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仲直りのハグ

「ごめんね~~許してよ~~」


 あれから一言も会話をせずに学校まで来てしまった。その間もずっと謝っているがそこに信憑性は無い。


 止まらずに学校へ急ぐ私を引き留めようと手を握るまでは良いのだが時々胸まで手を回してくる。これは明らかな確信犯である。その結果がこれだ。


 反応の無いものは興奮を与えない。そのためか段々と躍起になっていく。こうすれば怒られると試行錯誤するもの全てが逆効果とは思ってもいない。


 それは教室の中でも続きホームルームが始まるまでずっと後ろから抱きしめられていた。チャイムが鳴り始めるとその拘束は解かれ安寧が訪れる。


 だが、ホームルームが終わり次の授業準備をしようと立ち上がろうとするとまた後ろから手が伸びてくる。


「もう、信じま――」


「ボクが何をしたっていうの?」


 そっと耳元でささやくその声は神経を逆なで全身に鳥肌が立つような感覚に襲われる。決してキモいとかではない。ただ慣れていない事による反応だ。


 立ち上がろうとしていた脚の力が抜けストンと椅子に戻る。下がった体勢に合わせ綺麗な顔がこちらを覗く。


 擦り合った頬の肌が熱を帯びる。そこでまた思考を刈り取られフリーズが長引く。これも現代では陽菜と同じ立派なセクハラの分類に入りこの行為に対する反応は同じでなければならない。しかしこれに対して同じ様に勢いよく跳ね除けようなどの思考に至らない。


 少し時間が経ち頭の中がこの状況を整理しきったところでようやくその手をどける。反射でどうにもならないところが一向に受け続ける原因だろう。


「今し始めました!」


「ごめん、ごめん。また陽菜が何かしたの? いつもの事じゃん?」


 声は透き通るように綺麗だが声のトーンも相まって女性にしてはやや低めだ。一人称とスカートが混じり出会った頃、今もだがどこか他とは違うように思えて仕方がない。この違和感は彼女だけに対しての違和感であり。これの正体には一向に気づけない。


 そんな彼女の名前は雨宮あめみや 椿稀つばき


 一度陽菜にも一人称を変えてもらった事があるがその違和感とも違う。


「どうしたの?」


「みんな変態です」


 腑に落ちない表情を浮かべながら少し顔を傾け下から覗くように目線は真っすぐとこちらの目を見つめる。


「でも、嫌とは思ってないでしょ……?」


 一歩近寄り本格的な上目使い。長くサラッとした黒髪が揺れ心をも揺さぶられる。その落ち着いたトーンが耳元でなくても心地の良い感覚を伝える。


「……ひ、人前だと恥ずかしいじゃないですか……」


 否定をしないその言葉が口からこぼれるとくるっと後ろを向き親指を立てて合図を出す。そのサインの先には顔を明るくした陽菜が姿を隠しながら立っていた。


「……もう良いですよ」


 その声を聞くとちょこちょこと駆け寄って目の前で止まり深々と頭を下げる。知っての通りこれでセクハラが無くなるわけではない。


「よかったね。あんまり喧嘩はしちゃだめだよ」


「椿稀〜!!」


 ドスっと音が聞こえてきそうな程の勢いで抱きつく陽菜に多少顔をしかめる。流石に痛かったのだろう。苦し紛れに笑いながら陽菜の背中を優しく数回叩く。


「ほら、ボクじゃなくて抱きつく人は他にいるでしょ?」


 言われるとすぐに手を離しこちらを凝視する。これから何が起こるかを察し一歩下がろうとするとその何倍のスピードで抱きついてくる。予想通りの勢いとダメージを受け怯む。


「もう分かったから! さっき言った通りこれが人前だよ!」


 男女共学であるため女の子同士の熱いハグにも一定層、過半数はこの光景をまじまじと見つめその百合の良さを堪能している。


 群を抜いて可愛らしいお嬢様のうろたえる姿、元気で男女共に愛想が良い女子、ミステリアスな雰囲気のあざといボクっ娘。このグループの百合を見て興奮しない男子は存在しないだろう。


 ちなみにこの光景を性的な目で見られていると認識しているのは椿稀だけである。お嬢様は鈍い。


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