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呪われ巫女の嫁入り ~鬼の元に追いやられた娘は、幸せを見つける~ 下

雪隠組の牛車に乗って、久しぶりに尼ヶ崎家の屋敷に戻った命。雪隠組の屋敷を見慣れたからか、とても小さな屋敷のように見えた。


「お待ちしていました」と入り口で出迎えてくれた下女の案内の元、命と氷龍は屋敷内を歩いて行く。静か過ぎるのは、気のせいだろうか。


部屋に通され、茶を出される。緊張で喉が渇いていた命は、思わずゴクゴクと飲んでしまった。それを見ていた氷龍は、心配そうに声をかける。


「随分緊張しているな。俺もいるんだ、安心しろ」


そう声をかけてもらい、ホッとした命。それも束の間、急に腹痛を覚えた。やはり急に冷たいモノを飲んだのがいけなかったのだろう。


「す、すみません。少し、お手洗いに・・・」


トタパタと部屋から出ていった命が、とにかく不安になる氷龍。だが入れ替わるように、一の里の長が入ってきた。因縁のある相手に、かなり緊張した空気が場を包む。


「この度はご足労いただき、誠に感謝致します。では早速」


「待て、命が席を外している。尼ヶ崎氏も来ていないぞ」


「いえいえ、構いませぬ。まずは我らだけで話といきましょう」


その笑みには、悪意を感じる。何か裏で動いていると、氷龍は薄々勘づいていた。



少しして、命は体調が落ち着いた。氷龍の前であんな間抜けな姿を見せたことに、恥ずかしさが込み上げているようだ。


(冷たいお茶を一気に飲んでお腹を痛めて、氷龍様を心配させてしまった・・・。次はしっかりしないと)


気を引き締めつつ、氷龍の元へ戻ろうと廊下を歩く。


刹那、命の背後から伸びた手が、彼女の口を塞ぐ。驚く暇もなく、そのまま引き摺られていく。抵抗も無意味、気付けば地下へ連れて行かれ・・・過去にいた座敷牢に、そのまま放り込まれた。ガチャン!と乱雑に鍵をかけられる。


「なっ、何をするんですか!?」


ようやく見えた犯人は、命が見知らぬ屈強な男達。全く口を開けない彼らに、何も分からぬまま混乱するしかない。すると「まぁまぁ、落ち着け」と、聞き覚えのある声がした。


「久しぶりだな、呪われ巫女。下剤入りの茶は旨かったか?」


男達をかき分けて牢の前に立つのは、かつて命を雪隠組に送った、尼ヶ崎市助だった。命は目を大きく見開き、驚愕の表情を浮かべる。


「ここにいた時より、随分顔色が良くなってるな。氷龍に好かれているのがよく分かる。だが、お前の役目も今日で終わりだ」


「ど、どういうことですか!?役目って」


何が起きているか分からず、ただ命は声を荒げる。すると市助は、ニヤリと笑って告げた。


「長の娘が、言いつけ通り嫁に行くのさ」


「え」


「お前はあくまで身代わりということにしたんだ。鬼は危険だから、対抗できる巫女を一時的に送っていた。だが邪気の浄化に努め、人間に対して敵意がないと判断したため正式な娘を送り出す、と。これなら最初の決定も守れるし、全てが元通りだ」


命の顔から血の気が引いていき、カタカタと震えだす。そんな彼女に対し、市助は「どうせこうなる運命だろうが」と笑う。


「お前はこれ以上、何もするなよ。尼ヶ崎家のため、里と鬼の平穏のため、お前は氷龍の元から・・・いや、この世から消えろ。なぁに、苦しまずに終わらせてやるさ」


「そ、そんな・・・嫌です!」


伸びてきた彼の手を避けるように、命は座敷牢の奥へと駆け込む。恐怖で声も出せない口は、何度も彼の名を呼ぼうとしていた。



「失礼します、氷龍様」


氷龍と長の会話が始まり数分、部屋にとある見慣れぬ娘が戸を開けて入ってくる。身なりを整え化粧もした、この場には合わない娘。それだけでも怪しいというのに、何故か氷龍の隣に座ってきたのだ。


「・・・何者だ」


「私こそ貴方の元に嫁ぐ、長の娘です」


は?と氷龍の表情が明らかに曇る。それから長は、市助と全く同じ説明を氷龍にする。


「実は貴方の元に送っていたのは、身代わりの巫女だったのです。


貴方を騙していたこと、本当に申し訳ありません。ですが力のないこの子を即座に送るのは、尼ヶ崎家より待ったをかけられまして。身代わりとなる巫女を送ってくださりました。


しかし貴方の今までの行動に、危険性がないと判断されまして。安心して娘を送ることが出来ます。今まで警戒していて申し訳ありません。花嫁として相応しい娘を、今から送ります。どうかこれからも、里と雪隠組の協力をお願いいたします」


「・・・・・・」


氷龍は呆れと憤怒の感情が混じり合い、言葉を失っている。


完全に後出しの理由だ、彼らは自分たちに都合の良い話を作り上げているに違いない。命が彼らと繋がっている様子など、これっぽっちも見えないからだ。


命は最初、自らを奴隷や贄と言い出した。呪われ巫女と侮辱され、尼ヶ崎家では厄介者扱いなのも後に知った。彼女と最初に会ったときに目に焼き付いた、やつれきって震えていた姿。そんな弱った巫女を、本当に身代わりにする気が合ったのか?


そもそも自身の研究に協力し、あんなに世話を焼いてくれた。なのに安全が確認されたから、嫁の立場を譲った。そんな都合の良い話があるか?


向こうから勝手に申し出て、勝手に破り、嘘をついて命を送り出してきたというのに。今になって、その過ちを無かったことにしようというのか?


ダン!!と、氷龍は机を壊そうとばかりに叩きつける。その音にビクッと驚き、娘は距離を取った。


「断る、俺はこの女とは結婚しない」


「何を仰いますか、この子は約束通りの娘ですよ。それに身代わりと比べて、見た目も才知も優れてます。美しく才のある貴方に相応しい子でしょう。それに邪気の浄化という大変な作業に努めているのなら、あんなか弱い巫女よりも、後ろ盾のある我が娘の方が!」


あぁ、この返答で確信した。奴らは完全に理解していない。邪気の浄化には命の力が欠かせないことなど、全く知らないのだ。都合の悪いモノは人に押しつけ、人の努力の賜物を苦労なく貪ろうなど、言語道断。


「おい、命は何処だ。彼女と会わせろ」


「で、ですから・・・あの娘は身代わりで」


「本当に彼女が、身代わりと自覚しているというのか!?」


氷龍の大声に、ひぃっと長は身震いした。彼らに問い詰めても時間の無駄だ、自らの手で探さねば。氷龍はドタバタと屋敷内を走るが、人の気配、物音1つすらない。ならばと外に出て向かう先は、牛鬼の牽く雪隠組の車だ。様子のおかしい主を目にして、牛鬼はすぐさま起き上がる。


「牛鬼!命を探してくれ、屋敷中を探しても見つからない!」


牛鬼はゆっくり頷き、周囲の空気を全て吸い込むかの如く、大きく息を吸う。命の匂いを感じ取ったのか、ドン!ドン!と石が敷き詰められた地面を叩き始めたのだ。地割れが起きると、何か空間があるように感じる。


「・・・地下か!盲点だった」


屋敷のどこかが地下に繋がっているのか。しかし入り口を探すよりも、ここから突撃する方が早い。氷龍は牛鬼と協力し、地面の破壊を始めるのだった。



「嫌です!離してください!!」


「黙れ。お前さえ見つからなければ、こちらの計画は上手くいくのだからな」


地下の座敷牢、命は複数の男に取り押さえられていた。少し遠くの男の手には・・・本来所持してはいけないはずの刀。それを見た瞬間、命の顔が真っ青になる。


「お前が死んだところで何の問題もない。そもそも不幸を呼ぶ力を持つ女など、生きていても仕方ないだろうが。何故そこまでして生きたい?


そこまで雪隠組で甘やかされたか。何も出来ないくせして、同情だけを味方によくここまでやったものだ」


「・・・っ!」


勿論、氷龍の方が凄いのは間違いない。自分は出来ないことばかり。優れた組に依存している、そう思われても仕方ない。


でも・・・でも・・・!!自分も出来るだけの努力はしてきた。ここにいる間だって、不幸を呼ぶ力を上回るくらい、誰かのために行動してきたはずだったのに。向こうが勝手に決めたじゃないか。見捨てて閉じ込めて、追いやって。


「どうせお前は今後、何も出来ない出来損ないのままだ。誰かを不幸にする前に、大人しくここで死ね」


命は悔しさと悲しさに涙を浮かべる。命の首に目掛け、男が刃を突き刺そうとした瞬間・・・。



轟音が響いて崩れた天井。そこから現れたのは、怒りの形相を浮かべる氷龍と牛鬼だった。



「な、何だお前!?」と驚いてる男達を、次々と拳と蹴りで蹴散らしていく。そして立っているのは、市助だけになった。


「何をしている?汚れた手で命に触れるな」


見下した鋭い瞳と命令口調、逆らえばどうなるかは一目瞭然だ。市助は震えながら、命から距離を取った。命が氷龍の名前を呼ぶ前に、彼は彼女に駆け寄り胸に抱きしめた。ほんのり冷たい体温が、氷龍だとすぐに分かる。その安堵から、命は泣き始めた。


「氷龍様・・・氷龍様・・・。私、身代わりなんかじゃ」


「あぁ、分かってる。お前は俺の嫁だ、誰にも利用なんかさせない。・・・欲深い、愚者どもなんかにな」


氷龍は青ざめた市助をギロリと睨み付けた。既に反抗する気も無いようだ、市助はふらふらと膝から崩れ落ちた。


「な、何よこの穴!」と、轟音に気付いた長と娘が、上から見下ろしている。そして氷龍の胸にいる命を見て、同じように顔を青ざめた。


「ひ、氷龍様!ですからその女は、元々氷龍様の嫁になる気など」


「黙れ、貴様らも同罪だと分からないのか?」


氷龍は立ち上がり、怒りのまま吐き捨てる。「何の話です!?」などと反論しようとした長やその娘は、おぞましい見た目の牛鬼の咆哮に、何も言えなくなった。


「貴様らには失望した。手を掛けはしないが、許しもしない。相応の罰を受けて己の過ちを償うまで、俺はこの地を決して救わないからな。多くの里の民や巫女から紛糾されてしまえ。


すぐに車を出せ、命と共に汚れたこの屋敷から出るぞ!」


氷龍は命を抱きかかえ、車に飛び乗った。牛鬼は再び咆哮を上げ、崩れ落ちた石を踏み場に、クモのような足で這い上がっていく。地上でも屋敷前の道を破壊しつつ、光の如く突っ走っていく。長や娘はあっという間に、その車を見失ったのだった。





氷龍の怒りを買ったことで、一の里や尼ヶ崎家は大きく変わった。


氷龍に対し様々な不敬をした上、邪気の対処も出来なかった長。里から不満が勃発したため、娘と共に里から逃げ去ったという。尼ヶ崎家では市助を筆頭に、巫女へのイジメや関係の脅迫をしていたと明らかになった。巫女組織は解体され、没落は時間の問題とも言われている。


当然の報いだ、と袴姿の氷龍は呟いた。彼らはちゃんと罪を償ってもらわないとな。そう思っていると、「お待たせしました!」とカドの明るい声がする。振り向けば弾むように歩くカドと、白無垢に身を包む命の姿が。


今日、ようやく氷龍と命の結婚式が行われる。小さくて大丈夫と遠慮する命の意見も受け入れつつ、やはり雪隠組の頭の婚姻ともあり、屋敷には大勢の鬼達が来ていた。


「氷龍様!ご結婚おめでとうございます」


「お幸せになってください!」


祝福の言葉に、命は照れくさそうに微笑んだ。氷龍はその声に応えるかのように、彼女の頬に口付けをする。すると歓声が上がり、2人の周りを拍手喝采が包み込んだ。


「命、これからよろしく頼む」


「はい・・・こちらこそ、お願いしますね」


人間の娘を嫁とした氷龍はその後、妻と共に邪気の浄化に力を入れ、この地域一帯でとりわけ尊敬される存在となる。雪隠組は長きに渡り、人間と共に繁栄していくのだった。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


次回作は・・・ネタはあるけどまとまらなぁあい!この土日に頑張ります。

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