画面越しの兄妹の再会。1
俺はアレクサの問いに答える為にイギリスにいるエドに電話をかけた。そんなに経たない内にエドが電話に出てくれた。
「それも本人の口から聞いた方が良いだろうなぁ。ああ、もしもし、エドか?」
「ああ。僕だ。どうしたんだ?一体。」
「ああ、アレクサがアメリアに話があるって。」
「それは誠か!誰かいるか!アメリア姫を大至急召喚せよ!アレクサを見つけたと言って連れてくるのだ!急ぐが良い!」
「直ちに!」
バタバタと職員がエドの指示に従って行動してくれている様だ。エドもちゃんと顔を見て話せる方が良いと判断したんだろう。
「少し待ってくれるか?ルーがタブレットを魔法で浮かして準備してくれている。」
そこにノックが聞こえて職員に付き添われて車椅子に乗せられてアメリアさんを連れて来たみたいだ。確かにその方が手っ取り早い。
「ああ、アレクサ、ビデオ通話に切り替える。そのまま待ってくれ。アーク。悪いがその子連れて席を外してくれるか?」
「ああ、分かった。行こう、ミラ。」
「はい。」
とりあえず、お花畑中だと思われる二人に退席を促すと、ちゃっかり俺の意図を汲んで出かける事にしたみたいだ。扉が閉まる音と同時にそのまま宮殿を離れる事にした様だ。
俺はパソコンを操作して全画面表示に切り替えるとアメリアさんの顔が表示された。後ろにいたアレクサも目を見張っていた。自分と瓜二つの顔が表示され、隠されていた目隠しを取って、窪んだ目の部分を露わにした。きっと見えない目で真実を見据えるつもりの覚悟を感じた気がした。
俺は席を立ってアレクサに席を譲った。アレクサは慌てて座って画面の妹に声をかける。俺は後ろでこっそりインカムをつけていつでも外に指示が出せる態勢を取って話に耳を傾ける事にした。
「アメリア、アメリアで間違いはないのか!」
「はい。わたくしは声で判断するしか術がありませんがわたくしの兄であるアレクサで間違いは無いのですね。お会いしとうございました。わたくしのかけがえのない兄さん。」
「ぼくもだ。聖域に行ってしまったから二度と会えないと思っていた。ぼくは目が見える様になったからアメリアの姿が見えるんだ。目が見えないまま大きくなってしまったんだな。」
「はい。確かにわたくしの世界は常に闇に覆われております。ですが、そんなわたくしにもはっきりと見えるものがあるのです。それ故にわたくしは神から啓示を受けイヴァン博士とその仲間の方々と一緒に旅をする事になりました。」
「……………じゃあ、イヴァンの言ってる事は…………」
「はい、わたくしの意思で聖域の外に出たのです。全ては神から与えられた試練。わたくしに与えられたのは死に行く神々とこの世界から生まれた新たな神々を結ぶのが務め。その為にわたくしはどなたかの死を肩代わりする役目を与えられたのです。」
「死ぬのが役目ってそんなのあるか!何とかならないのか!アメリアっ!」
「運命の歯車は流動的なのです。最終的にどこに落ち着くのか誰にもはっきり分からないのです。それは、預言の力を受け継いだイヴァン博士にも言えるのです。」
アレクサは席を立って俺に掴みかかった。
「おい!何とかならないのか!はっきりしろ!イヴァン!!!」
「とりあえず落ち着けって。運命の糸は複雑に重なり、絡むものなんだ。そしてそれを無理に解こうとするとかえって切れてしまって取り返しのつかない事になるんだ。運命に干渉したいのなら、慎重になるんだな。そして、時期を見誤るな。それしか俺には言えないんだ。お前というピースが来た事で新たなる運命が開けた。今は話せない。ただこれだけは言わせて欲しい。お前がいた方がアメリアも嬉しいって思ってる筈だぞ。」
アレクサは席に座り直した。ゴホンと咳払いしながら。
「本当か?ぼくと一緒に居たいってのは。」
「はい。わたくしがローグフェルグに参って以降、兄さんの消息が分からなくなったと聞いて案じていました。ですが、誰一人として兄さんの事を聞くと口を貝のように閉じてしまうのが今まで不思議でなりませんでした。つい、この間です。兄さんの消息が明らかになったのも。ローグフェルグで話しにすらのぼらない筈です。兄さん、マフィアなんですってね。」
「……………ああ。この目と引き換えに俺はマフィアになったんだ。光を与えてくれた父さんには感謝しているんだ。勿論、楽じゃ無かった。目の見えない時も暗闇の中で欲望の捌け口になるしか無かった。目が見える様になっても、今も変わらないが毎日毎日自我が壊れるのが楽しいんだ。ヤクキメられるとますます壊れたくなるんだ。父さんがみんな教えてくれたんだ。みんな、みんな。ぼくが狂えば父さんが喜んでくれるんだ。ぼくは、これからもずっと狂い続ける。ぼくは父さんが死ぬまでおもちゃであり続けるんだよ。ふふふ。あはっ、あはははっ!」
「…………」
信じられないものを見てるんだ。俺は。そう思った。ノックもなくドアが開けられ、幸太郎があまりの状況に固まってた。成長が止まってるのか。身長は男性にしてはえらく小さい。160cmあるか無いか。って所だろう。非常に華奢で、アークが難なく片手で運べる程度に軽い。見た感じ、スーツ身につけた男の娘だ。固まっているのは恐らく、イギリスの方もだろう。今のアレクサは完全に人格が破綻しきっていた。幸太郎が。
「俺、どうして命がけでこの子を助けず見捨ててしまったんだろう。俺さえしっかりしてりゃあ、アレクサがヤク中になる事なんてなかったのに……………」
「…………」
なんて運命は残酷なんだ。これ、アメリアさん。説得なんてそもそも出来るのか。不安が頭をよぎった。
「補助魔法!遠隔誘導!アメリアさん、しっかりしろよ!今、あなたがアレクサに手を差し伸べないでいたら絶対に後悔するんだ!勇気を出して。アメリアさん。」
「ルー!そなたはまたっ!」
「…ありがとうございます。ルーベルトさん。わたくしは兄さんを絶対に地獄から救い出します!お願い!わたくしの想いを届けて!回復浄化魔法!ピュリファラー2!」
エドの焦りを無視してルーは先に画面越しに魔法が届く様に細工をした。その魔法を伝ってアメリアさんの魔法がアレクサの元に届いた。白い霧がどんどん紫色に変色してアレクサの身体から毒素を抜き取っていった。多分、ルーがかなりの無茶をやらかしたんだろう。魔法で浮いてた筈のタブレットが落下して液晶が割れる音がした。
「ルー!しっかりせよ!ルー!」
画面は真っ暗で何が起きているかさっぱりだが、俺はただ見守るだけだ。幸太郎が背後からアレクサの肩をゆさゆさと揺するが。
「アレクサ!アレクサ!しっかりしろよ、アレクサ!……………ダメだ。まるっきり反応がない。」
只ならぬ状態に次から次に人が集まった。真っ先に来たのはミサトだった。
「イヴァン、これ…………」
「ああ、先程、イギリスから魔法をかけたんだがアレクサがもぬけの殻になって、イギリスもどんな状態か分からん。ただ、ルーがかなり無茶してんだ。」
「えええっ!ルーちゃん!しっかりして!ルーちゃん!」
画面が真っ黒だが、ルーちゃんのこえだ。
「へ……………陛下…今っ、御前に…まだ……………まだ…画面を見た…………」
「ルー。そなた、そんなにぼろぼろなのに何故っ!」
「……………多分、僕。馬鹿なんだよ。ごめん、エド。僕は…………」
「…そなたは全く。僕の魔力を使うが良い。誰かあるか!大至急、イヴァン博士に繋ぎ直せ!ルーの望みだ、急ぐが良い!イヴァン博士、すまぬがタブレットが破損してこちらからはアレクサの様子が確認とれぬ。繋ぎ直す故、暫し待つが良い!」
「申し訳ありません。」
一旦、ビデオ通話の回線が切れた。ルーの様子が尋常じゃないからか。此方の方も心配が募った。アレクサは完全に沈黙した。一体、どれが本物のアレクサなのか、さっぱりだ。アメリアの心配する姿がそれなのか。目眩く快楽に狂気さえ見せる姿がそれなのか。完全に壊れた人形の様だ。ブツブツと話すかと思えば、何かを思い出した様に
「クスリ……………クスリくれよ。早くぼくを壊してくれよ。ぼくは父さんの所に帰ってたくさん壊して貰うんだ。」
「こりゃあ、禁断症状か?もうこれ以上はお前をそこに置いとけねぇ!」
「離せって言ってるだろうが!」
「フリーズっ!」
もうね、史上稀に見るカオスと化してるんだ。俺の部屋が。暴れだしそうになったからミサトがアレクサを椅子に固定した。幸太郎は完全に壊れた人形となったアレクサに尚も正気に戻って欲しくて必死だ。イギリスの回線が復旧したので俺はパソコンを操作して全画面表示に変えた。
「クスリ…クスリ…誰でもいいからクスリくれよぉ〜クスリをさぁ!」
こんな状態にイギリスの方も固まった。エドがルーを抱きしめたまま魔力供与してた。ルーは復旧した回線に手を翳して何か手段が無いか探してた。アメリアさんもそっと肩に手を置いて魔力をしている様だ。
「もう、諦めよ。薬物中毒は魔法でどうにかなるものではない。」
「アメリアさんの魔法だけでは足らない。まだ方法が残されてるんだ。僕がどうなろうとも僕は諦めない!何か、糸口が…いた。僕には見えるんだ。真っ暗闇の中で怯えて泣く子供の姿が。誰かに助けて欲しくてずっと泣いてる。幸太郎さんに助けを求めてるんだ。僕には聞こえるんだ。クスリって言ってるけど、本当はずっと前から。自分から立ち去ってマフィアに捕らえられた日からずっと。幸太郎さん。あなたを必要としてたんだ。アレクサの心の中に幸太郎さんが入らないといけない。直接入らないと。手を取らないと。アレクサを救う鍵の1つ。もう一つの鍵はエルフの神聖魔法。種族特性の魔法。再生です。本来なら荒れた森を再生させる為の魔法。でも、僕が書き換えれば極限まで毒が薄まるかもしれない。先に魔法をかけないと幸太郎さんが毒にやられます。これが出来るのは陛下のみです。」




