とあるオモチャ屋の娘の独白
独白調で、一部の名称が決まっていないのでクドく感じる部分があると思います。
そこはどうぞ、ご了承をお願い致します。
俺の人生は、ちょっとした事をキッカケにして、終わった。
…………終わったはずだったんだ。
まあ、ある意味終わったのだが。
いや、実際に終わったのは間違いないのだが、普通の人が想像するような終わり方ではなかった。
キガ ツク トオ レハ ワタ シニ ナツ テイ タソ レデ モオ レワ オレ デイ タカ ツタ
……こほん。
死ぬまでは男だったはずなのに、なぜかオモチャ屋の娘として生まれ変わっていた。
父はいつもサングラスを掛け、かたくなにアロハシャツと店のエプロンを脱ごうとしない。
母は母でいつも微笑んでいて、怒る時さえ微笑んだ糸目のままで、若奥様コーデと店のエプロンを常時着用している。
俺……って言うと母に怒られるので私と言うが、どれだけ髪型を変えても1晩で目が隠れるほど前髪が長い日本人形みたいな髪型に戻る恐怖体質で、常に他人から目が隠れている不思議キャラの小学生女児。
同じクラスの女子の中で1・2を争う低身長なのは解せぬ。 だって前世の俺は180cm後半の長身だったんだぞ? どうしてこうなった。
と、なんとも不思議な家族だが、なかなかに仲良くやっていると思う。
と言うかこの、俺が生まれ変わった世界はとても不思議だ。
人々はやたらと個性的だし、髪の毛は国や風土や遺伝子なんて関係無くカラフルだし「でやんす」とか「ござる」とか「でふ」とか言う語尾の人がゴロゴロしている。
この変な世界は前世より近未来的で便利な暮らしだが、なぜか生活の中心に自走式四輪駆動車の模型のオモチャが鎮座している。
全ての近未来的技術は、そのオモチャの次世代技術を研究した際の副産物で出来ていて、そのオモチャを使ったレースが世界を支配していた。
支配と言うのは比喩とか大げさに言っている訳では無い。
実際に世界的なオモチャのレースで世界経済は大きく動き、世界経済を牛耳っているのもそのオモチャの世界的なメーカー達だ。
他にも奇妙な所として、ニュース番組の中心はオモチャに関するものだし、バラエティ番組の中心もオモチャだし、下手すりゃトラブルの解決法としてオモチャによる競争もある。
なんだコレと思うだろうが、そんな世界だから仕方ない。
まあ仕方ないけど、俺はそれを知った時に思わず叫んだね。
「これ、ホビーアニメの世界だ!!」
って。
両親には白〜〜〜い目で見られたけど、仕方ないじゃないか。
こんなイカれた世界に生まれ変わるとは、誰も思わないんだから。
でもまあ、家がオモチャ屋ってのは強いね。
オモチャ屋なのに流行り廃りを気にしなくて良いのが大きい。
だってその世界の中心の四輪駆動車の模型のオモチャに関するモノを中心に揃えれば、評判の悪い店でなければ需要が尽きないのだから。
むしろこの世界のライフラインで商売しているって事になる。
……まあだからこその苦労話を、親のグチとして聞いてしまうけど。
まず、ライフラインの1角を扱う訳だから実質、公務員状態である事。
それと店に来たオモチャに関する才能的に有望な客を発見次第、オモチャの協会に報告する義務を負う事。
この義務をサボると、商品を卸してくれなくなる……どころか、オモチャ屋としての経営権取り消しすらあり得るリスク。
意図的でなければ義務違反にはならないらしいが、どれだけその主張に真実性があるかは不明。
なにせそれで罰を受けたオモチャ屋を聞いたことがないから、本当にそうなるのかさえ分からない。
分からないが、そんな罰を下されちゃタマランとみんな遵守するらしい。
まあそれはそれとして、ウチは個人商店としては大きな店で、店内にシンプルなレースが出来るコースを置いてある。
そんな店を俺も手が空いていれば、手伝う。
忙しくて会計の列が長ければ、袋詰めや品出しを手伝い、客足が落ち着いているなら客のフリして店内を歩き回り、オモチャのパーツの組み合わせに悩む客と一緒に悩むフリして相談に乗る。
いやね、俺も前世でこのオモチャのパーツ選びで悩んでた子供時代を持つクチだからね。
少ない小遣いで失敗しないパーツ選びに悩み抜いて、それで失敗して何度も涙を流した経験が有るからね、そりゃあ悩む客に同情するってモンよ。
それで相談に乗っている間にこのオモチャのデキを見たり、パーツ選びのセンスを確認したりで、才能的に有望な人物かを見抜けるって寸法よ。
ここまでは良い。
良いんだ。
問題は学校だ。
明らかにホビーアニメの熱血主人公っぽい男子や、猿みたいな容姿のオモチャレース解説役とか、スカしたライバル役とかヒロイン役とか。
居るんだよ。
小学生になる前に、なんか同い年位の主人公っぽい奴が、親に連れられてウチの店に来たなぁ。
だったのが、今やウチの店の常連で、同じクラスなんだよ。
品出しもしてる関係上、取り扱ってる品をある程度覚えているけど、取り扱ってる記憶の無い商品をどこからか見つけて買ってくんだよ。
あとなんか、気が付いたらオモチャと会話してるっぽくて、黄色い救急車を呼びたくなるし。
父も父で、サングラスを光らせて「今のキミならアレを使いこなせるかも知れない」とか言って、店の倉庫の奥から見たこと無いよく分からんモンを出してくるし。
地元のオモチャのレースがあると店を閉めて家族で観戦に行くし、優勝賞品として店で扱った記憶の無い、よく分からん模型本体を毎回提供してるし。
なんか本当に、よく分からんホビーアニメの世界だわ。 マジで。
以下、蛇足
主人公の家の店はホビーアニメでたまに見かける、なんでこんな個人商店にこんな凄く特別なパーツが売ってんだよと驚かれる系の店。
ついでに店の中でパワーアップに悩んでいた時に思いがけない話(主人公の前世での改造での失敗談)がヒントになって「そうか!」と叫ぶ事になる店でもある。
主人公本人は無自覚だが、その低身長と日本人形っぽい見た目から、幸運を呼ぶ座敷童子みたいな扱いをされている。
元男で、男心がある程度理解できる事から、小学校内でガチ恋勢が結構いるらしい。
本人は友達感覚なので、無自覚。
もちろんそんな認識をされればファンがそれなりに存在し、男子人気は3位で男女合わせたクラス人気は総合1位。 むしろ女子から大きなお人形扱いされて圧倒的な人気を誇る。
結果女子からガードされ、ガチ恋勢は容易に近付けなくなって主人公の身の安全は確保されている。
なお主人公の前世でオモチャに関する1番の自慢は、ヨーヨーの技でストリ◯グプレイスパイダーベイビーが出来た事。
なのでこの世界では披露する機会は無い。