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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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英雄の凱旋 1

 ドワーフの一番偉い人の所から解放された頃には夜だった。

 延々と正座して説教受けましたよ。

 イヴァンなんて正座したの初めてだったので、終わった頃には両足とも足が痺れていて盛大にコケていた位だ。

 だが、やっと本調子のイヴァンに戻った気がした。知り合ってまだ1週間程だが大分人となりは分かってきた。要は基本的に大人になったガキ大将みたいな感じだ。しかも喧嘩早い系の。だけど、私には甘いのだ。

 家族は基本厳しかった。やはり次世代の王の責務があったんじゃ、と言う訳だ。私は他ならぬイヴァンから肩を抱かれた。


「おい、さっきの意味は一体何だったんだよ?」


 そう、イヴァンが急かしてきた。仕方がないから、女王が眷属に指名したと言う意味の


「私の生涯は貴方と共にあります。って言う意味なの。」


 って教えたら。いきなりフラッシュが焚かれて、


「その辺のお話を聞かせて頂いて宜しいですか?こりゃ、大スクープだ!エルフの女王陛下が眷属に月の民を指名!星を跨ぐロマンス!素敵です!是非、話を…………」


 フラッシュが焚かれ続けた。私は完全にフリーズした。女王陛下って何?意味がわからないんですけど。

 イヴァンは固まってる私を見て拙いと思ったんだろう。私を引っ張って


「こっちだ!」


 と言って私の手を引いて逃走を開始した。


「ああ、待ってください!イヴァンさんも是非お話を聞かせて下さ〜い!」


 って大声が聞こえた。イヴァンは混乱する私を落ち着かせようと語りかける。


「ありゃあ、パパラッチだ。」

「パパラッチ?」

「ああ、昼間派手に飛び回ってただろう?あれが元でハイエナ共がネタを求めて集まったって事じゃないか?しかも、ミサトの名を呼ばなかった時点で金になるって判断されちまったんだよ。悪ぃ、俺が気をつけるべきだった。」

「いえ。でも、今度は何処に逃げれば…………」

「そうだなぁ。空はさっきの件で絞られたしなぁ。あれは?」


 イヴァンが突如止まった。私はイヴァンの背中に衝突した!もう、パパラッチに追いつかれるのに何してるのかと思いイヴァンの視線を追うと、イヴァンがテレビのニュースに釘付けになっていた。


『速報をお伝えします。今日、月から再びパルスレーザ砲が発射されましたが、何者かの手によって攻撃が跳ね返され、発射元近くの発電所に命中してパルスレーザ砲は大破。死者、怪我人が多数出ている模様です。跳ね返したのは現在行方不明となっているイヴァン博士と妖精魔法術師ミサト様と見られており……………』


 よりによってそのニュースですかと思って見ていたら、私とイヴァンの顔写真がデカデカと載せられて。数多の視線が私達に降り注がれた。


「「「「「あああああっ!」」」」」

「英雄の凱旋ダァ!」


 とドワーフ達の歓声が上がった。この騒ぎに我に返ったイヴァンは


「すいません!悪いが、ちょっと店内から逃がしてくれ!パパラッチに追われてるんだ!」

「どうぞどうぞ!」


 って感じでドワーフ達が逃がしてくれた。しかも、ヒューヒューと囃し立てているんだし。

 逃げに逃げ回って気がつけば、どこかの鉱山の入り口っぽい所まで逃げていた。私もイヴァンも体力が限界で地べたに倒れこんだ。頭上には失われた故郷と同じ満天の青空だ。


「はぁ。はぁ。大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです。そう言うイヴァンは?」

「俺、徴兵検査も上位で通過してたから体力には自信あったんだが。まじ、無理。もう、走れん。」

「…奇遇ですね。」

「全くだ!しかし、どうなってるんだこれは……………」


 不意に人の気配がしてイヴァンもそれに気がついた様だ。二人してうなづき、私もイヴァンも一斉に武器を取り出しせーので一斉に一人の人物に銃と真剣を突きつけた。


「ちょっと待ってください!私は敵ではありません!」


 そう言って女性はひらひらと身分証明書を提示した。

 イヴァンが確認取れるか?と目でアイコンタクトをしてきたので縦に頷いて刀を構えたまま身分証明書を見せてもらった。一通り目を通して安全であると確認してから刀を鞘に納めた。イヴァンも私を見て問題ないと思ったのだろう。銃をアイテムボックスに仕舞った様だ。


「はじめまして。私は世界政府の命で貴方がたを保護しに参った者です。エージェントのカイヤと申します。あなた方を探しておりました。特にイヴァン博士。ご無事で何よりです。」

「そりゃあ、どうも。」


 そう言ってはいるが、明らかに信用してませんって様子を堂々と示唆していた。イヴァンは月世界できっと煮え湯を飲まされて来たのだろう。取り敢えず、お迎えが来たみたいで、一先ず、様子を見るために大人しく連行される事にした。





 久しぶりのシャワーを浴びて部屋に戻るとイヴァンも風呂から上がった後みたいでウォッカを煽りながら差し入れてもらったメンソールの煙草をプカプカ吸っていた。イヴァンはタバコを噛む癖があるのでちょっと口の中に香りが残る事があるが、色々怒濤の日々だった事であって聞き取り調査は数日後に予定されていた。それまでは自由にここを使えと言う事らしい。


「嫌だったら俺、隣の部屋に行くけど?」


 此処はスイートルームの様で部屋は実は此処だけじゃないのだが、私は離れる気が毛頭無かった。イヴァンも側から離したくなかった様で、私達は3日間完全に引き篭もった。ただお互いの事を知るのは何も話すことだけではないんだと私は初めて知ったけど、不思議な事に全然嫌じゃなかった。イヴァンに出会ってからと言うもの、女性に生まれて良かったなぁって初めて思う程に。初めて庇護される側になったからだろうか。凄く居心地が良いのだ。イヴァンは横で私をまるで宝物見る様な目で私を包み込み、辛かった頃の事を忘れさせれくれた。ああ、幸せってこう言うのなんだなって思った。


 流石に4日目になると予定を入れられていたので。


「ああ、まだまだこのままで居たいのになぁ。」


 とイヴァンがゴネ出した。でも、諦めた様にため息をついて。


「……………支度するか。」


 と。アイテムバックからシャツとスーツを取り出して着だした。私も生まれて初めて正装に袖を通した。イヴァンのスーツ姿は結構新鮮で。ただ、準備した祖父は流石にイヴァンの体のサイズまでは把握してなかったらしく。


「まずいなぁ、スーツはエルフのサイズだから腕と袖を少し詰めればどうにかなるんだがシャツばかりはどうにもならん。エルフって首回り随分細いんだな。ボタンが届かないし、首回りを直す時間が無い。しょうがないから今日はこれで行くか。」


 と言って選択したのはポロシャツで。イヴァンは私を見て。


「爺さんが着てたのと同じ服だよなぁ。良く似合ってるよ。」


 と褒めてくれた。イヴァンはこの後、ホテルの従業員の方に相談して此処に滞在してる間にスーツの裾あげと量販店で構わないからと改めて人間用のスーツとワイシャツを数枚手配した様だ。腕の裾が長いブレザーを着て長さを調節した。カイヤさんも見るに見かねたんだろう。流石に男前が台無しだからと緊急でホテル内のかなり高級な紳士服店をお願いして開けてもらい、イヴァンが好みのスーツを選んでそれに合うワイシャツと靴下や革靴やらを即金で購入していた。私はイヴァンが珍しくドタバタしてるのを見てるのが楽しく、またイヴァンを知る機会を得たのは言うまでもない。


 出来上がった代物を見たら、凄くカッコ良かった。かなりのおしゃれさんだったみたいで、茶系のスーツに淡いピンクのワイシャツに臙脂色のネクタイが映える。足元も茶色でまとめて、後は何色でも合うからと黒色の革靴も購入した様だ。思わぬところで初デート出来て二人して楽しそうにしていたら


「あのぉ、予定押しちゃってるんですけど?3日間の休みの間、一体、何してらっしゃったんですかね、全く。」


 二人して頭を下げた。すいませんと。

 余りに私達が楽しそうにしてるのを見て悟ったらしく。


「嗚〜呼!私も早く素敵な彼氏欲しい!」


 と人目も憚らず大声で叫んだ。周囲の注目が集まり、その目が私達を捉えた。マイクやら持ってる所からマスコミが場所を特定して張っていた様で、カイヤさんは慌てたが、イヴァンが私をかばう様に前に出て、何と記者の前で堂々と質問に応じ始めたのだ。私も記者たちのリクエストでイヴァンの横に並んだ。質問は実に多岐に渡った。この国に来た経緯。月の民の実情。自身が研究成果を出したのに自らの手で壊したパルスレーザ砲の事。月の民の被害が甚大な事を知らされた時には。


「俺は脱出時に軍部に親友達を殺されたから、ミサトの故郷を破壊したパルスレーザ砲をこれ以上悪用される訳にはいかないと思っていました。親友達の敵が討てるならと思い、ミサトに反射鏡作成を依頼したのは自分で間違いありません。ですが、自分のした事で俺は多くの方を。しかも生まれ故郷を裏切った形になってしまいました。これに対しては如何なる弁明をするつもりはありません。この場を借りて謝罪致します。本当に申し訳ありませんでした。」


 そう言って頭を下げた。私もそれに倣う。記者達はてっきり自慢気に話すものだと思っていただけに、


「でも、貴方達の勇敢な行動が地球の多くの民を救ってるんです。貴方達は自分のした事を誇って良いんです!」


 って声が次々と上がった。

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