呪われ巫女の嫁入り ~鬼の元に追いやられた娘は、幸せを見つける~ 上
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
初夏ですが、物語は真冬です。夏より冬の方が好き。
「命、お前には“雪隠組”の元へ行ってもらおう」
「え?雪隠組・・・」
尼ヶ崎家の次期当主である市助は、座敷牢の中にいる黒髪の娘に言いつけた。
雪隠組とは代々、最北の地を治めている鬼の一族だ。娘は怪異から人々を守る巫女。怪異側にいる鬼とは、対立関係にあるのだが・・・。
「奴らが尼ヶ崎家と交流のある“一の里”に、取引として1人の娘を差し出せ、と提示してきたのだ。
お前は“苦痛をもたらす力”を持つのだろう。我らの敵側に回った方が使える」
あぁ、なるほど。つまりは厄介者である自分を差し出して、こちら側に都合の良い取引をしようというのか。
「お前に選択権はない、黙って受け入れろ“呪われ巫女”め」
完全に排除された扱いに、巫女は何も言えなかった。自分が不都合な存在だと分かっている。そもそも向こうが主である以上、刃向かうことも許されないのだから。
○
この世界の巫女は、怪異と相対して邪気を祓う役割を持つ。邪気を祓うのには命の危険が伴うこともあるが、人々から厚く信頼されている。
地主として名高い尼ヶ崎家には、巫女を輩出する育成機関がある。巫女の力や才能を見いだされた娘達が、そこで日々鍛錬に励んでいるのだ。
そんな中、とある娘は異質な存在だった。黒戸命、都の商人である黒戸家の娘だ。彼女にも力の反応があり、数年前にこの育成機関に来た。しかしその力は、他の巫女と大きく異なっていた。
彼女の力は怪異を祓うのではなく、「怪異が放つ邪気を自らに引き寄せること」だったからだ。
つまり、彼女は常に邪気を纏っている状態。彼女の周囲に長時間いた人物は邪気に蝕まれ、身体的か精神的な苦痛に襲われてしまう。命はその邪気の影響を全く受けないのもタチが悪く、迷惑な存在になっていた。実家では疫病神扱い、ようやく逃げた巫女組織でも孤独だった。
周囲に不幸をもたらす存在。そんな彼女についたあだ名が「呪われ巫女」。
なんとかその力を変えようと、必死に努力はしてきた。だが先天性の力であり、手の打ちようがないと突き放され、彼女は地下の座敷牢に閉じ込められたのだ。
そして今度は鬼に追いやられる。しかしそんな扱いを受けても、彼女に不満などなかった。
(巫女の役目は、人々を怪異や邪気から守ること。でも私は邪気を引き寄せるだけで、祓うことも出来ない。皆を苦しめてばかりだった。
だから、こうして突き出されても仕方ない。せめて役目を果たしましょう)
それからは早かった。最低限の荷物を持って、挨拶無しで組織から離れ、指示された山奥へと1人進んだ。もうすぐ冬ということもあり、木枯らしで落ち葉が舞うばかり。もう少し着込める服があれば、と命は少し後悔する。
「でもいいわね、もう人として生きられないのだから」
鬼の元に行けば、死ぬまで利用される奴隷になるか。はたまた、食われるだけの贄になるか。どちらにせよ、幸せなどないと覚悟する。
ふと、目の前の雰囲気が変わった。真昼だというのに夕霧が広がり、ジャランジャランと不思議な鈴の音も聞こえてくる。
モヤモヤとした霧が少しずつ晴れていくと、そこには立派な牛車があった。いや、車を牽くのは足がクモのように広がる牛鬼だが。
呆気にとられていると、制御人の場所で座っていた小さな小鬼が、ピョコンと命の前にやって来た。
「お初にお目にかかります。私は雪隠組の使い、カドと申します」
「は、初めまして。黒戸命と申します」
「命様でございますね。此度はこのような縁談をいただき、ありがとうございます。人間と鬼の平穏のため、お互い支え合いましょう」
え、縁談?聞いた話と違うことに、命は戸惑いを隠せなかった。
「ど、どういうことですか?私は、奴隷か贄では」
「ととと、とんでもない!そもそも我ら雪隠組は、人を無闇に傷つけたり食べたりなど、非道かつ野蛮な振る舞いなどしませんよ!」
「・・・おそらく、人里側で歪んだな」
新たに聞こえた声。屋形から大柄な男が、スッと降りてきた。絹のように真白な長髪、真っ黒な長い角、鋭い獣目に長い爪、整った和装と右手の扇子が目に入る。異形である一方で綺麗だと、思わず見とれた命。
「・・・あ、貴方は?」
「氷龍、雪隠組の頭だ」
「どうやら、上手くお話が届いていなかったようですね。立ち話も何ですし、一旦中に入りましょう」
丁度良くぴゅうと、木枯らしが彼女を襲う。思わず寒くて震えれば、氷龍はバッと自らの衣を命に着せたではないか。突然のことに、思わずドキッと感じた命。
「ここの長居もいらん、強い寒さは人間の体に毒だ。すぐに組の本拠地へ向かえ」
かしこまりました、とすぐさま車は動き出す。思ったよりも揺れが少ない車内、初対面だというのにすぐ隣で寄り添う鬼。彼自身かなり低い体温なのに、自分に衣を着せて寒くないのか尋ねる。
「俺は極寒地が故郷だからな。逆に着込んでいては、体調を崩す。それに、ここまで来てくれた者を冷遇するなど、我らの仁義に反する。逆に俺が隣にいて、寒い思いをさせてすまない」
「い、いえ、滅相もございません」
自分のことは自分で何とかしろと、実家でも組織でも放っておかれた。なのに初対面で、こんなに気にかけてくれるとは。優しくて素敵な人だと、相変わらず命はドキドキが止まらない。
そんな道中で、氷龍は今回の話について説明を始めた。
きっかけは里を治める長が、勝手に雪隠組の有する領地に進入した上、罪のない子鬼を襲撃したことだ。幸い子鬼は軽傷だったが、明らかに非道だと憤怒した氷龍が人里に向かった。そこで長より「もう2度としない、その証明で娘を嫁がせる」と提案されたという。
一の里と雪隠組、互いの友好関係の証としての婚約。氷龍は特に結婚願望はなかったが、今後は問題を起こさない抑制力になるならと、この話を受け入れた。
おそらくは、長の娘が駄々をこねたのだろう。鬼なんかに嫁ぎたくない、どうせ初対面だから代わりの娘を出せと。そうして里の外へと情報を流した。そして伝聞される内に、事実が歪曲した。婚約者が、奴隷や贄になるほどに。
「そ、その・・・私は嫁入りの準備を、何もしておりません」
「良い、むしろ急に言われて戸惑っているだろう。今日のところは、屋敷でゆっくりしてくれ」
「氷龍様。そうなりますと、婚姻の儀はいかが致しましょう?」
「一旦保留だ、カド。だが彼女は連れて行く」
それからしばらく、命は少し冷たい氷龍の体に触れつつ、牛車に揺られていた。確かに彼の体は少し冷たいが、柔らかくて鼓動もあって・・・他人に寄りかかるなど、いつぶりのことだろうか。
「着きましたよ!」とカドの明るい声で、命は浅い眠りから覚めた。ふと窓の外へ目を向ければ、色づいた落ち葉の道の奥に、大きな屋敷が見えた。実家や尼ヶ崎家と比べて、何倍もの大きさがあるようだ。
「ようこそ、我が雪隠組の拠点へ。今の時期はまだ、雪は降っていないが」
「ささ、命様。こちらへ」
案内されるがままに、命は牛車を降りる。鬼が行き交うこと以外、人里と大差ない雰囲気に驚いた。
「長旅お疲れ様でございます、これからお部屋に案内を・・・」
カドの言葉の途中、命の元に何やらフワフワと光が集まってきた。蛍かと思ったが、こんな寒い時期にはいないはず。
「この光・・・あっ、まさか」
ふと何かを察したように、氷龍は屋敷へと駆け込んだ。不安になった命も、カドと後を追う。
“研究室”と看板のあった戸から、同じような光が漏れているようだ。フワフワと周辺を漂っていたが、同じように命へと集まっていく。
その部屋の中は、さらに光が漂っていた。多くの木箱や樽が並んでおり、中には同じ色の固体や液体が堪っている。光はどうやら、床に零れた液体から出ているようだ。カドが慌てて液体を拭き取ると、空気中の光も少しずつ薄まる。
それにしても、こんな光は見たことない。先程からほぼ全ての光が、命の元に集まってくる。
「驚かせてすまないな、命。これは我ら雪隠組が集めた邪気なんだ。勿論、処置して無害にしてある」
「えっ、これがですか!?」
こんなに綺麗な光が、人々を苦しめる邪気だなんて。ただ納得もした。そうか、邪気だから自分に寄ってきたのか。
邪気を引き寄せる、呪われ巫女の自分に。そう思うと、改めて空しい。
「本来なら何かに引き寄せられることはないのだが・・・何故、命の元に集まってきたんだろう。人間に近寄りやすいのか?」
「・・・お伝えし忘れたコトがあります。本当は出会ってすぐに、お話ししておくべきでした」
自分は邪気を引き寄せる“呪われ巫女”であること、邪気を纏っているため関わった人を不幸にすること、鬼に追いやるには適正だと言われたこと・・・今更のように話した命。
これで今度こそ、殺される・・・と思ったが。氷龍の反応は意外なモノだった。
「そうか、教えてくれてありがとう命。
もしかしたら・・・我らの計画の、強い力になるかもしれないな」
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
「中」は明日夜に投稿する予定です。




