低体温症の余波。2
「ルーちゃん。いい加減にしないと流石に怒るよ!」
「お待ちください、陛下。もし、御身に何か良からぬ事があったら僕は……………!」
「…………」
「…その事なんだけどね。イヴァンにかけた術式を私の右手にかけてくれたらルーちゃんの不安は解消されると思うんだ。指輪と宝玉はこっちで用意したから。」
僕がイヴァン博士にかけた術式は行った事の無い場所でも位置を特定して移動を可能にする補助魔法だ。イヴァン博士が命に関わる危険が差し迫った事態に発動させる必要があったから脳と心臓に直接魔力を注いで術式を連結させて発効させた。その為にイヴァン博士が失神しちゃった訳だけども、流石に陛下はご存知だったか。僕は喜んで請け負う事にした。形状がお揃いの方がそれっぽいから参考にする為に左手も出してもらった。無詠唱でしても良かったが、真面目に詠唱をした方が効力が強いからイヴァン博士の時と同様にきちんと詠唱をした。ただ、少しだけ術式は改変させて貰った。用途を考えれば複数人向かえた方が良いので運べる人数を無制限に変えてみた。そのお陰で詠唱が長くなってしまったが、左手と同じ様な形状で指輪と宝玉は連結されて大がかりな魔法は完成された。
「これで、僕は陛下の御身を守る為の足がかりを得る事が出来ました。…ですが、同時に僕が実は極限状態だってのが分かっ………………………」
僕の意識はここで途絶えた。目は閉じられ世界が白い闇に包まれた。ナースコールが押された様で、慌ただしくなってた。みんなが追い出されてた。僕の左手が握られた感触がして、エドが残ってくれているのが辛うじて分かった。機械の音がけたたましい。口から何かを入れられた。切り開かれる感触がして心臓が空気に晒された様だ。こうなってしまっては僕はエルフの神様にエドの所に戻りたいと願うしかなかった。
幸いな事に僕はまだ死ぬ運命には無かった様だ。魔力枯渇状態が少しずつ回復していくと同時に持ち直したみたいで。僕は胸の痛みに気がついて目を覚ました。言葉は話せそうもない。僕の目は照準が合わず、掠れて見え辛い。でも、そこにいるのは紛れもなく最愛の人で。僕が大丈夫だからと伝えたくて笑うと左手が僕を慈しむかの様に僕の白い髪の毛を撫でてくれていた。声で、本人と分かって安心した。
「気がついたか?一時はどうなるかと思った。ピール皇太子殿下の忠言に従い、そなたの体調が落ち着き次第イギリスに緊急帰国する。異論は認めぬ。」
僕は目で同意の意を示した。霞んだ状態から視力が回復してくると泣きそうな顔をしたエドがいた。僕の左手を取って唇で接吻した。僕の目から涙が溢れた。本当に生きてて良かった。エルフの神様に心から感謝した。僕を生かせてくれてありがとうございます。エドを側に置いてくれてありがとうございます。僕の謝意は留まるところを知らず。口に出して話せないのが分かったから念話でエドに賛美を送った。どうやらエドには伝わった様で、顔が赤く染まって俯き加減で。でも嬉しそうにはにかんだ。エドはスマホが入ってるにしては大層大きめの箱からガサゴソと何かを取り出した。
「そうだ。イギリス政府からこんな物が贈られてきたんだ。僕とルーの分のiPhoneとiPad。最新式のモデルだ。首相閣下の手紙には今と言うよりも僕が即位してからって使う機会が増えるだろうからって言う理由で二つとも送る事にしたそうだよ。ルーが療養中はこれの使い方。覚えていこうか。僕たちが持ってたAndroid機種とは使い方が違うみたいだからね。」
僕はスマホなんてどれも一緒でしょって念話でぶうたれたが、規格が違うとどうも違うみたいだけど使い易さを考慮に入れてくれたのか。実際に操作しているエドの手を見る限りでは今回の物の方が遥かに使い勝手は良さそうだ。設定が終わってビデオ通話が可能になると真っ先に繋いだのは留守を任せている首相閣下だ。ビデオ通話を承諾して頂けた様で、iPadの画面には現在のイギリス首相、メイゼン殿が画面に現れた。
「メイゼン殿か。先程、贈り物を受け取る事が出来た。お気遣い感謝する。」
「いえ、無事に届いた様で何よりでした。それよりも、何かあったのですか?見た所、病院の様ですが。」
「ああ、詳細な理由は現在、相手が話せる状態に無いから差し控えるが、低体温症を発症させている状態の上、魔力枯渇状態を2度も起こした所為で一時は命すら危ぶまれた。幸いな事に持ち直してくれたが、ルーの状態が落ち着いて転移魔法が大丈夫そうならイギリスに緊急帰国するつもりだ。マスコミに嗅ぎつかれたくない故、直接ウインザー城に転移するつもりでいるが、それまでに医療スタッフや身の回りを世話する者を手配して頂きたい。政務で忙しい上に私事でお願いするのは非常に心苦しいが。」
「お任せ下さい。皇太子殿下。直ぐに手配致しましょう。ルーベルト様。先ずはお見舞い申し上げます。皇太子殿下のご寵愛を一心に受けていらっしゃる貴殿がご無事でであった事が何よりでした。」
話せないのが非常にもどかしかったが、僕自身のニアミスの所為でどれだけ多くの人に心配をかけてしまったのか。なんだか凄く気が重たかった。僕は軽く会釈を返した。エドは色々打ち合わせをしてから通話を切った。
お陰様で、エドが献身的に看病してくれたのもあって、翌日には機械のの類が取れて魔法の詠唱が可能になり、僕はヒールウォーターを詠唱した事で抜糸する事が可能になり抜糸して頂いた。本当ならもう転移魔法は使える位には回復していたけれど僕の所為でエドの心配性に拍車をかけてしまってたから言い出せず。イギリスに帰国したのは翌日で。ウインザー城に篭った僕たちは外に出なくても大丈夫な様にしてくれたみたいでエドは室内で僕から目を離さない状態で精力的に公務をこなす傍ら僕は寝たり起きたり。退屈凌ぎに真新しいタブレットを操作してイヤホン付けてからニュースを見て。夜になったら甘い。そんな不思議な療養生活を送る事になってしまった。
病院から追い出される様に帰された私達は、空港に立ち寄った際。整備兵の一人。マークさんが慌てた様子で私達の元に来た。内容はこうだ。
「すいません、報告があります。波動エンジンが突如、消失しました!」
原因は分かる。ルーちゃん。自分が精製した魔法石を消費する形で右手の術式を完成させたのが。私は右手を翳して。
「うん、原因は多分これだよ。ルーちゃんの魔力枯渇状態を引き起こしたのはこれで間違い無いよ。ルーちゃんは自分の命を引き換えにしてでも私を守るつもりなんだよ。でも、これでまた進めなくなってしまったね。」
「て事は、飛空挺はガラクタに戻ってしまったんだな。」
「はい。」
「上官殿にはお伺いたてたのか?」
「連絡も何も。電源すら入りませんで。」
「あー。そう言えばそうだったなぁ。エドの奴。今それどころじゃない。何で、俺が指示出す。ピール皇太子殿下。申し訳ありませんが、リムジンもう1台手配して貰って構いませんか?ご厄介になる人数が後7名増えますので。」
「7名か。リムジンよりかワゴン車の方が良くないか?」
「乗せられれば何でも構わないのでよろしくお願いします。」
「あい分かった。取り敢えず、空港まで大至急手配しよう。」
「ミサトは俺と一緒に来てくれるか?残りの整備兵と幸太郎に事情を説明する。全員の下船を確認後、俺のアイテムボックスに飛空挺を収容する。エド達が帰って来る2週間を目処にエンジンだけ再開発しないとな。マークはここで待機。残りのメンバーは俺が迎えに行ってくる。」
「了解しました!」
マークさんが敬礼して応えてくれた。直接滑走路横の発着ゲートに横付けされている飛空挺に足を運んで上下に分かれて、食堂にいるアメリアさんと幸太郎さんに声を掛けようとして先に問われた。知らなかったとは言え、ルーちゃんを殺しかけた。しかもイヴァンの頭を冷やす為に作った氷嚢に閉じ込めて。発見されて病院に運ばれるまでルーちゃんが目を覚ます事が無かった為に何時もの5割り増し老け込んだ様に見えた。
「ルーの奴は?」
「一時意識回復していたけれどさっき容態が急変しました。今、生死の淵を彷徨ってます。原因がこれだと分かっていたから私達は病院から追い出されました。」
そう言って、私は右手を翳した。非難は覚悟の上だ。
「それは……………?」
「イヴァンに施した魔法を私にも施して貰いました。私に危険が差し迫った時に援軍を呼べる様にしたかった様です。ルーちゃん。元々責任感強いから、目が覚めた時もこんな所で休めない。従軍するって言って聞かなかったんです。それで…………」
「……………神になる様に定められた者がそう易々死ぬという事はありません。ルーベルトさんの為に少しだけ祈る時間を下さい。」
「…………」
アメリアさんがルーちゃんの為に祈りを捧げていた。何事かを囁いたらエルフの神が現れた。びっくりして私も跪き最敬礼を取ってルーちゃんの無事を祈ったよ。アメリアさん。まさか神を召喚する力をお持ちとは思わなかった。ルーちゃんの生命の危機とあってはエルフの神様も立ち上がって頂ける様だ。
「凄え。これが盲目ながら従軍を果たした理由なのか…………」
「はい。私に与えられた役目は命尽きようとしている異世界の神と現世の神々たちと新たに生まれた地球の神とを結ぶ。言わば縁結びの役目。生きている内は神になると定められた者の顔を覚え、亡くなったら神の元へと誘う。それがわたくしに与えられた役目です。」
「でも、目は見えないんだよな?」
「はい。わたくしは有翼人として生まれましたが、その時には既に何らかの理由で目が見えなくなりました。先天的な理由ではなく明らかな後天的理由だと言われてます。原因は何かは分かりませんが、敢えて追求しようとも思いません。ですから、わたくしは話しをする事でその方の人となりを覚え、顔を触れて其の者の事を覚えるのです。もちろん、死んでしまえば目の障害は障害でもなんでもなくなるのです。死ぬ事は怖くはありませんが、お慕いしているあのお方に嫌われたくない一心で神を呼ぶわたくしは愚かなのかもしれません…………」
「…………」
私は何も言う事が出来なかったよ。無言で転移魔法を発動させてイヴァン達と合流を果たした。
イヴァンは飛空挺をアイテムバックに収容して。それから待ってたみんなと合流して帰路に着いた。




