旅立ちの朝。2
私は知らなかった。ルーちゃんはてっきりただのパイロットだと思っていた。だけど、違ってたんだ。本人が今まで巧みに隠して来ただけで、普通なら1種類の魔法を極めたら他の魔法は覚えられない。だけど、ルーちゃんは少なくても3種類の魔法を極めている事になる。精霊王を拝領した時点で精霊魔法は最上位だ。ただ一つ唱えた攻撃魔法の1つ地面を隆起させて破壊するクエイク2は真語魔法の最上位で。他人の知識を奪うコピーは特殊魔法最上位となる。イギリスで奇跡を起こした時にショーンの成長がやけに早いなぁとは思っていたんだけど、どうも魔法を使えば使うほど成長が早まるみたいで私たち3人の精霊王がまだ赤ちゃんなのに対してショーンだけが3歳児程度の大きさだった。何だか凄い差をつけられたみたいで愕然とした。
ルーちゃんは言いたい事だけ言って助けることも無く最愛のお方の姿を見つけてそっちの方に行ってしまった。私もイヴァンの姿を見つけたが、アメリアさんの救助が先だ。
「アメリアさん、大丈夫ですか?」
「……………すみません、わたくしなら大丈夫です。」
私も手を差し出して、アメリアさんは歩き出すも数多の瓦礫に行く手を阻まれていて、数歩も歩かない内に瓦礫に阻まれ、転倒をした。杖を支えに尚も歩こうとするも歩くのもままならない状態に。
「ルーベルトさんの仰る意味が良く分かりました。確かに戦場をこの状態では歩けない。空を飛べば的にもなりましょう。わたくしはどうすれば、どうすればあのお方の力になる事が出来るのでしょう。ルーベルトさん。お慕い致しておりますのに……………」
「……………」
誰も何も言えなくなってしまった。本当に罪作りな事をするよ。ルーちゃん。
どう言う事かと言うとね、ルーちゃんは実は女性であるって言うのはつい最近になって知った。ルーちゃんの口からだ。事情も聞いた。戸籍が男性のままなのを良い事に旅の間は混乱を避ける為にしばらく男性のまま過ごすだろうなってイヴァンの口からも聞いた。報道があるからもう女性になっても良いんじゃないかと思うけども実はそうではないらしい。此処のメンバーの中で情報隔離されてるメンバーが実はお二人いらっしゃる。一人は聖域に近づけない為に自ら絶賛引きこもり中の魔王様。もう一人は他ならぬ彼女。アメリアさんだ。ローグフェルグは世間から隔絶されている土地。従って、情報は一切入って来る事が無いそうで。ローグフェルグから外に出たのは祖父の一件のみ。だからルーちゃんが女性なんて知る由がなかったんだ。しばらく会えない間、私が基本介助していたが、その間、常にルーちゃんの事を恋い焦がれていたのが想像に難しくない。その結果、相思相愛のエド、ルー夫婦に男性と絶賛勘違い中のアメリアさんが横恋慕すると言う奇妙な図式が出来上がってしまっていたのだ。余りにも可愛そうなので、一度真実を話した方が良いんじゃないかとイヴァンにも相談したが。
「本人が言おうとすらしてないのに言ってしまえば、お前。ルーを無くすぞ?こう言うのはちゃんと本人の口から言った方が良い。ただな、ルーはどこか抜けている所があるだろ?きっとな、ローグフェルグが世間から隔絶された土地だと言う事を完全に失念している可能性がある。エドが皇太子に即位している件ですらご存知ではなかった。爺さんのご逝去が完全に霞む勢いで巻き起こった騒動だった筈だったんだけどなぁ。」
「……………」
そんな訳で、しばらく様子見となっている。
歩くのを諦めたアメリアさんは宙に浮いた。私も羽を出してから宙に浮いてゆっくり飛びながらアメリアさんの手を引いてイヴァン達の元まで誘導した。見てて可哀想な位、くしゅんと沈んでいる。
「イヴァン、どうしよう。」
「どうしようと言われてもなぁ。アメリアさんはこの旅には必須なんだ。エドもぼやいていた。愚痴なんて言う事自体が珍しい。以前の様な事をしでかさないかと非常に案じておられてな。此処に来る時ハリケーンに巻き込まれた時にエド庇ってるだろう?多分、それを指してる。なぁに、ミサトが転移魔法で乗せて仕舞えばあいつも諦めつくって。」
「そう言うもの?」
「ああ、それにあいつ普通を装ってはいるが、エド、回復魔法覚えて来てるぞ?」
「ええっ!エドが信仰してるのキリスト教でしょう?地球の神を崇拝しても魔法は覚えられない筈よね?」
「それな?普通なら覚えられない筈だったんだ。それを無理矢理改変できる奴が居たとしたら?」
「…まさか、エドが魔法使える様になった理由って。」
「リンちゃん、ご明察。特殊魔法の最上位魔法。条件変更魔法コンディションチェンジだ。これを行使できるのはうちのメンバーで言えばルーだけだ。普通、異世界の神を信仰しないと覚えられない回復魔法をエドに関しては恋愛対象を信仰するって書き換えてる。魔法適正が回復魔法じゃ無かったら使う事すら無かった幻の魔法なんだ。まぁ、これはあくまで爺さんの記憶の受け売りなんだが。」
「じゃが、種族の神が付加する魔法があるじゃろう?あれはどうなっとるんじゃ?」
「爺さんの記憶を見て調べてみたが、異世界にも人族は居たが滅ぼされているから詳細な記録は戦乱の大火に消されて分からない。魔法を覚えさせる為に使った例ではルーが初めてだ。元々、魔法で作られた契約書の変更の為に生み出された魔法とあってな。これを瞬時に思いつくルーの実力は本物だ。だけど、流石に種族の神に準ずるものが無いからその様な魔法は習得出来ないかもしれないな。」
「まぁ、鍛治神様じゃと火力を上げ下げ出来る程度じゃし、エルフじゃと荒れた森を修復する魔法じゃったかな?どちらかと言うと生活魔法じゃから無くても特に問題は無かろう。」
「世話の方なら俺が引き継ごう。俺もカウンセラーって名目での参戦だし問題はないと思うぞ。」
「良いのか?幸太郎。そうして貰えると助かる。」
「おう!構わねぇぜ。アメリアさんだっけか。こんな爺ィで悪いが、よろしくな!」
「こちらこそよろしくお願い致します。」
こうして、準備が出来たので2日後早朝。旅立ちの朝を迎える事となった。空飛ぶ帆船と飛行機を掛け合わせた飛空挺がお目見えした。今回はイヴァンでも散々悩んでいたのは知っていた。とりあえず、人員オーバーだけはどうにかしたいから。そう言った理由で先に船の拡張工事をしていた。外観はどうにかして完成すると、エンジンをどうしようかという話になった。空飛ぶ帆船のエンジンでは出力が足りず。飛行機のエンジンだと電気を発生させる必要があるが、ソーラーパネルは全部大破していたからかなり煮詰まってしまった様で。そこに戦線復帰したエドとルーちゃんが合流した。アイデアをルーちゃんが出してそれが採用される形で突破口になった。
「異世界から来た大陸には魔法石という物が入ってまして。以前の僕なら知識のみで作成するのは不可能だったんですが、お陰様で精霊王を拝領してからと言うもの、格段に魔力が上がったので作れる様になりました。人によっては賢者の石と呼ばれる代物なので盗難には気をつけないといけないんですけどね。」
そう言って、ルーちゃんは小さめの魔法石を生成してた。但し、説明用なので小さめだ。それから、ルーちゃんは魔法石を囲む形で歯車を生成すると魔法石の周りで歯車が回り出した。
「で、魔法石で歯車を生成しましたが、面白い現象が起こるんですよ。これが。これで電力起こせるなら飛行機のエンジン動かせるんじゃないかと思ったんだ。イヴァン博士。どうかなぁ?これ、開発したら世界初の快挙になるよ。魔法石を利用した波動エンジンって事になるかな?」
という事で、空飛ぶ帆船に使ったボイラーとタンクが波動エンジンに生まれ変わって船内中央に鎮座し、そこから飛行機から予め全て取り外していた電気エンジンを接続する形にした。波動エンジンの隣に変電所も設けた。一度試運転したら電圧が高すぎてショートしかけたので急遽作成した。勿論、バッテリーで充電出来るようにしてある。紆余曲折したが、イギリスから整備士さんが派兵されたお陰もあってどうにか出発出来るまでにこぎつけたのだった。
操縦席は飛行機のまんま流用された。水浸しになってたのに、分解して色々あるもので修理したので問題なく使える様になっていた。パイロットルームは無くみんな同じフロアにいる形だが、居住区にはちゃんと部屋は確保した。但し、殆どが相部屋なのはご愛嬌だ。今のパーティメンバーは加入順でいくと私、イヴァン、バイソンさん、リンちゃん、ルーちゃん、エド、アークさん、ナスターシャさん、アメリアさん、幸太郎さん、整備士さん5名だ。総勢16名のクルーの居住区ってなると流石に個室という訳にはいかず、まず、整備士さん5名とバイソンさんの機関部門担当が一部屋になった。で、女性陣である私、ナスターシャさん、アメリアさんが同室になった。そして、イヴァン、リンちゃん、ルーちゃん、エド、アークさん、幸太郎さんが同室になった。波動エンジンがもう少し小型化出来ればもう少し融通が利いたがこればかりは時間が許さないのでこういう形になった。メインパイロットはエド。サブパイロットはルーちゃんが引き続き担当だ。
「それでは。飛空挺初お目見えだ。名前はまだ無いが、発進する!」
ちょっとだけずっこけそうになったが無事、ローグフェルグを発った。次の目的地は浮遊大陸アルカジーニャ。私の母上がいる。煌びやかなイスラム系の街並みのある別世界だ。




