イヴァン奪還作戦。2
船は闇世の中進み続けた。エンジンの中に人が入る様に改装されて、魔力を放出するだけで動く様になってたんだ。今回の動力源は魔王様。流石にイヴァン博士はこの事態を予測していたのか。民間人以外は全員このエリアにいた。中央は艦長席。ここからも操縦出来る様になっているが、今回の操縦はルーが受け持っている。サブパイロット席はマーク。通信官は志願したピール君が。お隣にはモハメド君もセットだ。レーダー管制担当はリンちゃん。残りの4名は余りだが、僕たちが出陣すれば各々が代わりの部署を担当することにした。この飛空挺自体には攻撃できる様な物は一切付いてないが、ナスターシャ(引きこもり)の魔法が炸裂する事請け合いだ。機関室の動力エンジン内にもモニターが360度展開されており、敵側と認識したものを追尾魔法で確実に撃ち落とせる仕様にはしてくれた様だ。艦長席の横にはアークさんが詰めていた。
「イヴァン…………」
心配そうにそう呟いた。幼馴染からすれば、相談しろよ。って文句の一つも言いたかっただろう。だけど、今回彼もいなかった。僕たちもだ。幸太郎さんに聞けば。
「アークの結婚写真の件で会ったのが最後だ。もう、その頃には様子がおかしかったんだ。あの時聞いてやりさえすれば…………」
つまりは、アークの結婚式の前には既に接触してた事になるんだ。本人自体も憔悴仕切った所でのお誘い。普段のイヴァン博士なら罠を疑ってかかるからこんな軽率な事はなさらない。だが、日に日に雰囲気が悪くなって二進も三進もいかなくて。これ以上は無理って追い詰められたんだ。悩む時は悩むが、いざ、決断すると驚くほど早い。この飛空挺の戦艦化もそんな経緯で生み出されていたのかもしれない。
時刻は2300を指した。無事、台湾領海内に到着した。既に世界政府の周知がなされているからか。台湾領海内は明かり一つない。完全な闇夜だ。僕たちの飛空挺が霞む程の大きな飛行空母が僕たちの船を収納してくれた。僕たちは一時的に第五艦隊の指揮下に入る。但し、民間人は降りられない。ナスターシャは船内のエンジンルームで待機。但し、魔法は撃って良いとルーは指示を与えてた。当然だが、幸太郎さん達も却下だ。そんな訳で、合流出来るのは僕、ルー、アークさん、リンちゃんのわずか4名。って訳なんだ。
甲板に降り立つと、兵士達が敬礼で出迎え、僕たちは返礼を返した。兵士達の案内でやって来たのは飛行空母みさわの大会議室だ。そこには飛行戦艦の艦長達が6名揃ってた。真田将軍と僕たちって面々だ。日本軍の主力兵器は皆AIが統括するので、飛行空母でさえ最大乗組員が5名。戦艦クラスで3名と人間の乗組員が非常に少ない。その上、被弾を殆どしないとあって世界政府で最強と謳われる軍隊で知られているんだ。僕は紹介を受け、それぞれの艦長達とも握手を交わした。昔の日本軍は殆ど日本人だったが、移民が進んでグローバル化するにつれて現在では多国籍軍の様相を呈しているんだ。
作戦内容はこうだ。戦闘機軍団を戦艦6隻とみさわが担当。僕たちの船が宇宙空母アジェンダの上空まで魔法をフルバフした状態で僕たち4名を下ろしてから離脱。飛空挺ミサトはそのまま攻撃参加。僕たちは機関室まで制圧してイヴァン博士を救出後、ルーの魔法で緊急離脱を図ると言うものだ。僕たちも了承した。お互いの無事を祈って盃が配られた。お酒に弱いルーの為に盃で配られたのがノンアルコールのビールだったのが笑えたが、パンって一斉に叩きつけて割って気合を入れて。
「0100時に全軍一斉に作戦を開始する!コードネームは『因幡の白兎』だ。月から来た白兎共にお帰り頂こう!手痛いしっぺ返しと共にな!それでは全軍一斉に戦闘準備を整えよ!準備が出来た戦艦から返答せよ!」
全軍を統括する真田将軍の号令が一斉にかかった。僕たちは甲板に待機だったからインカム全員付けてて、僕はピール君に準備が整った事を伝える様に言ったんだが丁度、3番手だったみたいで。
「飛空挺ミサト、戦闘準備完了しました!」
「おお、偉い可愛い通信士じゃな。お前ら。孫に負けておるぞ!孫にw」
そう言って大笑いだ。決して嫌味ではない。人柄が出ていると言うか。僕が時計を見るともうすぐ時刻が来る。宇宙空母アジェンダがどうも様子がおかしい。時々点滅してるが、先走ってる軍はこちらにはいない。嫌な予感がした。もし、陛下がイヴァン博士の異変に気がついた?そう思って聞いてみようとしたら。
「全軍突撃せよ!」
既に全艦フルバフつけてたから一斉に突撃した。宇宙空母アジェンダも飛行機出撃させたり撃ち墜とそうと攻撃を仕掛けてくるが、戦闘型AIの指向が人力のそれよりも早く、無力化していくんだ。戦艦達が開いた血路が見えた。僕たちも行動開始だ。インカムから。
「飛空挺ミサト、突撃せよ!」
と、指示を出した。ルーがシールドとリフレクトをかけ、妖精魔法系の補助も書き足した。位置捕捉魔法と地形表示魔法だ。なんで人工物の船内と思うかもしれないが、それを無理矢理やっちゃう人がいるから説明の仕様がない。アジェンダの真上に到達して、リンちゃん、アークさん、僕、ルーの順番で次々と飛び降りて作戦を開始した。降りる直前に、ルーが船内全域を指定して。
「ライトニング ボルテックス!」
って詠唱した途端に、大きな雷が直撃して船全体を黒焦げにして、アジェンダは沈黙した。アークは思わず。
「これ、俺たち出番ないな。さっきのルーの魔法でみんな黒焦げなんだし。」
そう言いながら進軍を開始した。海からぷかぷかって魚が次々と浮いているからどうして初手雷系魔法を撃ったか聞いたら。
「それが、陛下。いるんですよね。多分、イヴァン博士。全部の手足の指折られているから拷問してる内に異変察知したかもしれないんだ。咄嗟に機関室だけ外しましたが、念の為に警戒お願いします。」
「了解。流石にバレたか。先頭は俺が行く。」
みんな一斉に返事を返してから行動を開始した。流石に船内には生存してる敵兵もいたが、一部屋一部屋クリーンにしながら最奥の機関室に真っ直ぐ駆け下りたんだ。どんどん降りて行くと、女性の啜り声が聞こえて来たんだ。みんな確信したんだ。ミサト様がいらっしゃるって。そして、僕たちは目撃したんだ、機関室で。
屍が転がりまくっている機関室の最奥で、もう、魔力が枯渇してしまっているのに、何度もヒールウォーターとリザレクションを唱え続けるミサト様の姿だ。イヴァン博士は一目で死亡してるのが分かる状態だった。僕は冷静にインカムで連絡を取った。ルーはヒールウォーターを何度も詠唱してイヴァン博士を全回復まで持っていってた。
「こちらエド。作戦は成功。要救助者2名を保護。イヴァン博士は危篤状態。大至急帰投する。宇宙空母アジェンダ、乗組員全員の死亡を確認。回収後、即時破壊を要請する。」
「ご苦労だった。エドワード中将。帰投を許可する。」
「はっ!ルー、みさわに帰投するよ。」
「了解、陛下は僕が。アークはイヴァン博士をお願い。転移!」
次の瞬間、僕たちが戻ってきたのは飛行空母みさわの大会議室内だ。連絡を受けて、先にイヴァン博士が真っ先に運ばれた。ルーが運んでたミサト様に気がついて、目の状態を見たりして。どうもみさわには要救助者がいると分かっていたから医療スタッフが予め乗っていた様なんだ。先生らしき人はルーに質問してた。
「君がルーベルト君か。この子、エルフの女王陛下だよね。どうしてアジェンダにいたんだい?」
「はい、陛下は、精神的ショックの為にオーストリアのシドニー総合病院に緊急入院してました。ご飯が食べられなくなって、魔力枯渇を起こしまして。ですが、誓約の腕輪の効果でイヴァン博士の危険を察知してしまい、それで…………」
「アジェンダの乗組員の殆どが彼女の刀による傷で命を落としていたのは間違いありません。ですが。」
「まぁ、言わんとする事は分かる。みんな、アジェンダの異変は知ってるからな。だけど、魔法は万能じゃないだろう。その事を一番分かってるのは導師である君じゃないのかね。ルーベルト君。」
「…はい。あなた様の仰る通りです。あの、もしやイヴァン博士に重大な異変が起こると言うのですか?」
「ああ、この子を守る為に盾になったんだろうな。自分の命すら顧みず。今から緊急手術を行う。穴の空いた臓器だけを先に生成してから移植する手術になる。だけど、臓器を一から作るとなると最低1週間はかかる。その間は人口臓器で生かすことになるんだが駄目になってる部分が心臓と肺だ。医療用AI。しかも大病院規模じゃないと無理なんだ。そこまでの怪我を誰が予測すると思うか?普通。しかも、無傷を誇る日本国軍でだ。真田将軍には最速で日本に向かって貰うが、諦めて貰わないといけないものがある事だけを先に伝えておくよ。心臓と肺をやられた都合上、激しい運動は諦めて貰わないとダメだ。前線で戦闘なんて絶対に行かせちゃいけない。何故なら、破損した臓器から再生したから必然的に強度が落ちるんだ。もう一つは記憶だ。頭脳にも当然、酸素を供給してるが、一時的に死亡してた人を蘇生させるにはリスクが伴う。死亡してた時間、酸素が供給されないからね。幸いなのは、死亡してからそれ程経ってなかった点だが、それでも記憶障害が必ず起こる。覚悟しておいてくれ。現代の医療でも、記憶の再生は不可能だ。」
「失礼ですが、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「ああ、名乗るのが遅くなったね。僕は救命救急センターから派遣された勅使河原 樹。医者だ。専門は脳神経外科だが、これでもセンター1のトップナイフだったもんで今回の作戦に同行する事になったんだ。暫く予断を許さない状態続くけどね。二人とも。だけど必ず救ってみせるから。」
「……………よろしくお願いする。勅使河原先生。」
確かに、作戦自体は成功したかもしれなかったが、僕たちは到底喜ぶ気分になどなれず。日本に二人とも緊急搬送されてミサト様は面会謝絶となり、イヴァン博士は集中治療室送りになって。二人ともガラス越しじゃないと会えなくなってしまったんだ。




