イギリスは燃えているか。 2
僕たちは寝室に引きこもってルーが奏でる嬌声とラジオ感覚で流れるパソコンの音とたまに鳴らされるインターホンをBGMにして楽しむ事にした。インターホンが鳴る度に腰が立たなくなっている状態でも出ようとするから。
「あれは僕を呼びに来たイギリス政府関係者かマスコミであって、ルーの身内じゃないであろう?まぁ、性格上放置は難しいであろう?だから、管理会社に連絡だけは許可する。」
すると、基本素直なルーは不動産の契約書を魔法で取り出して、僕にダイヤルを掛けさせた。スマホを耳元に当てがってやると、事情説明とご迷惑をおかけいたしますと謝罪の言葉が口から出た。既に報道で知っているようで先方は快く了承してくれたので遠慮なく電話を切った。まぁ、僕のスマホは既に使用不可能にしていたんだ。わざと水に沈めたから。ルーと風呂から出た際に服から出て来たので腹立ち紛れに泡が沢山たっている浴槽にドボンと投げ入れてそのまま放置している。そして、ルーを可愛がる。こう言う事に全くと言って良いほど免疫のないルーが僕に狂うのにさして時間はかからなかった。
ルーを朝食後に快楽の檻に軟禁してから既に6時間。すっかり日が暮れた頃、僕は異変を察知した。快楽の余波で微睡んでいるルーを慌てて起こした。
「ルー!起きてルー!」
「……………どうしたんだ?エド。」
「…イギリスの特殊部隊だ。強制的に僕を連れて帰って保身を図るつもりであろう。ここから逃げるぞ。場所は任せる。やり過ごせる所は無いか?」
「直ぐには思いつかない。まだ浴槽泡だらけだったからそこに水牢作って逃げ込んでみよう。」
僕はまず、力なく横たわるルーを抱きかかえて浴槽に向かった。必要な物は全て魔法で片付けてアイテムバックに収納した。服は簡単に纏っただけだ。ルーは浴槽の中に魔法陣を描いて水牢を作った。僕たちは中に入ってたちまち温水の中だ。不思議な事に息も出来るみたいだ。ルーは魔法で施錠をした。と同時に複数の人の土足で踏み込む音が聞こえてきた。それと同時に僕を探す声が聞こえた。
「大丈夫であろうか。」
「僕たちが泡に阻まれて見えない内は大丈夫だと思うけど、此処も水を抜かれたら即脱出しないとそのまま下水道に直行になるからね。どちらにしてもこのまま見つからなかったとしても転移魔法で移動した方が良い。」
そして、転移魔法で移動し直したのは見たこともない様な洞穴の中。もうすぐ10月だから少し春めいているんだろうな。入り口は滝の水で塞がれていた。
「此処はね、陛下とイヴァン博士が遭難して僕が保護した曰く付きの場所なんだ。流石に此処なら見つからないと思ってね。」
「なるほどな。だが、此処電波通るのか?」
「それは流石に無理だよ。此処は電波は通らない。でも、こう言う芸当なら出来るよ?」
ルーは岩肌に画像のを転写しているようだ。よく見ればニュースのライブ映像だ。
「実は、ここからまぁまぁ近い場所に陛下達が本来泊まるはずだったロッジがあってね。そこのテレビを勝手に転写させて貰ったんだ。まぁ、今ならどのお宅でもこれじゃないかなぁって思ってね。あ、但し僕たちが勝手にチャンネル触れる訳では無いから途中で部屋主が電源落としたらそれまでだけどね。」
「しかし、ルーは凄いな。全くもって恐れ入る。もうそなた抜きでの生活など考えられぬ。」
「奇遇だね、それ僕もだよ。なぁ。ジーク様が言われたエドへの預言って本当?今の生でも来世でも僕と一緒に歩むって言ったの。」
「ああ、紛れも無い事実だ。友情を育む時間は少ないって言われたけどまさか生涯を添い遂げたいとまで考える様になるとは思っても見なかったよ。でも、それで良かったんだと今なら思えるよ。最早、そなたはかけがえのない宝物だから。僕の事を忘れない様にだけはしようと思ってるんだ。だから、これから有り余るだろう沢山の時間をなるべくルーの為に使いたいと思ってるんだ。」
「そうなんだね。じゃあ、僕はそのご期待に添えないといけないね。」
ルーは僕たちが濡れた体を乾かすために温風を起こし、少々冷えてた空調を整え、シールドの魔法で入り口を塞ぎ、何故持ってるのか分からないエアベットを出してあっという間に膨らませた。続いて、大判のブランケットを何枚か取り出して下と上にそれぞれ敷いて寝床を完成させていた。上からポタポタ水滴が落ちるのを嫌って広範囲にリフレクトを唱えて水滴をはじき返した。
「ほら、出来たよ。僕たちの愛の巣。まだまだ教え足りないって顔に出ちゃってるよ。エド。」
「そうだな。今度は羽を出してくれるか?そなたは淡い光を纏ってる方がますます美しいのだ。そんなそなたを僕はこの目に焼き付けたい。」
ルーは自分の意思で服を脱ぎ捨てて、美しい羽を広げた。僕の胸に飛び込んで、そのまま僕は美しすぎる妖精を愛でる事にした。
それから3時間程過ぎた辺りだろうか。バッキンガム宮殿の門が突如、破られた。それに合わせたように大勢の民衆が雪崩れ込めば衛兵達は恐怖の余りに職務を放棄して逃げ出した。街は壊された。掠奪が横行した。軍隊も警察も民衆達の味方だったから掠奪に関しては取り締まっていた様に感じたが、それ以外では軍人でさえも暴動に加わっていた。ミサトが突きつけた最後通牒は、王族の命を全部刈り取らない限り収まる筈が無かったのだ。僕が説得した所で到底、収まる筈もなかった。縁を切った家族達が一人、また一人とボロ雑巾の様な姿に成り果ててまるでポイ捨てされた吸い殻の程で外に放り出された。男も女も子供も関係なくだ。民衆達の怒りはそんなものでは到底収まらないのか、確実に死んでるだろうって状態のその物体を尚も殴って殴りまくってた。僕は涙が止まらなかった。僕が震えてる事に気がついてルーが微睡んでいる状態から目を覚ました。僕の様子を見て、後ろの画面を見ようと振り返ろうとしたが。
「こんな残酷なものはルーは見る必要はない。終わったんだ。ルー。全て終わったんだ。」
「…………」
僕の腕の中でルーも一緒に泣いてくれた。僕はルーを壊れそうな勢いで抱きしめた。僕は画面を見つめ続けた。だけど、僕にはまだやる事があった。
「こうなるとは分かっていたんだ。長い人の歴史の中で信頼を失った王族は妻子共々皆殺されてきた。生き残った人もいるが、それも極僅かに過ぎない。まさか、僕自身が体験しようとは思いもよらなかったよ。」
「…………」
「僕に残された最後の仕事だ。ミサトに臣下の礼を取るって簡単な仕事だ。イギリスの多くの民を救い、地上への被害を最小限に食い止めなければならないが、流石にこんな事態は想定してなかった。礼服一式なんて持ち合わせていないんだ。」
「…そう言えば、軍人として参加してるから軍服はあっても礼服無いのは仕方ない所だね。バッキンガム宮殿のエドの部屋なら僕一人で行ってくるよ。」
そう言って、僕が止める間もなくルーはワイシャツとズボンを簡単に履いた姿でそのまま消えた。映像を見れば、僕の住まいだったバッキンガム宮殿は激しく燃え広がっていた。心配ばかりが募ったが、5分もかからない内にタキシードと必要な物を全て取ってきて。煤まみれの状態で戻ってきた。
「心配したよ。ルー…………」
僕は思わず抱きしめた。挨拶の深いキスが止まらない。名残惜しく離すと。
「うん、火の手が回るのが早くてもう、エドの部屋まで迫ってたから魔法で時間を止めてから探し回ったんだ。これぐらいしか持ってこれなくてごめん。」
「服なんかよりもそなたの命の方が大事だ。本当に無事で良かった。非常に助かったが、もうこんな無茶はしないで欲しい。もう、そなた無しでは生きていけない。」
「安心して。エド。お陰様で、僕もすっかりあなたに絆されてしまってるよ。最初は僕が魔力使い果たしてしまってエドに秘密がバレた所から始まった恋だけど、僕にだけ優しい笑顔を見せてくれるから僕は今凄く幸せだと感じてるんだ。」
「ルー。」
「だからお願い。僕をエドの手で洗ってくれない?陛下の御前に馳せ参じるのに僕これじゃ困るんだ。かなり煤が凄いってのは分かっているけど、鏡無いから確認のしようが無いんだ。」
僕は思わず笑いながら請け負う事にした。ルーは大きめにウォーターボールを作ってみせた。服のまま二人してボールの中に入った。最初はじゃれ合いだった。無重力みたいでくるくる回って面白かったから。酸素も問題無いようで水の中は全然苦しくなかった。楽しそうなルーを捕まえてしまえば、普通に煤まみれの状態の所から全く関係の無い場所まで洗い尽くした。興が乗って来れば次に待つのは大人の時間で。僕たちはほんのひと時だけ快楽に酔いしれた。流石に長々とする訳にもいかないのでこの続きは明日以降と言い聞かせて、ボールから出た。ルーをお姫様抱っこして。ウォーターボールを消した後、ルーはそのまま温風を出して乾かしてくれた。タキシードを着て、勲章を取り付けてもらった。ルーも導師として馳せ参じる為に謁見の際に着用していたローブに着替えていた。そして、僕たちは緊急帰国した。全てを終わらせる。ただその為だけに。




