第41話:王都ランドウェードの武器鍛冶屋
王都ランドウェードの南西、数多くの道具屋や武器屋がひしめく、『冒険者通り』と呼ばれる道を歩いていた。
「さっきの人だかりは凄かったな」
俺の横に立つ剣士ルーク、その後ろに続く盾使いマグオートと回復士ランタナに言葉を放り投げる。
小柄ながらも大盾を背負ったマグオートは「……ん」と反応するだけだったが、ルークは腰ベルトに差した剣の柄頭を、ランタナは水晶の付いた杖を、忙しなく撫でていた。
聞けば、昨晩までナーガ討伐の任を受けて、遠方のデ・ソーラ国まで征伐に向かっていたらしい。
先程の大理石で造られた建物は、かの有名な冒険者ギルドで、「繁殖期を迎えたナーガが街道で人を襲っている」という依頼の達成報告をしていた、と説明してくれた。
「転移者の皆さんが戦争に行ってるので、僕たちがやるしかないんです」とルークが言う。
だから沢山の依頼が舞い込むし、注目度も上がってくる、とも言っていた。
それからも若者たちはよく話しかけてきた。
会話が得意ではない俺は頷くばかりだ。
話題は何度も移り変わり、「最近ランタナがおめかしするようになったんです」、「……髪乱れるの気にし過ぎ」と不満の声があがり、「い、今はその話をしないで下さい!」とランタナが声を上げた所で、俺たちは足を止めた。
「……ここか?」
「はい!」
前方には石レンガと漆喰で出来た建物があった。
正面は四角い口になっていて、扉がなく、外から店内を一望できる構造になっていた。
中を覗けば、壁や棚には多様な武器防具が並んでいる。
カウンターの奥は鍛冶場のようで、大岩をくり抜いたような鍛造炉には、白髭を貯えた男が鉄を叩いて火花を散らしていた。
「ドンケルさん!」
ルークが話しかけると、男はその太い腕を止めて、ムッとした顔でこちらを振り向く。
今にも邪魔をするな、と怒鳴りそうな雰囲気だったが、話しかけてきたのが『未来の守り人』だと分かると、ニカっと笑った。
「おお、小僧ども。久し振りじゃねえか。また刃こぼれしたのか?」
「僕たち、もう刃こぼれなんてしませんよ。今日は武器を探しに来たんです」
それから「こちら道具屋のセノンさん」と俺を紹介する。
ドンケルはそこで俺の存在に気付いたらしく、品定めするような視線を寄越してから、「ほう」と唸った。
(いかにも職人らしい男だな。信頼できるが、やりづらい)
俺は構わず「斧はあるか?」と聞く。
すると、ドンケルは返事の代わりに右の壁を指差した。
その先を追ってみれば、ざっと10本ほどの戦斧が壁に貼り付けられている。
俺がノエールの武器として選んだのは、剣でもなければ槍でもない、バトルアックスこと戦斧。
単純にノエールが【斧使い】の上位スキル【斧術】を持っていたこともあるし、その蓄える膨大な魔力を活かすには、破壊力抜群の戦斧がピッタリだと思ったのだ。
あとはお嬢様と重量武器という組み合わせが好みだった。
武器はロマンも大事にしていきたい。
(石、青銅、鉄……これはミスリルか?)
俺は戦斧を手に取り、振ってみたり撫でてみたりする。
自慢できるほど武器に明るくはないが、良質な物が揃っていることは分かった。
しばらく考え込んで、軽い値段交渉や若者たちと会話を交えつつ、最終的に無難な鉄斧を選んだ。
半円型の片刃で持ち手も金属製。
ざっと150cmくらいだろうか、ノエールの背丈とほぼ同じに見える。
全体に魔石が織り交ぜられているようで、その耐久性は通常の鉄武具を優に上回るらしい。
俺は銀貨30枚をドンケルに手渡す。
「まいど……アンタ、武器は何を使うんだ。これはアンタのじゃないだろ」
肩に戦斧を立てかけて礼を言うと、思わぬ返事があった。
俺は感心しながら、黒いナイフを取り出す。
すると、ドンケルの目の色が変わった。
まるで少年のように瞳を輝かせている。
「触ってみてもいいか」と食い気味で聞かれ、若干引きながらも了承する。
「どうかしたんですか?」
「こりゃ……すごい。ドラゴンの逆鱗だ……」
そう呟くや否や、ドンケルは涙を流し始めた。
初老の男が感涙に咽ぶ姿を見て、全員が驚く。
「……ドラゴン?」
「この形、質感、色……伝承にあった『黒闇竜ファフニール』の逆鱗に違いない……ああ、アンタ、どうやって加工したんだ」
鼻水すら流しっぱなしにしてドンケルは語る。
ドラゴンの逆鱗──それを加工し、武器錬成することは武器職人ならば1度は夢見るものらしい。
中でも『エンシェントドラゴン』という種族に属する『黒闇竜ファフニール』は大陸に1匹しか存在しない上に、女神をも凌ぐほど強力である為、入手は勿論、加工はほぼ不可能。
だからこそ、夢は夢のままで終わるのだそうだ。
「──それが『ファフニールの伝承』」
「でも、伝承は伝承では無くなったんですよね」
ルークが言うとドンケルは神妙に頷いた。
これまで語られてきたのは、あくまで伝承。
その出典は、数千年前の名も無き旅人が遺した日記まで遡るらしく、信憑性は長年議論されてきたらしい。
しかし近年、異世界より転移者がやってきたことでヒューマン族の活動領域が急速に拡大。
ついに真実が明らかになったのだ。
『黒闇竜ファフニール』は実在した。
伝承に記されていた、鋼鉄の如く鱗を揃え、息を吐けば生命を死に至らしめる黒竜が、遂に発見された。
その報告が上がって間もなく、転移者による討伐パーティが編成され、その中には【神器錬成】スキルを持った者もいたらしい。
希望を背負って旅立った討伐パーティだったが、あえなくファフニールに返り討ちにされてしまう。
その後、何回か討伐パーティが再編成されるも、やはり凶悪なドラゴンには敵わなかったそうだ。
「──だからこそ教えてくれ。これはどこで手に入れたんだ。そして、『黒闇竜ファフニール』は討伐されたのか」
ドンケルはそう言って、黒いナイフを手渡してくる。
その場にいた全員の視線が俺に注がれた。
公開尋問を受けているような気分になり、短く息を吸った。
俺は手にした黒いナイフを傾けてみる。
漆黒の刀身に、紫色を帯びた光沢が走った。
「いや、俺は何も知らない。たまたま武器商人から買ったんだ。黒鉄がどうとか言っていたな」
「なんだと……?」
ドンケルが情けない声をあげる。
若者たちは同時に顔を見合わせていた。
俺は申し訳ないと思った。
嘘をついてしまって。
黒いナイフはレイヴンが作ってくれたものだったし、ファフニールを討伐したのは多分俺とローズだ。
いつだったかレイブンに「強い武器をくれ」と頼むと『この洞穴に住むドラゴンの鱗と牙が欲しい』と言われた為、わざわざ一時休業してまで倒した黒竜が、まさか伝承になるほどの有名人だったとは。
言われてみれば、まあまあ強かった気がするな、と思い返す。
ただ、硬い鱗は1枚ずつ剥げば何とかなったし、黒竜の吐く毒の息はローズには通用しなかった。
と説明したところで信じてもらえなさそうだったし、質問責めに遭うのも御免だ。
「いや、しかし……」
「ファフニールとやらは転移者ですら倒せなかったんだろ。俺はただの道具屋だ」
「転移者」という言葉を交えて説得すると、ドンケルは腑に落ちない表情ながらも頷いた。
こういう時の転移者は便利だな、と改めて思う。
一段落ついたようなので、改めて踵を返すと「刃こぼれや破損があったら初回無料で直してやる」と声をかけられた。
さぞかし研ぎ直しが好きなのだろう。
道具屋でもそういうアフターサービスを充実させようか、と思いながら、俺はさっさと武器鍛冶屋を出て帰路についた。
俺の後に何か買い物をしていた『未来の守り人』も遅れて後をついてくる。
若者たちは、足並みを揃えるや否や黒いナイフについて追及してきたが、適当に誤魔化しておいた。
「セ、セノン様、今後のご予定などはあるのですか?」
ランタナが聞いてくるので、今日は暇であること、また、明日はソルジャービーを探しに行くことを伝えた。
「旧街道にいるソルジャービー」と口にすると、3人は「おお」という声を洩らす。
「あの! それ一緒に行ってもいいですか?」
「……僕たちも……依頼されてた」
とせがまれたので了承した。
彼らは詳細な居場所を知っているようだったので、こちらとしても好都合だ。
そんな約束を取り付けた所で今日は別れることに。
去り際、ルークが思い出したように「冒険者ギルドの受付嬢さんが会いたがっていましたよ」と言ってきた。
「いつでも道具屋に来てくれ」と伝えると同時に、俺も思い出したことがあったので、若者たちを呼び止めた。
一風変わった質問だったが、彼らは笑うことなく親切丁寧に教えてくれた。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
評価、感想、ご指摘の方、お待ちしております。




