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宇宙便利屋シグレニ  作者: ユーカン
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3-2.

 皆が落ち着くのを待つ間に、彼女がお茶を淹れてくれた。同じ茶葉なのに、いつもよりおいしい気がする。

 お茶を飲み干し終わったところで、彼女が口を開いた。

「地球が滅びた、とはどういうことでしょうか」

「文字通りの意味よ。それこそ一般教養じゃないの?」

「申し訳ありません。勉強不足でした」

 彼女は深々と頭を下げる。

 どうでもいいことほど一般教養だとか言って知っている彼女が、こんな常識を知らないとは。

「申し訳ないついでで恐縮ですが、その辺りの事について教えていただけると助かるのですが。依頼の遂行に差し障りますので」

「そういうのって、パソコンとつないで情報をダウンロードできたりしないの?」

「試しましたが、規格が合いませんでした」

「ああ、そう……。まあ、せっかくだしお話ししてあげましょうか」

 レニはこほんと咳ばらいを一つ挟むと、ゆっくりと語りだした。


 現在から遡ること五百年ほど。西暦で言うと二一二七年。

 地球は何の前触れもなく闇に包まれた。太陽から突如として光が失われたのだ。

 当然、世界は混迷に陥った。月明かりすらない闇に何の準備もする間もなく突き落とされたのだから。

「太陽の寿命はまだ百億年以上あるはずですが」

「そうね。人類が地球に住めるという条件下でも何千万、何億とその光を湛えているはずだった」

 しかし、事実として光は降り注がない。太陽はなくなったわけではなく、そこに存在しつつも、全く観測できなくなっていた。そのため公転や重力バランスは乱れなかったが、そんなことは何の慰めにもならない。

 ただ、太陽光がなくなったからと言ってすぐに破滅が訪れるわけではない。温室効果ガスの効果によって、しばらくは気温が保たれる。

 しかし、その猶予はせいぜい一か月ほど。それを過ぎれば地球は凍り付き、とてもではないが人類どころか、生物の暮らせる星ではなくなる。

 地球人の宇宙航空技術は太陽系内の他の惑星に自由に航行できる程度には発展してはいたものの、太陽系を脱出できるほどではなかった。とても一か月でどうこうできるレベルにない。

 地球人のほとんどは、地球とその運命を共にすることを覚悟した。


 それから、半月程が経過した時だった。闇に覆われた地球に、外宇宙から使者が訪れた。彼らは、この天の川銀河で一番の規模を誇る国家、銀河連邦からの使者だと名乗った。

 彼らは、地球人より科学が発展しており、星系間を自由に航行する技術を既に持っていた。この滅びゆく惑星から、人類の全て、一定量の動植物を避難させるためにやって来たのだ。

 宇宙に別の知的生命体がいることすら知らなかった地球人は驚いた。だが、それ以上に喜んだ。安堵した。彼らが地球人とそう変わらない見た目をしていたのも大きかったが、とにかく、滅びるのを待つしかなかったところに、救いの手を差し伸べられたのだ。

 銀河連邦の手引きで手ごろな星に移動した彼らはそこに定住。地球人は故郷を失ったものの、再び繁栄と安寧を取り戻すことができた。

 しかし、喜ばしいことばかりでもなかった。太陽だけでなく、その周りのいくつかの恒星も間を置かずに光を失った。原因は解明されていない。単に寿命を見誤っていたとか、何らかの影響で重力バランスが乱れたことが原因だとか。あるいは、恒星が感染するウイルスのような物があるとかいうオカルト染みた迷信や、邪神が光を食べたなどというガチオカルト与太話まで出ている。

 銀河連邦政府は、太陽系を含めた一帯への立ち入りを禁止。真っ暗な闇に閉ざされた星系に立ち入るのはあまりに危険だからだ。それが原因を解明できない理由でもある。


「と、そんな訳で、簡単に地球に行くことはできないってこと」

 レニは語り終えると、残っていたお茶を一気に飲み干した。

「そんなことになっていたとは。驚きです」

 そう言いながらも、彼女の表情は変わらない。

「ですが、依頼の条件は変わりません。お受けいただけるでしょうか」

「そんなこと言われてもねえ……」

「先ほどのメッセージにもありましたが、前金で私がもらえますよ。手前味噌で恐縮ですが、私は相当優秀ですよ。戦闘能力はお見せした通り。その他にもお琴、お花、お茶。なんでもできます」

「なんでもの範囲がお見合いみたいになってるけど。でも……」

 ただ達成が困難な仕事の依頼であれば、いくらでも受ける。しかし、今回の地球行きというのは、現状困難という領域を明らかに超えている。明らかに最初から無理な仕事の依頼を、前金目当てで受けるというのはプライドに反する。


「しかし、なんじゃなあ」

 レニが熟考の谷に入り込もうとした時、師匠が切り出した。

「二人に地球行きの依頼が来るとは因果なもんじゃなあ。いや、依頼者が知っていたという事も考えられるか」

「どういうことでしょうか」

「こいつらはな。『地球人』なんじゃ」

「地球人……。その末裔という事でしょうか」

「いやいや。地球人の血を引くものならこの銀河中どこにでもいる」

 異性に避難した地球人には、安住の地と共に星系間航行の技術も供与された。無事に入植の住んだ彼らに沸き起こるのは、好奇心。冒険心。

 特にそれが旺盛な人達は、我先にと銀河中を飛び交った。

 この銀河には、地球人以外にも大勢の異星人がいる。その中でも知能を持った者は、大抵人間と同じような二足歩行で腕は二本。顔のつくりなんかもほとんど同じだった。中には獣のような風貌の物や、爬虫類のような鱗を持つ者もいたが。更に、地球人は彼らのほとんどと子を成すことができた。

 ……。実際に試してみた奴が先か、研究で分かったのが先かは知らないが。

 地球人の中には、王族や貴族などと名乗って地球人同士でのみ血を繋ぐことを目指している物もいるが、レニと時雨はそれでもない。

「レニと時雨は正真正銘、地球生まれじゃ」

「矛盾があるように感じます」

「じゃろうな。少し昔話になるがよいか」

 師匠の問いに、彼女はレニの方を見て、まだ目を瞑って鳴り続けていることを確認すると、深く頷いた。

「それでは始めるぞ」

 師匠は懐から拍子木を取り出すと、二回ほど音高く鳴らして、それから語りだした。紙芝居でも始める気か。

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