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第14話 激しい戦い

銀等級第9位との戦いに挑むトゥロ。

治癒魔法しか使えないはずの彼が見せたのは、誰もが予想しなかった圧倒的な力。

仲間たちの声援が届かない空間で、彼の内に眠る存在が再び目を覚ます――

少年は今、英雄としての第一歩を踏み出す。

学院長が再び舞台に現れ、次の対戦を告げた。


「次の試合は――リナ 対 ゼイン。」


二人がアリーナに足を踏み入れた瞬間、魔力の光が彼らの身体を包み込み、別の空間へと転送された。


リナとゼインが姿を現したのは「ポケットディメンション」。観客席の生徒たちは息を呑んだ。そこは岩場と森林、そして深い裂け目が点在する広大な台地だった。


ゼインは岩の頂上に立ち、獰猛な笑みを浮かべていた。彼の槍は雷を帯び、耳をつんざく音を放っていた。


「風の小娘が俺に勝てると思ってるのか?俺の《雷槍》は、一瞬の隙すら許さない。」


リナは黙って手を上げた。風の魔力で編まれた魔法の弓がその手に現れる。彼女の顔には決意と、わずかな緊張が浮かんでいた。


「――戦闘、開始!」


先に動いたのはゼインだった。彼の身体が光を帯び、その瞬間、槍から雷撃が放たれ、彼の姿が掻き消えた。雷鳴と閃光だけが軌跡を示している。超高速で移動していた。


「雷術――《天裂き》!」


雷がリナ目掛けて放たれた。ほんの一瞬で彼女のそばに着弾し、強力な電撃を浴びせるはずだった――


だがその瞬間、圧縮された空気が音もなく軌道を変えた。


雷撃はリナの横を掠め、弧を描いてゼインの足元へ飛び、雷の爆発を引き起こした。その爆風は、彼自身にもダメージを与えた。


「くっ……ぐっ!」


「……何をした……?」


「反射させたのよ。」リナは答えた。「雷の角度と軌道を読み、圧縮した空気で逸らすの。風の魔法は、そういう制御に最適。空気の流れを作って電気抵抗が一番小さい道を示せば、雷はその道を選ぶ。」


「ならば――もう一度だ!今度はお前が制御できないほどの力でな!」


ゼインは連続して遠距離攻撃を放った。雷が空気を裂きながら次々にリナに向かって飛んでくる。しかし、いずれも見えない風の流れに逸らされ、反射してゼイン自身に襲いかかった。


一撃は肩に、もう一撃は膝に当たり、彼の動きを鈍らせた。


リナはゼインを見据え、静かに口を開いた。


「自然の法則に従う槍……私はただ、その流れを少し変えているだけ。」


「黙れっ!」


ゼインは怒りに満ちて槍を地面に叩きつけた。閃光がアリーナを揺るがし、彼の身体を雷の魔力が包み込んだ。空は暗く染まり、強大なエネルギーが周囲へ放たれた。


「雷術――《絶対雷撃》!!」


天から巨大な雷の柱が、リナの立つ場所へと落ちた。空気は震え、雷鳴が響き渡る。その瞬間、ゼインは雷をリナに向けて放ち、轟音とともに大地が抉れ、彼女のいた場所に深いクレーターが残った。


――沈黙。


煙と砂塵が空中に漂っていた。


ゼインはクレーターの中央に立ち、荒い息をつきながら勝利を確信していた。


「終わったな……」


だが――


「上を見て。」


空からリナの声が響いた。


ゼインが顔を上げると、リナが空中に浮かんでいた。髪は風に揺れ、身体は風の流れに包まれていた。


「手の届かない敵を前にした気分はどう?」


「くそっ……!」ゼインは槍を構えたが――遅かった。


リナは身体強化と風魔法を組み合わせ、超音速で急降下した。その瞬間、音速を突破し、姿が霞んだ。


「《風波の一撃》!」


風に編まれた見えない衝撃波がゼインの身体を貫いた。彼の神経系は麻痺し、動けなくなった。


膝をつき、苦しげに呼吸しながら、睨みつける。


「殺してやる……!」


しかし、その瞬間――彼は気づいた。


呼吸ができない。


「なっ……かっ……!」


リナは静かに着地し、近づきながら言った。


「そう。あなたから空気を奪ったの。」


彼は喉を掴み、必死に息を吸おうとした。


「高密度の魔力でバリアを張り、頭部周囲の空気を追い出したの。いわば真空状態。そこでは呼吸できない。」


ゼインの目が震え、力が抜けていき――そして、意識を失い地面に崩れ落ちた。


魔力障壁が反応し、試合終了の音が鳴った。


リナは荒い息をつきながら立ち上がった。額には汗が流れていたが、その瞳には一切の迷いがなかった。


光が彼女を包み、彼女は元のアリーナへと戻った。


最初は――静寂。


そして――嵐のような拍手。


「な、なんだったんだ今のは……!?すごすぎる……!」とトゥロが叫んだ。


ノランは黙って観戦していたが、やがて静かに言った。


「ただの風魔法の地味っ子じゃないな……彼女は本物の“風使い”だな。怒らせないように気をつけないとな、あははは。」


リナは、まだ魔力の消耗により息を整えながら、空を見上げていた。


そして観客席へと戻っていく。休憩を勧められたが、リナは「少し疲れただけ、大丈夫」と笑みを浮かべて答えた。


学院長は立ち上がり、はっきりとした声で告げた。


「次の試合、トゥロ 対 リン。リンは銀等級第9位で、もうすぐ第8位へと昇格する者だ」


次の瞬間、二人の身体は転送の光に包まれ、観戦席からその姿は消えた。彼らが移動したのは、まるで大陸のように広大な空間――特別な戦闘用に作られた“ポケット次元”だった。


トゥロとリンは、百メートルの距離を隔てて向かい合っていた。静寂が場を包む。まさに嵐の前の静けさだった。


「治癒魔法しか使えないお前が、戦闘魔導士の俺に勝てるとでも思っているのか?」

リンは嘲笑を浮かべながら言った。


トゥロは静かに返す。

「逆に聞くが――もうすぐ第8位になろうとしてるお前と“互角の勝負”だと思われた気分はどうだ?」


その言葉に、リンの目が怒りで光る。


「調子に乗るなよ。俺と同じ舞台に立てたからって、容赦はしねぇ。叩き潰してやる」


「さあ、始めようか」

トゥロが落ち着いた声で応じた。


学院長の合図とともに、戦闘が開始された。


開始と同時に、リンは強力な魔力を空間中に放ち、数百もの魔力弾を一斉に放った。攻撃はあまりにも密度が高く、空気が振動するほどだった。しかしトゥロは動じず、自身の周囲に魔力を濃縮させたバリアを形成。極限まで圧縮された魔力が衝撃を受け止め、攻撃を無力化した。


「ほう……治癒師にしてはやるじゃねぇか」

リンが目を細めて言った。


トゥロは何も言わず、掌に純粋なエネルギーの球を作り出し、それをリンに向かって発射した。無属性のまま放たれたその弾は凄まじい速度で飛び、リンは回避したが、直後に爆発。数百メートルの範囲が爆風により吹き飛ばされた。


リンは爆風に巻き込まれ空中に投げ出された。そこに現れたトゥロの一撃――寸前で防御に成功したが、次の瞬間には驚愕の表情を見せた。


「お前……飛んでるのか!?」


「魔力を操れるなら、自分の体を包んで浮かせることもできる。それだけの話だ」

トゥロが淡々と説明する。


そのまま空中で体を回転させたトゥロは、リンに強烈な回し蹴りを叩き込んだ。リンは地面に激突し、大きな音を立てて倒れ込んだ。


立ち上がったリンは低く言った。

「やるな……だが、今から本気で行くぞ」


トゥロの心に、不意に不安のようなものが広がる。リンは魔力を爆発的に高め、次の瞬間には稲妻のような速度で動き出していた。


トゥロはなんとか防御を試みたが、リンの連撃に全く追いつけなかった。防御壁を展開するも、それすらもリンの力で破壊され、一方的に殴られ続ける。


「これが第8位目前の実力だ……見せてやる」

リンは冷たい声で囁き、トゥロを掴んで空中へと投げ飛ばす。


トゥロが姿勢を立て直す暇もなく、空中で数千発の攻撃が雨のように降り注ぎ、彼の身体を打ち据えた。血を吐きながら、トゥロは落下していく。


観客席では、リナが叫んだ。


「トゥロ、諦めないで!」


「お前ならできる!」

ノランが続ける。


「頑張れよ、兄弟!」

カインも声を張り上げた。


周囲の観客は彼らを不思議そうに見ていた。ポケット次元にいるトゥロには、声が届くはずがないのだ。


(……叫んでも無駄だ)

学院長はそう思いながら彼らを見ていた。


ボロボロになった身体で、トゥロは落下しながら意識をかろうじて保っていた。思考は曖昧で、頭が割れそうに痛む。


(うるさい……頭が割れそうだ……)


そのとき――


「おやおや、驚いたな。お前、希望の声が聞こえるようになったのか」

心の中で聞こえたのは、内なる存在の声だった。


「……声?」


「今、お前が聞いたあの声たち。あれはこの次元の外にある。しかし、“英雄の力”を受け入れた者は、どこにいようとそれを感じ取ることができる」


「……でも、勝てない。アイツは強すぎる……」


「いや、お前は思っている以上に成長している。だから今回は、少しだけ――私の力を貸してやろう」


「……え?」


「0.001%だけだがな」


「……ありがとう」


内なる存在から微かな力がトゥロに流れ込む。その身体は金色の淡いオーラに包まれ、再び地面に足を着いた。


リンは笑いながら言った。


「もう終わりだな。これで仕留める」


(そうだな……終わらせよう。まだこの力を抑えていられるうちに)


トゥロの姿が一瞬で消える。次の瞬間、雷を超える速さ――光の半分に迫る速度で、トゥロの蹴りがリンの胸を目がけて飛ぶ。


しかし、間に割って入ったのは学院長だった。だが、トゥロは内なる存在の力と“勝ちたい”という本能に突き動かされており、止まらなかった。


その一撃は、リンと学院長の二人をまとめて数十キロ先まで吹き飛ばした。


――戦いは終わった。


学院長はトゥロとリンを会場へと戻し、すぐに治療班に引き渡した。


「学院長、ご自分も検査を受けた方が……」

と、医師が声をかける。


「私は金等級第3位だ。今の攻撃なんぞ、蚊に刺されたようなものだよ」

学院長は軽く笑った。


観客席がどよめいた。誰もが驚愕していた。


試合後、昇級審査委員会が集まり、結果を発表した。


「トゥロの戦闘能力、特に最後の技は、銀等級第8位に相応しい」


そして、ノラン、カイン、メイラ、リナの四人は銀等級第9位へ昇格。

トゥロはただ一人、その上へと進んだのだった。


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「ネトコン13」
― 新着の感想 ―
nice novel
Mi combate favorito en definitiva fue Lina pero el senkai de turo fue una sorpresa total
Great work
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