最年少の少年兵 ピール
私達は、橋を渡って浮遊大陸メルツからアルカジーニャへと渡った。ここの浮遊大陸は連なっていて、橋を渡って行き来が出来た。
大勢の人数を乗せることになった私達一行はルーちゃんが収容された病院から王宮群が立ち並ぶある大陸まで渡って来た。都の中は宮殿とハーレムが立ち並ぶと言う極めて特殊な場所に立ち入っていた。
みんな、ルーちゃんの事を気にしてか。表情は一様に暗い。枯渇すると分かってて付加してくれた右手の魔法。私が願うのはこれが発動する機会がないことだ。
王宮の中に入って玄関に差し掛かると、降りるべく後方のドアが開けられた。まず、先に血の繋がらない弟に当たるピール皇太子殿下が降りて来て私をエスコートしてくれた。その次にイヴァンが続いて、幸太郎さんが降りて、杖をつきながらアメリアさんが降りて来た。後方のバンからアメリアさんに席を譲ったリンちゃんとバイソンさんが降りて来て、整備兵の方々も余りの豪華絢爛さに降りた途端見惚れていた。玄関先では義父上が出迎えて下さった。母上は普段はハーレムから出られる事は無い。勿論、他の夫人たちもだ。現在のスルタンはザイード様と仰った。再婚したのはかれこれ10年近く前。母上はザイード様に見合いの席で見初められてザイード様がその場で連れ帰り、第三夫人に収まった。当時私は5歳。ピール皇太子殿下は生まれる間際という都合上、挙式の為に一度だけ訪れた事があった。当時、第ニ夫人はご存命だった。ピール皇太子殿下に瓜二つの、凄く快活で頭の良い女性だったそうだ。私が小さい時にただ一度だけお話する機会があってその時、大きなお腹を触ってみなさいって誘われたんだ。恐る恐る触ると第ニ夫人は
「ねぇ、ミサトちゃん。女性ってね。素晴らしいのよ。この中に新しい命が育まれているの。もし、この子が生まれたら遊び相手になってくれると嬉しいわ!」
そう言って、笑って下さった思い出があったからそれから僅か1ヶ月後にお亡くなりになられたと言う訃報が信じられなかったものだ。原因も大きくなってから祖母から聞いた。ピール皇太子殿下を無事ご出産なされたが、産後の肥立ちが悪く。出血が止まらず慌てて救急病院に運んだが第ニ夫人が特殊な血液型だったのもあって輸血が間に合わず、お亡くなりになられたと。最後まで私と生まれたばかりの赤ちゃんと遊ぶ夢を見ながら逝ったと聞いて涙が止まらなかったものだ。
ピール皇太子殿下と初めて面会を果たした昨日。私は夢でも見ているのか。そう思った。第ニ夫人の生まれ変わりなんだ。間違い無い。そんな確信めいた思いさえあった。ルーちゃんの事故があったから気を使って頂いた様で、セレモニーみたいな行事は無く、身内の集まりの様な晩餐会を開いて頂いた。ピール皇太子殿下はその後、子育て経験のある母上によって育てられた。結婚の折にイスラム教に改宗した為に魔法は使えなくなってしまったが、剣は母上仕込みという事で。ルーちゃんの具合が非常に気にはなるが、戦争従軍中なんだし戦闘訓練してるんでしょう?って問われて誰一人として返答を返せなくなった時点で。
「呆れた。貴方達、戦争止める為に従軍してるのに一体何してるの?呆れて物も言えないわ。修学旅行に行ってるんじゃ無いのよ?お判り?導師様の留守の間、私がみっちりしごいてあげるから覚悟してらっしゃい!」
なんて宣言をされてしまった。言い訳出来るならしたかったさ!一体、何処にそんな間あるの。と。今までの旅の過程を思い出したよ。
最初に行ったドワーフの里浮遊大陸エステルで、バイソンさん。リンちゃんに出会った。その頃は本当に真面目に訓練してたと思う。問題はそこからだ。エベレストに行って魔王様の試練を受けたが、イヴァンの精神的ダメージが酷すぎて急遽行き先を変更してオーストラリアに行って療養生活を余儀なくされた。雪山で遭難したのがきっかけでルーちゃんと出会って。そのまま従軍する事になったんだ。イヴァンの親友達の危急を聞いたイヴァンが不眠不休でエアバスを蘇らせて向かった先はイギリスの首都ロンドン。そこで出会ったのはエドとアークさん。ナスターシャさん。とにかくあの手この手で命を狙われまくった。私はイヴァンと一緒だったから気づかなかったが後からエドも命を狙われたと聞いて寒気がした。親友同士で殺し合いもやった。精神が目に見えてすり減っていくのが分かる位だ。密かにローグフェルグに向かえばハリケーンに巻き込まれイヴァンとエドを庇ったルーちゃんが生死の淵を彷徨った。そこで出会ったのはアメリアさん、幸太郎さん。そしてイギリスから従軍を命じられたエド直属の整備兵達だ。彼らは王族であるエド直属であるからか。いざという時に護衛の任に就ける様に予め特殊部隊で訓練された人が送られて来るそうで整備の腕だけでなく兵士としてのポテンシャルが非常に高いのだと言うのはエドからの情報だ。で、ここで何をしていたかというと。ハリケーン襲来直後と言う事もありアメリアさんのたっての願いで救援活動に従事してた。その間に、祖父と祖母が亡くなり、その直後、エドが緊急帰国を余儀なくされてそれに付き合う形でルーちゃんの戦線離脱が確定した。彼らが留守の間、私達は日本国軍とイギリス国軍からなる救援部隊と救援活動に従事した。日を追う毎に犠牲者の数が増えてきて心が凄く痛かった。エドの方は一緒にいる内にルーちゃんとの関係が友人から恋愛関係になって結婚するから王位継承権放棄しますって事まで言い出したんだっけ。一時はどうなるかと思ったが騒動が終わってみればイギリス国民の意思に抗いきれずエドは皇太子殿下に収まり、ルーちゃんはその美しすぎるアルビノさんって事もあってかあっという間にイギリス国民が惚れ込んで婚約者にすらなってないのにその扱いはプリンセスそのものなんだそうだ。
結論?もうわかると思うがそんなものはなかった。これで従軍中?って言われて初めて弛んでないかと思う様になったよ。母上、ありがとうございます。目が醒める思いがしたよ。
そんな訳で、開発チームを除いた残りのメンバー全員でルーちゃんが戦線復帰するまでの間みっちり訓練する事になったんだ。最初はイヴァンは除外されていたが、イヴァンも前線に立つ事をピール皇太子殿下が母上に密告したせいでイヴァンもあえなく参加を義務付けられた。恨めしそうな目で睨むイヴァンに素知らぬ顔をしてしてやったりな様子のピール皇太子殿下の姿に微笑ましささえ覚えた。
「たああああっ!」
翌朝、王宮の中にある修練場で元気な声がこだました。此処では、ピール皇太子殿下と将来、側近になるであろう子供がもう一人。一緒に毎朝訓練しているんだそう。モハメド君と言った。彼らは学校があるので早朝と学校から帰ってからも何時間か訓練していると言う。イヴァンも新しいエンジンの開発を優先させないといけないと言う都合上練習時間も彼らと一緒で良いよ。って事になったんだ。目の前では練習時間が短い2人とイヴァンがハンデ戦を繰り広げていた。彼らが持っているのはミスリルの棒。メンバーに鍛治職人が同行している事もあってか。従軍に合わせて剣を新調する事になったんだ。バイソンさんは模擬戦しながら久々に剣を作るとあって剣筋を観察しながら目を細めている。二刀流で実践経験があるからか。バイソンさんの作って貰った刀を鞘から抜かずに完全に受けきっていた。
「訓練してなくてこれって。彼、訓練したらもっと強くなるわよ。」
そう言って母上は目を細めた。私もだ。自主練もっと頑張っておくべきだったと思った。後から聞いたらリンちゃんとアークさんは毎日練習してたんだそうだ。何それ狡いと思ったけれど。
「何言ってるのよ。あなた方夫婦は毎晩キャッキャうふふしてるのにお邪魔するのは野暮ってものよ?」
「まぁ、最近は妙な小部屋にお隠れになってるからそもそも誘いようがねぇなぁ。あれを強引に開けられるのはルー位じゃねぇか?そもそも場所を特定出来たとしても今の俺は妖精魔法覚えてさえいないから難しいし、ルーからも月では妖精魔法通用しないからこの旅では無理に覚えなくても良いって言われたぞ?」
「…………」
知らなかったよ。ルーちゃん。月では妖精呼べないか。そうか。少し考えれば分かる話だったね。と言う事は、神聖魔法勉強してレベル上げとかないとまずいって話なんだ。
基本をぶんぶん叩き込みながら考え事をしていたら少年兵達は学校に行く時間になった様で。
「姉上様、僕たちこれから学校あるんで失礼します。鍛錬頑張って下さい!」
そう言って、キラキラって目をして私に笑顔を向けてから朝食を食べに走って行った。モハメド君も一礼してから後を追った。彼もピール皇太子殿下とセットで従軍するそうで、腕白な殿下と寡黙な部下のセットは癒しになりそうだ。後からイヴァンも母上と話をした後こっちに来てみんなの見てる前でキスしてから耳元でこう囁いた。
「周りにハイエナ共がウロウロしているから気をつけろ。女は武術の心得が無いから問題ない。狙いもどうもアークの様だし。不倫も運命なんだろうな。あいつ。だが、お前を掻っ攫う狙いで刺客が3名。どれも別々ってのが呆れるポイントだなぁ。何処の王様もハーレムで大量に女囲ってるだろうに一体何を考えているのやら。まぁ、只ならぬ気配はリンちゃんもアークも既に察知してるからお前は大丈夫だと思うが、何かあったら遠慮なく俺の所に逃げて来るんだ。良いな。」
「分かった。気をつけるよ。」
そう言って、刺客に見せつけるかの様に深いキスして抱きしめてから何事も無かったかの様にイヴァンも朝食を食べに修練場を出た。その後母上が。
「確かにあの様子じゃあ、ミサトが骨抜きにされるのも無理は無いわね。でも、本当に良い人に巡り会えて母としても姉としても嬉しいわ!」
「母上、姉とは一体……………?」
「機会があればその内、ね。」
私は一抹の不安を覚えながら母上の後を追って修練場を出た。リンちゃんが護衛の為に私の後ろにつき、その後に聞こえたのは3つの命が途絶えた音だった。どうやら、アークさんは警告を出す事にした様でシルフィードに久々に魂を食べさせた後。
「……………何を思って来てるかは知らんが、スルタンの第一夫人の立場でありながら俺に色目使うなら待っているのはこんな未来だ。覚えておくが良い!」
そんな声が聞こえて私は目を丸くした。どうやら母上もご存知だった様で。当然だが、ミイラの横たわる遺体を宮殿のメイド達が見つけて大騒ぎとなり、この後の訓練は勿論中止になった。




