怒れる聖女の裁きの鉄槌 3
その言葉に反応したのは、あろう事か。ミラさんだった。
「私は売春婦として働いてマフィアに資金を上納してたんだ。裁きなら、私が受ける。」
「…何を言ってるんだ。ミラ。」
ミラさんは、ツカツカと幸太郎さんの所まで行って幸太郎さんに刺さってる聖なる槍に手をかけた途端、聖なる槍が変形してあっという間にミラさんの胸を貫いて消えた。アークさんは余りの事に呆然自失になって目を覚ました幸太郎さんが。
「…こんな事があってたまるかよ。こんな事したって誰一人として喜ばないじゃあねぇか。」
「…………」
「ミラ…ミラ……………何故、早まったっ!」
「……………アンタさ、最初はろくでも無い奴って思った。だけどその本質は違っててアタシの事を真剣に考えてくれた。幸せに生きる為に死ぬ気で生き方変えろって言われたの。アンタが初めてだった。嬉しかったよ。でもさ、アタシは売春婦。どんなに頑張っても過去は消せないのさ。だから…………」
「…………」
「…心配しなくてもアンタにゃもっと良い人見つかるって。ちゃんとした人見つけて、幸せになりな…………」
アークさんは首を左右に振った。アークさんが望んだ彼女はにっこり笑いながら満足そうに息を引き取った。アークさんは彼女を凄く大事そうに抱きしめた。私はこう思ったんだ。ミラさんはアークさんの事を思って身を引いたんだ。自らの死という形で。剣聖の称号持ちのアークさんとは釣り合わない。そう思ってしまったんだ。だけどアークさんはミラさんじゃないとダメだって。確かに仕事で接触を図るつもりだけだったのかもしれないけど、一緒にいる内にああ、この子守らなきゃって。ミラさんの中身をどんどん好きになっていったんだ。
だけど、神罰下った方の蘇生は無理だ。私は、魔法を唱えた。
「ヒールウォーター!リザレクション!」
案の定、リザレクションは入らなかった。蘇生魔法は神聖魔法のみだ。こんな悲劇繰り返しても誰も救われないってそう思ったんだ。きっと、幸太郎さんはアークさんから最愛の人を奪った事を責めてしまうと思った。苦しみ、悲しみの連鎖なんて、ごめんだ!
アークさんは大事そうにミラさんの亡骸を抱き抱えた立ち上がった。
「アーク、何処に行くのですか?」
「……………一人にしてくれねぇか。ちゃんと時期が来たら戻るからさ…………」
「何処か行く前に質問に答えて。ミラさんは身を引く決断したけど、アークさんはミラさんじゃないとダメなんだよね?」
「…………」
アークさんの顔は俯いてしまっていたが、首が縦に振られて肯定の意味を返した。
「もう、こんな事繰り返しちゃダメなんだ。神罰で亡くなられたミラさんをルーベルトの転生の儀で蘇らせる!神様にだって文句は言わせないわ!アーク、アークは違う姿になったとしてもミラさんだけ見て生きたいのですか?」
「…ああ、生きたい。もし、ミラに会えるんだったら過去なんてどうだって良いんだ。ただ、俺と一緒に生きてくれてさえいればそれで良いんだって。そう伝えるんだ。長い時をミラと一緒に生きたいって。お前だけ見て生きたいって。説得するんだ。」
私は念話でルーちゃんに正面玄関に来る様に伝えた。すると、直ぐ飛んできたよ。エドにお姫様抱っこされて。エドの服から血糊が消えてたから魔法で洗濯したんだろうな。エドからの贈り物を汚したくなくて。エドの過保護ぶりも格段に増してる気がする。まぁ、空気を読んだんだろう。エドはルーちゃんを下ろしてから二人して跪き
「導師ルーベルト、陛下の召喚の依頼を受け、馳せ参じました。どうかお命じください。心から敬愛してやまない、僕の女王陛下。」
「…そなた、先程我が祝福を与えた事。覚えておるな。」
「はい、転生の儀に関してですね。勿論、覚えております。」
「アークに最愛のお方を返して差し上げたい。やってくれるな?」
「はっ!王命承ります。」
ルーちゃんは私に深く一礼してから立ち上がって未だにミラさんを大事に抱えるアークさんの所に行った。アークさんに色々指示をしているようだ。エドも呼ばれたので、一礼してから私の元を離れた。エドはどうもお使いを頼まれた様で、フロントまで行って真新しいシーツを借りて来た様だ。その間にルーちゃんはアークさんに腕に抱いたままで良いからと言って簡単だが魔力の流し方をレクチャーしてたよ。転生の儀にそもそも魔力なんて必要ないのに、ルーちゃんは儀式にアークさんの意向を悉く反映させるつもりみたいだ。一緒にやるだけで気持ちが落ち着くと良いけれど。準備ができた様で。
「略式だが転生の儀を執り行なう!」
ルーちゃんが高らかにそう宣言した。呪詛を唱えながら、お祖父様が持ってた杖を引き継いだんだろう。杖を御遺体に翳せば、アークさん毎光った。なるほどと思った。ミラさんの魂に通じる様に祈りながら魔力を込めて循環させてるみたいだ。黒い魂が光りながら登って来た。黒い魂は穢れの現れだ。禍々しい魂の発現に真っ先に反応したのはアメリアさんだ。つかさず、呪詛を唱えて穢れの浄化を試みた。私はそれに追随した。私が与えるのは命に対する祝福だ。私達の力で魂がどんどん白くなっていった。そこでルーちゃんが魔力を込めれば白い魂はどんどん人の形になっていった。アークさんが御遺体を抱えたまま
「ミラ…………」
そう呟くと、一人の女性が現れた。全裸で現れるのが分かっているのか、ルーちゃんは魔法で女性の体をシーツで包んでいた。ルーちゃんの隣に立つ女性は一言。
「…アンタ、本当に馬鹿だよね。世の中にはごまんと女性いるでしょう?なんでアタシを選んだのさ。」
アークさんは遺体を丁重に下ろした。そして、立ち上がって。両手を広げて。
「そんなん、決まってるだろうが!俺はお前の中身に惚れ込んだんだ!他の女なんて考えられねぇよ!おかえり。ミラ。もう、側から離れるんじゃあねぇよ!」
ミラさんは、シーツで体を隠しながらアークさんの所まで駆け寄って。ただ一言だけ。
「ただいま!」
アークさんは嬉しさを爆発させた。ミラさんを抱き上げてくるくるってその場で回ってから片手でしっかりと彼女が下を見下ろす形で固定して。ミラさんの長い髪を愛おしそうに目を細めながら撫でてた。ミラさんのか細い腕が肩に回された。二人して目を閉じて。アークさんはメンバーの中で一番背が高い。195cmもあるからか。どうも遠くからでも剣聖殿の熱愛振りが見えていた様で。祝福の拍手が鳴り止まなかった。
ただ、神様にはやり過ぎだと注意を受けた。
「そなた達が魔力を込めすぎた所為で新人類が生まれてしまったよ。あの者の額にある大きな石は賢者の石だ。錬金術に心得のあるものなら『ホムンクルス』と呼ぶであろうが、そなた達の魔力で生まれた人類だから『魔人』と呼ぶが良かろう。剣聖殿が側にいれば彼女は間違いなく守られる。だが、彼女が産む子供達は皆賢者の石を頭につけた状態で生まれ落ちる。それ故に常に狙われる存在だと覚えておくが良い。国家が守らねば、あの夫婦の安息は得られぬ。心して守るが良い。」
当然だが、アークさんには神様からの伝言は伝えさせて頂いたよ。勿論、みんなにもだ。エドが、イギリス国民になる事を条件に保護を申し出たので私もお願いする事にした。
この日は現地解散になった。アークさん夫婦は買い物が終わったエド達と一緒にイギリスに帰国して行った。
この日、断罪されたのは2つの大陸合わせて5万人にも及んだ。マフィアのみならず癒着してた役人、警察官の殆ど。女を食い物にしてたチンピラが一斉に粛清された。悪意を持って行った人の命を悉く奪った。その中にはザイード様の頭痛の種だった第一夫人も侍女たちも含まれていた。日頃から警察のせいで泣き寝入りしてた方々が一斉に蜂起して暴動が起こり、民衆は一斉にアルジャジーラまで進軍して命に関わる騒動にまで発展した。騒動を収めようにも警察官の殆どが断罪されたとあって収拾がつかないと判断したザイード様は世界政府に鎮圧を依頼した上で非常事態宣言を発令した。橋は封鎖されて比較的安全なメルツと切り離された。アルジャジーラが炎に包まれていた。騒動は翌朝未明まで続いて、ザイード様と母上の安否が気になって眠れぬ夜を過ごした。
翌朝、イヴァン、ピール、モハメドを連れて宮殿のあった場所まで飛んで来た。煌びやかな宮殿だったものは無残にも辺り一面焼け野原となっていた。世界政府の手で捜索活動が行われてた。ピールは呆然としていたよ。たまたま作戦に参加していたから無事だったってだけだ。
「父上様、母上様っ!!!」
ピールはいると思った場所を記憶を頼りに駆け出した。モハメド君もそれに続いた。私達も後を追えば、そこにあったのは焼死体が2体。多分、直感で分かったんだろうな。偉大なる父上様と親愛なる母上様は玉座におわすって。イヴァンが捜索隊を呼んでくれて、遺体は回収された。私とピールの毛髪が採取されれば検査が直ぐに行われて御遺体がザイード様と母上だと判明した。その日の内に、訃報が全世界を駆け巡り。世界政府が今後、直轄地としてAIで管理すると共に今日から7日間。喪に服す旨の声明が発表された。
私達は身内だけで葬儀をして見送った。イスラム教の風習に則って土葬がなされ、故人達との別れを惜しんだ。




