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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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低体温症の余波。1

「あ……………あれ……………?」


 僕が目を覚ましたのは病院の様な建物。殴られた右頬と泣き腫らした目をどうにかしたくて適当な氷の中に入った迄は覚えている。時計を見るとどうやら夜中だ。外の景色を見たがアラビア風な建物ではない。一体、此処は何処なんだろうか。まるっきり見当が付かない。ただ分かるのは、左手を握ったまま眠りこけている尊いお方を凄く心配させてしまったんだと言う重たい事実だ。僕は魔法で看病疲れで寝ているエドを病室のベットに寝かせて布団をかけた。僕の腕には点滴が施されてた。音を立てない様に気をつけた。僕自身は起きて窓の方に近づいて。窓から夜景を眺めてた。


「僕は一体、何してるんだろう。エドやみんなを困らせるつもりなんて無かったのに…………」


 ぼーっとしながら右頬を触った。いつの間にか腫れは引いている様だ。でも、僕が不用意に氷の一粒の中に入ってなければみんなを心配させる様な事態にはならなかった筈で。言ってもどうしようもない自己嫌悪ばかりが頭をよぎった。みんなにも謝らないとなぁと白い髪をかきあげた。頭を掻きながらどうやって謝ろうかとそればかりを考えた。時計の針がカチカチ鳴る音を音楽にして、ただひたすらに考えをまとめようとした。

 月を眺めた。月から攻撃が再開されたと言う知らせは今の所無いが、未だ継戦中だ。イヴァン博士が悉く主要施設を破壊したからこそ攻撃されないと言うだけの。仮初めの平和だ。

 僕は、従軍中なのに好きな人が出来て、恋愛して。幸せを享受している。従軍前には考えにも上らなかった。僕はエルフの神に祈った。そして問いただした。本当は僕は幸せになっちゃいけないんじゃないんですか?僕にエドは勿体無さすぎます。って。窓を開けて尚も祈った。僕は戦争を止める事は出来るんでしょうか?僕はイヴァン博士の病んだ心を救う事が出来るんだろうか。みんなの笑顔を守る事が出来るだろうかと。


 そんな事ばかり考えていたからか。気配すら感じさせない状態で僕は毛布に包まれた。後ろから手が伸びて窓は閉められ、耳元で愛しい人が囁いた。


「そなた。すっかり冷えてしまってるでは無いか。絶対安静だと言われてる。みんな心配したのだぞ。アメリア姫とショーンがいなかったら命はなかったそうだ。僕も生きた心地がしなかった。」

「……………エド。ごめんなさい。僕、まさかこんな事になるとは思ってもみなくて。その…………」


 この先は言わせて貰えなかった。エドが優しく口止めしたからだ。泣きたかった。エドを恐怖のどん底に落とした事実が許せなくて。軽はずみな事をした自分を許せなくて。泣きたかった。ポロポロと涙が伝う。エドが、僕の涙に気がついて舌で舐めた。何だかくすぐったかったが。


「もう良い。そなたが無事で心から安堵した。此処が何処だか気になるであろう?アルカジーニャの隣の大陸でな。浮遊大陸メルツだ。ピール皇太子に急病人が出た旨を伝えたら此処を紹介されたんだ。ピール皇太子は何でこの時期に低体温症?って不思議がられたけどな。他の人間は既に陸路でアルカジーニャに入ってる。みんなは時間がいつになっても良いからルーが気がついたら連絡する様に言われているがどうする?」

「……………流石にこんな時間に連絡取ったら迷惑かけるよ。みんなが起きてる時間帯にして欲しい。」

「分かった。言う通りにするから頼むから横になってくれないだろうか?ショーンの力で辛うじて冬眠状態になっていたから助かった様なものなのだ。点滴でも温めている状態だ。そんな状態で風に当たるなど。ますます気が気じゃなくなる。」


 僕は首を縦に振った。ナースコールして点滴を動かしてもらってた。僕自身はエドに抱きかかえられてベッドまで戻された。それから僕はホットココアをゆっくり飲んだ。横になるとエドに何度も頭を撫でられた。少しやつれた様な気がして。何だか申し訳ない思いで一杯だった。




 翌朝、病院からエドが直接ピール皇太子に連絡を入れた様だ。そりゃあそうだ。僕のスマホもうっかり水没させちゃってたからね。エドの持ってたスマホも僕の家の浴槽の中に未だダイブ中。勤勉家だからメモ取るかなんかしてたんだろう。エドが戻って来て数刻もしない内にいきなりみんなが直接飛んできたんだ。まず、真っ先に僕は陛下に抱きしめられた。


「ルーちゃん!良かったっ!無事で良かったよ……………もうっ、なんで氷の一粒の中に入る様な事したの!」

「……………申し訳ありませんでした。陛下。僕は、氷水で顔を洗った方が顔の腫れも泣き腫らした目も落ち着くかなって思って。まさか、人工物に閉じ込められたら出られなくなるなんて思いもよらなくて……その…………僕が勉強不足で凄く軽率だったんです。今まで知識としてしか無かった魔法がいきなり使える様になってたから僕が調子に乗ってしまったんです。イヴァン博士にも、みんなにも…本当に申し訳ありませんでした。僕、怖かった。ひょっとして、もう誰にも気がつかれないまま…このまま死ぬんじゃないかと思った。僕を見つけてくれてありがとうございます。みんながいなかったら僕は今頃…………」

「俺も、反省させられたよ……………俺、自分の身に降りかからなかったらきっと気づく事も無かった。ルーを心配する過程を味わう内にああ、これを今までみんなに味わせていたんだと思うとな。みんなにも。勿論、お前にも申し訳ない事をした。命があって良かった。無事生還してくれて良かった。」

「ワシも心配したぞい!氷水の中にいると聞いた時は本当にどうしようかと思ったぞ!ルー、お前な。確かに万能かもしれんが、これがもし、ワシが愛飲してる酒だったらどうなってたか想像つくか?」

「……………いえ。でも、考えてみれば確かにそっちの方が確立高かったですね。皆さんお酒を嗜む方の方が多いから。」

「そうじゃろう。そうじゃろう。お前さん、一歩間違えたらアルコール中毒で洒落にならない事態になる可能性の方が高かったわい!これに懲りたら、氷の中に入る芸当は今後も差し控えた方が良いじゃろうな。」

「 …本当にすみませんでした。」

「そうね。父さんも呆れてたわね。だってそうでしょう?誰だって思うわよ。エドはルーちゃんと一緒にいたからこそ水滴にさえも入り込むって事を知っていたけど他の人間は知らないからまさか氷嚢の中から出られなくなったなんて想像すらしてなかったわよ!まぁ、人間なんだから一人になりたい時だってあるわ。だけど、今度からみんなの目につく様に一人きりになって頂戴ね。父さん、アメリアさんの介護とお留守番の為にこの場に居ないけど、悪かったって言ってたわ。女性のあなたにあんな事すべきじゃ無かったって言ってたわ。」

「いえ、悪いのは僕ですから。」

「なぁ、ルー。俺だってイヴァン殴ってたんだから何もお前が責任取る事無かっただろう?」

「いえ、怒りに任せて魔法を行使してしまったのは他ならぬ僕ですから。殴られて当然だったんです。もし、あの場で怒られて無かったら僕はジーク様の魔法の教えを忘れて増長してたかもしれません。ただね、出来る事ならジーク様の弟子にはなりたかったなぁ。僕の魔法は全部オーストラリア軍で学んだものですので。そうしたら、僕も少しはジーク様のお考えに触れる事が出来たかも知れない。その事だけが残念でなりません。」

「んじゃ、特殊魔法を極めたのは…………」

「まぁ、大体想像つくでしょう。尋問の為だと言う事くらいは。命令に逆らえなかったってだけの話です。ただ、空軍に移籍出来たのはラッキーでしたけどね。だけど、空軍から拝借してたスマホ。水没させちゃったんですよね。今回の件で。始末書ものかなぁ。」

「そなた。プライベートでスマホは持ち歩かないのか?」

「はい、持ってないですね。両親の所と軍関係者以外必要なかったのでそう言えば、イヴァン博士のスマホも僕の家に置きっぱなしですね。」

「んまぁ、大破しちまっているがな。そう言うエドもだろう?」

「そうだな。プライベート用と仕事用の2台あったが、仕事用はこの間の一件の時に水没させてそのままにしておる。呼び出されない生活が楽しくてな。このまま放置しても…………」

「そんな訳にはいかない事位、同じ皇太子なんだから分かるでしょ!ほら、イギリスからのプレゼント。行く場所が分かってるから、先回りして僕の元に届けられたんだ。勿論、婿殿の新しいスマホも世界政府から届いているから受け取ってよ!」

「……………短い自由であったな。」


 僕はついつい吹き出してしまった。僕はここにいる小さな皇太子殿下にご挨拶をする事にした。


「はじめまして。ピール皇太子殿下。僕は導師ルーベルト。この様な姿で。ご無礼をお許しください。」


 僕は起き上がって挨拶をしようとしたがピール皇太子殿下を始めとした全員に止められた。


「いや、そなたは先程まで死の淵を彷徨ってたんだ。無理は良くないよ。本当ならね、僕の宮殿でおやすみ頂こうと思ってたんだけど、姉上でさえ目の色を変えて自分のハーレムに引き入れようとする輩がいる位なのにそれ以上にお美しい導師様がいるとなるとエドワード皇太子殿下の伴侶って分かってても手を出す馬鹿いるからね。せっかくだからエドワード皇太子。一時イギリスに帰国なさった方が良いと思うよ。診断、出ているんでしょう?」

「ああ、2週間。絶対安静を言い渡されてる。病院に搬送された直後に心肺停止状態に陥ったんだ。以前、日本でルーの状態によく似た人が助かった事例があるからここの医療スタッフが頑張ってくれたんだ。」

「2週間!?そんなに!僕たち崇高な旅をしている最中なのに2週間も休める訳ないじゃないですか!僕なら大丈夫ですから!」


 僕は、魔法の力を纏ってでも起き上がろうとした。冗談じゃない。大事な旅の途中に僕の都合で足止め食らうなんて。だけど、幾ら起きようとしても体が言う事を効かない。僕の力を上回る魔力で抑え込まれてた。術式を何度も割るけどそれを上回る速さで術式を重ねられた。こんな事が出来る人は一人しかいない。他ならぬ陛下だ。

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