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第10話 疑念の影

挿絵(By みてみん)

トゥロが「特別観察対象」として告げられてから、彼の学園生活は変わった……とはいえ、予想していたほどではなかった。


鎖に繋がれることもなく、監視者がつくわけでもなく、隔離されることもなかった。今まで通り、授業に出席し、訓練を受け、先生の課題をこなしていた。ただ──背後に誰かの視線を常に感じるのだった。何人かの教師は、彼を見る目が明らかに冷たくなっていた。


トゥロはその視線に対して、警戒とわずかな憤りを覚えずにはいられなかった。


ある日、彼が廊下を歩きながら、自分の中に眠る力の正体と、これから待ち受ける未来について思いを巡らせていると──


「おい、トゥロ! 今日は魔法訓練があるから、忘れるなよ!」


ノランが木剣を振りながら声をかけてきた。


「その後は体力訓練……走るの、ほんと嫌なんだよなぁ」とカインが顔をしかめた。


「でも、夕食はシチューだって! 楽しみ〜♪」とメイラが嬉しそうに笑った。


「なあ、リナ、お前まだ怒ってるのか?」とノランがからかうように言う。


「怒ってないわよ! ただ、みんなが無茶しないか心配なだけよ」

そう言いながら、リナは矢の束を整え、弓の弦を丁寧に調整していた。


トゥロはそんな仲間たちを見つめ、心の奥で微笑んだ。彼らは以前と同じように接してくれる。その温かさが嬉しかった。


だが、その裏で確かに感じる。

――もう、すべては変わってしまったのだと。

彼は「特別な存在」として、周囲から一線を引かれていた。


魔法の授業では、依然として初歩的な呪文すらうまく扱えなかった。力は確かに芽生えた──だが、思うように使えない。それどころか、教授たちの指導にもまともに応えられず、悔しさばかりが募っていった。


そんな中、教師の一人、リアンナ先生が語った。


「魔法とは……呼吸のようなものです。無理やり動かすものではなく、感じて、導いて、自分の意思で流れを決めるもの。」


けれど、トゥロには理解できなかった。

胸の奥で脈打つ光は、自分のものであるはずなのに、どこか異質で、遠い存在のように感じられた。


――あの夜のことを、思い出す。


寮のベッドで眠れぬまま横たわりながら、彼はふと考える。


……もし、あのとき力が目覚めていなかったら?


あのときの熊の咆哮、輝く目、迫る足音──


あのままでは、俺たちは……死んでいた。

リナも、メイラも……みんな。


胸が苦しく締め付けられる。


あの任務、誰が俺たちを送り出した?


頭に浮かぶのは、任務前の学園長の言葉。


「これは重要な経験になる。」


……経験?


トゥロは拳でシーツを握り締めた。


俺たちは、まだ子供だ。剣と鎧を持っていても、魔法のことなど、何も知らなかった。

それなのに、相手は魔物だった……!


その日を境に、トゥロの中に疑念が芽生えた。

表面では変わらず振る舞いながらも、心の奥底では、学園長への信頼が揺らいでいった。


この力の正体を知るため、彼は答えを求め始めた。

図書館で本を読み漁り、質問を重ね、ついには学園に在籍する古代の種族──エルフたちにまで話を聞いた。


「魔力の覚醒、か……」


あるエルフの青年が頷きながら呟く。


「それは非常に珍しい現象だ。我々のような一般のエルフには、詳しいことは分からない。」


「じゃあ、誰が知ってるの?」とトゥロが尋ねると、


「高位の賢者たちだけだ。彼らは我々の王国の深い森に住んでいて、めったに外に姿を現さない。彼らの知識は、王族と長老だけに許されている。外部への情報漏洩を防ぐためだ。」


……つまり、知りたいことはエルフの国にあるってことか。

でも、俺みたいな人間が、簡単にそこへ行けるはずがない……


悔しさが胸を刺す。


それでも、トゥロは諦めなかった。

授業に出て、訓練し、力尽きそうになっても、前に進み続けた。


ときおり、その力は夢の中で現れた。悪夢にうなされる夜、あの光がふわりと灯り、彼の眠りを守るかのように作用していた。まるで、意思を持つかのように──。


ある日、寮の階段に座るトゥロに、リナが声をかけた。


「トゥロ……最近、ちょっと変わったよね。」


「え? どういう意味?」


「前はさ、何でも楽しんでたじゃない? 毎日が冒険みたいで、いつも笑ってた。

でも今は……なんか、ずっと何かを探してるみたいに見える。」


「……そうかもね」と、トゥロは静かに答えた。


リナは何も言わず、そっと彼の手を握った。


彼女の目が、心からの想いを語っていた。

トゥロはその優しさに戸惑い、そして少しだけ顔を赤らめた。


その夜、トゥロはまた眠れなかった。


この力は一体何なんだ……?

なぜ、俺を選んだ?

偶然か、それとも……必然だったのか?


彼は静かに目を閉じ、深く息を吸い込んだ。

胸の奥の光が、ふたたび小さく、しかし確かに脈打った。


そして──ようやく眠りについた。


◇ ◇ ◇


隣国では、ここ数年、不穏な噂が囁かれていた。

密かに恐ろしい実験が行われているという。

国王は魔法生物を狙って積極的に狩りを始め、多くのハンターが優先任務としてそれらを捕獲していた。


その目的は、未だに明かされていない。

だが、神々は興味深く見守っていた。トゥロの世界、そして他の生命ある世界の動きを──。


◇ ◇ ◇


無数に存在する宇宙の中で、すべての世界に生命があるわけではない。

生命が誕生する条件が偶然揃った世界は稀であり、多くの宇宙は死の世界だ。

だが、それでもなお──死の宇宙にもエネルギーは満ちている。


◆◇◆――――◆◇◆

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「ネトコン13」
― 新着の感想 ―
I really liked this one
great chapter
Perfect
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