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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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イギリスは燃えているか。 3

 僕たちが着いたのは、燃え盛るバッキンガム宮殿の前だった。民衆達は僕たちの格好を見てみんなが息を呑んでいた。釘付けだった。門の所には中央にミサトが立っていた。後方にイヴァン博士と剣聖殿が跪いて控えていた。僕の予想では普段着だろうと思っていたから服がいつも着ている旅装のそれと分かって心底ホッとした。僕は礼服。僕は嘗ての日本の天皇陛下の事を思い出していた。


 朕の事はどうなっても構わない。どうか日本の国民を救ってください。


 そんな高潔な事が僕に出来るかどうかは分からない。ただただ、後方で共に歩くルーが僕の背中を押してくれたからどこまで譲歩を引き出せるか分からないが僕は賭けに挑む事にした。

 僕はミサトの御前に来て跪いた。ルーも後方でこれに倣った。


「イギリス第3王子、エドワード・ジョージ・スペンサー。この度の不始末を詫びる為に御前にまかり越しました。女王陛下の夫君、イヴァン殿に対する無礼の数々。また、導師殿に対しての無礼の数々を心より伏してお詫び申し上げます。」


 僕は再び頭を下げた。どよめく民衆達の前で、実に堂々と手を翳して静粛を促した。


「エドワード殿。面を上げて下さい。そなたも此処で息絶えている傀儡達の手により何度も命の危機に晒され、逃亡先のオーストラリアでは特殊部隊に拉致されるところであったと伺いました。ご無事でであった事心より安堵しております。」

「はっ!女王陛下に多大なるご心配をお掛け致しました。お陰様で、陛下が遣わして下さった導師殿のお力添えもありまして、事なきを得た事。心より感謝しております。本当にありがとうございました。」

「良いのです。そなたを慮ったとはいえ、結果的に貴方から家族を奪う結果になってしまいました。そなたの心痛を思うとその胸中たるやさぞかし複雑な思いをお持ちでしょう。」

「…いいえ、その様な事は決して。今のイギリスがあるのは貴方様のお祖父様のお力添えがあったればこそ。それを忘れ、私利私欲に溺れる余り、ミサト様を始め多くの方々に迷惑をかけたのみならず、判断を誤ったが故に我が国の領土と国民を人質に取られるという事は本来あってはならなかったのです。お願いがございます。僕の処分は如何様になさっても構いません。ですが、此処にいる善良なる国民達には何ら落ち度はございません。どうかこのイギリスを。貴方様のお力で救って頂きたく存じます。」

「……慈悲深いそなたの願い、聞き届けましょう。ルーを大事にしてくださったそなたに免じてです。ですが、3度目はないと心しておくのです。それと、今後は私の臣下として忠誠を誓いなさい。それが条件です。イギリスの王族はこれを持って途絶えますが、後悔は無いのですね?」

「はい。僕は先程、処分の儀は女王陛下に一任した身。今後は、女王陛下に終生の忠誠をお誓い申し上げ、御身のご恩に報いるべく御奉公させて頂きたく存じます。」

「…この国はそなたの様な賢君がいたのが幸いであった。これにより、この国は破滅から逃れるでしょう。」


 ミサトは呪詛を唱えながら、幾重にも浮遊の効果のある魔法を唱えていき、術式が更新された。国民からは啜り泣く声が聞こえた。墜落の後の破滅的預言から回避された安堵と共に生きるイギリス王室最後の生き残りとなってしまい、イギリスを去る事になってしまった僕に対する惜別の涙だった。ただ、イギリスは議会民主制だ。だから、僕が居なくても多分、やっていけるんじゃないかなって思う。落下は一先ず収まった。後は民衆が暴徒化した事で起きた火災の鎮圧と言った所だが……………


「導師ルーベルト。」

「はっ!こちらに。」

「一先ず落下は落ち着きました。後は、この大火災を鎮圧するだけです。貴方の精霊王にも協力して頂きますよ。」

「御意」


 ルーは立ち上がってミサトの御前に改めて跪いた。ミサトはこう宣言した。


「祖父が逝去した事で嘗て居た世界の精霊王は死ぬ事になりましたが、それと同時にこの地球世界の自然を守る為新たなる精霊王が4柱生まれました。かの者達は、日本の四季になぞらえて生まれる事になりました。顕現なさい。春の精霊王フラウディア、夏の精霊王ネイサン、秋の精霊王ショーン、冬の精霊王ウインディア。それぞれが嘗ての精霊王と同等かそれ以上の力を有します。精霊の母たる我が命じます。街で燃え広がる炎を鎮圧し、大火が起こる前に復元なさい!」


 4柱の精霊王達は、力を合わせてイギリス全土に大雨を降らせた。僕もみんなも民衆達もずぶ濡れだ。あっと言う間に炎が鎮圧されると、ミサトの祈りに応じて光りを放ち、光の当たった場所から次々と街が元通りになっていった。廃墟がみんな、元に戻っていったのだ。僕にも分かる。奇跡が起きたのだ。民衆達から歓声が巻き起こった。ミサトは改めて静粛を促した。


「ご苦労様でした。皆さんも気をつけてお帰りください。後は、エドワード殿が恙無くご家族との別れを終えられます様、そっとして頂けると助かります。」


 民衆がぞろぞろそれぞれの自宅に帰って行った所で、僕はミサトに手を引かれ、立ち上がらせた。


「もう、終わりましたよ。エド。早くご家族の元に行って差し上げて下さい。」


 僕は糸が切れたかの様に走って誰が誰やら分別すら困難な状態の遺体達と対面した。確かに碌でもない家族だった。それでも血の繋がりのある家族だった事に変わりはない。緊張の糸が切れた僕はそこに座り込んだ。僕は泣き叫んだ。小さい子供にとったらどんなにか怖かっただろう。若い女性にとっては責めて子供達だけでも逃してあげたかっただろう。父上達はどんな気持ちで助けを求めたのだろうかと。僕はそれを敢えて見殺しにしたのだ。行こうと思えばいつでも行ける環境だったのにだ。ルーはそんな僕をそっと抱きしめてくれた。焼け落ちてしまったバッキンガム宮殿だけが、暴動に晒された現実を突きつけた。



 翌朝、遺体を収容してもらい、近くに教会で簡単なミサを挙行した。ウインザー城に幸いな事に僕の荷物が多少は残っていたのが幸いだった。喪服で参列者は僕一人だけだ。他のみんなも参加すると言ってはくれていたが、僕が辞退を申し出た。大小様々あった。国王に対する葬儀にしては盛大さにはかけるが、僕の前の奥さんが散々先の皇太子に遊興費を融通していたこともあり、僕が保全していた貯蓄以外は使われていたし、今後、遺産を相続したとしても、僕は受け取るつもりが無かった。年金に関しても同様だ。となると、節約をせねばならないという訳だ。嘗ては世界の富豪リストにも乗る様な家だった筈なのに、なんとまぁ、随分と国民を食い物にしてきたんだな。そんな嘆かわしい思いさえ感じた。ミサも滞りなく終わると、焼け落ちたバッキンガム宮殿の片隅に全員埋めた。墓標には、名前なんて必要ない。ただただ、


「イギリスを食い物にした愚か者達の墓」


 って書いてあった。警察や消防などが火元を色々調べている様だ。僕は、焼け落ちてしまった宮殿を眺めた。僕がやれる事はもう、終わった。万感を込めて、敬意を込めて。


「さようなら、僕の祖国。僕は命尽きるその日まで祖国の事を案じるのをやめないであろう。」


 僕は一人で歩き出した。次に喪服のまま歩いて向かったのは国会議事堂だ。僕たちが去る事で当然、出てくるのは強制的に退職させられる方々への今後の処遇という事だ。急に訪ねたにも関わらず、首相も上院、下院の議長達は時間を取ってくれた。僕は財産の一切を放棄をする旨を伝え、その残された財産を使って離職者への退職金へと充て、書類を作ってサインをした。そして、再雇用への斡旋等確約して頂いた。もう、やれる事は終わったと思ったら首相が突然。


「お待ちください!エドワード様。貴方様が去ってしまったら、このイギリスはどうなってしまうと言うのか!国を持たぬ女王に仕えるなど正気の沙汰ではない。どうか、お考え直しを。」

「…国を持たぬと言うのはそもそも我々もそうではないか。世界政府に主権を委譲したのは偉大な先君だ。今後は、世界政府への対応が僕からそちらに回ってくるってだけの。実に簡単な事だ。今後は、専用の職員を配置し対応すると良いだろう。僕は、もう、そなた達に会う事が叶わないが遠い旅の空からそなた達の国が首相閣下の旗印の元ますます繁栄する事を心から願っている。それに、エルフ達は嘘や騙すのを非常に嫌う。陛下もこう言ってたであろう?3度目はないと。本当に国を思うのであれば僕が出来る唯一の事はこのイギリスの滅亡を阻止しうる力を持った女王陛下のお望みのままに誠心誠意仕える事ぐらいしかないんだ。首相も国民も僕の事を案じてくれているのは重々承知しているが、多分、みんなが心配する様な事態にはならないよ。僕も従軍を志願した身だから、当然、命の危険もあるが、既に命の危険だけ取ればここにいるだけで充分堪能する事が出来たから僕に言わせれば瑣末な事に過ぎない。イギリスの民がこれからも幸せを享受出来るようよしなに取り計らって頂きたい。それだけが、僕の望みだ。」


 僕は、頭を下げた。首相は頭をあげる様促してくれたが、僕はただひたすらに頭を下げるのを辞めなかった。それから、職員達に別れを惜しまれた。僕は従軍に次ぐ従軍だったからここに来たのは最初で最後だったが、それでも、今まで頑張って来て良かったなぁって心からそう思った。此処を立ち去った後に最後に寄ったのは何時も通っていた空軍基地だ。僕は今朝早朝に書き上げた退職届を持って行く事にした。僕は大佐だから勿論、上官がいる。直属の上司に面会を求めたらこちらも直ぐに通してくれた。僕は事情を話して退職届を出したのだが、受け取って直ぐにまるでそれで花吹雪でも作るんですかと言わんばかりの勢いでベリッと破られ、僕の頭の上を退職届の残骸が舞った。呆然とする僕の前で上司はこう、言い放った。


「エドワード様。恐れながら一国民として申し上げます。確かに貴方を除いた他の方々はああなっても仕方がない方々でした。ですが、先先代の偉大なるお方に瓜二つの貴方だけは違ってた。常に国民の目線に立って寝食すら忘れる勢いで我々に尽くして下さった。そして、そんな貴方にイギリス国民全てが恋い焦がれたのです。貴方をただただエルフの女王陛下の言われるがままに臣下として差し出すとお思いですか?残念ながら我々にはエドワード様を諦めるって選択肢はありません。そして、それは貴方が愛している導師様にも同じ事が言えるのです。たとえ、お子様がお生まれにならなかったとしてもイギリス国民は貴方がたが幾久しくお健やかに。イギリス国民全員、貴方様と導師様のお幸せを心から願っています。ですから、これは受け取れません。それよりもこんな所で油を売ってないで、早くウインザー城にお戻りになられた方が良いと思いますがね?今頃、導師様。大量の国民に囲まれて困っておいでじゃ無いですか?」

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