旅立ちの朝。1
僕たちは久々にローグフェルグに戦線復帰する事にした。ルーの姿は相変わらず男性の姿だ。何でも。
「本当の姿はエドだけが知っていれば良いんだ。今の所はね。此処には油断ならないナスターシャさんってお方もいるからね。それよりも、僕に女性としての名前付けてくれてありがとう。エド。ルシールって名前。気に入ってるよ。ああ、僕たち今、従軍中なのにこんなに幸せで良いのかな?」
なんて可愛い事を言って来るので。
「幸せは人それぞれだから僕たちはこれで良いのだ。ただ、気になるのはそなただ。僕としてはこんな危険な旅に連れて歩きたくはないが、お陰様で。そなたのおねだりにはすっかり弱くなってしまったよ。どうせ、僕がダメだと言っても付いてくるであろう?だけど、立つのは戦場なんだ。くれぐれも僕を庇おうなんてするなよ?」
って言い聞かせるんだが、僕にはルーからの誘惑って手段が有効なのがバレてしまっているので色っぽい目をして口を塞がれて、蠱惑的に誘われてしまえば語るに落ちた。確信しているのは、ルーは約束する気が全くと言って良い程無い点であろう。何かあればいつでも庇うつもりのようで。正直なところ。先日の様に僕を庇って死に瀕する事態に陥る日が来るんじゃないかと。気が気じゃないし。心配ばかりが募るのだ。
現在、次の移動の場所の相談の為にイヴァン博士と絶賛相談中だ。お陰様で、僕たちが引きこもる前に予め僕に仕えてくれている空軍兵から整備兵を5名派兵したお陰でどうにか移動用の船は完成の目処が立っていた。若干の変化もあった。ルーが女性って知っている人々からは僕が呼んでいる様にルー。またはルーちゃんと呼ばれる様になった。ミサトやリンちゃんはルーちゃんと呼んだ。ルーの事を親友とまで言うミサトは色んな話をルーと良くしているみたいで。人妻同士。とても仲が良く今、アメリア姫の所の手伝いに行ってるようだ。まぁ、ルーの魔法で今日中に終わってしまうだろう。アーニャさんの引っ越しを5分で済ます時点でその実力が窺い知れる。ああ、話が脱線した様だ。イヴァン博士が苦笑いしながら。
「お前、話に集中してるか?ルーの事が気がかりなのは分かるがメインパイロットはあくまでお前なんだからお前がしっかりしてくれないと次の行き先すら決められないんだが。」
「…すまない。」
「でも、俺的には今の人間くさいエドの方が個人的に好きだけどなぁ。最初に出会った頃なんて感情が感じられなかったからなぁ。まぁ、理由が分かれば納得したが。」
「…こんな事を言ってはなんだが、エルフを娶った男性って揃いも揃って心配症になるのであろうか。」
「ああ、それ俺も分かる気がするんだ。目が離せないって言う感覚凄く分かるぞ。エド。ミサトに言わせればルーは同じエルフでも上から数えた方が早い位の美形なんだそうだ。アルビノでイジメ受けたのって、きっとみんなルーの気を引きたかったからじゃないかと俺は聞いてるぞ。」
「…あの美しさに骨抜きにされているが故、説得力がある。常時側に置いておかねば不安になる程に。あの者は僕の心をしっかり掴んで離さぬ。約束すらまともにさせて貰えぬ。先日の様な事をまたいつか仕出かすのではないかと気が気でならぬ。まぁ、イヴァン博士に愚痴っても始まらぬ。次の行き先だったな。僕的には先に浮遊大陸アルカジーニャに行くべきであろう。あそこは天変地異以後、生き残ったアラブの王族達が移り住んでいる。イスラム教の教えが未だに色濃く残ってる土地だ。確か、ミサトの母上もそちらにいらっしゃっていたな。此処での目的は二つ。1つはミサトの母上にジーク殿と綾女殿の件の報告。もう一つはそこの王様にお伺いを立ててスカウトするって目的だ。先日のお祭りの最後の一人の身元をイギリス諜報部にて既に調査を終えた。身元も判明している。調査報告書はこれだ。」
僕はイヴァン博士に書類を提出した。皮肉だが、遊び半分で参加して最後まで生き残ってしまった。このメンバーでは一番の最年少で僅か10歳。シークなんだかとんでもない秀才でこの歳で天才ハッカーの名を欲しいままにしていた。ピール・ムハンマド・アル・カイワイン殿下。僕の打診に対して
「えっ!僕、あのジハードに参戦して良いんですか!やった!僕、皆さんのお越しをアルカジーニャでお待ちしてます!」
とまぁ、呆れる程勇敢な先輩皇太子殿下であると言うのだけは確かだ。普通なら未成年だから止める。現にその他にも問い合わせたが悉く断られていた。当たり前だ。みんな命は惜しい。イヴァン博士も流石に。
「幾ら本人が行く気でも俺たち遠足に行く訳じゃねぇぞ!」
「まぁ、イヴァン博士が仰っている事は僕も分かる。けど、他を当たってみたがみんな断られたよ。この子以外の全員ね。そりゃ、皆さん死にたくないって。気持ちは分かるよね。イヴァン博士がイギリスで散々命狙われた経緯知ってると余計にね。飛び級して今、高校生らしいから時間も大丈夫だそうだよ。」
「……………」
どうやら、今回の旅にマスコットが追加になりそうだ。僕は後からイヴァン博士が毒薬をジーク様に没収された事。その毒薬を口の中にまで仕込んでいた事。毒薬が青酸カリだった事。預言で月に行けば良心の呵責に耐えきれず自殺を試みると言う啓示を受けている事をリンちゃんから聞いていた。僕が寝てる間に起きていた事だ。この平和の使徒の命を握る鍵が年端もいかない子供に全て託されるのだ。少しでも思い留まる理由が出来れば。僕はピール皇太子に願いを託すしかない不甲斐なさを覚えていた。そんな中。
「イヴァン、エド!大変だ!ルーの奴アメリア殿に喧嘩売ってるんだ!地下の図書館で。急いで来てくれ!」
大急ぎでバイソンさんが呼びに来た。イヴァン博士が僕の耳元で。
「アメリア殿の預言の中にこの旅の参加にルーが強硬に反対するって預言があるんだ。恐らくそれだ。悪いが、ルーの方の回収頼む。」
「…了解した。」
僕と、イヴァン博士と共に地下図書館に向かった。入り口で幸太郎とリンちゃん親子が固まってた。
「ちょっと!ルーちゃんパワーアップしてない?一方的にアメリアさんを追い詰めているんだけど!」
心当たりはあった。一番魔法を普通に使う機会が多いルーなんで精霊王の成長が早いのだ。図書館は既に本棚がかなり激しく損傷していた。目が見えない代わりに気配を辿っているんだろう。だがそれよりも早くルーの杖がアメリア姫の頭上を捉えた。そしてルーは魔法を唱えた。
「コピー!」
アメリア姫の頭上に魔法陣が描かれた。茫然としていた。ルーはこう宣言する。
「アメリアさん。来て下さるのは本当にありがたいと思ってます。ですが、自分の身も守れない人を連れて歩く様な余裕なんて無いんですよ。これで分かったでしょ?僕たちがやっているのは戦争なんです。お陰様で今のコピーの魔法で回復魔法覚えました。もし、連れて行くならちゃんと戦力になる人を推挙して下さいませんか?介護が必要じゃない人を。それだったら僕だって歓迎しますから。」
「……………」
瓦礫だらけになった図書館の出口をすたすたと歩いてた。みんな誰も何も言えなかった。ルーの方が正論だ。別に、目が見えないのを卑下してる訳では無いがあのルーが戦力外通告出すとは思ってもみなかった様だ。僕を見つけた様で。こっちに走ってきた。
「エド!次の行き先決まったのか?」
「ああ。お陰様でな。飛行プランを練る。悪いが、飛空挺まで来て貰えるか?出航まで余り時間が無い故、確認作業も並行して行う。」
「了解しました!」
そう言って、僕の隣に並んで一緒に歩き出した。理由無くルーがあの様な振る舞いをする事は無い。
「そなた、一体何があったんだ?」
「それがね、回復魔法使いの専門家としてアメリアさんが同行するって言い出してね。エドも知ってると思うけど、魔法自体ははっきりと言うけどこれ以上の戦力は無いと思うんだ。だけど、ご飯食べる介助だったり部屋へのエスコートだったりをしてるのは基本陛下か僕だったりするんだ。正直、これが旅行とかなら僕も怒らないさ。だけどエドも良く口にするけどこれは遊びじゃなくて戦争で、殺し合いをしてるんだ。だから、浮ついた気持ちで。中途半端な考えで同行するんだったら流石に困るから。じゃあ、僕に勝てたら参戦認めましょうって事になってね。完膚無きまでに叩きのめしたんだ。本人がそこから動けなくしたかったから本棚壊しまくったんだ。ただそれだけで勝負ついちゃったよ。で、回復魔法覚えてきたよ。僕は知識としてしか利用価値ないけど、これでエドに教える事出来るよ。だけど、正直なところ。これで良かったのかって思っているところなんだ。」
「……………そうだったのだな。ルーは何一つ間違った事はしておらぬ。ただ些かやり過ぎではあるが。ルーがそう言う事をしたのはアメリア姫を案じての事。違うか?」
ルーは何も言わずにただ首を縦に振ってくれた。やらかしている張本人なのに泣きそうな顔をして俯いているのがまた。僕は適当な部屋に連れ込んで鍵をかけて抱きしめて。ただただ頭を撫でた。連れ込んだのには訳がある。理性を保てる自信がなかったのだ。ルーはただただ僕にしがみついていた。ルーの額に口づけしてから。
「案ずるな。誰が何と言おうとも僕はそなたの味方だ。本当ならこんな事はしたくはなかったのであろう?他の人は知らぬが、僕はちゃんと分かっているからね。ルー。」
僕はルーが落ち着くのを待ってから仕事に戻る事にした。整備士達と再会すれば随分とルーの事を冷やかされたが、それも笑って許せる程だ。みんなは僕が心から笑う姿なんて見るの初めてだったらしくて。僕が今まで笑顔の仮面を貼り付けていたのがバレていて。でもまぁ、呼び名は変わってしまったけれど心から安らげるこれからを有り難く享受させて頂く事にした。




