汚いものを容赦なく切り捨てる美化委員を美化せよ
「本日お集まり頂いたのは他でも御座いません」
咳払いも無しに、それは唐突に始まった。
放課後の空き教室には、学校中の陰キャや不良、そして御デブ様達が集められている。
「あなた達は我々美化委員が定めた、美の偏差値を大きく下回っております。故に、今日から美意識を高めるべく特別メニューに取り組んで頂きますのでご理解を」
一同から「は?」の声があがった。
クラスはザワつき、そして不満の声が四方から放たれた。
「お静かに!」
強気の美化委員が声を大にしたが、不満の声は収まる気配が無い。
「人のこと言えた面かよ!」
「何様のつもりだ!!」
「金返せ!」
「暴挙にも程があるぞ!」
罵詈雑言が飛び交い、収集が着かなくなった。
それまで静かに傍観していた山中は、ここぞとばかりに口を開いた。
「乳が異常に発達してるからっていい気になるなよ!?」
その一言で、クラスがシンと水を打ったように静まり返った。
誰しもが『それは言ってやるなよ可愛そうだろ』と、目で訴えている。
「そ、そんな…………酷いわ……!」
美化委員が両の手で顔を押さえた。
今にも泣き出しそうな雰囲気である。
「おい山中、それは言い過ぎだ。謝れよ」
『何様のつもりだ!』と言い放った吉村が、肘で突いた。
「山中、世の中言って良いことと悪いことがあるだろ……」
『人のこと言えた面かよ!』と吐き捨てた野島が、足で小突く。
誰しもが山中に奇異の視線を送る。山中はいたたまれなくなり、席を立って美化委員に寄った。
「すまん佐原。俺、そんなつもりじゃ……!」
顔を覆った美化委員、佐原が、そっと顔を上げた。
「そ、それじゃあ……どういうつもり……?」
佐原の目には涙が浮かんでいた。
それを見た山中は、心に特大のくさびを打たれたような衝撃を覚えた。
「いや、その……」
山中は口籠もった。
正直何を言って良いのか、全く分からなかった。
「私の胸……異常?」
「い、いや! そんなこてはない! いいと思う! 思う!」
噛んだが率直な感想を述べきった山中。
「好き?」
「ああ! ああ!」
兎にも角にも力強くこたえる。
「胸だけ?」
佐原から疑問の眼差しを向けられ、山中はたじろいだ。
が、すぐに拳を握り見つめ返した。
「だけじゃないさ!」
「どこ?」
山中は思わず苦笑いを浮かべ、視線を外した。
「……ぁ……なとこ」
「えっ?」
「笑うと可愛いとこ」
「ほんと?」
疑いの眼差しに対し山中は、グッと佐原の肩を掴んだ。
「笑うとメチャクチャ可愛くて『俺、佐原好きだわ』って、いつもなってる」
「嬉しい……!!」
山中に抱きつく佐原。
恥ずかしさで山中が後ろを振り向くと、皆が二人に向けてクラッカーを引いた。
「おめでとう!」
「山中やりやがったな!」
祝福のテープを纏い、山中は恥ずかしそうに佐原の肩を抱いて教室を後にした。
「──何の騒ぎです!?」
入れ替わりに風紀委員が現れた。
皆が『ヤバッ……』の表情を浮かべている。
「まあ! こんなに教室を汚して……!」
散乱したクラッカーとテープを見て、風紀委員が憤怒した。
「うるせぇ風紀委員だなぁ!」
一人が声を上げた。
すると、堰を切ったかのように普段の叱責の仕返しと言わんばかりの罵詈雑言が始まった。
「何様のつもりだ!」
「金返せ!」
「人のこと言えた面か!?」
「暴挙だ暴挙!」
そしてまた、収集が着かなくなった。
それまで静かに傍観していた安原も、騒ぎに乗じて口を開いた。
「お前の脚が一番風紀を乱してるだろが!!」
その一言で、クラスがシンと水を打ったように静まり返った。
誰しもが『それは言ってやるなよ可愛そうだろ』と、目で訴えている。
「そ、そんな…………酷いわ……!」
風紀委員が両の手で顔を押さえた。
今にも泣き出しそうな雰囲気である。
「おい安原、それは言い過ぎだ。謝れよ」
『何様のつもりだ!』と言い放った吉村が、肘で突いた。
「安原、世の中言って良いことと悪いことがあるだろ……」
『人のこと言えた面かよ!』と吐き捨てた野島が、足で小突く。
誰しもが安原に奇異の視線を送る。安原はいたたまれなくなり、席を立って風紀委員に寄った。
「すまん霜月。俺、そんなつもりじゃ……!」
顔を覆った風紀委員、霜月が、そっと顔を上げた。
「そ、それじゃあ……どういうつもり……?」
うろたえる安原。
必死の弁明を考える。
「俺は……霜月の脚……好き、だぞ……」
「えっ……」
一同はクラッカーの準備を始めた。