竜使いの娘(3)
その日の昼間、太陽が南中した少し後のこと。トーコは家で、まったりとカモミールティーを飲んでいた。
家と言っても、他の民家よりは一回りか二回り小さい。木造建ての、縦長の家である。
台所の後ろの、天井が高い竜専用の休憩場所では、エドガーが昼寝をしているようだ。
その時、玄関からドアをノックする音が聞こえた。
「はーいっ!」
台所に居たトーコがドアを開けると、一人の青年が立っていた。
すると、ノックの音で目が覚めたエドガーが、目を真ん丸くして、玄関の方を凝視した。
「……んっ、お前はっ!」
「今朝、温泉に入りに来た者だ。突然で、わりぃな」
「え……あ、いえっ! 何でしょうか?」
青年の顔を見た瞬間、トーコは息を呑んだ。
(書物の絵から、飛び出てきたよーな人だなぁ……)
翠色の眼に、銀髪の緩い癖毛であった。日に焼けた肌が、美しい銀髪をより引き立たせている。
それから、右顎から下に、真っ直ぐな深い傷があるようだ。
トーコは、思わず青年に見惚れてしまいそうになった。
「朝の詫びを持ってきた。ラズベリーは好きか?」
「あ、はいっ! ありがとうございます」
青年から薄紙に入ったラズベリーを受け取ると、トーコは平常心に戻れるよう、深呼吸をした。
「えぇと……あ、あの、私は――」
「名前は知っている。団長から聞いた」
「あっ……もしかして、山岳警団の方ですか?」
「ああ。すぐ近くの詰所から来た。……オズワルドだ」
トーコが、ふと気が付くと、パラパラと雨が降り出していた。
「にわか雨かな? あっ、立ちっぱなしでは申し訳ないので、もし良かったら、中に入ってください。
……えーと、オズワルドさん。カモミールティーは、苦手ではないですか?」
「ああ」
家の中に招かれたオズワルドは、トーコに台所のイスに案内されたのだった。