召集令状。5
辺り一面視界が一切無くなった。夜になって吹雪いて来たのだ。店の明かりは残念ながら見当たらなかった。私に出来ることは、一旦、みんなには戻ってもらって私一人だけ吹雪の中作業して車に取り残されてる人を転送して、車を退かして再凍結しないよう、雪が行方を遮らぬ様に処置を施す事だけだ。京都方面に行く道は雪を退かせば抜けられたので、京都方面通れますって言えば良かったが、青森方面は残念ながら通行の目処すらたたない。なので、多少遠くても一時的に魚八さんまで飛んで頂くしか無い。
また1台出して。
「こんばんわ、京都方面は開通してますのでそのままお進みください。」
「お嬢さん、ありがとう。」
そう言って車を走らせて去っていくんだ。京都方面ならね。ただ、青森方面向いて進んでいた人は雪を取り除いても進めないとあって。避難先が遠ければ遠い程諦めて車の中で過ごす方が多かった。電話は鳴ってた。イヴァンが猛吹雪の中の作業を心配しての事だ。辺りは真っ暗だ。豪雪が強いエリア一帯停電しているんだ。途中で、綺麗な道に辿り着くと、ああ、ルーちゃんも頑張ってるんだって勇気が湧いてくるんだ。光を纏って飛びながらの作業だ。一台一台。妖精達と精霊王フラウディアの力を行使し続けた。春の妖精だけにこんな真冬の中にいても少し暖かく感じるんだ。そんな中。
一台の車が猛スピードで突如、突っ込んで来たんだ。慌てて上空に避けて私は難を逃れたが、スポーツカーと思われる車はスリップして救助中の車列に突っ込んで来たんだ。災害派兵用に開けてた筈の中央部を堂々と進んで来たのだ。罪を犯す=追放の概念がある日本でこんな非常識な事をする人がいるとは考えにくい。とすればこれは。
私は、イヴァンとアークさんを召喚したんだ。女王として魔法で召喚したんだ。車から何か異質な人々が出て来たんだ。鉄パイプ持って。下品な笑い声しながら、完全にハイになってるんだ。
幸い、余程心配してたのか。直ぐに二人とも駆けつけてくれたんだ。
「剣聖アークに命じます。不埒者を排除しなさい!但し、殺してはなりません。イヴァンに命じます。直ちに警察に通報なさい。怪我人の規模も今は分かりません。位置情報を送って救急車の手配も合わせてするのです!」
「「御意!」」
アークさんは宝玉からシルフィードを取り出したんだ。そして。
「シルフィード、女王陛下の命だ。殺すなとの仰せだ。」
「了解っ!」
私は二人に祝福を与えたのと同時に一瞬で不埒者達を倒し切ったのだ。5人いたのに本当に一瞬だった。
シルフィードが宝玉に仕舞われ、アークさんは私に跪いた。私はそこは冷たいからと立って貰った。イヴァンも警察に連絡すれば直ぐに来て貰えた。救急車もだ。簡単な事情聴取も受けた。襲われた人物達に面識が無い事も。ただ、ニュースとして情報が流れない以上、私がここに居る事は知らないはずで…
結局、この件の捜査は警察に任せて除雪作業する事になったが、これが原因で除雪が遅れて重篤者が出る事になったんだ。広々とした駐車場の雪を退かして結界を張って日本国軍から医療チームの派遣をお願いした。すると、ルーちゃんが連絡を受けて飛ばしてくれたんだろう。医療師団と書かれた日本国軍の兵士達が一斉に私の前に現れて、先頭に立つ女性が挨拶にみえられたんだ。
「はじめまして。エルフの女王陛下。私は、日本国軍第2医療師団、師団長で医師の勅使河原 泉と申します。そちらでご厄介になってる勅使河原 樹は私の一番上の兄に当たります。いつも兄がお世話になってます。」
「こちらこそ、お兄様には色々助けていただいてます。心からの謝意を。今、呼びますね。」
そう言って、私は魔法で召喚したんだ。勅使河原先生を。最初、何が起こったか分からなかった様だけど、事情を話せば、直ぐに来てくれたんだ。ただ、お二人とも勅使河原先生なんで下の名前で呼ばせて頂く事にしたんだ。
「泉?おまえ迄呼ばれたんか。」
「お久しぶり、樹お兄ちゃん。実は私も月に従軍決まってね。準備してたんだけど、急遽此方への災害派兵命じられたんだ。申し訳無いけど日本最高峰のお兄ちゃんの力が必要なんだ。悪いけど、手伝ってくれる?」
「…そりゃあ、良いよ。手伝うんだが、親父とお袋。相当文句言ってなかったか?」
「勿論、文句言ってたけどね。今は人命救助が優先だからその話は終わってからね。」
「はいはい。」
何でも、ご実家は美容整形医院を細々やってるんだって。だけど、DNAの段階で顔が弄れる現代では実際に生まれてから、本人が大きくなって不具合が出た場合に受けるケースが多くてお陰様で儲かってるそうだが、肝心の長男である樹先生はこっちの方が向いているからって理由で救命救急医になってしまい、実家は次男と三男さんがお父さんとお母さんと一緒に運営しているそうで。で、唯一の娘だった泉先生も医者になったんだけど、此方は災害派兵に従事する日本国軍の姿に感動して志願して軍籍になり、着々とキャリアを積んでるんだそうだ。
此処からは、スピードアップした。事態を重く見て、イヴァンもアークさんも私の護衛名目で居残りそのまま参加。京都から駆けつけた日本陸軍災害派兵師団も合流してくれたんだ。この部隊、実はローグフェルグでの災害派兵を命じられて一緒に働いた事があったから顔見知りが多くてね。私はただ、魔法を行使していれば良かったんだ。吹雪いて相変わらず視界殆ど無かったけどね。
新潟県の中央部に到達した頃には朝だったよ。ルーちゃんとも合流を果たしたんだ。空の上で抱き合って再会喜んでる所に朝日が昇ってね。
「…綺麗ですよね、陛下。」
「うん、やり切った感するよ。お疲れ様、ルーちゃん。」
「お疲れ様でした、僕の女王陛下。」
そう言って、私の手を取って接吻したんだ。周りが見惚れて居る位、幻想的だったんだって。結局、エドが連絡取った所、お陰様でそちらの除雪も完了したとの事で無事、私はお役御免となって種子島への帰投を命じられてエドとルーちゃんを除いた全員で飛空挺に乗って帰る事になったんだ。
元を正せば、イヴァンが運命に抗いたい一心で逃亡を図ってた筈だったんだ。だけど、どうも神様は天候すら逆手にとって思わぬ幸運をもたらした様なんだ。種子島に戻った私達に待っていたのは感謝状と勲章授与式で。今回の件を受けて私達に陸軍第13強襲部隊が私達のパーティーに正式配備する形になってしまったんだ。で、待っていたのは1日の休養ってご褒美で。結局、処罰?なにそれ美味しいの?って感じになっちゃったのは言うまでもなく、イヴァンとも。
「こんな筈じゃなかったんだけどなぁ…………」
「…………」
って話してさ。結局、屋久島に戻って食材すっからかんにすべくイヴァンはピロシキ作りまくってアイテムバックに入れてたよ。私は寒かっただろうからと長風呂楽しんで。限られた時間が余りにも惜しくて風呂場に小部屋出してさ、外は5分、中身は心ゆくまでってアバウトな状態でギリギリまで二人で愛し合って、今度はちゃんと種子島宇宙センターに行ったんだ。確かに赤紙来て徴兵されたけど、イヴァンにはやらないといけない事があったから直ぐに発進って訳でも無かったんだそうだ。
僕とルーは一行と別れたんだ。一時的にね。理由はルーの千里眼。僕は護衛って感じだね。本来、軍籍ある僕たちに護衛なんて必要無いんだけどそこは僕たちが夫婦だったから気を利かせて夫婦で呼んでくれた様なんだ。日本国軍の案内でそれぞれの県の災害本部に赴いてルーは千里眼を行使して被害状況を知らせてそれぞれ軍を派兵して回ったんだ。それでも死者の数聞いたら福島県じゃ死者0だったが他の5県で総勢59名の死者が出てた。その殆どが山あいで大量の雪に民家ごと雪崩に巻き込まれてって事案で、石川ではミサト様を狙って突っ込んだ事故での死者も10名。足される事になったんだ。
「いつの時代でも、文明が進化を遂げても、自然の脅威の前には人間もエルフも無力なんだって。いつもそう。思い知らされるんだ。救える命があれば、救いたかった…………」
最後に回った青森県の災害本部から県庁出て直ぐにそう言ってルーは泣き崩れてしまったんだ。僕に出来るのは青森県庁の玄関先だったから通り道の邪魔にならない様に隅の方に抱き寄せてな。僕より気持ち高いルーの頭を撫でながら、今度生まれる我が子が二人とも千里眼持ちであります様にと願う事だけだったんだ。
衛兵達もさり気なく立ち位置変えてくれて、本当にありがたかった。
ルーも落ち着いた所で種子島の方に連絡入れたんだ。そしたら休暇1日取るように言われたんだ。正確には1日半か。僕たち二人追加で仕事したものだから、明後日0800までに種子島宇宙センターに出頭すれば良いと言われたんだ。僕は言ったよ。耳元で。
「明後日0800に種子島宇宙センターに出頭命令だ。その間、少し休養を取るが良いとのお達しだ。ルーの行きたい場所に連れて行くが良い。」
そう言って、ルーを促すとルーはちゃっかり自分の家に招いてくれたんだ。甘い時間をご所望の様だったよ。




