画面越しの兄妹の再会。3
再び魔法陣が現れてアレクサの座っている足元からもう一つ魔法陣が分割されて、中から幸太郎が出てきた。幸太郎見て驚いた。一張羅のスーツが完全にズタボロで全身血塗れで。部屋中に血の生々しい匂いが立ち込めた。ミサトが直ぐに状況を把握して
「ヒールウォーター!」
と唱えてまず幸太郎の怪我を回復させた。そして、足元から失血の為にふらついた幸太郎を受け止めたのは実の子のリンちゃんだった。アレクサも血の匂いに反応して我に返り、立ち上がって振り向いた。
「父さん!」
「……………幸太郎…………」
幸いな事に呼びかけに直ぐに反応してくれた。
「…ん……………んなに心配すんな。俺なら無事だ。アレクサは……………その様子だと連れ帰れたんだなぁ。」
「幸太郎、ごめん、ぼくは…………」
「…気にするな。お前のせいじゃあねぇよ。これは、今までお前に向けられていた偏見だったり憎悪が分かりやすい形で跳ね返っただけに過ぎねぇよ。…それよりもこんな所で油売ってる場合じゃねぇぜ。お前の妹は辛抱強く待ってるぜ。お前をな。」
「…………」
アレクサは着席し直した。イギリスの方はゴタゴタしてる間に部屋が変わってた。そりゃあそうだ。とうとうルーが倒れたんだ。寝てる人が居る場所で話しなんてとんでもないんだろう。エドの溺愛っぷりが手に取るように分かった。イギリスが今後得る貴重な姫君の末路は今は明後日の方向に放置で問題ないだろう。
「…兄さん。」
「なんだよ。アメリア。足抜けって話しだったら悪いとは思うが、無しだ。ぼくは確かに真っ当な道を歩いてはいないさ。だが…………」
「ふざけないでくださいっ!わたくしが何も、何も知らないとでもお思いですか!アレクサが受けていたのは愛情でも何でもありません!れっきとしたDV。ドメスティックヴァイオレンスなんです。精神的苦痛、肉体的苦痛の下に支配されているに過ぎないんです!お願いです、どうか目を覚まして下さい!幸太郎さんと周りの人の話にも耳を傾けて下さい!」
とは言っても、愛情に恵まれて育ってる奴って数に限りがあるぞ。今いるメンバーでいくとミサトとリンちゃん、幸太郎位しか思いつかねぇ。俺は再び爺さんを呼んだ。
「爺さん、度々呼んで悪いが。普通の両親ってどんな感じなんだ?」
「まぁ、婿殿が知らぬのは道理じゃ。戦禍の中で生きておる。だがな、婿殿でもそんな記憶はあるんじゃ。これは婿殿が生まれた時の、ご両親がご存命の時の。赤子故記憶の奥底にしか残ってない残滓みたいなものじゃ。アレクサとやらも見るが良い。」
爺さんはスクリーンみたいなものを魔法で立ち上げて、俺の記憶を再生してた。へえ、俺は母親似なんだなって思った。生まれて初めて見る両親に感嘆すら覚えた。子供と一緒に仕事帰りの旦那を迎えてた。家族みんなでご飯食べてた。見た所、兄弟もいたみたいだ。俺は3番目の末っ子みたいで、俺を囲んでみんな楽しく笑ってた。お兄さん達は俺と遊びたいみたいで、一生懸命変顔して俺を笑わせてた。両親も笑ってた。俺の記憶にすら無い幸せの風景がそこには確かにあったんだ。
「へえ、爺さん。貴重なものを見せてくれてありがとな。俺、両親の他に兄弟も居たんだな。」
「そうじゃ。ただ残念なのは婿殿の家族はこの記憶の僅か数か月後、全員が命を落としておる。テロに巻き込まれたのじゃ。みんな婿殿の盾になって果てておる。記録にすら無い。墓すらも無い。戦禍の炎が情報も記憶も焼き尽くしてしまっておるからご両親や兄達の事すら調べようが無いのじゃ。ただ、遺品があったのはな。当時、母方のご両親がご存命で、そなたの母親が残したレシピノートを遺品整理の際見つけた様で元々はおばあさんのレシピだったのを嫁に行く時に教えて貰った様じゃ。婿殿の事じゃ。良く作ってるのではないか?」
俺は、自分のアイテムバックの中を探して、母親の遺品のレシピノートと、時間があったら良く作り置きするピロシキを取り出した。時間が止まる仕様の爺さん謹製アイテムバックなんで取り出し見ればまだ出来立ての状態だった。俺は、アレクサにノートを提示しながら。
「アレクサ、これが俺が唯一残された遺品のレシピノートなんだ。俺は一人暮らしが長かったのもあってな、良く作るんだ。これは、ロシアの家庭料理でピロシキって言ってな。作ったのはローグフェルグを発つ前だが、俺のアイテムバックは時間が止まる仕様だから出した途端にアツアツだったりするんだ。お陰さんで仲間内にも好評でな。お前も良かったら食べてみろよ。みんなも沢山あるから良かったら食えよ。丁度、おやつの時間だしな!」
俺は、たまたま作り置きしてただけのピロシキを机の上に並べた。今回作ったピロシキは実は2種類ある。いつも作る母親の味と、宮殿が無人になるのにドライフルーツがあってもって理由で大量に頂いたんでドライフルーツ入りの甘めのピロシキ2種類作ってみたんだ。レシピは2つともノートに書いてあった。味見もしてるから問題無いとは思うが、いつも味の感想を聞くまではドキドキが止まらない。アレクサは恐る恐るいつも作ってる方のピロシキに手を伸ばして1つ掴んで口に持っていった。その場にいた面々も美味しいの知ってるからか、一斉に手が伸びた。みんなが口々に美味しいと言って褒めてくれた。んで、素知らぬ様子でちらっとアレクサの方を見たら。
あいつ、泣いてた。頬に一雫。伝っていってるんだ。きっとあいつ初めてなんだろうな。人の温もりに触れるのが。
「……………暖かい。……………優しい味がする…………」
「どうしたんだ?早く食べないと冷めちまうぞ?人数増えたんで多めに作ってるから遠慮なく食えよ。」
「……………良いのか?」
「ああ。しっかり食え。」
アレクサは我を忘れたかの様に食べ始めた。あの華奢な身体に似合わない大食いぷりだ。しかも泣きながらだ。堰を切ったように感情が戻っていってるのか。顔をぐしゃぐしゃにしながら食べてるんだよ。俺に出来る事はさりげなくティッシュとゴミ箱をアレクサの前に置く事位だ。丁度、ミサトが食べ終わったんで。
「ミサト、お前にこれをやるよ。」
そう言って、俺はレシピノートを手渡そうとした。ミサトも知ってるんで。
「…でも、これ。イヴァンのお母様の遺品でしょう?私が頂いても良いの?」
「ああ、前々から話していただろう?これは、俺の妻であるお前のものだ。ミサト。お陰さんで、唯一作った事ないドライフルーツ入りのピロシキをアメリアさんのお陰で作れたってのもあってレシピ全部覚えたから必要無くなったんだ。それにな、今度は俺の為だけに作ってくれるんだろう?分からないロシア語あったら教えるし、料理も教えられるからな!今度、一緒に作ろう。なっ!」
「……………ありがとう、イヴァン。大事にするね!」
ミサトはレシピノートを受け取ってから俺の所まで来て手を伸ばしたんで、俺は両手を広げて迎え入れた。俺だけの愛しい人を抱き上げた。愛らしいその姿に目を細めれば、独占欲と慈愛が芽生えて気がつけば人目も憚らず愛を囁きながらキスの応酬が始まった。二人だけの世界に酔いしれたいが、アレクサの決断も気になるので目を閉じて白い世界を堪能しつつ話を聞く事にした。不意に、リンちゃんが。
「アレクサには非常に刺激的な光景でしょうけど、あれがあの二人の通常運転だから。」
「……………まじか…………」
「世間一般では勇者一行って呼ばれてるワタシ達一行だけど、その実情は嘗ての某バラエティ番組『あいのり』そのものなのよねぇ。本当に次から次にカップルが生まれているのよねぇ。数えただけでもここにいないアークで3組目よ?あーあ。良いなぁ。ワタシも恋したいなぁ。」
「…………」
まぁ、俺は見てないから何とも言えないが。筋骨隆々のオネェに恋する人出来ると良いなと思った。まぁ、口は塞がってるから突っ込みようが無いがな!それからしばらくして。何か感じる所があったのか。
「…なぁ、アメリア。ぼく、やっぱ足抜けする事にしたよ。この人達見たり聞いたり、甘い物食べてる内にぼくは単なるペットでしかなかった事に気がついたんだ。ぼくの為に命を賭けてくれた人。ぼくの為に荒んだ心と体を癒してくれた人。ぼくの為に家庭の温もりを教えてくれた人。真剣に愛する人々に触れて、ぼくは……………ぼくはただ生きるのを諦めて流されるままにしか生きてない事に気づいたんだ。ぼくの体はもうクスリで汚染されきってる。ぼくに待っているのはクソったれな生き方しかないけど、こんな屑でも出来る事はある。明日の闇オークション。全て盗品で、しかもマフィアの資金調達を目的としてるんだ。中には名画の贋作も含まれているんだ。情報は全て提供するから、俺ごとマフィアを解体してくれないか?頼めるのはアメリアしかいないんだ。どうか、頼む。」
「……………兄さんはどうするのですか?」
「もちろん、警察に全ての罪を白状して自首するつもりだ。まぁ、ぼくの手は既に血塗れだから司法取引に応じる応じないに関わらず死刑は免れない。だから、ぼくがアメリアの目の前で捕まっても絶対に兄とは呼んでくれるな!その方がアメリアの為なんだ。どうか分かって欲しい。」
「…………」
ああ、こいつ。父さんって人を殺してひょっとしたら自分も贖罪を果たすつもりなんだなぁと思った。明日の夜、運命の闇オークションが開かれる。たっぷり愛しい人を堪能した俺はこの後打ち合わせの為にエドに電話を代わってもらい、アレクサの情報提供の元明日の段取りの打ち合わせをした。




