第1話 「始まりの朝と運命の扉」
エピローグ
神々は、退屈を紛らわせるために無数の世界を創造した。
その中で、いくつかの世界が彼らの興味を引き、神々はより深く注視するようになった。
彼らはその世界に信仰を与え、さらなる変化を求めて魔法の力を授けた。
歴史が進む中、神々はただ静かに見守っていた……
だが、彼らは気づかなかった。
自らが創り出した世界の一つが──静かに、しかし確かに──彼らを見返し始めていたことに。
朝の光が、木製の窓から差し込んでいた。
トゥロは布団の中でゴロゴロと寝返りを打ちながら、やっとの思いで体を起こした。
「……ふぁあ……もう朝か……」
昨日も遅くまで本を読んでいたせいで、体が重い。
彼は大きなあくびをしながら、顔を洗い、木剣を手にして庭へ出た。
父親のアランは、既に鍛錬の構えを取って待っていた。
広い背中に、年季の入った剣士の風格が漂っている。
「さあ、始めるぞ、トゥロ!」
「はいはい……」
気乗りしない返事をしながら、トゥロは木剣を振るった。
だがその動きには、真剣さが足りなかった。
しばらく打ち合った後、アランが木剣を下ろして言った。
「これじゃだめだ、トゥロ。もっと本気でやらないと。」
「え、でも……俺、頑張ってるよ、父さん。」
少年はふてくされたように言い返した。
しかしアランの目は厳しかった。
「トゥロ、お前は自分のために鍛えているんじゃない。
家族を守るために強くなるんだ。
脅威はいつ、どこから来るかわからない。
お前が今のままだったら……
もし、俺がいないときに母さんを守ることになったら、どうする?」
アランはそう言い残すと、木剣を壁に掛け、顔を洗いに家へ戻った。
トゥロはその言葉を軽く受け流し、深くは考えなかった。
朝食の時間になり、家族で食卓を囲んだ。
トゥロは食事をしながら、一冊の魔法書に目を落としていた。
彼は剣よりも魔法に興味を持っていたのだ。
母親のリアナが、ふと声をかける。
「トゥロ、今日は少し出かけるよ。
隣村のマーサおばさんのところに顔を出すって約束してたから、一緒に行こう。」
「え〜……めんどくさいなぁ。」
少年は渋々ながらも了承した。
昼頃、二人は馬車に乗って隣村へ向かった。
道は平和そのものだった。
青空の下、鳥のさえずりが心地よく響き、森の木々が風に揺れていた。
だが、その平穏は長くは続かなかった。
森の陰から、何体ものゴブリンが飛び出してきたのだ。
「きゃっ!」
リアナが叫び声を上げ、馬が驚いて立ち止まる。
トゥロは慌てて木剣を握りしめたが、手が震えていた。
彼は懸命に剣を振り回し、大声を上げてゴブリンたちを威嚇した。
だが、幼い力ではゴブリンたちを追い払うことなどできるはずもなかった。
(だめだ……俺には……何もできない……!)
ゴブリンたちは迫り、母を掴もうとする。
そのとき──
「やあっ!」
鋭い声とともに、一筋の矢がゴブリンの胸を貫いた。
続けざまに、二本、三本と矢が飛び、ゴブリンたちは次々と倒れていく。
助けてくれたのは、トゥロと同じくらいの年齢の少女だった。
真剣な表情で弓を構えるその姿は、トゥロには眩しく映った。
──情けない。
自分は、大切な人を守れなかった。
あの小さな女の子に頼るしかなかった。
頭の中で、父の言葉が響いた。
『お前は自分のために鍛えているんじゃない。
家族を守るために強くなるんだ。』
トゥロは唇を噛み締め、悔しさに胸を焦がした。
家に帰ったトゥロは、食事もそこそこに父の元へ駆け寄った。
「父さん! お願いだ、今すぐ訓練してくれ!」
アランは驚いた顔をした。
「どうした、いきなり……リアナ、何かあったのか?」
母リアナが事情を話すと、アランは静かにうなずき、心の中で思った。
(困難に出会い、逃げるのではなく、立ち向かう決意をしたか……
……よくやった、俺の息子。)
◆◇◆――――◆◇◆
面白いと思ったら、ぜひ評価★やブックマーク登録をお願いします!
あなたの応援が作品を支える力になります。
◆◇◆――――◆◇◆