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体力測定3

 残る種目は己の力だけでどうにかしなければならないものばかりだ。握力、長座体前屈、立ち幅跳びそしてどれも自覚する程抜き出た才能は無い。


 握力を測る機会を手に持ち思っきり握る。イメージは出来ているこれは握力だけではない。肩から指の先までの力だ。『これが日本二千年の歴史……!』などの掛け声を心の中で叫びながら握るも結果としては両手とも二十も行かない結果となった。


 握力に関しては一向に良くならない。運動はしているはずなのにだ。


「全力で握ってみてよー」


 結果に気を落とす中、陽菜が横からやってくる。明らかな嘲笑の笑み。出された手を握る。手の大きさもあまり変わりはない。自分と同じレベルだろうと思い先に忠告をしておく。


「大丈夫大丈夫~さよっちだもん」


 思い知らせようと全力で握るが陽菜の表情は全く変わっていない。いつも通りキョトンとしている。躍起になり両手で思っきり握る。だがやはり表情は変わらない。


「……痛みを感じないのですね?」


「私ってそんな化け物設定あるの……?」


 そんな事を話していると段々手に痛みが走る。いつの間にか攻守交代していたようで今度は向こうのターンの様だ。にっこりと笑ったまま自分の手が潰れていく。握られる手からゆっくりと崩れ落ちていき膝が地面に付いたところで解放される。それでも痛みが残り続け涙が出そうにもなるがここはプライドで押さえる。


「ごめんやり過ぎちゃったね……?」


 優しく手を伸ばし紗夜を立たせる。一見するとこれが友情のように思えるがこれはもっと深い。自らで傷をつけ自らで助ける。そう、高瀬 陽菜は新しい扉を開こうとしているのだ。


 MからSへの変異それは紛れもなく害である。受けるためのちょっかいが与えるためのちょっかいともなれば紗夜の身も持たないだろう。しかしその表情は彼女の嗜虐心を大いに高ぶらせる。


「さらに痛くするなら握ってる時に手をぐりぐりすると良いよ」


 そこに拍車をかけるのは椿稀の助言。さらに痛くすればどんな表情を見せてくれるのか、そんな好奇心に駆られるが理性はある。友達を痛がらせて良いのだろうかと言う葛藤は心の中に存在する。だがしかし今もこうして立ち上がった紗夜の手を離さないのは結論が出ているという事。


「あの、放してください?」


「……やっちゃいなよ」


 全てを見透かす椿稀はこの展開を簡単に終わらせる気は無い。ここまでくれば紗夜の声は届かない。少し焦り始めている紗夜の表情をもう少しだけ歪ませてみたい。そんな好奇心が脳を埋め尽くし始める。


「椿稀? 変な事を言わないで――」


 少し怒ったような表情が一瞬にして苦痛に苦しむ表情へと変化する。ゆっくりとまた崩れ落ちていく。しかし先程と違い大きく喚かない。苦痛に耐えようとしているその姿を壊してやりたい。一滴ほどの感情は一瞬にして全体に広がっていく。


「――ッツ! 痛いから……っ!!」


 しかし抵抗が出来ない。体勢が悪いのとシンプルに痛すぎるからだ。これ以上は腕が壊れてしまうのではないかと思う所で体育館に勢いよく叩く音が響く。


「――はっ! 私は何を!?」


「少しやり過ぎだよ」


 あっという間にSっ気は消え去りいつもの陽菜に戻る。椿稀に叩かれたおしりを涙目で擦りながら変な目でこちらを眺める。


「何してんの?」


 痛いなどの感情が怖いという感情に負け陽菜という存在に恐怖を覚える。彼女は何も覚えていない。二人の引いた冷たい目線を受けおろおろとし始める陽菜だがなぜか薄い笑みが見える。


「許しませんから」


「最低だよ。考えなよ陽菜」


 陽菜に向けていた冷たい視線をそのまま椿稀の方へスライドさせ同じく見つめる。この視線の原因を理解している椿稀は苦笑いを浮かべ話を逸らす。そんな二人を置いていき次の場所へと向かう。


「私何したん?」


「本気なら重症だよ」


 流石に大人しくなった二人に長座体前屈を測ってもらう。先程までのうるささは完全に消え失せている。気まずい雰囲気の中、陽菜が座る。精一杯伸ばしたが記録は大して良くない。


「陽菜ならもっとできるよ」


「っへ……?」


 静かな口調に陽菜は嫌な予感を覚える。静かに近づく私を目で追い、段々と表情が濁っていく。背中に触れられた時点で察し、命乞いを始める。


 先程の痛みを思い出し、陽菜が止めなかった事を振り返る。揺れる瞳に笑顔を返し思いっきり押す。


 魂のシャウトが体育館に響き先程の二倍は身体が曲がっている。まだ行けると陽菜を鼓舞し絶叫でそれに答える。


「良いよ陽菜! 新記録だよ!」


 予想通り椿稀はこれに乗り計測を始める。途切れ途切れの断末魔が何かの言葉にも聞こえるがよく聞こえないので無視をする。そのまま身体は倒れていきいつの間にか地面に身体が付いてしまった。


「足が曲がってるから記録は出来ないね」


 とっさに足を曲げぺったんこになるのを防ぎ、何とか命を繋ぎ止めた。ぐったりとその場に倒れ続け、ゆっくりと起き上がると自信満々に二回目の計測を行う。


「うん。一回目より一センチ伸びたね」


 結果はあまり良くなかった。


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