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2 ※本視点


「見てなさい、破滅ルート! 今から手当たり次第極めるわよ!」

 

 拳を握りしめ天高く突き上げた嬢ちゃんを見ながら、俺はなんとか上手く丸めこめたようだと胸を撫で下ろしていた。だってさっき俺が言ったことの大半は嘘だったから。

 嬢ちゃんには悪いが、「どうやって破滅ルートを回避してきたかがわかる」なんてのは嘘なのだ。

 確かに俺は「悪役令嬢が転生する」系の物語だ。ただし序章で放置された、中途半端で書きかけの。

 

 どこかの誰かが思いつきで書いて適当な場所に投稿された俺は、やはり早々に飽きられて途中で放置されてしまった。ただ流行りに乗っただけの、とても拙くてご都合主義の、どこにでもあるようなありふれた中身だった。

 端的にいってしまえばそう、「出来が良くない」物語だ。それでもせめて終わりまで書いてくれればまだ良い、明日こそは続きを書いてくれよ、なんて期待は早々になくした。俺と同じように途中で放って置かれた物語たちの多さを見ていたら、希望なんて持てなくなるに決まってるだろ?

 もちろんそうじゃない物語もたくさんあった。賞賛されるような素晴らしい話、流行りを取り入れた面白い話、長い旅路を経て無事に最後まで辿り着いた話。

 その中で一番輝いて見えたのは、俺の書きかけの話と同じ「悪役令嬢」が主人公の話だった。特にハッピーエンドで終わる物語。だってそいつを書いた人間がどれだけその登場人物を、作り上げた世界を、そして物語を愛しているかがとてもよく伝わってきたから。

 俺だって一度だけでいいから、そんな風に大切に「めでたしめでたし」と書いてもらいたかったんだ。……ハッピーエンドじゃない話だって大切に書かれているって? まあそれはそれ。単純に俺の好みってだけだ。

 ともかく、表舞台で輝く物語を羨んで妬まなかった瞬間はない。誰にも見つからないような世界の端っこでうずくまって、自分の空白のページをただ見つめるだけ、そのうち意識も自我も薄れてただの消えゆく文字列になるだけの存在。それが俺だった。

 

 それがどうしてか気づけば変な場所にいた。いや、違う、よく見れば知っている国の名前に聞いたことのある屋敷、とどめに忘れられるわけもない名前の嬢ちゃんがベッドの上で騒いでいる。

 

 ──どうやら俺は俺の中の物語に転生しちまったらしい。

 

 そんな馬鹿な話があるか、と笑いそうになって、自分が本当に笑えることに気がついた。自由に動いて喋れるみたいだ。そして驚いたことに、俺の空白のページに何かが書き足される感覚があった。

 ちょっと覗いて確認してみれば、目の前の光景が新しい文章となって俺の中に追加されていた。

 これはチャンスだ。

 そう思った。見たところ悪役令嬢「役」の嬢ちゃんはちょっと頼りなさそうだが、なに、今の俺ならアドバイスだってなんだってできる。

 序盤も序盤で放置された俺の中身には大したものは書かれていないが、こういうのは大口を叩いたもの勝ちなのだ。昔隣で賞賛を浴びていた物語の内容は、ちょっとくらいなら覚えている。

 なんてったって相手は悪役令嬢だ、ちょっと行動さえ起こせば勝手に上手くいくに決まっている。

 

 嬢ちゃんを上手く誘導できれば、きっと俺にだって作り出せる。あの賞賛されたような、面白いと持て囃されたような、完全無欠の素晴らしいハッピーエンドな物語を。

 そうすれば中途半端な物語の俺だって、もっとマシになれるような気がしたのだ。

 心の中でそう野心を燃やしながら、俺は嬢ちゃんに声をかけた。

 

 ……これからどんな苦労が待っているかも知らずに。

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