表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

追放


「お前、明日からこなくていいぞ」


そうローレンスに告げる偉丈夫は、『黄金の天秤』ギルドリーダーのエゴン。

A級ダンジョン『ガルナンクッテの森』攻略後の打ち上げ時のことである。


「え、」


突然の解雇宣告は、ローレンスに水風船の破裂のような衝撃を与えた。


「そんな…、どうして、ですか…?」


「なにもかも足りていないからだよ」

 ほら、と紙束をローレンスに放りながら男は男は言う。


「…これは」


「これまでの実績をまとめたものだ。メンバーごとのな。見てみろ。モンスター討伐数はほぼ皆無。一応前衛なのに攻撃を受けた回数もダメージ総計も下から数えた方が早い。

トラップ解除数やアイテム販売売上といった他の項目でも、凡そ最下位だ。

同時期に加入したイェルシャと比較してあまりに劣っている。彼女はモンスター討伐数はトップ。

空属性の魔術師ということもあって万能だし流石だよ」


確かに、提示されたデータは散々なものであった。


「もっと、頑張りますからっ!!」


「…頑張りますって、加入から1年たってるんだぜ?」

エゴンは呆れたように言った。


「我々はより先鋭し、もっと強く、大きくなり、より高いところを目指さねばならない。荷物持ちなんて誰でも出来る、代わりの利くような人材など要らない。能力もなく、成果も出せない者を雇っている余裕など『黄金の天秤』には無いんだよ」


「…それは分かっています!なんとか、もう一度だけでも良いので、チャンスを…」


「いやだから、もう遅いって」


「お願いします!!僕も、強くならないといけないんです…!」

気付くとローレンスは、額を床に押し付け土下座をしていた。


「…なんでそんなに必死なのか知らないが、これは昨日皆で決めたことだ。出て行ってくれないか」


「…お願いします、お願いします」


「無理だって」


「お願いです。強くならないといけないんです。お願いします。置いていかないでください」


「…困るなあ」

壊れたようにひたすら懇願の言葉を吐き出すローレンスに、エゴンも当惑する。

すると、


「とっとと出てけよぉ、ウスノロぉ!エゴンが困ってるだろうがぁあ!!!」

エゴン以上の巨躯が、ローレンスを脇腹から思い切り蹴り込んだ。


「ウグえへェッ!?」

バキッ!と何かが折れる音と共に、吹き飛ばされるローレンス。そのまま壁に打ち付けられる。


「ギャハハハ!!あのバカ、ウグえへェッ!?っつったぜ!?面白れぇー!!!」


「…レオナルド、加減をしろ」


「あー、すまねぇエゴォン。酒が入ってたもんだからよぉ」


「…うぅ」

ローレンスはよろよろ立ち上がる。

全身に鈍痛と、背の皮膚が切れているのか、ズキズキとした鋭い痛みがある。


「トマサ、念のためローレンスを診てやってくれ」


「えー、なんでそんなゴミのために労力割かなきゃなんないのよー」


「あとで裁判沙汰になったらかなわん。傷一つなくしてくれ」


「しょーがないわねー」

トマサと呼ばれた女僧侶は、ローレンスに歩み寄り凝視する。


治癒(ヒール)

そう唱えると、ローレンスの身体が黄色い光に包まれる。ギチギチと背の傷が縫い合わされる感覚。


「治したわよー。と言っても、背中に擦過傷しか無かったけどねー」


「ありがとう。ペーター、一応身体内部の異常が無いか確認してくれ」


呼ばれたのは鼻から下を布で覆った痩身の男。

「フン、()()()()()が、音も匂いも特に問題ない。

 …おや、大事な棒がポッキリ折れてしまっているじゃないか。いよいよ無価値だなお前」

 

見ると、腰に携えていた木の棒が、中ほどから両断されていた。レオナルドに蹴られた衝撃によるものだろう。


「これを機に、冒険者もやめたらどうだ?向いてないぞ」


「そもそも農民の出のテメエがここにいることが間違いなんだよ!!!バーカ!!!」


「そうよー。もうカスを見なくてせいせいするわー」


「フン、使えないヤツに価値はない。何処に行っても同じだ」


侮蔑と罵倒。ローレンスの心は、折れていた。


歪んだ視線で辺りを見遣る。


眉をひそめ、見ているだけのエゴン。


ニタニタ見下すような笑みで、此方を肴に酒を貪るレオナルド。


魔道端末を弄り、もはや興味を失ったかのようなトマサ。


嫌悪を視線で押し付けるかのように睨むペーター。


フードを被った小柄な少女、イェルシャはいつものように無表情でこちらを見ていた。


「…ヤスダさんも、同じ意見ですか?」

ローレンスに一番良くしてくれた、事務員のヤスダに問いかける。


「…」


ヤスダはしばし顔をそむけたが、すぐに、


「…お前さんは、ここにいるべきじねえよ」


哀しそうに、ただしっかりと言い放った。


「そんな…、ヤスダさんまで…」


ローレンスがぽつりと呟く。


すると、ヤスダの顔がみるみる赤くなり、

バンッ!!と爆発したかのように卓を叩くと、


「はよこっから出てかんかいクソガキャァアアア!!!」


「ひっ!!!」


普段穏やかなヤスダの激高は、ほかのメンバーにも驚きだったようで、イェルシャを除き目を丸くしている。


もちろん、一番衝撃を受けているのはローレンスだ。


涙、鼻水。目は虚。頑張りは報われず、憧れからは見捨てれ、夢も祈りも潰えた。


「…そうですか」

どうしようもなく、【黄金の天秤】が自分の居場所でなくなってしまったことを理解したローレンスは、


「皆さん、これまで、ありがとうございました」


別れを告げ、夜の街に走り去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ