決戦前夜 5
「なんだなんだ?もう、息切れか?だらしがねぇなぁ。イヴァン。奥さんとイチャイチャしてる間あったら真面目に鍛錬した方が良いんじゃぁねぇか?」
なんて息一つ乱さない状態で言うものだから。
「うるさい!俺は元々戦闘は門外漢なんだ!徴兵制度があったからある程度戦えるってだけなんだよ!」
って軽口で返してた。本職、工学博士だもんね。言わんとする事は分かるよ。イヴァン。
「その辺は大丈夫です。イヴァンを守るのが私の役目って生前のお祖父様から命じられていますから。」
「…………」
「くくっ、ジークが言いそうな事だ。奥さんに守られてる感想を聞かせてくれないか?」
「…おい、ミサト。今晩は覚悟してろよ?」
「どうしてそう言う話になるかなぁ?」
「おい、テメェら!人の庭先で散々暴れておいて何和んでやがる!」
堪忍袋の尾が切れてとうとうボスのお出ましだ。随分と肥え太ってらっしゃる。きっと、金と権力を欲しいままにしてきたからさぞかし人を食い物にして楽しく生きてきたんだろう。ボスのお出ましに部下達は周囲を開けた。さっきまでお楽しみだったんだろう。高級なスーツ着てるのに慌てて出て来た感が半端ない。社会の窓が開け切ってるから何をしてたか想像に難しくない。そんな状態に怒り心頭になった幸太郎さんが。
何の躊躇も無く金的攻撃を決めてボスは痛みに悶絶始めようとした所でヴァレリー蹴りをお見舞いした。
ボスが泡を吹いて倒れたのを見て馬鹿にした様な笑みを見せつつ。
「17年前、さっさと俺に預けてさえいりゃあこんな事にはならなかったのになぁ。お前らにも言っておく。今後一切、アレクサには手を出すな!分かったらとっとと失せろ!!!」
失神したボスを連れてマフィア達は一斉に逃げていった。何故、逃すのか凄く不思議に思ったが。
「ふぅ、スッキリしたぜ。後はアメリアの分も取って置かないとな!」
そう言って笑ってた。イヴァンがウインディアを呼び出した。
「爺さん、どうなったんだ。」
「不正に関する全ての書類は火に巻かれる事なく全て押収済みである。ついでに預貯金、現金の類も押収したからこれを元に資産差押えすると身動き取れまい。じゃが、アレクサは地下にいるが助けるには至らなんだ。何やら小賢しい真似をされてて我では近づけぬ!」
「…アレクサっ!」
幸太郎さんが燃え盛る炎の中、飛び込んで行った。私は魔法を解除して全面にウォーターウォールをヒールウォーターの効果と水中でも呼吸が出来るよう付加をかけて発動し直したが、一度燃え盛った炎がそう簡単に鎮火する訳ではない。私は範囲を徐々に狭めつつ、アレクサの救出を待つしか無かった。
何の躊躇いも無く俺はアレクサを助ける為に飛び込んだ。ジークの奴は地下にいるとはっきり言っていた。だが、屋敷は結構だだっ広い。煙が充満する中、地下への道は何処だったかと探した。奴は、おもちゃを調教する時には決まって自宅の地下に籠る。以前、対面したのもそこだったが、色々と焼け落ちていたから瓦礫に悉く阻まれて行手を遮られた。リビングの暖炉の前に少しだけ隙間が見えた。成る程、閉じられてしまったのかと納得いった。動かそうにもビクともしない。グローブで壊そうにも流石に大理石じゃあなぁと躊躇してたら。
「アースクエイク!」
ミサトちゃんが追いかけて来てくれた様だ。ミサトさんの魔法が大理石を粉砕して、重力で浮かせて足場を整えた。
「時間がありません!急いで!」
「ありがとな!」
ちょっと進むと、すぐ水に行き渡った。ミサトさんが気を利かせて水中にライトを灯してくれた。見つけるのはあっという間にだった。禍々しいタトゥーを半身に刻んだ男が沈んでいた。俺は息を思いっきり吸い込んだ後、水中に潜った。今の殆どの子供は泳いだ事が無いが、俺は天変地異前に生まれているから泳ぎは得意な分野だった。泳ぐ感覚を思い出しながら首と両手を拘束してある状態で全裸で漂うアレクサを捕まえた。ガラッと言う音と何かが塞ぐ感覚に襲われたが、多分、状況が把握出来たんだろう。俺とアレクサは球体の水の中に閉じ込められ、気がつけば、ミサトさんの掌の上にいた。
「イヴァン、心配かけましたね。幸太郎さんもアレクサも無事です。」
イヴァンの奴が安堵の溜息が漏れたのが聞こえた。俺はまだまだ現役だ!って言いたかったがそんな訴えは水の中に掻き消されて届く筈もなく、とりあえず大人しくするしか無かった。
俺の手が痛みから解放される頃、俺は水の中から出された。アレクサと一緒にだ。水の中で一度水を飲んで仕舞えば酸素が普通に吸えた。生命維持を第一に考えていたのか、回復する水で水温も暖かい。外側の傷が回復してアレクサに刻まれたタトゥーが心持ち薄くなりつつある時点でアレクサも目を覚まして自分がどう言う状態だったか思い出した様で凄く慌てたが、新品のスーツが無駄になるのも構わず、俺より小さいアレクサにアイテムバックからズボンだけを取り出して履かせて。それでもぶかぶかなんでどうでも良いネクタイ取り出してベルトの所に通して後ろで結んで応急処置だけした。あいつ泣きそうな顔をしてたよ。きっと、心底ほっとしたんだろうなぁ。
「悪りぃな。先にアレクサの拘束何とかしてやってくれないか?」
それで、ミサトさんが木の妖精を呼び出して拘束具を消す様に命じた。消えるのはあっという間で、管轄外だった金具が二つ、ゴロゴロと浴槽の中に落ちた。イヴァンの奴から
「二人とも無事で良かった。ピール殿下の方も強襲成功したって今、連絡が入ったんだ。ここは世界政府がホテル毎借り受けてるから王宮にいるよりか安全って理由で避難させて貰ったんだ。幸太郎もアレスタも服困るだろう?とりあえず、明日の事もあるからこれに着替えてゆっくり休んでろ。」
そう言って出してくれたのは量販店で買ったと思われるジャージの上下で俺はMサイズ。アレクサはSサイズって感じだった。まぁ、大きさ測ってないから大まかなサイズで買う事しか出来なかったんだろうな。下着の類もちゃんと買ってくれてたよ。二人分な。んで、財布を取り出そうとして胸ポケットにスマホ突っ込んでたの思い出して見てみれば案の定、使い物にならなくなってて固まってさ。俺。
「お金なら気にしなくて良いし!俺がしたいって思ったから勝手にしただけだからさ!スマホも事情が事情だから直してくれると思うんだ。帰ってきたらリンちゃんに相談してみると良い。」
「…ありがとな、イヴァン。俺ぁ、孝行息子に恵まれたな!」
そう言って、3人で笑い合ったが、一人だけ、俯いたままで何を考えているか分からないアレクサの事が気がかりでならなかった。
暖かい風呂に入り直して、服着替えたが、アレクサの奴。肌が赤くなる勢いで身体を磨きまくってて。見てられねぇんだよなぁ。正気に戻ってからされたものだから精神的に参ってるんだ。どうも話を聞くとヤク打たれる寸前に火事が起こったらしくてな。帰って早々、密告があったらしく地下に連れて行かれて顔以外の部分を瀕死寸前の暴行を受けた挙句に廻されたって聞いて俺はあいつを殺しておくんだったと後悔したさ。時刻は既に夜中を回った。ミサトさんのヒールウォーターに浸かってたお陰で傷の方は回復してるが流石に精神的ダメージは計り知れなくてな。
そうしたら、何が起こったと思う?子供に戻っちまったんだよ。20歳の幼児に出来る事って言えばな、話聞いてな、心に寄り添ってな、痛みに寄り添ってな、しっかりと抱きしめて安心させてな、子守唄聞かせながら寝かせる事しか出来なかったんだ。今、アレクサ安心してる。うっすらとだけど、顔に表情が出始めてるんだ。だけど、ほとほと俺は無力で、後は明日合流するアメリアと一緒になってこいつの事考えてやらないとなぁ。ってそんな事考えてたらもう深夜の2時でさぁ。
そんな中、時間が時間なんで遠慮がちにノックがされた。誰かと思えば実の息子のリンちゃんだ。
「お邪魔して良いかしら?イヴァン博士が様子を見て来いって言うからぁ。」
「…まぁ、どうせ今頃ミサトさんとっ捕まえてお楽しみ中なんだろうよ。アレクサ寝てるからリビングになるが大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。お邪魔するわね。」
リンちゃんを部屋に招き入れた。椅子に座る様促した。俺も近くに着席した。
「私が10歳の時に助けるのを諦めた子いたって日本に帰国後、話してくれたわよね?間違いない?」
「…ああ、間違いない。アレクサの事だ。」
次の瞬間飛んできたのが平手打ちだ。軽く脳震盪起こしそうな勢いだ。チッ、俺に似たのかよ。
「あの時はね、感謝してたわよ。ああ、父さんは何だかんだ言って家族の事を大事にしてくれてるって。でもね、今のアレクサの様子を聞いてつくづく自分達が身勝手で、愚かだったか思い知ったわ。あなたね、自分の信念曲げた所為であの子がどれだけ傷ついて、どれだけ泣いて生きて来たか考えた事はあるのっ!」
「…ずっと後悔抱えて来てた。何故、その手を離してしまったのか。夢にまで出て来たさ。」
「だったら、あなたはこれからその子の人生を狂わせた責任取るつもりでいるのよね?その子を手放して以降、あれ程子供達と触れ合う事が大好きだった父さんがぱったり子供達を遠ざける様になった位だもの。ワタシだって馬鹿じゃないわ。辞めるつもりでしょ?戦場カメラマン。」
「…………」
「で、お節介ついでにあなたの再就職先も見つけておいてあげるわ。幸いな事に引く手数多なのよね、孤児院の職員さんって。アレクサと一緒にセットでね。まぁ、日本じゃなくても問題ないでしょ。バイリンガルなんだから。元々。そこで、アレクサをどうやって救うか。ワタシも協力するから一緒に考えていきましょう。」
俺ぁ、確かに性癖的には可笑しな事になっているが、とうとう我が息子に諭される歳になったかと感慨深いものを感じてさ。息子の言い分を呑むことにしたんだ。大して力になった訳では無かったが、子供の教育に関してだけは間違ってなかったなぁと。本当に頼もしく育ってくれたものだと俺は嬉しく目を細めた。




