おれさまみあきさま!
「転校生の、五十嵐美亜希さんです。美亜希さーん!入ってきてください」
先生が俺を紹介する声がする。
一応、入っててやるか。
ガラリと言う音。この音、嫌いなんだよな。
「俺の名前は五十嵐美亜希。性別は女。ちゃんと名前覚えてなかったら、ぶっ殺すから」
自己紹介、こんなものでいいだろ・・・?
そうすると。
案の定、周りがザワザワし始めた。ったく、一人称が俺でなにがわりぃ!
「ちょっ・・・美亜希さん!なんてこと・・・」
「センコは黙ってろ」
でなきゃガツンと飛ばしてやるぞ?
先生をギロリと睨むと、なぜかおとなしくなる先生。
へぇ。ここの先生、おとなしいじゃん。ラッキー!サボれるし。
一応、自己紹介。
俺、五十嵐美亜希は問題児として全国の高校の先生に知られている名前だ。
転校なんて口実。実は学校から追い払われただけ。ていうか高校3年生で転校するヤツも少ないだろう。
もしかしたら気がついてる生徒もいるかもしれない。
とにかく犬のように――まるで、狂った犬を飼い主が追い払うように追い出された。
別に悲しいだなんて思ったことなんかない。どうせ俺は一匹狼だ。怖がられるしか才能が無い。本当の自分を曝け出しても、きっと好いてはくれないのだから。同じこと。
それに、嘘の自分だったら傷つかなくてもすむ。
本当の自分が嫌われるより、嘘の自分が嫌われたほうがいい――。
それでは早速。
「センコ、さぼっていいすか?」
「ちょっ・・・美亜希さん!そういうの、教師にいうことじゃありませんっっ!」
「あ?」
睨む。即終了ー。
そりゃさ。
俺だってなんか女の子っぽくしてみたりとか、可愛くぶりっ子してみたりとかしたけど、性に合わない。
だって俺だもん。
俺は美少年と言われたことがあるが、美少女と言われたことがない。
なんで生きてるのかとか、なんでここに居るのとか、そういうのもわかんない。
流石に美少年と言われるのは腹が立ったから、髪の毛は胸辺りまである。
まあ――この年になって美少年といわれたら最悪じゃないか。
一応というか・・・まあCは余裕にあるけど、胸あるし。
でも。傍から見て・・・ていうか、顔だけ見てみると、完全に男に間違えられる。
ああ―――。
サボる=屋上に来る
という俺の方程式。
それが崩れたことは、一回もない。
というか崩したくない。
ああ―――。
4年前に戻ってみたい。
中学3年生のあの時。
すべてが崩れ去ったのだ――。
☆
「ねぇねー、美亜希っ!」
「なに?操子ちゃん」
あたしは、耳の横からくるくると巻いた茶色の髪の毛をいじりながら返事する。
そうすると操子は。
「ったくー。恋愛ゲームするのもいい加減にすればあ?」
といって、ショートボブの髪の毛を揺らした。
思いつきは、あたしの一言。
『ねえねえー。どっちがモテるか、勝負しなあい?』
それを言ったのが中3の7月くらいだから・・・半年くらいたったのかな?
その言葉に操子が賛成してから。
あたしたちはどんどん男の子と絡んでいった。
学年中の男の子から美亜希と呼び捨てにされ、好きでもない男の子とHもした。
もちろん、女の子の友達は操子だけになっていった。
『キショい女』 『何あれ?ぶりっ子系?』 『いい加減にしろ。マジムカつく』
そしてあたしの“男で遊ぶ女"っていう噂は、どんどん尾ひれをつけて広がっていく。
100股してる最低な女。
こんな最高な称号も貰った。
でも、男の子たちから嫌われることはなかった。
何故なら―――。男の子たちから見て、あたしの躯はとても魅力的に映るのだろうから。
中学生の割に丸い曲線を描くあたしの躯は遊びがいがあるというものなのだろう。
あたしの奥にあるもの。
崇高な快感。
それを感じる度に、あたしの躯は狂っていき―――汚れていった。
たまに繁華街を歩くほど―――。
「みあちゃん、今夜一緒にあそばない?」
「いいわよ、理玖」
操子と話しこんでいる間に、あたしのお気に入りの理玖に呼ばれた。
気前よくオッケーし、操子を放って理玖とどこかにいく。
操子は大きくため息をついた。
「あんた・・・ほんと、狂っちゃうよ?」
操子は知っているのだ。男子に呼ばれない夜、美亜希は―――。
一人で、濡れているのだ。制服を着ながら。
「ごめん、待った?みあ」
「んーちょっとね」
くすりとわらう、あたし。
「んじゃ、いこうか」
あたし達が向かう先は、“ラブホ”。
年齢制限は全然厳しくないところが、近所にあるのだ。
「うっわ、こんなにキレイな部屋、あったんだ」
「今日は結構奮発したんだぜ?何しろお前の誕生日だからな!」
ああ・・・そうだった。理玖はちゃんと覚えてくれてたんだ。
「で?この白いうなじを貪って?甘いキスをして?そして甘い蜜をくれるんだよね?」
「なっ・・・なに言ってるのよお、理玖っ・・・あぁん!」
急にうなじをソロリと嘗められ、ぞくりとする。
ああ・・・そうか。こういう甘いところがあたしの好きなところなんだ。
「脱がさして・・・みあ」
「それは・・・駄目っ!!こらっ、言ってる端から!」
露になる、肌。
躯中を目で犯される。長いまつげに縁取られた目。それだけで、呼吸が荒くなる。
「はじめちゃうよ?」
そして、ひとつになる。
何もかもが幸せかと思った。だから――。
「理玖。理玖の好きなタイプ、教えて?」
あたしの大好きな、理玖。
お願い、あたしのような人って言って――――。
「男の子らしい人。でも遊んであげたら女の子っていうか嬌声が可愛い子。
ギャップがある子がいい・・・俺、そういう人、かなり萌えるっていうか。
なんていうか――彼女にしたいかも、そういう女」
なん・・・!!
じゃあ、なんであたしなんかと相手してたの??
いきそうになってた躯、急にしゅんとする。
なんで、甘い声で囁いてたりしたの・・・??
「・・・ごめん理玖」
「どーした、みあっ・・・!」
あたしが四つん這いの格好だったからだろう。
涙を流していたことに気づかず、吃驚する、理玖。
「――あたし、高校受験する。おんなじ高校になんか、行かないから。
理玖と、同じ高校になんか、行かないんだから!」
片思いだと知った今、一緒の高校だったら余計辛くなるだけ。
それならば――――。
「ごめんね、理玖。二度と会わないと思うけど、また縁があったら。」
ふっと笑う。あたしが変わる、合図。
「また、縁があったら遊ぼうね」
また、縁があれば――――。
☆
そして、ここに、俺―――あたしがいる。
汚れて、すごくきたない躯。
なんてバカなこと、しちゃったんだろうって。
別に、今は理玖のことが好きってわけじゃないんだけど、・・・なんていうかな・・・。
そう――これは、仕返し。
あたしで遊んだくせに、心は見向きもしていなかった。そんな理玖に、仕返し。
「・・・あれ?みあ?」
くるり。振り返ると、爽やかな笑顔が待っていた。
どこか懐かしい、この顔。誰だっけ―――。
「俺に、何か用?」
「懐かしいな。二度と、会えないと思っていたのに」
何、これ。あたしのこと、知ってるようないい様じゃない。
・・・・・・・・・・!!!!!
「理玖・・・?!」
また、新しい時刻が刻まれ始めた。