それぞれの思惑。2
飛空挺は一路アルカジーニャを目指している。飛行機のエンジンをそのまま積んだので飛行時間は7時間程の予定だ。前回、天候でエライ目あった(但し、ルーちゃんに庇われて事なきを得てる)エドはかなり慎重で、周辺の天気を予めリサーチ済みで。問題無いと判断して航行を続けてた。お陰様で、順調だ。
「ルー、機関の方に今のところ不具合はないであろうか?」
「ん。問題無いよ。出発手古摺ったからどうしようかと思ったけど大丈夫だよ。」
「無理はしてないであろうな?」
「…すっかり心配性になったね。エドは。」
「……………」
但し、この波動エンジンの元はルーちゃんの魔力で作った魔法石って事で、動かすのにはルーちゃんが魔力を操作して動かしているのだ。ただ、相思相愛って事で互いに魔力供与出来る事もあってかエドも枯渇しない程度にお手伝いをして動かしているといった状態だ。
「少しずつでも使っていけば魔力が上がるからエドが手伝ってくれるのは非常に大助かりさ!」
なんて言うからエドも嬉々として魔力供給のお手伝いをしていたりする。
特にイチャイチャしている訳では無い。二人ともコクピットにある魔法石に手を重ねて置いているだけ。それでも何だろうな。自分達も今まで散々見せつけていた筈なのに。羨ましいと感じてしまう。そんな事を思っていると、イヴァンが最後尾の席から手招きをした。何かと思って側に座った。
「お前、あの二人を見て羨ましいとか思ってないだろうな?」
とか言い出した。すんなり認めるのは癪だったので。
「別に。」
と答えた。イヴァンは呪詛を唱えて私を例の小部屋に誘った。とてもご満悦だ。
「んじゃ、その身体に聞こうとしよう。」
「!?」
ねっとりとしたキスから始まって、服が肌蹴て快楽へと誘われた。一度覚えてしまったものはまるで麻薬だ。毎日の様にお互い求めあっているのにそれでも何度でも手に入れたいと思ってしまう。実に強欲だと。祖父と祖母が亡くなった時は感情の行き場を無くして激しかったが、流石に少し落ち着いたみたいで。寂しい様な。でも恋しい様な。愛しい様な。色んな感情が上がっては落ち着いてを繰り返した。流されるままに虜になった私を見て愛おしそうに目を細めるイヴァンに改めて聞かれた。
「んじゃ、改めて聞こう。本当は羨ましかったんだろう?」
「…すいません。嘘ついてました。」
「宜しい。ならば、ミサトの気が晴れるまでたっぷり可愛がってやるからな?さぁ、解放するのはいつにするかなぁ。」
「……………」
参った。この様子だと多分到着まで解放する気は無い様で。大人しくイヴァンに抱かれますか。
呆れたわ。離陸してそんなに経過してないのにあの二人。しっかり結婚特典使って引きこもる様にした様で。最後尾に座っていたのに、いつの間にかいらっしゃらない。動いてないならともかく。動いてるから気になって近くにいたアークに聞いたら。
「ああ?大丈夫だ。移動してても彼奴ら此処に戻って来るから心配すんな!」
そう言って席を立った。気になったので。
「ねぇ、アークさんはどこ行くの?」
「ああ、甲板で鍛錬でもしようかと思ってさ!何の因果か知らねぇが、あいつら守らないといけないから時間見つけて鍛錬してたんだ。良かったらリンちゃんも一緒にどう?」
「それは良いわね!皆さんにお茶を淹れてから合流して構わないかしら?」
「ああ。待ってるぜ!」
アークさんは見るからに荒くれ者だけど、こう言った事は非常に真面目。ローグフェルグでも捜索活動終わったら私は報告書出したり雑務を夜に回して昼間は良くアークさんの鍛錬に付き合う事が多かったの。実の子と魂の子って感じだけど、多分、兄さんがいたらあんな感じになってたのかしら?って思う事があるの。他の人はどうか知らないけれど、不真面目な方々が非常に多い中で一番彼が真面目なの。真摯に剣に向き合って何時間も練習するの。お陰様で、ワタシもレベルアップに繋がってるわ。
パイロットのお二人と食堂にいらっしゃるアメリアさんと父さんに朝食とお茶を出してきて、ワタシ達の分はお弁当にしたの。サンドウィッチだから楽勝ね。食堂にあるキッチンで作ったから真っ先に父さんとアメリアさんにお出ししたの。その次、パイロットのお二人に持って行ってきたの。
「朝食とお茶置いておくわね。二人とも。」
「ありがとう、リンちゃん!」
「遠慮なく戴くとしよう。……………非常に美味しい。良いお嫁さんになるであろうな。」
「まぁ!嬉しい事を言ってくれるじゃない!エド。」
「うんうん、辛子が良く効いててアクセントになってるから美味しいよ!後でこのレシピ教えてよ!従軍が終わったらエドに作って差し上げたいから!」
「勿論。ルーちゃんだったら大歓迎よ。和食も作れるようになりたい?」
「良いねえ、和食。身体に良いって聞くからね。ただ、天変地異の所為で魚料理系統が途絶えたのがね。」
「ああ、出汁の味はAIが再現出来たものの刺身とか言う料理は幻になったのであったな。生で魚を食すという事だが、どんな感じだったのであろうな?」
「あら、知らない?エド。日本の大学が細々と嘗ての海の魚を地上で養殖しているの。成功したのは天変地異前なのよ。だから、食べようと思えば食べられるわ。ただ、高価すぎて庶民の口には入らないってだけなのよ。」
「…それは流石に知らなかったな。従軍中には叶わないであろうが、新婚旅行であればゆっくり出来るし良いであろう。勝手に決めて悪いが、ご褒美があればこれからの従軍も励みになろうと言うもの。どうであろう?ルー。」
「そんな、僕には畏れ多い。」
「何を言う。天国でも地獄でも僕について行くと言ったのはそなたの方であろう?」
「確かにそう言ったよ!だけど、エドは王子で僕は単なる一般庶民なんだ。僕なんかで良いのかって思うんだ。」
「僕がそなた以外を望んではおらぬ。」
んまぁ、流石に王族よねぇと思ってしまったわ。ルーちゃんの不安に思うその心も凄く分かるわ。身分違いの恋人同士だから気持ちがとても良く分かるわ。ただ、預言が出来るイヴァン博士は既に夫婦認定している所がね。イヴァン博士は生前のジーク様が仰った様にやたらと世界に向けて預言を発する事が無いわ。ただ、気になる発言もしてた。アメリアさんを搭乗させた理由に言及したのだ。
「アメリアさんを乗せたのには理由がある。唯一の戦死者になるが、正確には身代わりだ。エドのな。ルーを庇ってリザレクションでも効かないレベルの負傷を負ってしまうんだ。ルーはもう妊娠しているからリンちゃんを護衛に充てるつもりだがそれでもルーはエドの心配を他所に奮戦するんだ。エドが子供達が生まれて来るのを凄く楽しみにしているのを知ってるからな。今はどうなるか分からないが、何があっても彼奴らの未来は守られなければならない。エドは戦争後、国王に即位する。全ての怪我をアメリアさんが身代わりになるから普通に生活は出来るが、障害は残るから二度と戦場に赴く事は無いだろう。「車椅子の賢帝」エドワード王はこれ以降もAIの特性故に機械後進国になるのを厭わず機械の支配を拒み続けるだろう。そして、エドワード王の死後、その教えはエルフとして生を受けるジークフリート王に引き継がれる。遥かなる未来のジークフリート王の治世中にAIの反乱が起きるんだ。人族の最後の希望の砦がイギリスになるだろう。そして、反乱が終息した時、人族、エルフ、ドワーフ達は手を取り合って生きていく。文明の力を放棄してな。そして新たな神々が立ち、人々を繁栄に導くんだ。エドワード王が立たない限り、未来の人族に待っているのは絶滅だ。それ故に、イギリスの未来は守られなければならないんだ。アメリアさんの命はその為の対価だ。」
「じゃあ、ワタシが護衛するのは……………」
「リンちゃんには悪いが、今回はエドを死守して欲しいんだ。車椅子の旦那残されたら子育てしながらルーは旦那の介護をせにゃならん。幾らイギリス王室で、職員に恵まれているとしてもだ。爺さんだってご苦労なさってた位だ。そんな思いをあの夫婦に誰がさせたいと思うんだ?だが、それをリンちゃんに振るとな。今度は幸太郎が嘆き悲しむんだ。俺、幸太郎にだけは嫌われたくないからここだけの話にしておいて欲しいんだが……………」
「なぁに?何か特典とかあるのかしら?」
「特典というには些か微妙だがな。幸太郎の嘆きに反応してアメリアさんが身代わりになる。その時、リンちゃんの元の性別に改変してくれるだろう。顔はそのままだが女の子になってしまうんだ。ただ、下半身不随になる未来は変わらない。必然的に世界政府から退職して多額の障害年金を受け取れるんだ。だけど、リンちゃんの世話は幸太郎が担当するから強制的に戦場カメラマンから引退する事になるだろうなぁ。暫くは俺たちと一緒に過ごすが、俺たちと行動してる間に良縁に恵まれる。幸太郎が介護の限界を感じた時に突如出会いが訪れるんだ。それにな。ミサトがお気に入りのリンちゃんを生涯手放す事は無いから死ぬまで俺たちが面倒見てやるよ。」
「…正直言って死にたくはない。でもね、父さんが危険な仕事から足を洗うって聞いてワタシはやってみる気になったわ。ワタシにだけ教えてくれてありがとう。イヴァン博士。心配しないで。こう見えてワタシは口が固い女よ?お望み通りに命を賭けてエドを守るわ。」
こんな話を聞いたのはエド達が戦線復帰する前の話。この仲良しっぷりを見たらイヴァン博士がそう仰っているのも分かる気がしたわ。いつの間にか考え事をしていたら心配そうにルーちゃんに声をかけられた。いつの間にか魔法をかけられてたみたいで。
「リンちゃん、情報提供ありがとう。僕、流石にこれは看過出来ない。確かに戦争してるから誰かが死ぬってのは分かる。だけど、僕たちの命の対価を払う為だけにアメリアさんを乗せたとあっては僕、我慢がならない!エド、自動航行に切り替える事が出来そう?」
「無論だ。今の航路に特に問題はない。……………終わったぞ!僕自身の事も含まれている様だから是非ともイヴァン博士を問い詰めねば。僕は甲板まで赴いてアーク殿を呼んで参る。ルーは何が何でも夫婦の寝室から引きずり出せ!集合場所はそうだな。僕たちに割り当てられた部屋があるだろう。そこで落ち合おう。」
すっかり油断してしまったわ。ルーちゃんの恐ろしさをまざまざと見せつけられた。とりあえず、サンドウィッチ1人前をルーちゃんに渡してから、ワタシは指定の部屋で待つ事にした。




