悪意ある誘拐。
ミイラ騒動で剣の稽古は終日お休みになった。
ミイラにした張本人のアークさんは素知らぬ顔をしていた。目撃者を敢えて残したので普通ならアークさんの事を密告しててもおかしくないのだが、多分、勝手にハーレムを出た方が処分が重たいのか。詳細は分からないが、今の所知らない振りで大丈夫なんだと思う。もし、捕まったらどうするのか聞いたら。
「まぁ、その時はその時。俺はミサト様をお守りする為に無礼討ちを果たしたまで。そう言うだけだ。実に簡単だろ?」
っていけしゃあしゃあと言いやがりましたよ。まぁ、騎士に任じた以上、アークさんは私が普段やらない様な汚い仕事を責任持って受け持つつもりの様だ。
する事が無いのでアメリアさんに神聖魔法を教えて頂こうと宛てがわれた部屋に訪ねて行った。
指定の部屋を訪ねてノックしたが反応がない。盲目の彼女が初見の場所をうろちょろするのはちょっと考えにくい。部屋に入ってみると、窓が開け放たれベットの横にまっさらな。いや、違うな。所々凸凹してる部分がある紙を見つけた。そう言えば、朝食を食べる時に見かけたのだが。何時もとは違う。神々しい彼女に似つかわしく無い怪訝な表情をしていた様な気がした。私たちも来て間がない事もありいちいち職員達の顔までは覚えていない。ただ、何者かがアメリアさんに見えない様に物体を渡してる現場を目撃していた。もし、それがこの紙だとしたら……………
私はまず、リンちゃんを探した。幸いなのはそこでアークさんと汗を流していた事だ。
「リンちゃん、アークさん、アメリアさんが何処に行ったか知らない?」
「朝食の時にお見かけしたけど、何だか様子が変だったわね。何かあったの?」
「今さっき、アメリアさんに神聖魔法教えて貰おうと思って部屋を訪ねたら部屋にはいらっしゃらなかったの!ベットの下にこの紙が置かれてて…………」
「…これ、点字よ。間違いないけど、意味はさっぱり…………」
「こう言う時にはな、イヴァンに相談してみろよ。あいつなら多分、意味分かるぞ?孤児院時代に目の見えない子供いたからあいつ通訳してた事あるぞ?」
「…呆れる程に万能なんだね。イヴァン。」
「そりゃあそうさ!武力では俺だが知力に関して言えば昔からイヴァンの右に出る者は居なかったからなぁ!」
「でも、勝手に人探しする訳にはいかないわ。一度、ザイード様にご相談した方が良いわね。」
「んなら、とりあえずイヴァンの所に行ってからザイード様に謁見を求める事にしよう。俺たちが話すよりもお気に入りの婿殿からの話の方が聞いて貰えそうだしな!」
こうして、イヴァンの所に行くとたまたま幸太郎さんとご一緒だった。どうもさっきのアメリアさんの様子がおかしかった件を相談しに来てる様だった。イヴァンに紙を渡すと。
「なぁ、アーク。いくらなんでも俺は万能って訳じゃねぇぞ?小さい頃から俺に頼れば何でも解決するって考え。いい加減改めた方が良くないか?」
「イヴァン様。そこをどうにか!」
「…全く。本当に困った奴だ!まぁ、読めるけどな…………」
読めるのにそんな悪態ついたのか。イヴァンさん。要は照れ隠しなんだな。そう思ってニヤついていたら。
「ミサトまでアークに汚染され始めてるんだし!全く。ピール皇太子殿下と同級生なんだからしっかりしろよな?でだ。文章はこうだ。『失われた目の秘密を知りたいか?知りたいならそこからタクシーを拾ってエルサレムに行くと伝えろ。そうすれば勝手に俺たちが連れて行く。信じるか信じないかはお前の自由だ。』って何だこれ。」
「……………昨日、アメリアさんは目が見えないのは明らかに後天的理由って言ってたよな?」
「はい。私もそれは伺いましたが、アメリアさんは興味が無いと仰ってましたよね?」
「そうなんだ。だが、これはあくまでも仮定であり推論でしかないが。このアルジャジーラにアメリアさんの目を抉って大金を得た者がいるとする。神域からまず出ないと思われていた彼女が下界に降り立ったと知ったらどうすると思うか?」
「……………俺がもしそいつなら間違いなく口を封じるな。」
遠慮なくアークさんが口にした事でみんなの不安が一気に高まってしまった様で。
「ルーちゃんが戦力外通告出したのって、ひょっとしてこうなると予見して…?」
「畜生!こんな所で油売っている場合じゃないのに次から次と!本当に忌々しい。乗せた俺に責任がある。みんな、悪いがアメリアさんが現在行方不明だ!直ちに作業を中断して全員アメリアさんの行方を捜索してくれ!報告は俺に頼む。マークは悪いがエドの母国イギリスにこの緊急事態を打診してくれ。それから捜索に加わってくれると助かる。」
「了解です!」
それまで作業をしていた5人の整備兵は一斉に片付けて蜘蛛の子を散った様に一斉に散開した。
「出るとしたら正面玄関からだ!とりあえず急ごう!」
私たちは先を急いだ。人を突き飛ばそうとも気にすらしない勢いでだ。正面玄関に近づくにつれ銃声と怒号が聞こえてきたので誰もが武装した。真っ先に行動したのは忍者の末裔、リンちゃんだ。
「忍法!土蜘蛛の術!!」
これでテロリスト達の足止めをして動けない様に足を封じた。
「事情聴取したいからみんな殺さない様にね!」
「おう!こんなの俺一人で充分!シルフィード、鈍器になれや。」
「しょうがねぇなぁ。ほらよ!」
「ああ!ずるいぞアーク!手柄を独り占めなんてそうは問屋がおろさんぞ!」
「はっはっ!こう言うのは俺の専売特許なんだよ!」
言うが早いか。どうも私の出番はなさそうだったが、玄関で倒れている御仁の保護が先だ。朧月夜を装備したままそのお方に近づいてはっ!とした。
倒れていたのは他でもないザイード様だった。私はヒールウォーターを詠唱してザイード様の重傷を完治させた。ザイード様は受傷した部分を触って血がどくどくと出てない事が確認出来た様で。
「すまない。ミサトさん。玄関でアメリア殿を見かけたので止めようとしたが、エルサレムに行くって行った途端にテロリスト共に襲われた。どうやら、最初からアメリア殿を利用するつもりだったんだろう。部下に命じて応戦を指示したが、アメリア殿は何者かに連れ去られた後だ。」
「何ですって!」
私の声に即座に反応したのはイヴァンだ。テロリスト達を峰打ちで倒していたが、後始末をリンちゃん達に任せてイヴァンが私の元に駆け寄った。
「ザイード様っ!」
「…婿殿か。大袈裟に見えるが怪我ならミサトさんに直して頂いた。ありがとう。感謝致す。」
「いえ。大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃ。それよりもそなた達には教えなければならない事がある。盲目の聖女様の過去だ。」
「…………」
その日の内に脅迫状が届いた。内容はこれだけだった。
『身代金を要求する。3日後に闇オークションに聖女様の御髪を出品する。最高額での落札。楽しみにしている。落札後に次の指示を伝える。』
「こんな身代金の要求の仕方。初めて見るわ。有翼人の髪ともなれば愛好家が挙って入札するんじゃなくて?」
「そうなのか?」
「ええ。天変地異後に生まれる様になったヴァルキリーは人間じゃないと生まれないものなの。但し、出生確率は非常に低く、決まって双子で生まれて、もう一人の赤子は穢れを持って生まれる者なの。もし、その赤子が真実を知ったとして穢れを持ったまま闇の世界で生きてたとしたら?」
「…接触を図ろうとするのは至極当然って訳か。」
「ええ。」
「そう言えば、穢れを持って生まれる種族。何て言ったかな?」
「まぁ、ヴァルキリー同様非常に珍しい種族だがヴァルキリー以上に少ない。穢れが原因で大概秘密裏に殺す奴が多いから知らないのも当然だ。彼らはナイトメアって言われて、生きてるケースの殆どがマフィアだったり闇稼業で生きてる奴が多いんだ。覚えておくと良い。寿命は200年って言われているんだ。」
「ナイトメア…闇に生きる宿命を負った穢れ持ち…………」
「…………」
イヴァンはまずオークションで過去に有翼人の髪が出品されてないか調べてた。何例もあるがその何れも超高額な取引価格だった。しかも幼少の頃の一房って感じで成人女性は出品例が無かった。あの足まで着くか付かないかの長さを根元に近い部分から切るとなるとどれ位の値が張るかの見当が付かない。
「ザイード様、如何程ご用意出来そうですか?身代金。子供の毛でもとんでもない高額なのに全くと言って想像つかないんですが。」
そう言ってイヴァンはネットで調べた落札例をザイード殿に見せた。流石の義父上も。
「アラブ首長国連邦時代だったら石油のお陰で幾らでも金は用意できたが天変地異後。悉く石油プラントが壊滅したからのぉ。しかも、再開発など夢となってしまったよ。海にも陸にも魔物が溢れる様になっては嘗ての様な事は出来ぬ。それ故に、投資家として細々と生活している状態だ。今も民が避難した浮遊大陸メルツは非課税で辛うじて生活出来ておるが、それも全ては皇太子であるピールの手腕があったればこそ。ピールの先見の明が無くば次に没落してたのは我の一族かもしれなかったのだ。」
「…………」
「まぁ、色々分からない事も多かろう。詳細は時間を作って話す故、ピールの帰宅まで休んで欲しい。此度の助力。誠にかたじけない。感謝致す。」
「…………」
こうして私たちはザイード様を室内へと案内してそれぞれ情報収集に当たる事にした。闇オークションの開催場所から始まってアメリアさんの事。ひょっとしているかもしれないアメリアさんの身内の事。とにかく謎が多かった。その日1日はそれらの時間に充てるしか無かった。




