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第17章 転機

任務を終えた後、一行は王都へと戻ってきた。

まずはギルドに立ち寄り、慣れた喧騒の中、受付係の軽い会釈を受ける。

報告は五分もかからず、彼らは無言のまま学院へと足を向けた。


その日は、空一面に鈍い灰色の雲が広がり、不穏な気配が漂っていた。




学院の地下深く、厳重に封鎖された階層に、研究用の施設があった。


そこには、古代のルーンで刻まれた鎖に縛られた怪物が横たわっていた。

すでに身動きはしないが、異様な魔力がまだ僅かに脈動していた。


学院長は背中で手を組み、並ぶ魔導器を無言で見つめていた。


「――さて、アルデン教授。何かわかったか?」


学園屈指の頭脳を持つ男が眼鏡を押し上げ、静かに答えた。


「この怪物……自然発生したものではありません。

組織的かつ意図的に造られた存在です。組成を調べた結果、組み込まれた魔力の構造からも確信を得ました。」


「造られた……? 一体どうやってだ。」学院長の眉が深く寄る。


「強制的な融合です。餌として他の魔物を次々と食わせ、魂と力を無理やり吸収させた。

これは進化……ですが、歪められた進化です。高度な魔術師、あるいは組織が背後にいると見て間違いないでしょう。」


静寂が研究室に落ちた。


「やはり……我々の疑念は正しかったか。」学院長は指先を固く握りしめる。

「王国は本気で怪物を育てている……我々にぶつけるためにな。」


「戦争の準備、ということでしょうか……?」後ろに控えていたリアンナが声を潜める。


「戦火はもう扉の向こうにある。」学院長の声は冷たかった。

「待つ必要はない。こちらから先に動く。これ以上、このような怪物を生ませるわけにはいかん。」


彼は鋭く振り返った。


「評議会を招集しろ。エルフ王国、そしてドラコニートに使者を送る。

同盟が必要だ。」




文明圏の遥か外側――地図にすら記されない中立地帯に、恐怖と迷信に包まれた場所があった。


『死の森』。

誰一人、足を踏み入れる者はいない。


古の時代から、そこには悪魔たちが住み着き、以来、人間はその領域を越えることを避けてきた。

悪魔たちは外に出ることもなく、交渉も交易もせず、ただそこに存在し続けた。

あまりにも長い孤立のせいで、人間は悪魔の存在を忘れかけていたが、恐怖の記憶だけは消えていなかった。


悪魔たちが森から出ないのは、ただ一つの命令があったからだ。

――魔王の命令だ。

絶対的な支配者。


今、その魔王は深い眠りについている。

漆黒の玉座にその体を封じ、意識はこの世界を超えた次元を漂っていた。

高次の存在へと昇り、軍勢に沈黙を命じたまま……だが、近い未来、彼は必ず戻る。




森の最深部、何重にも重ねられた幻影と結界を越えた先に、悪魔の要塞都市が聳えていた。


その黒曜石の塔のバルコニーに立っていたのは、十人の魔王直属の隊長の一人――シャエル。


漆黒の髪が闇の風に舞い、蒼白な肌に血のように赤い瞳が怪しく輝く。

しなやかで女性的な体つき――豊かな胸、引き締まった腰、曲線美を描く腰回り。

だが、その一挙手一投足からは、猛獣のような圧倒的な力が滲み出ていた。


身に纏うのは肩を露出させた深紫の装甲。武器など不要だった。

彼女自身が一振りの死神の刃のような存在だからだ。


「……また動き出したか、人間ども。」

シャエルは、森の奥で揺らめく異様な気配を見据え、低く呟いた。

「まあいい。私たちは待つのみ。あの御方が目覚める時まで。」


そこへ、赤い角を持つ部下の一人が現れ、跪いた。


「隊長シャエル。報告です。人間たちが同盟を結ぼうと動き始めています。

彼ら、どうやら戦を仕掛けるつもりかと。」


「好きにさせておけ。」シャエルは血のように赤い唇を歪めた。

「それは私たちには関係のないことだ。」




一方その頃、学院の訓練場ではトゥロが銀等級七段の魔術師と模擬戦を行っていた。


「手加減するな、トゥロ!」

相手は足元に魔法陣を展開しながら叫ぶ。

「さもなくば、叩き潰すぞ!」


「やってみろよ。」トゥロは薄く笑い、体に魔力を巡らせると、一気に踏み込んだ。


強敵とぶつかるたび、内なる力が呼応する。

この日も、戦いの最中に、彼は初めて――夢ではなく、現実の意識の中で声を聞いた。


『動きは悪くない。だが、まだ“殺し”を知らぬ。』


トゥロの背筋に寒気が走る。

冷たいのに、なぜか懐かしい声だった。


「……お前、起きたのか?」

トゥロは心の中で問いかけながら攻撃を避けた。


『私は常にいる。お前が気づかなかっただけだ。

夢の中だけで囁くつもりはない――今は、お前を鍛える時だ。』


その声が響いた瞬間、トゥロの動きが変わった。

魔力の流れは滑らかに、拳は鋭く、障壁は重厚さを増す。


彼はまだ、この力の正体を知らない。

だが――これが始まりに過ぎないことだけは、直感で理解していた。

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「ネトコン13」
― 新着の感想 ―
Estoy ansioso por ver el poder oculto de turo
Really interesting
Wow
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