それぞれの休日。1
昨日は滅茶苦茶寒い思いしたんだが、まぁ、お陰様で今日一日オフになったんだ。エドとルー達はこの後も軍からの依頼で動いてたからちょっと長めの1日半で明後日出頭させられるんだと。
イヴァンとミサトちゃんは夫婦で屋久島で1日過ごすって言ってた。ちょっとの間だが生活してたから食材使い切って色々するって言ってたな。
エド達が何してるかなんて詮索した日には殺されそうだ。
アーク夫妻は沖縄行ってるんだ。新婚旅行には短いが、かみさん孝行するんだと。
まぁ、夫婦組は至って平常運転だよな。
んで。肝心の独身組な。あれから人数増えたから把握がなぁ。
まずは俺なんだが、現在、宮様に捕まっててさ。酒盛りしてんだわ。酒の肴は道中の事だったり、中身が乙女の実の子の事だったり。髭の殿下で滅茶苦茶ざっくばらんなお方だとは存じあげてたよ。民間人だったのに天変地異が原因で皇籍得ちゃったってお人で聞けばさ、俺の後輩なんだよ。まさか東大出てるとは思ってもみなかったさ。俺の3歳下って感じでさ。そんな有名人が通ってたら普通、目につくよなぁ。記憶に無いんだがって言うとさ。
「そりゃあ、当たり前だろうが。人に囲まれたらたまらんから教室に直接転送して貰ってたんだ。柏木にさ。」
「…………」
ああ、そうですかい。魔法で転送してたら見かけないか。普通。本当に魔法が上陸してから便利になったもんだ。正式名称は竹田宮寛仁親王殿下。皇位継承権は8番目。絶対に天皇になんてなる筈が無いと高を括っててさ。まぁ、好き勝手に生きてるって感じなんだが、風貌もあってか。この人誰にでも好かれるんだ。しかもな、皇族でありながら軍籍をお持ちで自力で大将位掴んでるんだ。災害がありゃあ、先陣切って駆けつけてくれるもんで民衆からの支持が圧倒的に高いんだ。
宮様はさ、自分でお酒を造られるんだ。それも米から丹念にな。今年の分はもう仕込んで間がないからまだ飲めないけど、去年の奴飲むか?って言って酒瓶開けてくれてな。それがまた飲み易くて篦棒に美味いんだ。ちびちびやっちゃいるんだが、まぁ、酒が進む。
「幸太郎は何で戦場カメラマンになんかなったんだ?政治学部出てるなら官僚で普通に生きていけただろうが。」
「まぁ、俺も最初はそのつもりで学校行ってたさ。でもな、ある日AIにヘコヘコ頭下げながら仕事してる自分を想像したらな。なんか馬鹿馬鹿しくなってな。人間らしく生きたいなって思う様になったんだ。戦場カメラマンになったのはたまたま第2次世界大戦を特集した展覧会見たのがきっかけかな。原爆の写真は本当に悲惨極まりなかった。そんな記録を残して後世に繋ぐ仕事。やりたいなぁって思ったんだ。カメラ自体は最初からデジタルしか持ってないから説明書読めば扱いは簡単だった。今はな、ジャーナリストになって良かったなって思うんだ。きっかけは確かにイヴァンだったが、お金で買えない財産。手に入れる事が出来たからなぁ。」
「お金で買えない財産かぁ。出来る事ならそんな自由な生き方したかったなぁ。」
「……………宮様?」
「忘れてくれ。単に無い物ねだりに過ぎん。皇族に復帰して民を守る義務を課せられた俺がどんなに望んでも出来ないのは重々承知してるんだ。」
「…………」
まぁ、人それぞれ色んな想いを抱えて生きてるからなぁ。知らない方が良い事だってあるんだ。きっとな。
僕はね、とある方の経歴書。閲覧させて頂いてるんだ。僕の妹で医者の泉と一緒にね。閲覧してるのが。
望月 麟太郎 って書かれてある経歴書なんだ。
風貌はね、確かにね筋骨隆々でさ。如何にも野郎なんだけど。口調はね、女性よりも色っぽいんだ。中身は完全なる女性。みんなとは合流して確かに日は浅いんだけどね。僕はこの方にはある病名がつきまとってるんじゃ無いかと疑ってかかってる。
性同一性障害。今の状態じゃ、彼女。精神的に相当辛い筈なんだよね。勿論、相談されてる訳じゃ無いんだ。だけど、辛そうな素振りなんて見せた事も無いんだ。女王陛下のお姉さんみたいなもので陛下も凄く懐いているんだよ。筋骨隆々の乙女がさ、可愛いエルフと仲良く話す姿には衝撃すら覚えたんだ。
僕は、興味を惹かれたんだ。まぁ、相談しようにもこのパーティーには実の父親まで参戦しているから説得するのはまず、父親の幸太郎さんからだろうな。とは思ってる。泉がさ。
「さっきからどうしたの?らしく無いわね。なんか悩みでもあるん?」
「…悩み。悩みなぁ。なぁ、泉。おまえ、この風貌で女性の言葉話すんだって言ったら信用するか?」
「えええっ!あり得ないでしょ。普通。何処かの応援団長みたいな風貌で。まさか。無い無い。」
「無いと思うだろう。普通。ところがな、紛れも無い事実なんだ。これが。」
「……………性同一性障害って事?だったらこんなに立派になってからじゃ遅すぎるって。」
「まぁ、その辺は色々事情があるんだろうけどね。僕どうにかして彼女の力になってあげたいとは思うんだけどね。彼女さ、物凄く家庭的で思慮深いんだ。絶対今の状態、精神的に辛い筈なのに弱音一つ吐かないんだ。女王陛下と話をしてる時は本当に仲の良い姉妹なんだ。あんな人いるんだなぁって思いはするが、いかんせん、筋骨隆々の乙女なのがなぁ。」
「樹兄さん。何だか段々頭痛くなって来たんだけど。ひょっとしてこの人に恋焦がれてたりするん?」
「…正直なところ自分でも意味不明な感情でね。どうしたものか。考えてばかりだよ。最初は、実家が飛びつきそう的な発想しか持っていなかった筈だったんだけどね。」
「…へえ、樹兄さんってあんな下手物が趣味だったんだ。救急センターの看護師さんが泣くね。兄さん、顔の作り良いのに。」
「ちょっと待って!泉。そういうのじゃないんだ!話聞けって!」
もうね、それから全然泉が話聞いてくれなくてね。実家にバラされたらどうしよう。って、戦々恐々な思いをする事になったんだよ。
昼休み中にお邪魔してただけなんで、仕事開始の合図が鳴れば当然だが追い払われたよ。こんなにのんびりするんは学生の頃以来かも知れないなぁ。で、宿舎に戻るんだが、途中の道中で見かけたんだ。
真剣片手に子供達と鍛錬してるリンちゃんと、剣の最終仕上げで絶賛観察中のバイソンさんだ。バイソンさん、僕に気がついて手招きしてくれたんだ。僕は快く応じる事にした。
ピール君が持つのは身長に合わせて作られた両手剣。アークさんの持つ魔剣シルフィードを小型化した様なデザインだ。一方、モハメド君が持つのはモンハンと言うゲームで言う所のガンランスって感じになってた。剣先からビームライフル銃みたく細切れしたレーザーが出て装填する事も弾切れする事もないんだ。役割が完全に別れてるんだ。主従関係で。攻撃担当はピール君。防御担当はモハメド君ってはっきりと。
練習中も凄く息がぴったりでね。剣聖殿が毎日欠かさず練習見てるからか、随分と上達してるんだ。ただ、彼等はこの面々で最年少の10歳。なんで、今後成長しても設え直す必要が無い様に魔力が篭ってる魔鉄と賢者の石を使って作られているんだ。知らなかったんだけど、このバイソンさん。天変地異以前から生きてる人で、異世界にいる頃から魔剣すら生み出す最高峰の匠として知られてて、剣の道を志す人には垂涎の品を作るんだそうだが、気に入った人の武器しか作らない事で有名なんだ。当然、彼の作る品はかなりの希少品で使ってた人によって付加価値すらつき、廉価品でさえも鬼の様に高いが、その代わり壊れる事も無い。なんで旅先で彼を見かけたらかなりラッキーなんだそうだ。
今は亡くなった友人。ジークフリート様の遺言でこのメンバーに付きっ切りなんだ。そんな彼が突然。
「なぁ、あの子供達をどう思う?」
なんて聞き出すんだ。先日、彼等は家族と故郷を失ったばかりだ。練習中とは言え、彼等から見えるのは復讐への意欲だ。確かに、昨日、謝っていたよ。だけど、きっとそれだけじゃどうにもならない感情に支配されてる気がしてならない。
「…僕の正直な感想言って良いですか?」
「ああ、構わねぇよ。」
「彼等に必要なのは武器じゃなくてカウンセリングだと思うんです。確かに昨日は謝ってましたけど、彼等の心の傷は相当深いんだ。僕もアプローチしたいですね。精神科医じゃ無いから何処まで出来るか分かりませんが。」
「成る程なぁ。アークはあの子達の意思を汲んで教えてはいるさ。だけど、あの子達の憎しみは消えやせん。喪失感はもっとだろうな。そんな彼等が一体、誰に癒しを求めるか。想像つくか?」
僕は恐ろしい事を思いついてしまったよ。まず、アメリアさんはあり得ない。彼等の両親を奪う原因には結果的になってしまっているから。懐いてた陛下も一時錯乱してた位だ。彼等の事を構ってる余裕は無い。色んな人を思い起こして推察したが。思い当たる節が無い事に気がついて。
「……………もしかして、彼等自身で何とかしてるんだったら大問題なんじゃ。」
「そうなんじゃ。あの子達、出会ってから今までもずっと一緒なんじゃ。王子と従者。それが、お互いの両親が亡くなって以降、お互いの名前を呼ぶ様になってるんだ。最初はそれさえ微笑ましいと思ってたんじゃが、先日、見てはならないものを偶然見つけてしもうてな。まぁ、原因は分かってるんだ。文化の違いって言えばそこまでなんだが新婚夫婦、いつも一緒だろう?賢者の石を持って生まれたかみさん守りたいから同席させるんだが、挨拶交わすのに身長差あるから抱き上げてからキスしているんだ。鍛錬終わったらな。それを真似してるんだろうな。見てしまったんじゃ。あの子達のキスしてるところじゃ。見たのはワシだけじゃが、リンちゃんと相談してな。樹先生。どうか、あの子達の力になってくれんじゃろうか?」
「……………正直、僕精神科医じゃないんで何処まで出来るか分かりませんが、やってみます。」
そう、完全な安請け合いなのは充分承知していたんだが、僕には無視する選択肢なんて最初から無かったんだ。




