1.背を向けず、逃げることなく。
そそい_(:3 」∠)_
「だ、大丈夫か!?」
「……す、すみません! 腰が抜けちゃって」
俺が駆け付けると、そこには一人の少女が尻餅をついていた。
周囲にモンスターの影はない。しかし彼女の張りつめた様子が、敵の接近を表しているようにも思われた。そのため、急いで俺は女の子に肩を貸して立ち上がる。
「出口は分かるか!?」
「は、はい。でも――」
そして、逃げる方向を確認しようとした。
その時だ。
「――危ない!!」
「なっ……!?」
女の子が俺のことを力任せに突き飛ばしたのは。
向かって左右に離れ離れになった俺たちは、互いにその場に倒れ込む。すると先ほどまでいた場所をモンスターが放ったであろう炎弾が通過し、近くの岩壁に着弾した。
物凄い轟音をたてながら、岩肌は崩れ落ちていく。
あんなもの、一撃でも喰らえば死んでしまうのは明らかだった。
「…………くそ、アイツか……!?」
俺が後方へと振り返ると、そこにいたのは揺らめく炎のような見た目のモンスター。頼りない外見をしているが、その攻撃の威力は先ほどの通りだ。
そして、なにか対処しないと逃げ切ることも不可能。
俺が立ち上がりつつ、そう考えていると――。
「に、逃げてください!!」
「え……?」
女の子が、必死の声でそう言ったのは。
こちらが困惑していると、彼女はさらに続けた。
「貴方は探索者じゃないんですよね! だったら、巻き込まれた民間人の盾になるのが私たちの役割です!! だからとにかく、逃げて!!」――と。
震える脚で、どうにか立ち上がりながら。
手には一本の杖を携えて、息も絶え絶えにモンスターを睨んでいた。どうやら巻き込んでしまった俺のことだけは、命を賭して助けるつもりらしい。
集中力を高め、彼女は敵を挑発するようにして炎の魔法を放った。
だが、件のモンスターには――。
『ケケケケケケケケ!!』
――まるで、効果をなさない。
それどころか彼女の抵抗で、敵の炎は勢いを増している。どうやら女の子の行使できるスキルは、致命的なまでに相性が悪いようだった。だが挑発には成功したのか、モンスターはその矛先を彼女の方へと向ける。
そして、先ほどよりも大きな炎弾を生み出した。
「…………っ!」
その光景を目の当たりにして。
俺は考えるより先、とっさに走り出して――。
「きゃっ……!?」
今度は俺が彼女を突き飛ばし、押し倒すような形で炎弾を回避。
すると女の子は短い悲鳴を上げながらも、信じられないといった表情で言った。
「な、なにをしているんですか……!!」
「さぁ……俺も、良く分からない……」
「分からない、って……!?」
だが問われても、俺だって答えられない。
ただただ彼女を見捨てられなくて、見殺しにしたまま生き残るなんて度胸もなくて。いつの間にか、気付いたらこんな行動を取っていた。
自分でも、本当に馬鹿げていると思う。でも――。
「――ただ、さ。俺は逃げたくないんだよ」
「…………え?」
そう、思ったのだ。
今までずっと、俺は役立たずの烙印を押されてきた。
それでも現実から逃げる選択をしなかったのは、誇りに思っている。いっそのこと、最期まで抗ってやろうと思い続けて、今日まで生きてきた。
たとえ馬鹿だと、犬死にだと言われたとしても。
どうせ誰の役にも立てないのなら、逆にもう迷いなんてなかった。だから、
「…………貴方、いったい何を……!?」
「今ので俺、足を怪我したみたいでさ……もう、逃げられないんだよ」
「え……?」
「だから、こうなったら賭けに出るしかないだろ」
困惑する女の子の杖を取り上げて、構える。
一か八か。魔法の基礎なんて知らないし、そもそもスキルだって持っていない。それでも万が一――いいや、億が一の確率でもあるなら、やらないよりマシだった。
そう考えて、俺は杖を握りしめてモンスターを睨む。
ほんの一撃で良い。
くだらない人生だったのだから、せめて終わりくらい抗わせてくれ。
そして、彼女の見様見真似で集中力を高めた。
――その瞬間だ。
「え……?」
身体の中から、不思議な感覚が込み上げてきたのは。
俺は少しだけ惑う。だが、すぐに切り替えた。
その感覚に身を委ね、前を向いて叫ぶ。
「いっけええええええええええええええええええええええええええええ!!」
すると現れたのは、数多の水泡だった。
俺の中から出てきた正体不明の力は、一直線にモンスターへと飛来。着弾し、その直後、ダンジョン内に響き渡ったのは――。
『ケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!』
そのモンスターが発した断末魔の叫びだった。
消失していく炎のモンスター。
それと時を同じくして、周囲の景色が歪んでいく。
主を失ったダンジョンが崩壊したのか。光に包まれて、思わず視界を手で覆う。
「え……生き残った、のか?」
そして次に目を開くとそこにあったのは、よく見慣れた景色。
俺のアパートから程近く、人気のない空き地だった。
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