画面越しの兄妹の再会。2
「森の再生魔法を書き換えて毒を極限まで排除するの?ルーちゃん。」
「はい。今、陛下の御前に…………」
「そなた、死ぬ気か!」
エドの制止を振りほどいてルーがミサトの前まで本当に飛んできた。ミサトが両手を広げて迎えると、かなり背が高いルーが覆いかぶさってきた。勢い余って倒れそうになったが、そこはリンちゃんがナイスアシストを決めてくれた。ルーは立っているのも辛そうで。ミサトを抱きしめたまま話し始めた。
「親愛なる陛下。どうかご無礼お許し下さい。僕、この魔法使ってしまったら多分、しばらく起きる事も叶わないでしょう。僕は策を授けましたが、後は陛下のお力でどうかアメリアさんの兄上を救って頂きたく存じます。」
「……………そなたは本当に。無茶も大概にせねば、画面越しの最愛の方が心配の余りその内気が触れるぞ。せっかく良い人に恵まれたのだから大事にせよ。これは命令です。導師ルーベルト。」
「はっ!このルーベルト。陛下のご命令。謹んで承ります。そして、不遜にも御前で倒れる無礼重ねてお詫び致します。……………コンディションチェンジ!」
ルーは、ミサトの頭上に手を翳した後、その場で倒れた。俺が受け止めたが、その表情は実に満足げだ。一方で画面の中のエドが呆然としてた。とうとう恐れていた事が。そんな呟きが紡がれた。俺も魔力なんて使わないからあれだが、ウインディアを呼び出して。
「頼むからルーをどうにかして助けたい。」
「……………3度目の魔力枯渇か。確かに命に関わる。少し処置を施さねば。場所は見たところ…………」
「ウインザー城です。爺さん。」
「悪いが婿殿の使ってない魔力をルーベルトに移す。暫定処置だが持ち堪えよ、婿殿。」
急に身体から力が抜けて軽い目眩を覚えた。成る程、今のルーの症状を肩代わりした様だ。こんな状態になってまでルーは誰かに尽くすのかと、頭の下がる思いだ。ウインディア単体でルーを転移魔法で運び入れてルーをエドに引き渡してた。ルーを寝かせて布団をかけてる様だ。ウインディアは続けて魔法を唱えた。幾重にも張り巡らした魔法陣はルーの周囲を覆い、光った後に消えて行った。
「束縛魔法を施した。魔力が半分以上回復せぬ限りはルーベルトの封印は解けぬ。ただ、我の力をもってしても魔法自体は使えてしまう。あの者の才能は我ではもう抑えが効かぬ。少し、魔力の回復量も上げておいた。これで暫し様子を見るが良い。」
「ありがとうございます。ウインディア。」
「良い良い。」
エドがホッと息を撫で下ろしてた。ミサトもルーの事が終わって安心した様だ。
「我の求めに応じよ!8精霊、精霊王フラウディア。かの者の願いを我が力で果たす!極限まで効果を増幅せよ!神聖種族特性魔法!再生!(リフレッシュ)」
9つの魔法陣が椅子に座っているアレクサを上から下に降りる形で降りて行って消えて行った。続いて。
「幸太郎さん。私の力でアレクサの心の中まで送りましょう。一刻も早く救うのです。」
「おう!任せておけ。今度こそ、その手を離さないぜ。アレクサ。」
ミサトは2つの魔法陣を繋いで幸太郎を送り届けた。俺は、幸太郎の帰還とルーの目覚めを待つ事にした。
行けども行けども闇だ。漆黒の闇だ。なかなか手強そうだ。
下に降りて行ってる感覚はある。多分、ルーが解決の糸口を探す時に道を固定してくれていたのだろう。一本道になっていた。一番真下にまで降りるとぽつんと。実年齢は3歳なのに発育不良過ぎて1歳にしか見えない少年がいた。嘗てのアレクサだ。小汚い格好をして、子犬みたいに首輪つけてさ。鎖に繋がれて。髪なんてストレスかなんかだろうなぁ。所々ハゲてて。天使と悪魔に生まれついたばかりに生まれてすぐ目をくり抜かれて闇しか知らない。最初の頃から泣いてたっけか。こいつらと別れるまで最後まで笑顔見る事すら叶わなかった。思い出して欲しかったからさ。写真なんて撮らないのにわざわざカメラ構えてパシャパシャ撮影する振りしたさ。その音だけで分かったみたいだった。
「……………幸太郎?」
「おう!迎えに来たぜ。随分と待たせちまって悪かったな。アレクサ。アメリアが心配してる。俺と一緒に帰ろう。みんなお前の事を待ってる。」
「みんな?みんなって誰?僕はひとりぼっち。家族なんていない。僕は人間じゃなくておもちゃなんだ。こんな僕に用は無いはずだ。出て行ってよ!幸太郎!」
「おいおい、せっかく再会したのに。そりゃあ無いだろうよ。」
「お節介も大概にしろよ!僕が勝手にいなくなったんだからそれで良いだろ?ぼくはどこに行っても要らない子なんだ。僕のことなんてさっさと忘れろよ!迷惑なんだよ!」
俺はその手を取ろうとしたが、小さな手で叩かれた。
「僕は、どこに行っても要らない子。唯一、僕を可愛がってくれたのは父さんさ。痛い事もあったけど、見てくれだけで遠ざける大人と違ったんだ!だから僕、気に入られる様に何でもしたんだ。僕は暗闇しか知らないから凄く感じやすいんだって。嬉しかったな、初めて褒められたんだ。だから父さんが好きなだけ僕と遊びたいって言うから僕は良いよって言ったんだ。」
そう言うと、自ら檻の中に入った。全裸でだ。首には首環が嵌められたまま。これの何処が一体愛されてるって言うんだ。
「ちょっと待て。それじゃお前、ペットじゃあねぇか。」
「うん、父さんのペットだよ?みんな僕の事人間じゃない。悪魔だって言ってたよ。だから檻の中なんだって。何当たり前の事聞いてるの?僕は人間じゃないから人権なんて最初から無かったじゃないか。ご飯には困らなかったし、ぼくは父さんのお気に入りだったから目も貰えたんだ。目入れたら色っぽくなったって褒められたんだ!」
もうね、ここまで来ると吐き気さえ覚えてきた。何が悲しくて手放した子供のAVビデオ見なきゃならんのだ!ここまで俺たちは外見だけで差別してさ。こいつ散々傷つけて来てさ。人間以下の生活送ってて僕幸せだから帰ってくれだって……………情けないやら恥ずかしいやら。俺も含めてだが、こいつを追い詰めたのは紛れもなく大人である俺たちだ。イヴァンの時はまだ引き返せたが、アレクサの場合は価値観が完全に破綻しきってるんだ。一体、どうすれば再び心を開いてくれるのか。
「いい加減、檻から出て来いよ!アレクサ!俺が一からちゃんと教え直してやる!人並みの幸せが何かってちゃんと教えるから出てくるんだ!アレクサ!」
「嫌だね!こうしてた方がぼく幸せなんだよ。ぼくから父さんを奪う気?そんなのぼく許さない!」
俺はかまいたちの様な物で切り刻まれた。顔は庇ったが、全身切り傷塗れだ。これがこいつの心の痛みなのか。一瞬でズタボロだ。でも、ここで諦めたら今度こそ二度と。誰にも心を開かなくなってしまうんだ。俺は懸命に手を伸ばす。
「頼むから、もう自分を責めるのはやめるんだ!自分の殻に引きこもらないでくれ!俺たちが悪かったんだ。もっと早くに気がつくべきだったんだ。そもそも迎えに行った時にさよならって言われた時にもう少し考えれば分かりそうなもんだったんだ。だけど、自分可愛さに置いて行った俺が悪かったんだ!お前、脅迫されてたんじゃないのか?俺には家族がいる。だから殺されたくなければ父さんの言う事を聞けって言われたんじゃないのか!教えてくれ!アレクサっ!」
「………………………」
「アレクサ、今、助けてやる!」
俺は再び立ち上がった。アレクサの檻まで手が届いた。ちょっと引けばすぐに開く様な。ケージの様なものだ。俺は檻の扉を開けるとアレクサが作った檻はあっという間に消えて行った。ちょっとでも握れば折れそうな腕に手が届いた。そして、その小さな身体を抱きしめた。17年前に戻ったかの様な。もう、離すものか。もう二度と諦めるものか!そんな思いで抱きしめた。小さなアレクサは何かに気づいた。
「……………血の匂い。幸太郎、ぼく…………」
「気にするな。こんなの唾つけときゃ治るよ。アレクサ。お前にはこれから俺がずっとついてる。だから、一緒に帰ろう。もう二度と、脅しにゃ屈しない。約束だ。」
「……………うわああああああ!」
やっと見つけたさ。アレクサの本心。怖かったんだな。辛かったんだな。痛かったんだな。泣きたかったんだな。ずっとずっと俺に会いたかったんだな。俺に出来るのは抱きしめて離さない事だ。右手でアメリアよりも黒目の茶系の髪を撫でた。何度も何度も。すると丸い球体と共に魔法陣が現れて俺たちは引き上げられた。無事にミッションコンプリートって所だな。決して平坦な道じゃねぇけど、これからどうやって生きるか。一緒に考えねぇとな。アレクサには犯罪歴あるから日本国籍は絶望的で。オーストラリアかイギリスかの二択になる。幾ら魔法で毒気抜いたとしても魔法に限界あるってミサトちゃんが言っていた通り、クスリ打つ前の体には一生戻れねぇ。俺が死んだ後でも100年以上クスリの誘惑と死ぬまで戦い続けないとならないんだ。そんな訳で、この旅終わったら戦場行くのは辞める事にした。残された人生。アレクサを支え、麻薬撲滅の支援活動しながら細々と写真店開いて色んな家族写真撮りまくって余生を過ごす。アレクサにも再就職の道を斡旋出来るし、悪くはないな。俺はそう思った。




