竜使いの娘（５）
ヒノキ村等の村々は山の麓か、山の中にあるため、天気が変わりやすい。
また、イシヅミ町に比べて、にわか雨や大雨も多い。
トーコが再び、〈コモレビの滝〉の横の温泉に行ったのは、数日後であった。その日は、太陽が南中してから少し過ぎた、昼間にエドガーに送ってもらった。
そして、エドガーはトーコを岩の上に降ろすと、どこかに飛んで行ったようだ。
のぼせてしまう前に温泉から出ると、トーコは綺麗に畳まれたチュニカを着た。
平らな岩に腰かけて、ひと休憩し始めた時、トーコの後ろから聞いたことのある声がした。
「今日も来てたな」
「オッ……オズワルドさんっ！」
驚いて、声の主の方を振り向いた後、トーコは道側に体を向き直した。
「アイツは居ないのか？」
「あっ、エドガーですか？ おやつ代わりの間伐材、食べに行っています」
「……そうか」
「申し訳ありません、まだエドガー戻ってきてなくて……。これから温泉に入られるのに、お邪魔になってしまいましたね」
「ちょうど、アンタに聞きたいことがあってな。……気にしなくていい」
「え……あっ、はい……？」
オズワルドの顔を直視すると、トーコは心臓の鼓動が速くなった。澄んだ翠色の眼に吸い込まれそうな感覚もした。
「アンタの家に招かれた時に思ったんだが、なぜ自分の髪と眼を、卑下するんだ？」
思いもよらぬ質問をされて、トーコは出てくる言葉がすぐに見つからなかった。
それと、オズワルドが鼻筋の通った端整な顔であると気付き、顔全体が少し赤くなった。
「あ……、えと。それは多分、小さい頃、王宮で暮らしていた時期に、グレース叔母さんや侍女のヒトたちに、いろいろ言われてたから、でしょうか。木炭みたいな、おかしな色だと……。
それに、町の人たちからは、興味本位で、自分の外見をジロジロと見られたことが多くて……。何度も息苦しかった記憶があるから、かな……」
オズワルドは、トーコの話を聞いて、淡々と言葉を続けた。
「黒は邪気を払う、神聖な色だ」
オズワルドが発する言葉は、徐々に熱が入っているようだった。
「それにアンタの眼、黒翡翠みてーに、本当に美しいと思う。……だから、堂々と胸を張れ」
トーコは恥ずかしそうに俯いた後、「……はい」と小さく返事をした。
一方、実はエドガーは、オズワルドがトーコに話しかけた後に、温泉のすぐ近くまで来ていた。
（アヤツに食って掛かってやりたいが、敢えて壊す必要の無い雰囲気であることは分かる。だが、ヴヴヴゥーンン……）
エドガーがいつ降りていこうか迷っていたことを知る者は、当事者以外、誰も居なかった。
