そして、皇太子へ。
僕は、上官のご厚意でウインザー城に戻る事になった。だが、ウインザー城に近くなるにつれて車が全然進めなくなってしまった。民衆が一斉にウインザー城に押しかけているみたいだ。こうなると、予測できるのが何とも嘆かわしいのだが、ルーが室内には入れずとも城門を開けてしまっていて、大量の国民に囲まれて二進も三進も行かなくなって羽を出して上空に逃げて泣きそうな顔をしながら。
「無理っ!そんな大それた事、絶対に無理っ!」
って言う図式だ。ルーの素直で騙されやすい性格上、大して見ずに魔法で城門を開けてしまうのは普通に読める。ただならぬ気配に慌てて扉を開けるのも読めてしまうのだ。腰が立たなくなっても僕が止めてなければ普通に応対していたんだろうと。まぁ、そんな愛らしい一面に苦笑してたら。
「王子、申し訳ありません。民衆が完全にこの車を取り囲んでてこれ以上進めません!」
「…やむを得ない。此処から抜け出すのは容易ではない。民衆が引き揚げてから気をつけて帰って欲しい。上官殿に助かりました。そう伝えて頂きたい。」
「承知致しました。」
僕はジープに乗せて貰っていたので上が解放的なのを良い事にフロント部分に足を載せて勢いよく飛び降りて、人を掻き分けながら進んだ。少々乱暴に人混みを掻き分けるのが僕だと分かった途端、民衆達は道を開けてくれ、僕はようやっと走れる様になった。喪服がシワまみれでぐちゃぐちゃになったがそんな事は気にすらしてなかった。3km程走ってようやっとウインザー城が見えてきた辺りで上空に光輝く存在を確認した。ルーだ。ルーからも僕だと分かったんだろう。民衆の上を低空飛行で飛んで真っ直ぐ僕の元へと飛んできた。僕はルーに呼びかけた!
「おいで!ルーっ!」
「エドっ!」
僕が両手を広げたらルーはそのまま抱きついてそのまま上空へと掻っ攫って行き、僕をウインザー城の屋根の上まで送ってくれた。民衆が僕の名前やルーの名前を口々に呼んでいた。
「大丈夫か、ルー。そなた。またやらかしたであろう?あれ程、不用意に扉を開けてはならぬと言っていたであろう?」
「うん、確かにそうなんだけど、来られたのがイギリスの首相閣下だから失礼があってはまずいと思って。ごめん、まさか、外がこんな風になってるなんているなんて。」
「おかしいな。僕、さっき国会議事堂で首相閣下と面談してるんだが…………」
「さっきってどの程度さっきなのさ!今日はエド、朝早く出て、移動は徒歩だったんだからそこそこ時間かかるでしょ!先方はエドと面会後、どうしても引き下がれないと仰せでまず、首相閣下を始めとした上院と下院議員全員が押しかけて来て、事情を聞いた民衆がみんながみんなエドを説得するんだって息巻いてて。僕が話しを聞いてる間にあれよあれよと増えていってるんだ。現在進行系でさ!僕にも頼まれたんだ。エドを是非に国王様にって。即位は戦争が終わってからで構わない。しばらく空位でも大丈夫だからって。だけど、皇太子が空位なのは困るし、民衆の為に頭を下げてくれる御心優しいエドならみんな納得するって。」
「ちょっと待て。そもそも、僕は国を乗っ取るつもりでこんな事したんじゃない。ルーと二人で生きたかったからこんな事になった訳で。で、ルー。手に持ってるそれは何?」
「ああ、これね。今朝、陛下達がローグフェルグに戻られたんだけど、その時にイヴァン博士から手渡されたんだ。僕はまだ読んでないから一緒に読む?」
「どれどれ。」
僕はルーから手紙の入った封書を受け取って、携帯用ナイフで封書を開けた。ナイフをしまって中から手紙を受け取った。開いて僕は読みだした。
『エド。まずは心よりお悔やみ申し上げる。俺は月でのあの生きるのも辛かった時を思い出したよ。男子のみならず一族郎党みんなだったそうだな。生後半年の子供も含まれているって聞いて正直、胸が痛かったよ。直ぐに傷が癒えるとは思えないが、ルーはそんなお前に幸運を呼ぶんだ。よく聞いて欲しい。そもそもルーが両性具有で生まれた訳な?どうもエルフの神が次代を引き継ぐのがルーベルトだって事は分かっていたが生涯を通じた伴侶までは分からなかったそうなんだ。当たり前だ。だって運命の相手はまだ生まれてさえもいなかったからな。だから、運命の相手が分かった時点で男性にも女性にもなれる様に配慮したってだけだったんだ。運命の相手はお前だ。エド。だから、成長が女性のそれになってしまったそうだ。本当に神様もいい加減な事をするなぁと爺さんの記憶を見て俺は思わず脱力したよ。ルーが両性具有だってのを苦にして常に男性に化けてないと精神が持たず、秘密を隠し通したいからこそ誰にも覗かれる心配が無い最上階に家を構える程苦にしてたのになぁ。でだ。エドの手で女性になったルーがこの後、初めての妊娠しやすい時期を迎える。エルフの女性の妊娠は非常に特殊なんだそうだ。爺さんの記憶によるとな、エルフの妊娠しやすい時期って言うのは大体人によってばらつきがあるが、大体48年〜52年の間 で初潮に近い現象が起きて以降、100年おきに妖精の祝福の期間が訪れるんだ。妖精の祝福の期間中はエルフの女性からフェロモンが出ててな。それに当てられた男性は期間中女性の支配下に陥るそうだ。なので、相手のいるエルフ達はこの期間中は森の中に女性を隠して洞窟とかに身を隠して子作りに励むそうだ。相手がいない場合も同様だ。極力、誰にも会わない様に気をつけながら森の中でやり過ごすんだが、そんな中でも森は沢山の恩恵があるから食料を求めたり、水汲みに行ったり、薪を取りに行くって理由で普段から人の出入りが多い。それ故に、偶然出会ってそのまま支配下に置かれて子供を孕むって事故で妊娠するケースが後を絶たなかったそうだ。異世界から来る前の爺さんはそれを利用して子供達をたくさん産んで貰って全員魔導師に育てて異世界から流れてくる浮遊大陸の落下を一族使って阻止したそうだ。結局、全員亡くなったそうだが。話が脱線したな。ルーも同様で、この機会が訪れるのは明日の晩から3日後の晩だ。だが、ルーのフェロモンは既に出始めてる。もし、理由があれど人々が多く寄ってくるなら少なからずルーの影響が出てると思って貰って構わない。出来れば早々に誰にも手を出されない場所にルーを隠せ。くれぐれも簡単に摘める系統の食料と水を忘れずにな。飢えるぞ。この機会を逃すとエドが人として生を受けてる間に子供に恵まれる事はない。もし、エドが祖国の事を憂いているならこの機会を絶対に逃すな。ミサトもあの場では臣下と口に出したが、ミサトが欲しいのは臣下ではなく友達だからルー共々これからも良き友人である事を願っている。まぁ、みんなには事情話しておいたから。ただ、アメリア様の方はかなり難航してて、ルーがいないとどうにもならん。かく言う俺もだ。次の土地に移動するのに船改築してるんだが、外装が治っても今度は定員オーバーって問題が出て来たんだ。蒸気エンジンでは出力が不足してて絶賛悩み中だ。こんな事言いたくないが、戦力のお前たち二人抜けた穴は思った以上に大きかったって事なんだ。だから今回の巻き込み系イベント終わったら早々に戻って欲しい。なお、お前たちが授かる子供の数は双子と分かってるんだ。但し、妊娠が判明するのも出産にかかる日数も人と全く一緒だから妊娠が分かるのは月のゴタゴタ終了して暫く経ってからって事だな。どうするかはお前達自身で決めろ。これ以降の預言はお前達次第で変わるから時間が出来たら話すな。イヴァン。』
「僕の子供…………まやかしでも何でもない僕の。僕自身の子供…………」
「エド…………」
二人して抱き合った。民衆の熱狂の中、額をくっつけながら二人して目を閉じた。僕はルーに問う。
「そなたはどうしたいんだ?ルー。」
「……………正直に言う。男として育ってきた筈の僕に妊娠します。女性なんだと言われても正直、ピンと来ないんだ。でも、これだけは分かってるんだ。この機会を逃すと絶対に後悔するって分かるんだ。僕は、血が繋がってても暖かい家庭を知らなかったエドに衝撃を覚えたんだ。お茶一つでも疑わないといけないってどう言う事なんだと思ったんだ。僕はそんなエドに本当の幸せが何かを知って欲しい。本当の家族って殺し合いするものじゃないんだって。慈しみ、尊く、楽しく、かけがえのないものなんだ。本来の家族ってね。だからこそ僕たちは家族になるべきなんだ。皇太子云々なんてどうでも良い。エドが望んだ幸せがそこにあるなら僕は何処にだって行く!天国でも地獄でも。そこでエドが笑っていられるなら僕は…僕は…………」
「…………」
僕は目を開けて改めてルーを見つめた。色素の無い目に慈愛を讃えて泣き噦る姿は完全に女性のそれだと思った。本当に愛おしい。この人の子供なら僕は是非とも欲しいと思うには十分だった。抱き寄せて泣いてるルーに口付けた。最初は浅く。時折深くなりながら。民衆が熱狂していた。僕たちの行く末を騒々しく見守っていた。名残惜しくルーを離すと。
「どんな結末になってもルーが一緒にいてくれるなら、こんなに心強い事はない。僕はルーと幸せになる。ただそれだけの為に今回の賭けに挑戦してみようと思う。異論は認めぬ。」
ルーが縦に首を振って同意を示した。フェロモンの都合もあってルーに僕だけ地上に下ろして貰った。ルーの事を話せば警察が出動して民衆達に帰って頂くことが出来た。この機会を逃すと絶対子供に恵まれる事が無いと分かった首脳達は僕たちが山籠りするのに必要な代物を用意してくれた。但し、皇太子の件は今ここで略式で構いませんので認めて下さらないと絶対に帰らないと言うものだから、僕の方が根負けして翌朝、僕が皇太子に即位したというニュースが全世界を駆け抜ける事になってしまった。




