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第9話 目覚めの光と影

トゥロはかすかに目を開けた。

黒い背景の中心で、かすかに揺らめく温かな小さな光が見えた。

(トゥロが意識を取り戻す)


これは夢なのか、それとも現実なのか、自分でもわからなかった。

徐々に視界に現れたのは、美しい白木で作られた天井。繊細な模様が少しずつ浮かび上がってきた。


「……ここはどこだ?クマは?みんなは……?」


鼻をくすぐったのは、どこかで嗅いだことのある薬草の香り。

窓の外からは、かすかな鳥のさえずりが聞こえてくる。

やわらかな陽光が窓から差し込み、部屋を穏やかで温かな空気で包んでいた。


――ここは学院の医療棟だった。


ベッドのそばから声がした。


「おっ、やっと目を覚ましたか。ずいぶんと驚かせてくれたな」


トゥロは声のする方へ顔を向けた。

そこには椅子に座る一人の老人がいた。灰色の法衣に長い白髭、片目に眼帯をしていて、まるで世の理をすべて知っているかのような謎めいた賢者のようだった。


「……あなたは誰?僕は……ここで何を?」


「私か?名はリウス。この医療棟の責任者であり、今はお前の臨時の観察者でもある」


トゥロは起き上がろうとしたが、体が鉛のように重くて動けなかった。


「無理をするな。お前は丸三日眠っていたんだ。急に動くのはよくない、まだ回復していないからな」


「……三日?じゃあ、あのクマは?」


「そうだ、三日だ。お前はあの魔獣と戦った。そしてなぜか、あのクマは突如姿を消した。偶然か、それとも何者かが呼び戻したのか、謎のままだ……

その後で――お前は“覚醒”したんだな。

あんな魔獣と戦って生きていたなんて、それだけでも奇跡だ。

普通、あの年齢の子供が戦う相手じゃない」


(※解説:人が覚醒するのは、極限の状況に追い込まれたときだけ。

覚醒によって、その人の魔法がより上位の形に進化することがある。

たとえば雷の魔法が「プラズマ雷」へと変わるなど。

だが、覚醒は非常に稀で、平和な日常ではほとんど起こらない)


記憶の断片がよみがえる。

巨大なクマの影、金色の光、胸の中で燃える何か、そして震える心。


まるですべてが夢だったかのようだが、胸の奥には確かに、何か温かくて生きているものが感じられた。


「……何か不思議な感覚があるか?胸のあたりが光っているような、温もりがあるような……自分の中の“力”を感じられるはずだ」


トゥロは小さくうなずいた。


「……うん。胸の中に、小さな太陽があるみたい」


リウスは目を細めてうなずいた。

(彼はトゥロの体に集中し、体内の魔力の流れを視た。熟練の魔導士であれば、それがどんな属性かを見極められる。だがトゥロの中には、それだけではないものがあった)


「ふむ……どうやら、お前の中には“二つ”のエネルギー源があるようだ。

もしかすると“祝福”か“異常性アノマリー”か……現時点では断定できん。

一つは確かに魔力の流れだが、もう一つは、私が今まで一度も見たことのないものだ」


「祝福?アノマリー……?」


「ああ。祝福とは、選ばれし者、あるいは非常に特殊な条件下で生まれた者だけが持つ力だ。

非常に稀な存在だ。幸運か、不運か……それはこれからわかる」


そのとき、ドアをノックする音がし、扉の向こうにリナの姿が現れた。


「トゥロ!起きたのね!?よかった……!」


そのすぐ後ろから、ノラン、メイラ、カインが駆け込んできた。


「おいおい、そんなに泣いたら、ここが水没しちゃうぞ」


「な、泣いてない!」


「お前が倒れた後、みんなすごく心配してたんだ」カインが真剣な表情で言った。

「正直、もしまたあのクマが出てきたら……俺、逃げてたかもな」


「さすがリーダーね」メイラが皮肉っぽく笑った。


トゥロは微笑んだ。

彼らの顔を見ているだけで、不安な気持ちが少しずつ和らいでいくのを感じた。


「……ありがとう、みんな」


その後、全員が特別教室へ呼び出された。


壇上には黒いマントを纏った教師が立っていた。顔は影で隠れている。


「トゥロ。

お前の力は“異常性”であり、通常の枠を超えた存在だ。

今日からお前は“特別監視対象”となる」


教室内にざわめきが広がった。


「つまり……特別ってことか?」ノランが小声でつぶやく。


「いや、制御を失えばすぐに拘束されるってことだろ」カインが真剣な表情で答えた。


「ええ!?なんか怖いんだけど!」


集会のあと、トゥロは再びリウスと話していた。


「お前の中に眠るその力……いずれ、真の姿を現す時が来る」


「……真の姿?」


「ある者には剣。ある者には鍵。

そして、ある者には……呪いとなる」


「……呪い?」


「恐れるな。ただ、忘れるな。

力とは報酬ではない。

それを持つ資格がある者だけが、それを持つべきなのだ」


その夜、トゥロはベッドに横たわり、天井を見つめていた。

胸の奥には、まだ名も形もない、かすかで、それでも確かな何かが光っていた。


それはまだ正体を明かしていない。

だが、それは確かに――彼の中に“生きて”いた。


「……きっと、僕にしかできないことがあるんだろう」


彼は深く息を吸い込んだ。


――僕が持っているこの“力”が、祝福なのか、何なのか、これから確かめていこう。


本当の物語は、いま静かに、だが確かに始まりを告げていた。


◆◇◆――――◆◇◆

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「ネトコン13」
― 新着の感想 ―
Wow
es muy cautivador, tengo ansias por leer más.
Very detailed You can tell a lot of work was put in
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