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第40話:はじめての休日

 

 ノエール初出勤から次の日、いつもの道具屋。

 窓からは爽やかな朝日がたっぷりと差し込んでいる。


 その一方でカウンターに集まる4つの顔ぶれは険しい表情をしていた。

 怒っているというより、呆れている、と表現するのが正しい。


「だから俺は休みなんて必要ないと言ってるだろ」

「アンタが良くてもアタシたちが良くないの」

「店主が休まねえと、オレたちも休みづらいってもんだぜ」


 俺はイラックを見て、眉間に皺を寄せる。

 お前は昨日、しっかり休んでたじゃないか、と。


 また、ローゼリアも下瞼に薄暗い隈を作っていたので、休むべきはお前なんじゃないか、と思った。

 

「そうですわ。新人であるわたくしが、店主であるセノンさんを差し置いて休むわけにはいきません」


 続けて、イラックに同調するノエール。

 彼女は"まだ"道具屋にいるつもりらしい。

 「強くなるんじゃなかったのか」と聞くと、魔力がどうのこうの、と答えていたが声が小さすぎて聞き取れなかった。


 何にせよノエールが残ってくれるのは喜ばしいことだ。

 昨日の売上は、過去最高を更新したのだから。

 

 金銭面以外にも、ローゼリアが「目の保養になる」と喜んでいたし、ノエールもまたローゼリアに懐いているようだった。

 女子たちが絡むと完全に蚊帳の外であるイラックも、それはそれで馴染んでいる。


「休むと言ってもやることがないぞ。なら働いたほうがいい」

「それはアタシも同じだったわ。自由が不安になるのも分かるけど、案外良いものよ?」


 それからローゼリアは「無理をしなくていいのよ」と付け加えた後、微笑んだ。

 周りを見ても頷く顔があるだけだった。


「休息状態こそが生物における本来の在り方だ、とも聞いたことがありますわ。より良いサービスを提供する為には適度に休むことも重要ですのよ」

「そうそう! 王都には色々"お楽しみ"があるしな」


 イラックが胸ポケットから小切手のような物を取り出す。

 見てみれば、白い厚紙にピンクの蝶やらリボンやらが描かれており、中央には『麗しき魔女々』と滑らかな字で書かれていた。


(コイツ……いつの間に)


 本人は気付いていないが、その背後にいたローゼリアが鬼の形相で睨みを利かせていた為、俺はすぐに厚紙を払い除けた。


「……とにかく、アタシが休んだんだから、アンタも休みなさい!」


 ローゼリアが暴論を撒き散らかす。


 有無を言わさぬ勢いに俺はため息を吐く。

 ついでに、降参だ、と両手を挙げた。


「仕方がない。だが王都に行くにしても、せめて何か目的が欲しい。買ってくるものとかは無いか?」


 ようやく負けを認めた俺に、顔を綻ばせる3人。

 それから揃いも揃って腕を組み始めるが、中々思い浮かばないようだ。

 

 それもそのはず、ローゼリアとイラックは既に休日を過ごしており、欲しい物ならそこで買ってきているはずだった。

 それに加えて、2人とも筋金入りの仕事人間だった為、これといって趣味が無い、もしくは見つかっていないことが予想される。


 自身を含めてコイツらは駄目だな、と見限る。

 唯一の頼みの綱であるノエールはひどく考え込んでいるようだった。


「ノエール、何かあるのか」

「……無いこともないのですが、その……さすがに図々しすぎますわ」

「遠慮しなくてもいいのよ、ノエールちゃん。コイツは頼みごとと結婚するつもりなんだから。何を言っても喜んで引き受けてくれるはずよ」


 好き勝手言ってくれるな、と顔を歪める。

 俺はそんなにお人好しではないだろう、とイラックの方を見るが、彼は苦笑いを浮かべるばかりだった。


「その……皆様ご存知の通り、わたくしはこの身ひとつで逃亡して参りました。ですので、武器がありませんの」

「分かった。買ってこよう」


 俺は快諾する。

 食い気味の返事だったせいか「本当によろしいのですか」と聞かれるも、昨日の帳簿を思い出すと、やはり頷いた。

 

 昨日はノエールのおかげで銀貨30枚、金貨換算で3枚ほどの上振れがあった。

 武器を1つ買うくらいなら充分のはずだ。


「花の都だからと言って無駄遣いしちゃ駄目よ?」

「思ってるよりも搾り取られるからな、気を付けにゃいかん」

「ああ、大丈夫だ。死んでも無駄遣いはしない」


 俺はそう言って一旦自室に戻る。

 見慣れたベッドを覗き込み、金庫から銀貨30枚を取り出して、財布の紐をキツく結んだ。

 

 ミスリル合金製の金庫はレイヴンに作ってもらったものだ。


 再び下に戻って、魔法の巾着袋を持つと準備が整った。

 どこか名残惜しい気持ちを振りほどき、扉に触れる。


「じゃあ行ってくる。道具屋を頼んだぞ」


 そう言うと3人は力強く頷いてくれた。


☆ ☆ ☆


 王都ランドウェードは相変わらず騒がしい。

 薄暗い地下水道から抜けてきたから尚更、鼓膜に響く。


 昼間から酒を飲む豪傑の笑い声や、よく通る声で客呼びをする女など、多種多様な音が聞こえてきた。

 

 誰も彼もが身体の穴という穴から「充実感」を滲ませているようだ。

 ムスッとした顔で、道具屋に役立ちそうなものは転がってないか、と偵察しているのは俺くらいのものだろう。


 大通りと呼ばれる広い道をしばらく歩いて、そろそろ武器屋を探そうかと周囲をぐるりと見回す。

 

 すると前方で人だかりを発見した。

 大理石で造られた建物の前を囲うようにして集まる人々、その多くが剣や杖などの武器を持っていた。


「『未来の守り人』の帰還、いや、ありゃ凱旋だな。アンタもあの子たちを見に来たんだろ?」


 横にいた男が無遠慮に話しかけてくる。

 俺が見上げなければならないほど背が高く、ガタイが良い。

 彼が喋る度に腹の奥が響くようだった。

 背中には無骨な大剣を担いでいる。


 さながらミノタウロスだな、と内心呟き、前を向いた。

 そうやって無視をしたにも関わらず大男は口を閉じなかった。


「いやあ、アイツらも有名になっちまったなあ。ラクロース村にいた時はこんなに小さかったのに。ほら、アンタもサインを貰うか、せめて挨拶をしてくるといい。もしかしたら覚えてもらえるかもしれないぜ」


 図々しく提案してくる大男。

 ただ、あの若者たちはそれほど有名なのか、と少し驚いた。

 道具屋で見る『未来の守り人』は至って平凡な若者というような雰囲気で、その印象はランドウェードの森で出会った時から変わらない。


(彼らのおかげで他所からもお客さんが来るようになったんだよな)


 そういえば最近は見ていなかった、と遠目から眺めてみると、先程まで抱いていた印象を撤回しなければならない、と思った。


 若者の成長は凄まじい。

 その常識は当然彼らにも当てはまるようで、顔付きが大人っぽくなっていて、背も少し伸びているような気がした。

 また、野次馬を軽くいなす姿からは、以前より隙がなくなっていることが伺える。


 相当強くなっているようだった。


「オレはさ、アイツらと同じ村の出身なんだよ。今でこそ『第2の勇者だ』と持て囃されているが、昔は慕われててな。まあ、大袈裟に言えば師匠みたいなもんだ。アンタも、もし良ければ──」

「──あ! セノンさん!」


 ようやく人の輪を抜け出した若者たち。

 俺の姿に気付いた『未来の守り人』のリーダー、ルークが弾けるような笑顔で駆け寄ってくる。


 他の2人、マグオートとランタナも遅れて到着した。


「どうしてここにいるんですか!」

「……道具屋……サボり?」

「セ、セノン様、小耳に挟みましたが、道具屋の方は益々繁盛されているようですね! 自分のことのように嬉しく思います!」


 一気に話しかけられ、俺はたじろぐ。

 そんな中でも、脳内では良いアイデアを閃いていた。


 それほど有名な冒険者ならば、それに見合う武器屋も知っているのではないか。


「ここには武器屋を探しに来たんだ。良い所を知らないか?」


 俺が聞くと3人は顔を見合わせてから、口々に「王都と言ったらここだよ」、「……そんなこと……ない」、「いえ、むしろ──」と口喧嘩のような相談を始めた。


 しばらく見守っていると、やがて結論が出たらしく、やはり3人揃ってこちらに向き直った。


「僕らがここに来てからずっとお世話になっている鍛冶屋さんがあるんですよ。ぜひ案内させて下さい!」


 と提案してきてくれた。

 俺は何だか微笑ましくなり、「期待しているぞ」と頷く。

 

 3人は嬉しそうに笑った後、ふと真面目な顔になってから、俺の横にいた大男の方を向いた。


「ところで、この人はセノンさんのお友達ですか?」


 純粋な質問だったが、過去に縋り付く大男のプライドをへし折るのには充分だったらしい。


 白目を剥く大男を横目に「知らない人だ」と呟いた。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

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