王の資質。2
気がつけば、病院だったよ。点滴、繋がれてた。横を見れば、泣きそうな顔をしてるイヴァンとその横で今後に備えて魔力供与のレクチャーしているルーちゃんがいたよ。
「騒がしくしてごめん。気がついた?重度の栄養失調だってね。10日も飲まず食わずって。普通なら死ぬんだよ。そんな事したら。自分が一体何したか。イヴァン博士が多忙極めてる間ずっとあなたを心配してたか分かる?事情ならジーク様にも直接聞いたから知ってるよ。でも、目の前のお人はジーク様じゃ無いでしょうが。別れるにしても、続けるにしてもちゃんと良く二人で話し合いなよ。僕は、エドの事気になるから一旦帰るけど、ちょくちょく様子は見に行くつもりだから。じゃあね。」
捨て台詞を残してルーちゃんは魔法詠唱してさっと消えてった。イヴァンが。
「関係。解消しようか。」
なんて突然言い始めたんだ。私は大きく目を見開いた。しまった。って思った。ここの所引きこもってた。お祖父様だと思ってたお人が実は父親だったって分かって。イヴァンの中には父がいる。そう思ったら心から好きで好きでたまらない人なのに抱かれるのに嫌悪感が出てきて拒否したんだ。イヴァンは勘が鋭いから何かあると踏んだんだ。そしてそれがとうとうバレたんだ。でも、関係を解消した日には。
イヴァンの自殺願望を止める人が全く居なくなると言う事に他ならない。だけど。優しいから。
「俺に無理に付き合う必要はねぇんだぜ。」
って言われてしまったんだ。
「俺はミサトに心底惚れ込んでるのになぁ。今回ばかりは爺さんを恨むさ。何が悲しくて、こんな事になったんだろうなぁ。今は、俺の顔を見るのすら辛いんじゃ無いのか?」
「私は…………」
「……………やっぱ俺じゃ、お前は尊すぎて不釣り合いだったんだよ。この席は俺がいるべき場所じゃないから返上するさ。爺さんには悪いが、俺はミサトを傷つけまで一緒にいたい訳じゃ無いんだ。」
イヴァンが何やら呪詛を唱えてた。すると、イヴァンの周りを描いてた魔法陣が沢山現れたがそれが悉く割れてしまった。イヴァンに付加されてた恩恵が全て消えてしまったんだ。イヴァンは恐らくルーちゃんに電話かけたんだろう。
「……………ああ、用事済んだから帰る。エンジン開発、まだ終わってないからな。忙しいのに悪いな。…んじゃ、宜しく頼む。」
そう言って、電話を切ってから。
「ゆっくり養生して下さい。女王陛下。体調が回復なさいましたらお迎えにあがります。それでは失礼します。」
そう言って、一方的に言い放ってそのまま姿を消してしまった。私もイヴァンのこと好きなのに。どうしてこうなってしまったのか。他人行儀な最後の言葉が悲しすぎて。何一つ話せなかったのが辛くて。ただただ泣く事しか出来なかった。
そんな事とはつゆ知らず。僕はピール君、モハメド君、リンちゃんと一緒に家宅捜索中の警察庁に出向いていたんだ。ピール君の目の上は投石が命中して腫れ上がってて。でも、ヒールで回復するのを拒否したんだ。彼は。何でも。
「僕はアメリアさんやアレスタさんに向けた同じ感情を国民の手でこの身に受けるとは思わなかったんだ。僕は、何故国民に憎しみの感情を向けられるのか。知る必要があるんだ。」
やはりね、伊達に天才って謳われてた訳では無かったよ。ちゃんと現実に向き合おうとしているんだ。
リンちゃんが身分証明書を提示すれば、中に入るのは意外とすんなり入れた。リンちゃんがかなりやり手なお陰もあるのか。何の障害もなく最上階の警察庁長官室まで辿り着き、関係書類を閲覧することが出来たんだ。ピールも驚いてた。マフィアが来るより以前。30年近く前から賄賂を貰ってて、その蜜月ぶりを示す書類がわんさか出たんだ。それも、歴代ずっと続いてたんだ。賄賂の見返りに若い男女を拉致するのを黙認したり、不正を暴こうとした正義感の強い刑事が秘密裏に殺されてたり。一つ一つ精査していったんだ。でも、僕には謎が一つ浮かんだんだ。確かに民衆が怒る理由があるのは分かるが、イギリスの時のように事態が逼迫していないんだ。僕とルーはティファニーで買い物をしていた位だ。僕はイギリス空軍に連絡を入れる事にした。
「もしもし。エドワード空軍大佐である。ケインズ准将に大至急繋いで頂きたい。」
まぁ、僕が皇太子だったりなんかするからすぐに出てくれるんだけどね。
「もしもし、御用件をお伺い致します。皇太子殿下。」
「申し訳ないが、空軍大佐として許可を取りたい。僕とルーの戦闘機はあるか?」
「それでは、わたくし目も准将の立場として言わせていただきます。そんな物を何に使う?勘がするって理由では出せれん。戦闘機は私物では無い。国民の税金で賄われる守りの要であるのは重々承知しているであろう?エドワード大佐。」
「勿論、承知しております。ならば、イヴァン博士に重大な事態が起こっている。詳細は追って報せる。」
一瞬みんながギョッとした顔をしたが、そんな物は知らん。すると。
「ニュースにすらなってないって事はやはり予見なんですね。大佐。アルジャジーラの一件。不審な点があったと見て間違いないんでしょうな。」
「はっ!アルジャジーラでは壊滅状態であったのにメルツに殆どダメージが無い事から推察しますが、アルジャジーラが壊滅したのには他に思惑があっての事かと。それが証拠に、どの家にも家捜しした形跡があり、見覚えのない物が落ちてました。今のアルジャジーラ、メルツは先日の一件で警察組織が壊滅しており、これを大々的に報道されております。それ故に、月のスパイがイヴァン博士を拉致しても十分に逃げられる体制になってしまってます。」
「…こちらで準備はするが、報告書と引き換えだ。ただし、イヴァン博士の安全が最優先なのは言うまでもない。何か異変があればすぐに報せるが良い。」
「はっ!お時間頂きありがとうございます。」
そう言って電話を切ったが、先程の話はどうやらみんな聞いていたようで。
「何かあってからでは対応が遅すぎるんだがな。」
「ちょっと!イヴァン博士が狙われるって本当なの?エド。」
「ああ、逆の立場で考えれば見えてくるんだ。今程接触しやすい好機なんて無いんだよ。しかも、他の物は焼け落ちているのに伊織様の遺書だけ無傷なんだ。こんな都合の良い事があると思うかい?」
「じゃあ、父上様と母上様が亡くなられたのは…………」
「まず、一つは月の生命維持装置を乗っ取るのに使った最新鋭AIエロの奪取とイヴァン博士そのもの。もう一つは君自身の暗殺って事なんだ。ピール君。例え、エロを月の工作員が奪取したとしてもだ。地球から楽々システムに関与出来る君の存在ほど邪魔な者は無いんだよ。そして、マフィアの一連の奴もお膳立てとして利用されているとしたら僕たち勇者一行は空中分解の危機になってる事自体が既に筒抜けで何者かがイヴァン博士が接触して。現状では戦えないって判断してたらみんなの命の保全と引き換えにしてでも取引に応じる可能性があるんだ。帰って来て話し合いしてる時点で既に様子がおかしかったんだ。気がつくのが遅すぎた。後、2、3日早く帰ってさえいれば…………」
「じゃあ、僕の代わりに殺されたのか!父上様と母上様は!」
「そう言う事になる。だが、泣いてる暇はないんだ。陛下も、君もだ!イヴァン博士が月に連行されてしまってからでは遅いんだ。恐らく、多くの民衆の前で処刑されてしまう。そうなれば、月の軍事政権を止められる人はいなくなってしまうんだ。勝つのは僕たちかもしれないけど、一般の月の民を保護出来なかった時点で僕たちの負けになるんだよ。イヴァン博士は一般の月の民にしてみれば救世主そのものなんだ。何があっても手放すものか!」
「……………分かったわ、エド。ワタシも生憎だけど諦めが悪いのよ。父親の遺伝子が濃すぎたのよね。きっと。最善を尽くさせてもらうわ。指示を頂戴。イギリスを納得させる書類。ワタシが用意して差し上げるわ。」
「ありがとう、リンちゃん。では、アルジャジーラの捜索した資料の中に月の工作員の落し物が無いか大至急探し出してくれるか。」
「お安い御用よ。」
そう言って、リンちゃんは指示を出して捜査員たちを動かし出した。そして、眠れる獅子が目覚めたんだ。
「……………モハメド。僕のパソコン出して欲しい。エロからイヴァンの居場所を探す。」
「了解!」
ピール君の指示に従ってモハメド君はテキパキとパソコンを準備した。起動を確認してから席をピール君に譲ったんだ。画面は3つも4つも開いていた。世界地図が開いたと思ったらエロの場所を見つけるまでがものの数秒だった。更に地図を絞り込むと住所まで特定出来てしまうんだ。末恐ろしい子供だなって思った。
「オーストラリアなんだけど、心当たりある?」
「オーストラリアならルーの出身地だ。少し、連絡を入れる。」
僕はそこで初めてルーがオーストラリアに戻ってる事を知った。電話をかけると直ぐに出てくれた。
「ルーか。今、何処にいる?」
「ん?オーストラリアの自宅だよ。イヴァン博士と相談後、陛下が10日もご飯食べられなくて衰弱し切ってて緊急入院させた所で、今、使った食器片付けている所だよ。」
「ルー、ちょっと聞きたい事があるんだ。……………番地。此処に心当たりがあるか?」
「それ、間違いなく僕の自宅だよ。それがどうかしたんだ?」
「そこにどうやらイヴァン博士がわざとアイテムバックを置いて行ってるみたいなんだ。ピール君に調べてもらった。悪いが、探してくれるか?」
「分かった!」
そう言って、電話を切った直後だ。ピール君が。
「何なの、これ。エドワード皇太子殿下。貴方凄すぎるよ。貴方にあって僕には無かったものがはっきり分かったんだ。王の資質って言うのか。先見性故にイギリス王室で唯一生存出来た理由が分かった気がするんだ。エロに伝言残ってた。刺し違えてでも単独で月に乗り込んで首謀者を倒すつもりなんだ。」
「…………」
伝言はこうだ。
俺は取引に応じる事にした。処刑するまでは安全保障してくれるんだとさ。あいつらの事は信用してないから騙されてる可能性がかなり高いがな。俺は守り刀だけ持って月に帰る。そこでゲイルだけでも殺して来るつもりだ。あいつがいる限り悲劇の連鎖は止まらん。ただ、置いて行くミサトの事だけが気がかりだ。どうか、守ってやって欲しい。後生だ。
何でも一人で抱え込む性格を完全に悪用された形でイヴァン博士が消息を絶った事が判明した瞬間だった。




