うちの街のムノーさん
うちの街には、凄腕の魔法使いがいる。
ムノーという、気さくな人だ。
魔物が大量発生すると、真っ先に討伐隊に名乗りを挙げる人格者でもある。
うちみたいなチンケな街じゃなくてもっと大きな街に行けば、もっと稼げるだろうに、もう10年以上この街の守りの要としていてくれてる。
うちの街の近くにある森では、割と定期的に魔物が大量発生する。
今回はオークだそうだ。上位種もいるって話で、ギルドは騒然としていたけど、ムノーさんは例によって真っ先に名乗りを挙げてくれて、それで落ち着いた。
討伐に向かう馬車では、ムノーさんは目をつぶって集中していることが多い。
静かに漂う威厳というか近寄りがたい雰囲気があって、同じ馬車に乗る者は、邪魔しないよう、事前に注意を受ける。
戦闘が始まると、ムノーさんの独壇場だ。
見渡す限りの平原にうじゃうじゃいるオークが近付いてくる前に先制の一撃。
100じゃきかないオーク全部にダメージを与える大魔法だ。
俺達近接組が接敵する前にもう一撃。驚いたことに、俺達を追い越していった魔法は、俺達には無害だ。魔物にだけダメージを与える。
俺達が戦い始めたところで、もう一撃。
こんな奇跡のような攻撃が3回。その後のオークは、ダメージで動きは鈍くなってるし、小突けば死ぬ程度に弱ってる。
これほどの数のオーク全部がだ。
同じことができる魔法使いなんて、どこ探したっていないだろう。
こんなに有能な魔法使いをパーティーに入れたら、とんでもない戦力の底上げになる。だから、この街では、ムノーさんを勧誘するのは御法度になっている。
今回、新人のお嬢ちゃんパーティーが勧誘しそうになってたんで、近くにいた奴が威圧して黙らせたって話だ。
ムノーさんは、一番の功労者なのに偉ぶらず、他と同額の報酬を受け取って笑みを浮かべて去って行く。ああいうのを漢っていうんだろうな。
あの人の隣に立って恥じないくらいの腕になりたいって、心から思う。