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1年ぶりの帰郷と宴

 ここはヤグドマルシ王国オヴァラスト州都ワナイジムの酒場。

 6人掛けのテーブル席でメニューをぼんやり見上げる青年が一人。

 ローレンス・ササキ、冒険者である。今日は高等学院時代の友人と飲み会の約束をしていた。

 しばらくすると、

「おひさー」「お待たせ」

と、男女二人組が姿を見せ、腰かけた。

「二人とも久しぶり。一緒に来たの?」

「来る途中で偶然見つけたの」

と赤髪の女、アケミが応えた。隣で微笑みながら頷く無駄に顔の良い男は恩鐘院・紙風という。

「リックはまだ来てないの?」

「あ、それならさっき連絡があって、仕事が長引きそうだから先始めてていいって。それともう一人連れてくるって言ってたけど、大丈夫?」

「いいんじゃない?じゃあ飲み物決めちゃいましょうか。紙風はどうせドクダミ茶でしょ?ラリー(*ローレンスの愛称)はどうする?」

「あー、麦酒にするよ」

「了解。あとなんか頼んどく?」

「茹で豆頼んどこうかな」

「拙僧はこの旨辛キュウリが気になる」

「ん。店員さーん!ピュレス12年(*ピュレス・アークラ醸造所の蒸留酒)ストレートと麦酒とドクダミ茶を一つずつと、旨辛キュウリと茹で豆と唐揚げ下さーい!」

「承りました~」

 獣人の女性店員が返事した。

 さて、注文の品が届くまで時間が空いたため、雑談を始めた3人。


「アケミは仕事どう?新聞の」

「サックアルマの方で新興宗教の取材。ほら、『新世界アカシック・ウェーブ教団』とかいうトコの」

「ああ、あれね。気を付けてよ?」

「大丈夫よ。冒険者のあんたより危険は少ないって」

「いやいや、宗教というものは中々恐ろしき力を秘めているもの。油断しない方がいいと思うが?」

「アンタに言われると洒落にならないんですけれど僧侶サマ!?」

「はっはっは」

「はっはっはじゃねえ!!そういうアンタはどうなのよ紙風!」

「拙僧は王都で日々修行と研究にいそしんでいるので、あまり危険はないとは思うぞ?用心はしているが」

「でしたね!!でもハイ・ラジール研学院も王国一の教育・研究機関で国家の中枢だからそれなりにきな臭い話もあるからね!!あと根詰めすぎないように、ちゃんと寝なさいね!!」

「ありがとう。充分気を付ける」

「真面目に返されると調子狂うんですけど…」

 そんなやり取りをしていると、

「すまねえ、遅れた!!」

と、現れた人影。巨大な虫のような頭部と8本の腕を持つ蜘蛛目人(ベム)

「お仕事お疲れー、リック」

「おう、もう始めっか?」

「飲み物注文しただけでまだだよ」

「そうか。酒入ってねえのにアケミは顔赤えな。どうしたー?」

「五月蠅い!赤ないわ!」

キシシ、と笑うリック。

「ところで、後ろの方は?」ローレンスがリックの後方に居る青髪の少女を指して問う。

「あー、すまんすまん。ハツ、自己紹介してくれっか」

 ハツと呼ばれた細身の少女は前に出て、

「…ども、タエナカ初鰹です。転生者?ってやつらしいです。よろです」

「何か昨日転生したばっからしくてな、イノシシやらシカやら撃ち殺しまくってたの俺が見つけて、しばらく世話係任されたっつー訳だ」

「ああ、それで遅れてきたの」

「そゆこと」

「だがリック。君は土木部ではなかったか?役人とは言え門外漢では?」

「それがよ、うちの管轄で転生者出現事例がなくって、人手もねえからって理由でとりあえず見つけた俺が担当することになったんだよ」

「ありゃりゃ、そりゃ大変」

「なー、ヒトデいねえからって蜘蛛でいいのかよー」

冗談を言い合う彼ら。すると、横から店員が

「お待たせしました~。麦酒、ピュレスのストレート、ドクダミ茶です」

飲み物を持ってきた。

「リック、初鰹さん、飲み物どうする?」

「俺キンキンに冷えた水!ハツはどうする?」

「あ~、じゃあ、面倒なので同じく水で」

「わかりました~、水です」

「早いなおい」

「まあ水だし」

「とりあえず始める?」

「そうだな」

「では、改めて」

「かんぱーい!」

 5人の男女の酒宴が始まった。

「遅れてしまったけれど、自己紹介するわ。私はアケミ・スピリタスフィア。サン・ジョートの新聞社で記者をしてる。よろしくね」

「拙僧は恩鐘院・紙風という。ハイ・ラジール研学院の学徒で僧侶だ。以後宜しく」

「あ、ローレンス・ササキです。『黄金の天秤』というギルドで、荷物持ちですが冒険者やってます。一応、祖父が転生者です。よろしくお願いします」 

各々がタエナカ初鰹に自己紹介した。

その後、この店の見た目微妙な魚パイが大変美味であることを発見したり、タエナカ初鰹がゲテモノゲロマズ酒を頼もうとしたので全力で止めたりしながら、楽しい時が過ぎていった。


「ちょっとトイレ行ってくる」

「ん」

ローレンスが席を外す。

「…まあ、なんだかんだ一番頑張ってるのはラリーだよな」

「そうよねー」

「そうなんですか?」

「ギルド『黄金の天秤』は結成2年でA級ダンジョンを攻略した有力ギルドだ。そこのメンバーってだけですげえ」

「はー、なるほどー」

「おめえ分かってねえだろ」

「A級ダンジョンがどのくらいのものなのか解らんので」

「あー、そっか、そうだな…。A級ダンジョン攻略したら、1年は楽して暮らせる」

「ほーお金持ちー」

「配分の仕方とか経費にもよるから一概には言えないがな。成功すりゃデカいのが冒険者だ。まあ危険も当然多いが」

「ではローレンスさんは相当実力をお持ちなのですね」

「………」

3人は目をそらし、押し黙った。

「あれ、そうではない?」

「いえね、実力がないというわけじゃないはずなんだけどね…」

「スキルがな…」

「スキル?」

「王国の民がそれぞれ固有に持つ技能や性質のことですよ」

「おめえも持ってるだろ、水の弾出すヤツ」

「ああこれですか」タエナカの周囲に水で構成された弾丸が出現した。

「そうそう、こっちに向けるのやめれ?」

「あ、すみません」言葉と共に弾丸は崩れ、水となってリックの頭に降り注ぐ。

「つめたっ!!」

「フフフ」

「おい確信犯」

「まあまあ、そのスキルがどうしたというんです?」

「…アイツもスキル、微妙なんだよ」

「微妙?」

「『人に木棒』っていうスキルでね。『木製の棒を所持している限り、様々な恩恵を受けられる』なんていう効果なのだけど…」

「それだけだと別に悪くないように聞こえますが」

「そうでもないんよ。『木製の棒を所持している限り』っつーことは、棒以外を使えないってことだ」

「ああ、剣や弓みたいな武器が使えないと」

「左様。レアで優秀な武器の大半が装備できないのはハンデだ」

「でも魔法職とかなら大丈夫なのでは?杖とか使えば」

「アイツ魔法ほとんど使えないんだよ」

「あらら」

「その上、『恩恵』もランダム発動で、使い勝手が悪い。損することはないが」

「棒使うのやめたらいいんじゃ?」

「スキルはアイデンティティだぜ?そう捨てられない。そもそもラリーは棒術上手いし」

「単純な武術だけなら、学院でも5本指には入っていただろうよ」

「でも攻撃力足りてなくてモンスター討伐には向いてないのよね…」

「冒険者向いてないんじゃ?」

「正直捕り物とかのが向いてる」

「そこまでして冒険者やる理由あるんです?」

「…まあ、アイツにも事情があるんだよ」

「事情…?」

などと話していると、ローレンスが戻ってきた。

「戻りました」

「おかえり、長かったね」

「ちょっと便秘気味で…」

「マジか。ストレス?」

「今度A級ダンジョンに挑戦するからさ、緊張してるのかも」

「それ先に言いなさいよ!!ほらもっと高い酒飲みなさい!!」

「そうだそうだ!今日はしっかり食って飲め!全部奢ってやるから!…紙風の金で」

「え」

なんだかんだで、騒がしい夜は過ぎていった。


そして1週間後。

ローレンスはギルドから追放された。


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