンさんが突然、そんなことを言う。

「ふむ…」

ジュンさんが考え込むしぐさをする。

どうやら、心に引っかかるようだった。

「…」

沈黙の時間。

「まだか?」

俺は椅子に座って、貧乏ゆすりをする。

「面白い誘いだが、素直に吐いて出れる保証は?」

ユウヤはそう答える。

「随分と偉そうじゃんか、ええ?」

俺は苛立ちをぶつける。

こめかみがぴくぴくと動く

「…」

ジュンさん黙っては俺をを傍観する。

「っと・・・」

そうだ、焦っては駄目だ。

俺は椅子に座る。

「少し、休憩しよう。

部下を呼んで欲しい、早苗君、いいかな?」

ジュンさんはそんなことを言う。

「分かりました」

早苗は席を立って同僚を呼んだ。

そして同僚が駆けつけてきて。

俺たちは休憩を挟むことが出来るようになった。

「ふぅ…」

俺はベンチに座って休憩。

「ミルクティーと炭酸だっけな」

ジュンさんは早苗と俺に飲み物を持ってくる。

「ありがとうございます」

俺はミルクティーを飲んで天井を見上げる。

少しの間、ぼーっとする。

「いただきます」

早苗はコーラを飲んでリラックスした雰囲気だ。

次第に落ち着いて来る。

「ここまで随分と助かった、

だから、どうだろうか?」

ジュンさんが尋ねる。

「どう・・・って?」

俺は嫌な予感がして聞き返す。

「後は自分たちがやる」

それがジュンさんの言葉だった。

「俺はは諦めたくない」

「あの、彼に手伝わせてあげてください。

ここまで来るのに一生懸命頑張ったんです」

早苗がフォローを入れる。

「そう言うと思ったよ」

ジュンさんは微笑む。

「ジュンさん・・・試したんです?」

俺は少し睨む。

「ちょっとな。

まぁ、だが諦めが悪いのがお前の長所だからな」

ジュンさんはそんなことを言う。

「ジュンさん・・・」

俺は彼を見つめる。

「さて、作戦を話そう。

休憩って言ったが、作戦を聞かれたくないのもあった」

ジュンさんがそんなことを言う。

「どんな作戦なんです?」

俺は尋ねる。

「それはだな」

ジュンさんが俺たちに教えてくれる。

「なるほど、そういうことですか」

俺は理解した。

「私もOKです」

早苗も納得したようだ。

「それじゃ、第2ラウンドだ」

ジュンさんと一緒に地下室へ向かうのだった。









取調室に行き、誘拐犯に話しかける。

「…作戦は決まったか?」

ユウヤはそう答える。

「まぁな」

ジュンさんは冷静に答える。

「それで何しようって言うんだ?」

ユウヤは尋ねる。

「ここに、スマホがある」

ジュンさんはそれを見せる。

「そうだな」

ユウヤは興味無さそうに話す。

「このスマホを調べれば証拠が出るんじゃないのか?」

「その中に証拠はない、誘拐に関することは何もな」

ユウヤはそう答える。

「嘘だ、現にお前は花火大会で誘拐したと…」

俺は苛立ちを覚えて、そう答える。

しかし。

「あくまで、自分が証言しただけの出来事に過ぎない。

それが事実であるかどうかは立証できない。

警察は自白だけで捕まえる無能なのか?」

ユウヤは強気だった。

だから、先ほどは誘拐の方法とかを話したんだ。

捕まらないと自信があったから。

「確かに、お前の言う通り、自白だけでは難しい。

警察は証拠も握ってない、ユウヤの事は嫌疑にしか過ぎない」

ジュンさんはつまらなそうな顔をする。

「だろうな」

ユウヤはそう言った。

「だが・・・そうだな。

例えばだが、お前の仲間が捕まった時。

何故か、警察の手にスマホが握られてたら、

お前はどう思う?」

ジュンさんはにやっと笑う。

「何が言いたい」

ユウヤはこちらの言動を確かめるように見る。

左肩を右手で押さえた。

「私なら、警察が証拠を手に入れたから。

俺たちを捕まえた…そう思うかもしれませんね」

早苗が言う。

「それは・・・少し困るな」

ユウヤはそう答える。

「それでどうだろう、取引という程では無いが

営利目的の誘拐だと10年は出てこれないが、

未成年誘拐だとこちらが用意した弁護士に話を通せば、

3ヶ月で出てこれる。

すぐに仕事に復帰できると思う。

勿論、スマホは返す。

お前が上手く立ち回って、早めに出所できた。

仲間にそう説明できるんじゃないか?」

ジュンさんがそう答える。

「本当に・・・3ヶ月で出れるのか?」

ユウヤは考え込むしぐさをする。

「あぁ、勿論」

ジュンさんは断言する。

「分かった、根城を話そう」

ユウヤはようやく、重い口を開いた気がした。

俺たちは、誘拐犯の根城・・・いや。

子供たちが居る場所へ向かうことが出来るのだった。



寒い中、首の無い豚が無造作に並んでいる。

辺りには鉄臭い香りが漂い、

無機質な器械音が冷たく響き渡っている

豚は巨大なフックに吊るされて、動かない。

霜がびっしりついていて触ると冷たそうだった。

ここに来ると、人間の命の価値も下がりそうで怖い感覚が俺の中にあった。

「コートを着るんだ」

ジュンさんが俺たちに指示する。

「分かったよ」

俺はコートを着る。

「さっむぅ」

早苗はとても寒そうに身体を縮こませる。

「この奥だぜ」

ユウヤはそう言った。

奥に行くと重厚な扉が。

開けてみると血まみれの部屋が。

その奥に怯えた少女が一人居る。

「達也?」

それはジュンさんの息子だった。

腕には値札がついてる。

彼の値段は10万円と安い値段設定だった。

だが、そんなことはどうでもいいのだろう。

「おっとう・・・?」

達也は絶望した顔をしていたが、

父の顔を見た瞬間、それは希望の目が光り出す。

「そうだ、おっとうだ」

ジュンさんは手を広げる。

「おっとう!」

2人は再会して、抱きしめあう。

この寒い部屋の中で、温かい光景だった。

「達也・・・ごめん・・・見つからないって。

本官は諦めてたんだ・・・許してくれ」

ジュンさんはそんなことを言う。

「でも、おっとうは見つけてくれた」

達也君はそんなことを言う。

「そう言ってくれて、ありがとう」

ジュンさんは喜びのあまり涙していた。

「ぐす・・・いい光景ですね」

早苗は涙を流して喜んでいた。

だが、俺は涙を流すことは出来なかった。

俺にとってはまだ終わりでは無いのだから。

「俺の・・・娘は何処だ?」

息が荒い、口の中が酷く乾く。

俺の目的は、俺の娘を探すことだった。

そのために今までジュンさんと一緒に探したんだ。

「ケン?」

俺の様子が変なことに気づいたんだろう。

早苗は不思議そうな顔をする。

「愛、愛は何処だ!?」

俺は娘の姿を探すが見当たらない。

焦りがどんどんと風船みたいに膨らんでいく。

「健治…」

近くに居たジュンさんは申し訳なさそうな顔をする。

「俺の・・・俺の娘は何処なんだよ!?」

ここも、ここも、ここも、ここも!

どの部屋を探して歩いても、俺の娘は何処にも居なかった。最後の頼みの綱である、誘拐犯に尋ねる。

しかし、帰ってきた言葉はあまりにも淡泊だ。

「さぁな」

拘束具をつけられたユウヤは冷たく言い放つ。

「達也、答えにくいと思うが、おっとうに教えてくれ。

他の子はどうなった?」

ジュンさんは息子に尋ねる。

「ほ・・・他の子は・・・殺された。

きらって光ってる何かを何度も、何度も振り下ろしてるが見えた・・・僕は・・・怖くて震えることしか・・・出来なかった。

ごめんよ・・・おじさん」

達也君はそう答える。

「う・・・おおおおおおおおおっ!」

俺は叫ぶことしか出来なかった。

胃の中にある内容物を吐き出すほどの勢いで。

「容疑を誘拐から殺人に切り替える、

佐々木裕也を殺人罪で逮捕する」

ジュンさんは再び裕也を連行する。

「おい、約束はどうなった?」

ユウヤはここにきて初めて慌てて見せる。

「悪いが、警察は善の組織じゃない。

ただ、目的を達成する組織さ、お前から根城を吐かせた。

それで十分だ」

ジュンさんは冷たく言い放つ。

「テロメアが数ミリしかない年寄り顔負けの単細胞脳みその持ち主が!」

ユウヤは怒鳴り声をあげるが、

その声はとても空しく聞こえた。

「俺の・・・俺の娘は何処だ?」

そして、俺の声も・・・とても空しかった。

「ケン・・・」

早苗もなんて言葉をかけていいか分からない雰囲気だった。



次回予告

娘の居場所をようやく突き止めた俺たち。

しかし、娘は帰らないと言い始める。

何故?

このために娘を探して歩いたはずなのに。

ふらつく俺の立場。

父として、何を信じればいいのか分からなくなる。

その原因を知ってるという医者に会いに行くのだった

次回、最終話「娘の心は砂の城」




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