英雄の凱旋 2
記者会見はまだまだ続いた。遂に来たかと言った感じだ。恋愛の話に移ったのだ。
「お二人の第一印象を教えてください。まず、イヴァン博士から。」
「俺は天女が舞い降りたと思いました。俺はミサトに一目惚れしてまして…………」
「陛下はどの様にお感じになりましたか?」
何故他の人から名前を言われなくなったのか。それは、王位を継承されたのかと聞かれ、妖精王を顕現して示したからだ。ちょっと問題のある方だが、流石に空気は読むみたいだ。
「大人なのに凄く魅力的で。色々あったからって言うのもあるのですが、側にいて差し上げたいと。」
「ミサト…………」
ああ、言ってしまった。これ、結構恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「まだ出会って日が浅いと思いますが、ご結婚は考えてますか?」
出会ってからずっと側にいたから空気みたいでいつも一緒にいるのが当たり前になって来てるからあれだけど、実際にいたのは10日程かなぁ。もう、何年も一緒にいる感覚だよ。
「俺と彼女との年齢差って30歳離れてるんです。なので、多分人を本気で好きになった事がないであろう彼女に合わせるつもりだったんですが、最長老様から譲り受けましたAI 。スペースシャトルを起動補助する為に俺が育ててたんですが、そいつに俺がミサトに対して抱いてた思いを本人の前でバラされてしまいまして。俺も自分の気持ちに嘘をつくの、辞めました。」
その辺の話はまだ記憶に新しい。心なしか耳が赤いのは多分、私みたいに思い出しているからだろうと思った。イヴァンが私を凄く愛おしそうに見つめた。と思ったら、ちょっと悪巧みを思いついた様な顔をした。イヴァンは記者達に向き直って話を続けた。
「俺は結婚を前提にお付き合いをさせて頂いてます。ミサトが悪い男に捕まるのも、俺以外の男に泣かされるのも御免被りたいので。他の男に取られる未来なんて考えたくもない。最長老様からは既に成人しているとお伺いしてますが、元々居住している場所は日本であると言う事なので、彼女と籍を入れても問題ない時期に婚姻届を提出したいと考えてます。」
不意にイヴァンがいつ?って聞いてきたので半年後に16歳になるから提出できますよ?と答えた。イヴァンは満足そうに微笑んで私を抱きしめた。フラッシュが焚かれ、眩しい中で
「もう、俺。おまえ無しは考えられないから、キャンセルは無しな?」
もう。全くこの人は。嬉しくていつのまにか泣いていたみたいだ。イヴァンは多くいる衆目の中で人目も憚らず荒々しいキスをした。名残惜しそうに離れたが、周囲は興奮冷めやらない感じでますます騒がしい中。静粛をお願いしたら一先ず黙ってくれた様だ。
「最後に一つお願いをしてもよろしいでしょうか?今回、我々はバカンスで来てるんじゃありません。戦争という愚策から月の民を解放する為にどんな方法があるか、話し合いをする為に来ています。確かに俺たちはパルスレーザ砲という脅威を1つ取り除く事に成功しましたが、残念ながら軍部は機械化兵を大量投入して侵攻を試みるでしょう。我々はそれを先ずは止めに行きたい。何故なら、宇宙空間で機械化兵がぶつかり合えば、ただでさえ多いスペースデブリが更に増えて定期便の障害となるのが目に見えているからです。地球に降り立てば皆さんの生活を破壊する要因になり得ます。その為に必要なのは地球でも月でも扱える良質な武器なんです。俺がいつも使ってる武器を2つ紹介します。1つ目はこれ、ライトセーバーになります。」
イヴァンがアイテムバックから小さい筒を取り出した。ボタンらしき物を押したらブーンと言う音と共に光の棒が現れた。
「実はこれは俺が開発した試作品でパルスレーザを応用して作りました。ただ、難点が3つ。反射鏡を使う関係で衝撃に弱いのと、突き攻撃するとすぐ壊れるのが。パルスレーザを使うので電力が必要で充電が欠かせない。なので、今回の旅では使えないと判断しました。んで、ここからが本題なんですが。」
そう言うと、ライトセーバーを仕舞って非常に大きい両手剣を取り出した。でも、両手剣にしては刃が無いのが気になった。あれは一体何だろう?記者も凄く戸惑っているのが分かる。
「これは死んだ親友の一人が使っていた『ガンブレイド』と言う武器です。サイズ的には両手剣ですが、こう構えて銃弾を放てば遠距離武器に。」
イヴァンが実演して構えてみせた。突きの状態でライフルなのか。
「んで、自分の前で立たせば盾の役目をし、剣の部分は刃が無いので基本両手剣に見える打撃武器になるんです。これに関しては月では問題なく使えるんですが、地球で扱うには余りにも重いんです。今回、此方にお伺いしたのはここで産出される『ミスリル鉱石』で軽量化のお手伝いをしてくれる鍛治職人さんを探しに来ました。なので、滞在も長期間になると思います。お手伝いをお願いした鍛治職人さんに迷惑をかけない為にも、我々を見かけても静かに見守って頂く様宜しくお願いします。」
そう言ってイヴァンは会見を締めくくった。記者達も満足してお帰り頂けた様だ。
「派手にやらかしたと言う自覚はあるが、後悔はして無いな。月の連中もこれ見てたら暗殺に来るかもな。」
「イヴァン…………」
「でもまぁ、何とかなるだろう。結構殺気立ってるのがいるからな。」
「本当だ。いつの間に。」
いつの間SP が配置されていた様だ。恐らく、守ってる対象は多くの秘密を知ってそうなイヴァンと言う事なんだろうと私は思った。
「がっはっはっはっ!気に入ったぞ!月の民とやら。そちが息子になる日が今から楽しみだ!」
「はぁ。ありがとうございます?」
なんか微妙な返答をしているイヴァン。私でさえ、母上が再婚される時にお目にかかったっきりだ。今、私達は二つの回線を結んで家族会議となっている。右側に表示されているのは義父上と母上。左側に表示されているのは日本にいる祖父だ。突発的に行った記者会見でイヴァンが大暴走してくれたお陰でこうなっているのだが、男性陣からは軒並み高評価。母上は私が心配で騙されてないかと案じていらっしゃる様だ。小さい頃から迫害されてたから少なくても人を見る目はあるつもりではあるが母上は。
「私と余り歳が変わらない方と結婚するなんて。」
そりゃ、そうだろうな。聞けばイヴァンと母上は同い年だ。騙されてるんじゃあと心配するのは頷ける。
「お言葉ですが、恋愛に年齢って関係ないんじゃないですか?」
「まぁ、伊織は二人とも見合いだったからのう。結婚してから相手を知っていったが、ミサトは違うと我は思うぞ?」
「父上はミサトに激甘だからそう言う事を言うんです!」
…話し合いは難航しそうだが、祖父が流れを変えてくれた。
「ミサトは王族にあっても迫害を受けて育った身ぞ?そう言った経験を通したからこそミサトは婿殿を見初め、婿殿も親愛の情から本気になられたんだろう。我も大丈夫だと思った故、ミサトの事をお願いした。伊織の心配もそれはそれで理解はできる。じゃが、その様な事にならないと我は思うぞ?見るが良い。実に初々しいではないか。我々が側にいる時にあの様に甘える様な表情をミサトが一度でもした事があったか?無かったであろう!」
「…………」
「ミサトは元々責任感が強い子じゃから迫害を受けながらもハイエルフ達を守る為に尽力してくれた。だからこそミサトには幸せになって欲しかった。今の我々にできる事はこの子達の行く末を暖かく見守る事じゃ。世代交代したから迫害してた者共から精霊の祝福が消え失せた。ミサトを害する者は誰一人としていなくなったのじゃ。だから安心して任せられる。婿殿、くれぐれもミサトを頼みましたぞ。」
「お祖父様。」
「分かりました。どこまで出来るか分かりませんが必ずミサトを守って見せます。」
「ミサト。何かあったら必ず相談するんですよ?滅多に会えなくなったとしても私達は家族ですからね?」
「承知致しました。母上。」
「披露宴には是非とも呼んでくれ。一族を挙げてお祝いしましょうぞ!」
「どうもありがとうございます。義父上。」
そう言ってまず母上の回線が切れた。画面には祖父だけになった。義父上の豪快な人柄にイヴァンはポカンとしていた。腕を揺すって我に返って頂いた。祖父は義父上の人となりをよくご存知なんだろう。苦笑いだ。
「やれやれ、ミサトの披露宴もお祭り騒ぎになるのは確定じゃな?」
そう言って静かに微笑んだ。私は気になる事をお伺いした。
「最長老様。」
「もう、我は世代交代した故、名前を呼ばれても失礼にはならぬ。あの場では世代交代したのが分かってなかったからミサトも我の名前を教えていなかったのであろう?じゃが、墓標を作るのに名前が分からないというのもどうかと思うので我から自己紹介させて貰おうぞ。我はジークフリート・セレネティアじゃ。我が身罷った時に後始末は婿殿とミサトにお願いせねばならぬ故、忘れるでないぞ?」
「承知致しました。そうなると、俺はどう呼べば…………」
「うむ、婿殿が我の事を『爺さん』と呼ぶのが実に心地良くてのう。出来ればそう呼んでくれると嬉しいのぉ。」
そう言って祖父は静かに笑った。
「お伺いしてもよろしいでしょうか?お祖母様のお身体は大丈夫なんでしょうか?」
最早、隠し立ては出来ないと悟ったのだろう。
「ミサト、心して聞いてほしい。綾女の状態は芳しくない。原因は50年前の天変地異で起きてはならなかった原発事故じゃ。我も色々手を尽くしたが、お医者様が言うには余命1年持てば良いそうじゃ。」
「そんな…………」
私の目からはまた涙が溢れてきた。イヴァンは事の重大さにショックを隠し切れない。
「今日の会見はな。実は綾女と一緒に見ていたのじゃ。凄く喜んでいたぞ。綾女も強い女故、自分の病状をちゃんと理解しててな。ミサトの門出を祝福出来るとそれは大層喜んでおる。故に、婿殿にお願いを聞いてもらえるかのう?」
「はい、何でしょうか?」
「実はカイヤが婿殿とミサトに合流する事になっておったから、事前に結婚に必要な書類はこちらで用意してカイヤに持たせておったのじゃ。じゃが、そこで問題が出たのは婿殿の書類が作れないという点なのじゃ。何せ、今は戦時中なので敵国から資料は取り寄せられぬ。そこでの、婿殿。ミサトと我等家族の為に日本国民になってはくれまいか?」
「俺が、日本に亡命するって事ですか?」
「左様。亡命申請には普通なら時間がかかるのじゃ。じゃが、戦時中の敵国から逃げて来ている婿殿となれば話が別なのじゃ。日本の法律ではこの場合、最速で手続きがなされるのが通例なのじゃ。亡命申請が通り、戸籍謄本が作られれば、婚姻届も出す事が出来るのじゃ。この案件はミサトの幸せの為にこの爺ィが尽力する故、宜しくお願いしたい。」
祖父は頭を下げて返答を待っていた。イヴァンは祖父の気持ちが痛い程良く分かったのだろうか。
「分かりました。俺、天涯孤独なんでご迷惑をお掛けするかもしれませんがそのお申し出、お受けしたいと思います。書類を色々確認取りたいので、2〜3日時間を下さい。」