それぞれの思惑。4
俺はやり過ぎた奴らに反省を促してからあいつらの部屋に向かっていた。アメリアさんの手を取ってだ。そんなに遠い訳じゃないから一部始終は聞こえてた。あいつらが問い詰めた理由もイヴァンを心配しての事だというのも分かってるが、途中からちょっと虐めてるんじゃねぇかと思うようになり、看過出来なくなった。様子を見に行ってみりゃ、イヴァンは既に失神してた。どんな気持ちでいたんだろうかと。心配が尽きない。部屋に入ると、ミサトちゃんがいた。
「ミサトちゃん。どうして此処に?」
「ウインディアの救助依頼で。ただ、支度に手間取って一足遅く…………」
「……………俺も不注意だった。もっと早くに止めるべきだったよ。」
「いえ、一部始終は見てました。ルーちゃんも必死だったからああなったんだと。」
「…そうか。アメリアさん、悪いがこいつ。診てくれるか?」
「承知致しました。」
アメリアさんははたと何かに気が付いたみたいだ。
「これ、時限式の追跡魔法だわ…………」
「追跡魔法?何だってそんなものを…………」
「…私、分かった気がする。」
「ミサトちゃん?」
「幸太郎さんはイヴァンが自殺を試みると言う祖父の預言を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、覚えているが…そんなの俺、場所分かるが…………」
「まぁ、魔法に関して門外漢である幸太郎さんならそう言うと思いました。普通、転移魔法は制約が付きまといます。ですが、自殺を試みる人がそれを話すとお思いですか?場所が分かったとして行った事が無い場所にまで飛べてしまえる程実は魔法は万能ではないのです。ルーちゃんが施した処置はそれを可能とする為のもの。ルーちゃんがこのチームに参加しない限り、イヴァンは命を落としていたでしょう…………」
「……………やり過ぎたのは俺の方だったか。俺、頭に来てあいつ殴っちまった。」
「いいえ、気にしないで下さい。幸太郎さん。幸太郎さんがお怒りになるお気持ちは凄く良く分かります。私も、これがイヴァンを救う鍵の一つじゃ無かったら今頃、ルーちゃんを問い詰めていたでしょうね。転移魔法は私達が行った場所であると言う条件が付くものなのです。幸太郎さん。私は腕輪の効果でイヴァンの元に馳せ参じる事は出来るでしょう。ですが、まだ危険が残ってる場所に普通なら目の見えないアメリアさんを連れて行く事はありません。連れて行くなら、説得力のあるあなたを連れて行きます。アークさんとセットでです。」
「…………」
「イヴァンがそこで思い止まれば良いのですが、状況が確認できて初めてアメリアさんを送る事になる。そうなって初めて術式が発動してルーちゃんがアメリアさんを送り届ける事が出来る様になるでしょう。私も術式確認とりますね。」
そう言って、ミサトちゃんがイヴァンの頭上に手を翳して術式を読み取っていた。魔法陣が複雑現れた事で確信を得たみたいだった。
「やっぱり。こんな複雑に魔法陣が絡まる魔法。私では難しいレベルの特殊魔法です。しかも、イヴァンが思い止まれば発動すらせず勝手に消える様に条件設定されてます。ルーちゃんはいざと言う時はこの術式を足がかりに飛ぶつもりです。ですが、宇宙空間で転移魔法は使われた事が無い。唯一出来たのは月に行った事があるお祖父様のみ。移動系魔法は遠くなればなる程に魔力の消費量が多くなるから少しでも早くイヴァンの目論見を阻止する為に今回アルカジーニャに赴く事になったのでしょう。私、ちょっとルーちゃんの様子を見てきますね。」
「済まないな。面倒事を起こしちまって。」
「良いのです。元を正せば、いつまで経っても自殺する習慣が抜けないイヴァンの方に落ち度がありますから。一度身に付いた習慣を直すのって大変なんです。しかも全て自分の心の中で抱え込んでしまうと。みんながみんな困ってるなら頼って欲しいと願っているんですが、未だに頼ろうとせず自分で何とかしようとするでしょう?きっとね、見るに見かねての事。」
「あいつのアレを習慣とまで言い切るか。」
「ええ、一度、イヴァンの手首と首を何らかの機会の折に確認させて貰うと良いですよ。いつもスーツ着てるから分からないと思いますが、首にも手にも何箇所か自殺した形跡が残っているんです。嘗てのショーンもネイサンをそんな日常に心を痛めて来たのでしょう。本当なら人に生まれてくる筈だった彼らが人になるのを自ら蹴ってまで精霊王として立ったのもイヴァンの幸せを見届けたい一心だったのかもしれません。」
「…………」
俺はイヴァンの手首のシャツのボタンを外して軽く上に上げる形でまくって手首を見てみた。もう、なんて言うんだろう。この無数の傷跡を見てここまで追い詰められていたのかと。俺はただただ憎かった。心優しいあいつを5年もの間軟禁し、自殺が習慣と言わせるまで追い詰めたあいつらがただただ憎かった。そして、ありのままのイヴァンを受け入れて大事にして下さるミサトさんに改めて頭が下がる思いがした。
私はルーちゃんを探してた。途中、エド達に出会ったからルーちゃんの居場所知らないか聞いたが。
「かなり応えた様でしばらく一人にしてくれって言われてな。僕たちの目の前から消えたのだ。一体、何処に行ったかまでは知らぬ。あの者は自然を巧みに利用する故探してはいるのだが…………」
とまぁ、心配してるよ。旦那さんが。機関室に行ってもいない。メインルームにもいない。みんなの部屋にもいない。甲板にも食堂にもいない。船内何処に行ってもいない。堪りかねてショーンの行方をフラウディアに聞いても分からず、ネイサンも知らず。あの真面目なルーちゃんがまさか勝手にいなくなるとは考えにくい。一体、何処に消えてしまったと言うのか。一人、また一人とルーちゃんを探す為に集まった。みんながみんなルーちゃんの名前を呼ぶものだからダウンしていた筈のイヴァンが起き出して。幸太郎さんも一体何処に消えてしまったのかと途方に暮れる有様で。
「本当に何処に行ったか心当たり無いのか?エド。」
「済まない。あの者は1滴の水に水牢作ってしまえる程自然界のものを巧みに利用するので、全くと言って良い程、見当が付かぬ。」
「何じゃと!そんなものに隠れてしまったら探しようがないじゃ無いか!」
「とりあえず、ここにある物に手を付けたらまずいってのは分かったが…………」
今、みんながいるのはルーちゃんが最後に目撃された食堂にみんな集まってくれていた。既に4時間近く経っている。一体、何処に隠れてしまったと言うのか。ほとほと困り果て。イヴァンはウインディアを呼び出した。
「なぁ、爺さん。ルーとショーンの奴。何処にいるか分かるか?」
「…婿殿が枕にしてた氷嚢の中じゃ。ただ、本人に全くと言って良い程悪気も死ぬ気も無いのは明らかじゃから余り怒らないでやって欲しいのじゃが。強いて言えば事故じゃな。最初に入っとったのはそこにある氷の一粒なのは確かじゃ。じゃが、幸太郎。一度、氷を変えたであろう?その時に誤って入れ込んでしまって出るに出られなくなってるだけじゃ。」
「ちょっと待ってくれないか?じゃあ、ルーはもう…………」
そりゃあ、エドが茫然としたのも分かる。普通、4時間も冷たい水の中にいて生きている人いないもの。でも、そこは流石に精霊王持ち。
「いや、案ずるな。ちゃんと生きておる。ただ、優先順位が自分自身では無いだけじゃ。異変に気が付き、ショーンにお腹の子供を死守する様に命じて自らは仮死状態に陥っておる。早い所、出してやってくれ。」
まず、イヴァンはさっきまで敷いていた氷嚢の封を開けてバケツに氷水をぶちまけた。
「この氷水の中の氷の一粒にいるのかよ…………」
「ルーちゃん。大丈夫かしら…………」
「こんなん、どうやって見つければ良いんだ…………」
「…………」
みんなして途方に暮れた。本人さんが強固に魔法で施錠してるが故に私でさえもどうして良いか分からない。不意に、ネイサンが熱風で氷を溶かし始めた。どうも、微かなショーンの気配が分かった様だ。熱風でどんどん氷が溶かされていく内に魔法陣が現れて。水に変化したからか。パリン!と強制的に魔法が解除されてルーちゃんが姿を現したが何時間も氷水の中にいたからか。まるで体温が感じられなかった。目は泣き腫らしたみたいで泣いてた跡が残ってた。右頬が若干赤くなってたから多分、そこが幸太郎さんに殴られた場所なんだろう。本人としてはこんな大騒ぎになる様な事をする為にしたんじゃなくて、エドが心配するから腫れ上がった所だけ冷やせば良いかって感覚で氷の一粒に入って、冷やしている内に出るに出られなくなったんだろう。精霊王達が温風を当ててルーちゃんを暖めた。身体の中で温め続けてたショーンがみんなの気配に気が付いたんだろう。
『悪いな、みんな。心配かけた。ルーベルトの命で極力身体は温めていたけど冷水の中にいた時間が長すぎたんだ。呼びかけているけどまるっきり反応がない!誰でも良いからルーベルトを助けて!』
ショーンの叫びに他の精霊王達は温風の威力を上げた。エドは何度も蘇生魔法を試みた。私もヒールをかけた。みんな思いつく限りの事をした。毛布を持ってきて包む者。人工呼吸を施す者。湯たんぽを急遽作ってルーちゃんに当てがう者もいた。リザレクションではどうにもならないと悟ったエドはルーちゃんを抱きしめた。ボソボソと願いを言っている様だった。それに反応したかの様にアメリアさんがリザレクション2を唱えてくれてようやっとルーちゃんの顔に血色が戻ってきたのだった。




