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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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訃報と共に流れて来たのは 5

 結局、眠れぬまま朝を迎えてしまった様だ。腕の中で抱きしめてどうすれば良いのか。結論が出ないまま。会見の席は結局僕だけで出る事にした。今までとは違って台本は無い。どんな質問が来るか分からない。だけど、僕が傷ついたとしてもそれでルーが守り通せるならそれで良いと思ってる。父上が余計な一言を言った所為だ。ただ、本当ならイヴァン博士の様に大声で言いたい。この人は僕の大事なお人です。死ぬほど好きなんです。これが言えればどれだけ良かっただろうか。不本意な事を言えばルーが傷付く。分かっているのに。自己嫌悪が堂々巡りで。ただ、そうなると何処で会見を開くか。移動はルーに頼まなければならないから近くの席で待機させておく必要がある。そこで思ってもない事を言う。今まで本心を隠すなんてなんて事無かったのになぁ。と、自嘲の笑みが溢れた。


 イヴァン博士と相談してアーニャさんの自宅で会見する事にした。ただ、イヴァン博士にはこんな事を言われた。


「ちゃんと嘘偽り無く、自分の本心を堂々と話せ。嘘で塗り固めた戯言では誰一人として納得せんぞ。」

「だが、僕はルーを守らないと!」

「勿論、分かってる。だけど、あのルーベルトがただ大人しく守られるなんて思うか?きっと、エドが思ってる以上にどうにかして守りたいってルーベルトだって思ってると思うぞ。じゃなきゃ、王族相手にあんな立ち振る舞いしないって。」


 それで、いざ行こうとしたら、みんなが漏れなく付いて来た。


「あの、僕一人で大丈夫なんだが…………」

「そんな泣きそうな顔をして何が大丈夫なんだよ!なんなら俺が独占取材って形でやろうか?」

「……………幸太郎さん?」

「ああ、その手があったわね。エド。ワタシの父さんそう言えばジャーナリストだったわ。」

「おいおい、自分の親の職業忘れるなよ。」

「だって今のあなたの仕事は保護者でしょう?保護者!」


 正直僕も忘れていたよ。この旅にはイヴァン博士のカウンセリングって名目でジャーナリストがついて来てるんだった。僕は散々悩んだが、幸太郎さんならって事でお願いする事にした。



 ルーの魔法で飛んだのはアーニャさんの自宅では無く、ルーの自宅だった。


「あそこ、もう引っ越したから何もないでしょ?僕の住んでるマンションなんだ。此処。此処ならみんなも寛いで貰えるからさ!今、お茶淹れるよ。」

「ルーベルトってセレブだったんかぃ!」

「違うよ、此処はローンで買ったんだ。先行投資って奴かな?此処、オートロックだから不審者対策が万全だったのが気に入ってね。現在もお支払い中って訳。軍属だったのと長命種だったから買えた様なものなんだ。でもまぁ、日本に移住するなら此処もいずれは手放さないといけないかなって思ってるんだ。無職になったら流石に貯金あってもお支払いできなくなるからね。」

「…………」


 僕はこの人の人生を狂わせた。そう思うには充分過ぎた。僕が手を出さなければルーは此処で安穏とした生活を送る事が出来たはずだった。僕はやはり本心で話そうと思った。幸太郎さんは三脚を出してカメラをセッティングして手慣れた様子で動画配信の準備をしていた。パソコンを大画面のテレビに繋げた。此処からみんなは動画の様子が見られる様になってるみたいだ。どうやら、複数のサイトで同時に生配信をしようとしてるみたいだ。生配信となればアクセスが集中してサーバーがダウンする恐れがあったからだ。その辺はイヴァン博士もリンちゃんもお手伝い出来るとあってかノリノリで手伝ってくれていた。今回、カメラを操作するのはリンちゃんが担当だ。カメラの使い方を幸太郎さんはリンちゃんに教えていた。流石に世界政府のエージェントで、説明しただけで難なく使いこなしている様だ。色んな種類のコップにルーが紅茶を淹れてきてくれた。流石に一人暮らしと言う事もあってこんな大人数で押しかけられる事は想定外だった様だ。僕はルーに声をかけられた。


「はい、エド。お茶だよ。何だか少し顔色悪いよ?大丈夫?」

「…ああ、大丈夫だ。…心配かけて済まぬ。」

「良いんだ。今のエドには僕が必要なんだろ?準備が出来たら起こすから寝室で少し寝ていて。」


 多分、僕の様子を案じて少し寝つきが良くなるお茶を淹れてきてくれたみたいで、お茶を飲んだ僕はルーの腕の中で意識を手放した。抱きかかえられる感触があって、そっとベッドに寝かされた感触があって、頭を撫でられる手が凄く心地良かった。



 ああ、やはりエドの方が僕以上に精神的に参っているんだな。僕はそう思った。僕が寝食を共にし始めてからそんなに経ってはいないけど僕には分かるんだ。例のゴタゴタ以降、全然寝ていないんだよ。エド。僕がエドにだけ淹れたお茶はジャーマンカモマイルに少々ローズを淹れたブレンドハーブティーなんだ。僕がこんなヘンテコな体してる所為で考え事が尽きる事が無くてたまたま常備していたってだけの代物だったのにまさか本当にお眠りになるとは。僕は、みんなと相談する為に会見現場になってるリビングまで戻って事情を話す事にした。


「あれ?エドはどうしたんだ?」

「さっき、お茶を飲んで直ぐにお倒れになられたよ。例のゴタゴタ以降僕を側には置いていたけど全然寝てないんだよ。きっと、色々思い悩んでたと思うんだ。幸太郎さん、少しだけで良いんだ。エドを休ませてあげてくれないか?」

「分かった。管理者からのお知らせって事でお倒れになられた事実を公表しよう。……………これでよし。っと。」


 すると、チャット画面が一斉に心配の声で埋め尽くされた。その直後、イヴァン博士のスマホが鳴り響いた。


「もしもし、…あっ、はい。つい先程です。…ルーベルトですか?直ぐ側に居ますけど。…はい。承知致しました。代わります。おいっ、ルーベルト。大変だ。お相手はイギリスの国王陛下。エドのお父上だ。」

「ええええっ!無理!僕無理だから!」

「あんな大立ち回り演じておいてか?」

「あれは、エドを守りたかったから。スイッチ入ってたから出来たんであって。僕にはそんな畏れ多い事。無理っ!絶対無理っ!」

「んじゃ、エドを守る為だったら話せるんだよな?ルーベルト?」

「…………」


 これは一本取られたなと思った。僕は諦める事にしたけど僕もただで転ぶつもりはない。僕はリンちゃんを手招きして


「リンちゃん。使ってないICレコーダーってある?目が覚めたらエドにも聞いて貰いたいんだ。」

「分かったわ。これを使いなさい。」

「ありがとう、リンちゃん。」


 僕はリンちゃんからレコーダーを受け取って録音ボタンを押した。そして、僕はイヴァン博士からスマホを受け取ってスピーカーボタンを押して話を始める事にした。


「お電話変わりました。ルーベルトです。先日は調査に御協力下さいまして誠にありがとうございました。」

「いえ、先日の働き実に見事であった。エドワードが倒れたと聞いた。どの様な様子であろうか?」

「はい。謁見した前々日からローグフェルグの捜索活動に世界政府の依頼で僕たちは参加をしておりましたが、召喚以後も以前からもエドは僕を側に常に置き続けていらっしゃいますので以前と比べれば明らかに憔悴なさっておいでです。眠れないご様子で、ずっと悩み続けている様です。家族に殺されそうになったと知ったエドの気持ちと立場を鑑みていただけるなら、そうなるのも頷けるのでは無いでしょうか?」

「…そうであったな。あの子は小さい頃から頭も良く、自分に置かれた立場と云うものを僕が言わなくても理解している様な子であった。それ故に、小さい頃から常に暗殺の影が付き纏ってたのだ。僕もあの子の親だから良く分かるよ。エドワードはどうやったらそなたを幸せに出来るのかと考えあぐねている位は想像に難しくないのだよ。」

「…………」

「頼みがある。どうか、エドワードを。エドワードをイギリスに返しては頂けないであろうか。」

「…それは僕がどうこうする筋合いはありません!エドが。エドの人生はエドのものなんです。エドは先程も陛下が仰っていた様に非常に御聡明であらせられます。あなた方がいちいち策を弄さなくてもエドがこれはまずいと思えば帰られると思います。エドは、祖国を非常に愛しておいでですので祖国の危機を前に帰らないという選択肢はありません。今の僕たちの旅に王族であるにも関わらず参戦されている訳は我が祖国に立ちはだかる脅威を取り去りたいと願っての事。責任感が強いお方ですのでその様にお話されていた事があります。」


 出会った最初にはっきりと公言しているんだ。『王族の義務』ってはっきりと。僕たちの前で。多分、解答はこれで間違ってない筈だ。だけど、国王陛下の心理攻撃は続きそうだ。僕が一番触れられたくない部分を持ち出されるだろう。エドでさえ陛下がご存知と言ってた位だ。使わない手はない。


「そなた、エドワードの手がついたのか?」

「その様な個人的な事に関しては話さないといけない義務も義理も無いかと存じます。」

「…では、そなた。イギリス王室に来る気はないか?」

「僕が心から敬愛し、ご尊敬申し上げているのは国を持たずとも力でもって世界を征服する実力があるにも関わらずそれを一切なさらない我らがエルフ族の女王陛下。ミサト様以外に非ず。僕よりも遥かに若い女王陛下ですが、終生変わらずお仕えする所存。ですので、此度の件はお断り申し上げる!」

「聞けばそなた。性別自体が無いそうだな。出生時の時の検査では妊娠する事が無いと言われたそうだが、どうだ?再検査してみる気はないか?女性だと確定して尚且つ妊娠すると分かれば喜んでエドワードの伴侶として迎え入れよう。どうかね?」

「!?」


 みんながギョッとした顔をした。当たり前だ。僕は頭が真っ白になってしまった。僕の体が震えだした。俯いて、みんなの顔がまともに見えない。後ろから扉が開いて僕は後ろから抱きしめられた。嘘だろうと思った。10分と寝てない。どうして起きてきたの、エド。そんな目で見てたら顔色が酷くても怒りがこみ上げて来たんだろう。慈しむ様に微笑んでからエドは僕にこう告げた。


「すまない。一足遅かった。僕はそなたを傷つけた父上を許す事が出来ない。此処からは選手交代だよ。」


 そして、僕の代わりにエドが反撃を始めだした。その声は恐ろしいまでに冷気を伴っていた。


「ミサト、魔法で起こしてくれてありがとう。お陰で、最初から話を聞かせて頂く事が出来たよ。ご機嫌よう。父上。話は最初から聞かせて貰った。よくも僕の最愛のお方を傷つけたな!僕は、今日ほど王族である事を恥ずかしいと思った事はない。最初は、僕を心配してるのかと思ったがとんでもない。あなたが心配しているのは僕という手札を失う事で失くすであろう名声を心配しての事だ。どの家族にも愛されてはいないんだなって思っていたのは前々からだ。そうじゃなければ、スキャンダルを恐れて僕をあの馬鹿女とをくっつけるなんて愚行を父上がなされる筈が無かったんだ。僕は決めた。僕はあなた方とは一切の縁を切らせて頂く。今後、何があってもイギリスには帰国はしないであろう。交渉なんて最初から応じる気はない。何故なら、あなた方は僕の最愛のお方でさえ利用しようと企てるからな!そんな所にルーを連れて帰れるか!僕は生涯そなた達を許す事はないであろう。王位継承権なんて、こちらから願い下げだ!!!」

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