第4話 魔法の研究
リレン魔法騎士学院の中庭には、新入生たちの賑わいが広がっていた。
朝日が塔の尖塔を照らし、魔法陣が刻まれた広場はまるで神聖な輝きを放っているようだった。
トゥロは列に並びながら、背中に走る緊張を感じていた。
周囲には、同じ年頃の生徒たちの顔、顔、顔──
彼らの中には、これから共に戦う仲間がいるのかもしれない。
(大丈夫……僕ならやれる。きっと。)
その時、隣から声がかかった。
「なあ、君、どこから来たの?」
隣に立っていた栗色の髪の少年が、にこやかに話しかけてくる。
「リレンの近くの村から。君は?」
「俺はノラン! 北の村の出身だ!よろしくな!」
明るく手を差し出してくるノランに、トゥロも自然と笑顔で手を取った。
ゴォン……と重たい音を立てて、大扉が開いた。
そして、広場に一人の老人が現れた。
銀色のローブをまとい、長い白髪をなびかせるその姿は、まさに「偉大なる魔導士」と呼ぶにふさわしい威厳を持っていた。
「静粛に。」
その一言だけで、騒がしかった広場がぴたりと静まり返る。
「私は学院の最高位魔導士、セイラス・グランデルだ。本日より、諸君には『魔法の本質』を教える。」
その声に、生徒たちは一斉に姿勢を正した。
〜 この世界の魔法について 〜
セイラスはゆっくりと歩きながら語り始めた。
「魔法とは、この世界に存在するエネルギーを操作する術だ。
攻撃、防御、補助……すべては魔法によって可能になる。」
「基本的な属性は五つ。火、水、風、土、雷である。」
空中に巨大な魔法陣が出現し、その周囲を五つの光球がくるくると回り始めた。
「だが、これだけではない。」
彼は一拍置き、低く重みのある声で続けた。
「時に、『特殊属性』と呼ばれる魔法を持つ者が現れる。」
これは単なる五大属性の強化版ではなく、根本的に異なる性質を持つ力だ。
我々はこれを「高位魔法」と呼び、通常の魔法では到達できない高度な力を扱うものと定義している。
生徒たちの間に緊張が走る。
「例えば……
→ 時間魔法。魔力と才能次第で、一時的に『時間を止める』ことや『未来を垣間見る』ことが可能になる。」
(時を止める……!? 本当にそんなことが?)
トゥロは驚きに目を見張った。
→ 空間魔法。瞬間移動や次元の扉を開くことができる。
戦闘や探索、そして封印された空間への進入も可能とされる。
(テレポート……すごい。)
→ 物質操作魔法。石や鉄といった物質を再構築し、別の形に変化させる力。
→ 召喚魔法。異界の存在を呼び出し、使役することができる。
→ 精神魔法。他者の心に干渉し、感情や記憶に影響を与える力。
→ 幻術魔法。現実と見まがうほどの幻影を生み出す。
精神魔法と幻術魔法の違いは曖昧であり、どちらも五感を欺くため、非常に見分けがつきにくい。
セイラスは声をさらに落として、言葉を続けた。
「そして……極めて稀なる二つの属性。
聖属性魔法と、暗黒魔法だ。」
ざわめく生徒たち。
「聖属性魔法とは、純粋なる光の力を操る奇跡の力だ。
伝承によれば、この魔法には“神の欠片”が宿っており、世界の闇に立ち向かう力を持つとされる。
この力が目覚めるのは、数百年に一度……真なる英雄にのみだ。」
「一方、暗黒魔法はその対極。破壊と腐敗を司る力だが……
その知識はすでに失われており、かつて使われた記録も存在しない。
その本質は、いまだ謎に包まれている。」
(光と闇……まるで神話のようだ。)
トゥロは内心でつぶやいた。
隣のノランが興奮気味にささやく。
「なあ、トゥロ。
もしお前が聖なる英雄になったら、サインくれよな?」
「や、やめてよ……そんな大それたことにはならないって。」
そう言いながらも、トゥロの胸はほんの少し高鳴っていた。
(もし……僕にも特別な力があるのなら……)
セイラスは前に進み出た。
「この世界には、まだ発見されていない魔法が数多く存在する。
我々の学院の学者たちは古代遺跡を調査し、失われた魔術理論を掘り起こしている。
魔法とは──未知への挑戦だ。」
「では、始めよう。」
その合図とともに、中央に巨大なクリスタルが設置され、やわらかな光を放ち始めた。
「一人ずつ、前へ出てクリスタルに触れるのだ。
君たちの適性が現れるはずだ。」
「ノラン・カール!」
元気よく手を挙げて、ノランがクリスタルへと駆け寄る。
手を置いた瞬間、青白い閃光が広場を包み、風の気配が渦を巻く。
「風属性。見事だ。」
セイラスがうなずく。
「よっしゃあ! トゥロ、次はお前の番だ!」
「うん……!」
トゥロは拳を握りしめ、一歩踏み出した。
(落ち着け……僕ならできる!)
震える手を、ゆっくりと──
クリスタルへと伸ばした──
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