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安心させるため

 自分の臭いが体から漏れ出ないように縮こまりながら午後の授業を受け、ホームルームが終わると同時に逃げる様に教室を飛びだす。


 しかし廊下は走ってはいけないため競歩で駆け抜ける。学校の正門抜けたところで全力疾走しようと思ったが汗が出てはだめだと思い結局早歩きで帰ることにした。


 この周りの視線は臭いから来るものだったのかもしれないと考えると恥ずかしさが増幅しうつ向きながら早足へとなる。


「メイドーー!!!」


「おかえりなさいませ。おはやかった――」


 深々と頭を下げるメイドに駆け寄るり、上げようとした頭を押さえ込む。そしてあの二人がやってくれたようにメイドの首筋へ顔を寄せる。


 大きく息を吸いメイドの匂いを嗅ぐ。いつものメイドの好きな匂いが鼻を通り抜ける。


「あっ、あの……っ」


 いくら嗅いでも臭いなど出てこない。やはり自分の臭いが不味いのかと不安になる。ゆっくりと首筋から顔を離し、顔を赤らめるメイドと目が合う。


「いったいどうなさったんですか?」


「私って、その……臭う?」


 気恥ずかしそうに出た言葉はメイドの予想もしなかった言葉であった。臭うはずがない。そしてそんな悩みを抱える主人を放っておく訳にも行かない。これからはメイドの仕事の領域内となる。


「何を誰に言われたのか分かりませんがそんなことは決してありません」


 真剣な眼差しを受けこれが本心だと感じ取る。だがしかし友達と隅っこの男子に言われた事も消えるわけではない。


「でも、いつも一緒にいる友達に臭うって言われたの」


「そんな事はありません。おふざけの程度ですお嬢様は良い匂いです。私が保証します」


 その言葉を受けゆっくりとベッド座り込む。リボンを緩め学校で臭いが漏れないようにと閉め切ったシャツのボタンを二つ外しブレザーから肩を出す。


 露わとなる白く透き通った肌。いつも着替えの時に見ているはずだと言うのにいつになく邪な考えが脳を突き通る。


「か、嗅いでみて……」


 顔が赤く火照り上がり言葉が躓く。いつの間にか嗅がれていた時よりも、自覚があったとしても学校という公共の場で嗅がれる時よりも、こうして二人しかいない自室で自ら服を緩め自ら指示を出し嗅がせるこの状況の方が比べる間もなく緊張し恥ずかしい。


 メイドと目を合わせることが出来ない。一体メイドはどんな表情を浮かべているのか気になるが確かめる事が出来ない。


 その行動はメイドにとっても吉であった。メイドのもまだ先程の感覚が残っている。温かい息が服の中まで広がって行く感覚が今でも脳に情報として送られ続けられている。その余韻によりメイドもまた同じく耳まで赤く、熱が脳をぼやけさせ続けている。


 このはだけた首筋にメイドは顔をうずめなければならない。実際に匂いを嗅ぎ再度『臭わない』という事を伝えお嬢様を安心させる義務がある。だがメイドが躊躇う時間では両者とも熱を冷ますには短すぎる。


 ゆっくりと一歩近づく。その小さな音にも反応し肩をビクッと震わせる。その行動を見逃すわけもなく躊躇してしまうが嗅ぐと言う命令に従わなければならない。一歩、また一歩と近づく。毎回震える肩は毎度すぼまる。だが嗅がせるために開いた首筋、ゆっくりとまた奇麗な首筋をはっきりと見せる。


「失礼します……」


 いきなり顔をうずめてはダメと判断し一度鎖骨に触れる。しかしこの判断はお嬢様の弱点を大きく突っつき思わず甘い声が漏れ出る。


 無論声が漏れ出ている事などお嬢様は分かっていない。その甘い声は無自覚にメイドの脳を溶かした。今、この部屋を支配するのは深く荒い呼吸音と響く心臓の音。理性がこの空間に入る隙は無い。


 その荒い呼吸を肌で感じる程まで近づく。ゆっくりと圧が強くなっていき肌と肌が触れる感覚へと変わる。それと同時にメイドの体重がもたれかかり力を入れ支える。


 その行為はあの二人と同じものである。だが敏感さは比ではない。その一呼吸による息の熱が身体中に伝わるように感じる。それは全身の力を抜き、支える力も例外ではない。


 ゆっくりとそれはゆっくりと身体がその体重に押し倒されていく。息の熱も身体の熱も上がっていく。抵抗も、自制する事もなく二人はゆっくりと完全にベッドに横たわる。荒い息は深い息と変わり目を逸らすだけでは足らずに手で目を隠す。


 鼓動の秒針はすでに三分を上回っているだろう。それでも冷める事はない。この終わる気配の無い鼓動と呼吸音に支配された空間を壊したのははるか遠くから微かに聞こえた何かが落ちるような雑音だった。


「し、失礼しました……!」


 思わずその体を引き起こしベッドから身を引く。未だ手で目を隠しながらベッドに横たわり続けるお嬢様のお姿が――


「――どうだった……?」


「私の好きな良い匂いでした」


 ここまでしたことにより完全に安心しきったお嬢様はその体制のまま一向に動こうとせずいつの間にか眠っていた。


「――そう言えば、どのような臭いがされると言われたのですか?」


「えっと、確か……エロい匂い? 迷惑している人もいるらしいの」


「……それならば匂う気がします」


「えぇっ!?」


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